31 / 32
30
しおりを挟む
「――ふむ、なるほど。それは災難だったな」
ヤタにユーミさんのことを伝え、現状を理解してもらった。
「しかしツナギ、それは起こるべくして起こった事態ともいえるぞ」
「え?」
「お主はまだ若い。それに稀少な錬金術師だと思われているのであろう?」
「……まあね」
こっちは錬金術師だと明言したわけではないが、クラフトの能力を口にしたくない以上は、反論の余地はないのだ。
「実際にお主が作るものは通常よりも優れている。名が売れてしまうのも当然かと思うぞ」
「あーやっぱそう思う?」
もうこうなったら腕の良い錬金術師として仕事をするのも良いかもしれない。
あまりに俗世が鬱陶しくなったら、この【箱庭】に引きこもるという選択肢もあるし。
「外で活動する以上、そこらへんのしがらみとは上手く付き合っていかなくてはいかん。それもまた管理人として必要なスキルの一つやもしれぬぞ」
「そんなこと言われてもなー」
「…………ツナギ、もう出掛けないの?」
今まで黙っていたムトが僕の袖を引っ張りながら質問してきた。
「う~ん、【トットリア】には近づかない方が良いかも。今日はもう【グートン草原】周辺で探索することにしようか」
一応換金することもできたし、【トットリア】での用事は済んでいる。
「じゃあ早く行く」
「うん、分かったよ。ヤタ、改めて留守番を頼むよ」
「ああ、任され……ん?」
「どうかしたの?」
ヤタが祠に意識を向けたので気になった。
すると驚くことに祠の傍の空間が歪み、そこから〝ナニカ〟が出現する。
初めて見る現象に思わず食い入るようにその場にいる全員が見入ってしまう。
しばらくするとその〝ナニカ〟の正体が明らかになる。
「……え、……ええ? あれって………………鳩時計?」
地面から突き出た円柱の上部にあったのは、一見して古風な鳩時計のようだった。
いや、よく見ると時計が確認できない。本来時計があるべきところだが、引き戸のような形になっている。
そして一番気になったのは、屋根の部分にデカデカと〝神〟と漢字で書かれていることだ。
「……ふむ。ツナギよ、どうやら神が何やら用立てたみたいだ」
「用立てたって……あれ何?」
「確認してみれば分かるであろう」
それは確かに。
ということで僕は奇妙な物体にそっと近づき、引き戸になっている部分に手をかけた。
そのまま静かに引くと、中から一枚の手紙が出てきたのである。
「封筒? いや、手紙……か? ……あ、もしかしてこれポストなの?」
手紙の封にも〝神〟という判子が押されていた。
「なるほど。さしずめ【神のポスト】といったところか」
僕が目を丸くしたことでも分かる通り、こんなシステムはゲームにはなかった。
「とりあえずその手紙は神からのお達しだろう。読んでみろ」
ヤタの言葉に従い封を開けると、中から二つ折りにした一枚の便せんが出てきた。
開けて確認してみると、上部に大きく〝神のミッション〟と書かれていたのである。
「〝神のミッション〟? どゆことヤタ?」
「ううむ。ミッションということは、神からツナギへ与えられた任務だと思うが。続きを読んでみよ」
「う、うん。えっと……【箱庭】の管理人、そう、千野ツナギくん、君にボクからミッションを与えちゃうよー。……ずいぶんとフレンドリーな神様なんだな」
名指しを受けていることから、どうやらこれは自分宛で間違いないようだが、神様が書く文面がここまで威厳ゼロだとは思わなかった。
もう少しこう大人な感じというか、気品すら感じさせるような言い回しかと思ったから。
「このミッションを達成できれば、【箱庭】にとって素晴らしい特典を上げちゃう! 管理人としても一つ成長できること間違いなしだよー! ……だって」
「ふむ。さすがは神、ツナギを大きくさせるための試練を与えようというわけか」
えぇ……ハッキリ言って超迷惑なんだけどなぁ。
自分の成長くらい自分の都合で伸ばしていきたい。
「えーっと、これって強制なの?」
ちなみに手紙には強制とは書いていない。つまりやるもやらないも自由ということではなかろうか。
だとしたらミッションなんて面倒なので止めておきたいのだが……。
「ミッションを行わないつもりか、ツナギ? せっかく大きく成長できるやもしれぬのに」
「う~ん……」
「このミッションはゲームにもあったのか?」
「え? なかったけど……」
「だったら猶更やっておくべきだと思うぞ。そうして神に近づいていけば、お主の望みも叶う可能性が出てくる」
なるほど。それは考えていなかったことだ。
確かに創造主の出す任務を攻略すれば、その恩恵もまた計り知れないかもしれない。
もしかしたら元の世界に戻る方法に近づくチャンスという可能性も……。
それに自分の成長はともかくとして、【箱庭】に対しての特典というのも気にはなる。
「…………そうだね。やってみるか」
そうと決まればと、続きに目を通していく。
ヤタにユーミさんのことを伝え、現状を理解してもらった。
「しかしツナギ、それは起こるべくして起こった事態ともいえるぞ」
「え?」
「お主はまだ若い。それに稀少な錬金術師だと思われているのであろう?」
「……まあね」
こっちは錬金術師だと明言したわけではないが、クラフトの能力を口にしたくない以上は、反論の余地はないのだ。
「実際にお主が作るものは通常よりも優れている。名が売れてしまうのも当然かと思うぞ」
「あーやっぱそう思う?」
もうこうなったら腕の良い錬金術師として仕事をするのも良いかもしれない。
あまりに俗世が鬱陶しくなったら、この【箱庭】に引きこもるという選択肢もあるし。
「外で活動する以上、そこらへんのしがらみとは上手く付き合っていかなくてはいかん。それもまた管理人として必要なスキルの一つやもしれぬぞ」
「そんなこと言われてもなー」
「…………ツナギ、もう出掛けないの?」
今まで黙っていたムトが僕の袖を引っ張りながら質問してきた。
「う~ん、【トットリア】には近づかない方が良いかも。今日はもう【グートン草原】周辺で探索することにしようか」
一応換金することもできたし、【トットリア】での用事は済んでいる。
「じゃあ早く行く」
「うん、分かったよ。ヤタ、改めて留守番を頼むよ」
「ああ、任され……ん?」
「どうかしたの?」
ヤタが祠に意識を向けたので気になった。
すると驚くことに祠の傍の空間が歪み、そこから〝ナニカ〟が出現する。
初めて見る現象に思わず食い入るようにその場にいる全員が見入ってしまう。
しばらくするとその〝ナニカ〟の正体が明らかになる。
「……え、……ええ? あれって………………鳩時計?」
地面から突き出た円柱の上部にあったのは、一見して古風な鳩時計のようだった。
いや、よく見ると時計が確認できない。本来時計があるべきところだが、引き戸のような形になっている。
そして一番気になったのは、屋根の部分にデカデカと〝神〟と漢字で書かれていることだ。
「……ふむ。ツナギよ、どうやら神が何やら用立てたみたいだ」
「用立てたって……あれ何?」
「確認してみれば分かるであろう」
それは確かに。
ということで僕は奇妙な物体にそっと近づき、引き戸になっている部分に手をかけた。
そのまま静かに引くと、中から一枚の手紙が出てきたのである。
「封筒? いや、手紙……か? ……あ、もしかしてこれポストなの?」
手紙の封にも〝神〟という判子が押されていた。
「なるほど。さしずめ【神のポスト】といったところか」
僕が目を丸くしたことでも分かる通り、こんなシステムはゲームにはなかった。
「とりあえずその手紙は神からのお達しだろう。読んでみろ」
ヤタの言葉に従い封を開けると、中から二つ折りにした一枚の便せんが出てきた。
開けて確認してみると、上部に大きく〝神のミッション〟と書かれていたのである。
「〝神のミッション〟? どゆことヤタ?」
「ううむ。ミッションということは、神からツナギへ与えられた任務だと思うが。続きを読んでみよ」
「う、うん。えっと……【箱庭】の管理人、そう、千野ツナギくん、君にボクからミッションを与えちゃうよー。……ずいぶんとフレンドリーな神様なんだな」
名指しを受けていることから、どうやらこれは自分宛で間違いないようだが、神様が書く文面がここまで威厳ゼロだとは思わなかった。
もう少しこう大人な感じというか、気品すら感じさせるような言い回しかと思ったから。
「このミッションを達成できれば、【箱庭】にとって素晴らしい特典を上げちゃう! 管理人としても一つ成長できること間違いなしだよー! ……だって」
「ふむ。さすがは神、ツナギを大きくさせるための試練を与えようというわけか」
えぇ……ハッキリ言って超迷惑なんだけどなぁ。
自分の成長くらい自分の都合で伸ばしていきたい。
「えーっと、これって強制なの?」
ちなみに手紙には強制とは書いていない。つまりやるもやらないも自由ということではなかろうか。
だとしたらミッションなんて面倒なので止めておきたいのだが……。
「ミッションを行わないつもりか、ツナギ? せっかく大きく成長できるやもしれぬのに」
「う~ん……」
「このミッションはゲームにもあったのか?」
「え? なかったけど……」
「だったら猶更やっておくべきだと思うぞ。そうして神に近づいていけば、お主の望みも叶う可能性が出てくる」
なるほど。それは考えていなかったことだ。
確かに創造主の出す任務を攻略すれば、その恩恵もまた計り知れないかもしれない。
もしかしたら元の世界に戻る方法に近づくチャンスという可能性も……。
それに自分の成長はともかくとして、【箱庭】に対しての特典というのも気にはなる。
「…………そうだね。やってみるか」
そうと決まればと、続きに目を通していく。
1
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした
茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。
貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。
母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。
バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。
しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
コンバット
サクラ近衛将監
ファンタジー
藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。
ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。
忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる