マモノの神様 ~魔物を作って育ててのんびりクラフトライフ~

十本スイ

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「そういう疑問が持ち上がるということは、何かしらの根拠があるのだな?」
「……うん」

 正直話そうかどうか迷っていたが、確かめるためには躊躇はしていられない。

「僕にはここに来る前の記憶がある」
「……!」
「それはこことは別の世界でずっと過ごしてきた記憶だ。そして信じられないかもしれないけれど、この【箱庭】の世界は、僕がハマっていたゲームと瓜二つなんだよ」

 本来なら笑い話になるようなことだが、ヤタは僕の顔をジッと見続けたまま表情を変えない。

「……一応聞いておこう。嘘や冗談ではないのだな?」

 僕は首肯する。

「ふむ。なるほど……ところどころ【箱庭】での行動に要領が良過ぎるなと思ってはいたが、そういう理由だったのか」
「悪いね。最初から【箱庭】のシステムは理解……というか知ってたんだ。クラフトも〝マモノ牧場〟も何もかもね」
「よくもまあ今まで黙っていたものだ」
「だって、普通信じられないでしょ。ゲームの知識が、そのままここでの知識に繋がってるなんてさ」
「それもそうだが……むぅ」

 ヤタは若干顔を俯かせて思案の時間に身を置く。
 僕は彼が口を開くまで大人しく待った。
 するとヤタは祠に視線を向けながら口を開き始める。

「この【箱庭】は神が用意した。この島もそのシステムも、何もかもをだ」
「うん。ゲームでもその設定はあった」
「フッ、設定か。なら吾輩のことも最初から知っていたのか?」
「ゲームでは初心者だった僕にいつも親切に分からないことを教えてくれてたよ。今みたいにね」

 まあ、そういう設定……なんだけどさ。

「吾輩がこの【箱庭】の《ガイドアニマル》として遣わされたのも神のご意思だ」
「神様って本当にいるんだなぁ」
「……うむ。そうしてここに遣わされる時に、神がこう仰られた。『少々変わり種の管理人を用意した』と。最初はどういう意味か理解できなかったが……」

 つまりすべてはその神様とやらの計画通りってわけらしい。

「吾輩はこの世界に住む天涯孤独の者を用意したのだと勝手に解釈していた。その方がいろいろ便利な面もあるだろうからな」

 確かに家族がいる者や、普通に人里で暮らしている者に対し、いきなりここに連れてきて【箱庭】を管理しろと言っても頷く人はそういないだろう。

「しかし別の世界……異世界の住人を選ばれるとは」
「その神様からは他に何も聞いてないの?」
「ああ。そもそも『使徒』である我らが、軽々しく質問などはできん」
「我ら? ……ということは他にも【箱庭】があるの?」
「あるかもしれぬしないかもしれぬ。我らには神が不必要だと考えられた知識は与えられないからな」

 ずいぶんと身勝手な……いや神様はそんな存在なのかもしれないけど。

「ということは他にもプレイヤーがいて、別の【箱庭】がある可能性だってあるってことか」
「それはどうだろうな」
「? どういうことさ?」
「神は変わり種の管理人を用意したと仰っておられた。変わり種――それは恐らくこの世界の住人ではないということ。つまりお主のような異界人プレイヤーであろう。だが異なる世界から異なる世界へ魂を運ぶにはリスクが伴うとされているのだ」
「リスクだって?」
「うむ。世界に生まれてくる魂は、元々その世界の環境に見合う存在なのだ。たとえ死して転生したとしても、生存していた世界にまた生まれ落ちる。それが別世界に流れていくことはない」

 そ、そうなんだ。何だよその魂理論みたいなもの。ちょっと興味出てきちゃったし。

 こういうオカルトめいたものって好きだったりするんだよね。真実かどうかはともかく。
 じゃあよく異世界転生ものの物語ってあるけど、あれはヤタ理論でいえば成立しないってことなんだね。

「仮にA世界の魂をB世界へ誕生させても、そのほとんどはB世界の環境に適応できず、拒絶反応を起こし世界に定着できない」
「定着できない魂はどうなるの?」
「弾き出されて、再度A世界へ生まれるか……最悪――そのまま消滅する」
「マジでっ!?」
「大マジだ」

 よ、良かったぁぁぁっ、僕消滅してないよね? 
 って、違う! 神様の馬鹿ぁ! 何て危ないことをしてくれてんの!

「だが稀にどの世界でも適応するような稀有な魂を持つ存在もいる。その一つの例が我らのような『使徒』だな」

 ヤタ曰く、彼ら使徒は直接神様に作られた純粋な魂だから、どのような世界でも適応することが可能なのだという。

「もちろん我らだけでなく、他の世界で普通に生きている魂の中にも『適応者』は存在する。そしてそれが恐らく――」
「僕……ってことか」
「うむ。故にお主が本当に異界人だとしても、それは万に一つ、億に一つの可能性だったというわけだ」

 つまり他のプレイヤーがいる可能性は極めて低い、と。
 理路整然とした説明に反論の余地がなかった。
 というよりも反論できる知識がないのだ。そういうものだと受け止めるしか今の僕にはできない。


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