27 / 32
26
しおりを挟む
「そういう疑問が持ち上がるということは、何かしらの根拠があるのだな?」
「……うん」
正直話そうかどうか迷っていたが、確かめるためには躊躇はしていられない。
「僕にはここに来る前の記憶がある」
「……!」
「それはこことは別の世界でずっと過ごしてきた記憶だ。そして信じられないかもしれないけれど、この【箱庭】の世界は、僕がハマっていたゲームと瓜二つなんだよ」
本来なら笑い話になるようなことだが、ヤタは僕の顔をジッと見続けたまま表情を変えない。
「……一応聞いておこう。嘘や冗談ではないのだな?」
僕は首肯する。
「ふむ。なるほど……ところどころ【箱庭】での行動に要領が良過ぎるなと思ってはいたが、そういう理由だったのか」
「悪いね。最初から【箱庭】のシステムは理解……というか知ってたんだ。クラフトも〝マモノ牧場〟も何もかもね」
「よくもまあ今まで黙っていたものだ」
「だって、普通信じられないでしょ。ゲームの知識が、そのままここでの知識に繋がってるなんてさ」
「それもそうだが……むぅ」
ヤタは若干顔を俯かせて思案の時間に身を置く。
僕は彼が口を開くまで大人しく待った。
するとヤタは祠に視線を向けながら口を開き始める。
「この【箱庭】は神が用意した。この島もそのシステムも、何もかもをだ」
「うん。ゲームでもその設定はあった」
「フッ、設定か。なら吾輩のことも最初から知っていたのか?」
「ゲームでは初心者だった僕にいつも親切に分からないことを教えてくれてたよ。今みたいにね」
まあ、そういう設定……なんだけどさ。
「吾輩がこの【箱庭】の《ガイドアニマル》として遣わされたのも神のご意思だ」
「神様って本当にいるんだなぁ」
「……うむ。そうしてここに遣わされる時に、神がこう仰られた。『少々変わり種の管理人を用意した』と。最初はどういう意味か理解できなかったが……」
つまりすべてはその神様とやらの計画通りってわけらしい。
「吾輩はこの世界に住む天涯孤独の者を用意したのだと勝手に解釈していた。その方がいろいろ便利な面もあるだろうからな」
確かに家族がいる者や、普通に人里で暮らしている者に対し、いきなりここに連れてきて【箱庭】を管理しろと言っても頷く人はそういないだろう。
「しかし別の世界……異世界の住人を選ばれるとは」
「その神様からは他に何も聞いてないの?」
「ああ。そもそも『使徒』である我らが、軽々しく質問などはできん」
「我ら? ……ということは他にも【箱庭】があるの?」
「あるかもしれぬしないかもしれぬ。我らには神が不必要だと考えられた知識は与えられないからな」
ずいぶんと身勝手な……いや神様はそんな存在なのかもしれないけど。
「ということは他にもプレイヤーがいて、別の【箱庭】がある可能性だってあるってことか」
「それはどうだろうな」
「? どういうことさ?」
「神は変わり種の管理人を用意したと仰っておられた。変わり種――それは恐らくこの世界の住人ではないということ。つまりお主のような異界人プレイヤーであろう。だが異なる世界から異なる世界へ魂を運ぶにはリスクが伴うとされているのだ」
「リスクだって?」
「うむ。世界に生まれてくる魂は、元々その世界の環境に見合う存在なのだ。たとえ死して転生したとしても、生存していた世界にまた生まれ落ちる。それが別世界に流れていくことはない」
そ、そうなんだ。何だよその魂理論みたいなもの。ちょっと興味出てきちゃったし。
こういうオカルトめいたものって好きだったりするんだよね。真実かどうかはともかく。
じゃあよく異世界転生ものの物語ってあるけど、あれはヤタ理論でいえば成立しないってことなんだね。
「仮にA世界の魂をB世界へ誕生させても、そのほとんどはB世界の環境に適応できず、拒絶反応を起こし世界に定着できない」
「定着できない魂はどうなるの?」
「弾き出されて、再度A世界へ生まれるか……最悪――そのまま消滅する」
「マジでっ!?」
「大マジだ」
よ、良かったぁぁぁっ、僕消滅してないよね?
って、違う! 神様の馬鹿ぁ! 何て危ないことをしてくれてんの!
「だが稀にどの世界でも適応するような稀有な魂を持つ存在もいる。その一つの例が我らのような『使徒』だな」
ヤタ曰く、彼ら使徒は直接神様に作られた純粋な魂だから、どのような世界でも適応することが可能なのだという。
「もちろん我らだけでなく、他の世界で普通に生きている魂の中にも『適応者』は存在する。そしてそれが恐らく――」
「僕……ってことか」
「うむ。故にお主が本当に異界人だとしても、それは万に一つ、億に一つの可能性だったというわけだ」
つまり他のプレイヤーがいる可能性は極めて低い、と。
理路整然とした説明に反論の余地がなかった。
というよりも反論できる知識がないのだ。そういうものだと受け止めるしか今の僕にはできない。
「……うん」
正直話そうかどうか迷っていたが、確かめるためには躊躇はしていられない。
「僕にはここに来る前の記憶がある」
「……!」
「それはこことは別の世界でずっと過ごしてきた記憶だ。そして信じられないかもしれないけれど、この【箱庭】の世界は、僕がハマっていたゲームと瓜二つなんだよ」
本来なら笑い話になるようなことだが、ヤタは僕の顔をジッと見続けたまま表情を変えない。
「……一応聞いておこう。嘘や冗談ではないのだな?」
僕は首肯する。
「ふむ。なるほど……ところどころ【箱庭】での行動に要領が良過ぎるなと思ってはいたが、そういう理由だったのか」
「悪いね。最初から【箱庭】のシステムは理解……というか知ってたんだ。クラフトも〝マモノ牧場〟も何もかもね」
「よくもまあ今まで黙っていたものだ」
「だって、普通信じられないでしょ。ゲームの知識が、そのままここでの知識に繋がってるなんてさ」
「それもそうだが……むぅ」
ヤタは若干顔を俯かせて思案の時間に身を置く。
僕は彼が口を開くまで大人しく待った。
するとヤタは祠に視線を向けながら口を開き始める。
「この【箱庭】は神が用意した。この島もそのシステムも、何もかもをだ」
「うん。ゲームでもその設定はあった」
「フッ、設定か。なら吾輩のことも最初から知っていたのか?」
「ゲームでは初心者だった僕にいつも親切に分からないことを教えてくれてたよ。今みたいにね」
まあ、そういう設定……なんだけどさ。
「吾輩がこの【箱庭】の《ガイドアニマル》として遣わされたのも神のご意思だ」
「神様って本当にいるんだなぁ」
「……うむ。そうしてここに遣わされる時に、神がこう仰られた。『少々変わり種の管理人を用意した』と。最初はどういう意味か理解できなかったが……」
つまりすべてはその神様とやらの計画通りってわけらしい。
「吾輩はこの世界に住む天涯孤独の者を用意したのだと勝手に解釈していた。その方がいろいろ便利な面もあるだろうからな」
確かに家族がいる者や、普通に人里で暮らしている者に対し、いきなりここに連れてきて【箱庭】を管理しろと言っても頷く人はそういないだろう。
「しかし別の世界……異世界の住人を選ばれるとは」
「その神様からは他に何も聞いてないの?」
「ああ。そもそも『使徒』である我らが、軽々しく質問などはできん」
「我ら? ……ということは他にも【箱庭】があるの?」
「あるかもしれぬしないかもしれぬ。我らには神が不必要だと考えられた知識は与えられないからな」
ずいぶんと身勝手な……いや神様はそんな存在なのかもしれないけど。
「ということは他にもプレイヤーがいて、別の【箱庭】がある可能性だってあるってことか」
「それはどうだろうな」
「? どういうことさ?」
「神は変わり種の管理人を用意したと仰っておられた。変わり種――それは恐らくこの世界の住人ではないということ。つまりお主のような異界人プレイヤーであろう。だが異なる世界から異なる世界へ魂を運ぶにはリスクが伴うとされているのだ」
「リスクだって?」
「うむ。世界に生まれてくる魂は、元々その世界の環境に見合う存在なのだ。たとえ死して転生したとしても、生存していた世界にまた生まれ落ちる。それが別世界に流れていくことはない」
そ、そうなんだ。何だよその魂理論みたいなもの。ちょっと興味出てきちゃったし。
こういうオカルトめいたものって好きだったりするんだよね。真実かどうかはともかく。
じゃあよく異世界転生ものの物語ってあるけど、あれはヤタ理論でいえば成立しないってことなんだね。
「仮にA世界の魂をB世界へ誕生させても、そのほとんどはB世界の環境に適応できず、拒絶反応を起こし世界に定着できない」
「定着できない魂はどうなるの?」
「弾き出されて、再度A世界へ生まれるか……最悪――そのまま消滅する」
「マジでっ!?」
「大マジだ」
よ、良かったぁぁぁっ、僕消滅してないよね?
って、違う! 神様の馬鹿ぁ! 何て危ないことをしてくれてんの!
「だが稀にどの世界でも適応するような稀有な魂を持つ存在もいる。その一つの例が我らのような『使徒』だな」
ヤタ曰く、彼ら使徒は直接神様に作られた純粋な魂だから、どのような世界でも適応することが可能なのだという。
「もちろん我らだけでなく、他の世界で普通に生きている魂の中にも『適応者』は存在する。そしてそれが恐らく――」
「僕……ってことか」
「うむ。故にお主が本当に異界人だとしても、それは万に一つ、億に一つの可能性だったというわけだ」
つまり他のプレイヤーがいる可能性は極めて低い、と。
理路整然とした説明に反論の余地がなかった。
というよりも反論できる知識がないのだ。そういうものだと受け止めるしか今の僕にはできない。
1
あなたにおすすめの小説
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
縫剣のセネカ
藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。
--
コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。
幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。
ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。
訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。
その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。
二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。
しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。
一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。
二人の道は分かれてしまった。
残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。
どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。
セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。
でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。
答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。
創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。
セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。
天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。
遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。
セネカとの大切な約束を守るために。
そして二人は巻き込まれていく。
あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。
これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語
(旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる