マモノの神様 ~魔物を作って育ててのんびりクラフトライフ~

十本スイ

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「――ふむ、なるほど。それは災難だったな」

 ヤタにユーミさんのことを伝え、現状を理解してもらった。

「しかしツナギ、それは起こるべくして起こった事態ともいえるぞ」
「え?」
「お主はまだ若い。それに稀少な錬金術師だと思われているのであろう?」
「……まあね」

 こっちは錬金術師だと明言したわけではないが、クラフトの能力を口にしたくない以上は、反論の余地はないのだ。

「実際にお主が作るものは通常よりも優れている。名が売れてしまうのも当然かと思うぞ」
「あーやっぱそう思う?」

 もうこうなったら腕の良い錬金術師として仕事をするのも良いかもしれない。
 あまりに俗世が鬱陶しくなったら、この【箱庭】に引きこもるという選択肢もあるし。

「外で活動する以上、そこらへんのしがらみとは上手く付き合っていかなくてはいかん。それもまた管理人として必要なスキルの一つやもしれぬぞ」
「そんなこと言われてもなー」
「…………ツナギ、もう出掛けないの?」

 今まで黙っていたムトが僕の袖を引っ張りながら質問してきた。

「う~ん、【トットリア】には近づかない方が良いかも。今日はもう【グートン草原】周辺で探索することにしようか」

 一応換金することもできたし、【トットリア】での用事は済んでいる。

「じゃあ早く行く」
「うん、分かったよ。ヤタ、改めて留守番を頼むよ」
「ああ、任され……ん?」
「どうかしたの?」

 ヤタが祠に意識を向けたので気になった。
 すると驚くことに祠の傍の空間が歪み、そこから〝ナニカ〟が出現する。
 初めて見る現象に思わず食い入るようにその場にいる全員が見入ってしまう。

 しばらくするとその〝ナニカ〟の正体が明らかになる。

「……え、……ええ? あれって………………鳩時計?」

 地面から突き出た円柱の上部にあったのは、一見して古風な鳩時計のようだった。
 いや、よく見ると時計が確認できない。本来時計があるべきところだが、引き戸のような形になっている。
 そして一番気になったのは、屋根の部分にデカデカと〝神〟と漢字で書かれていることだ。

「……ふむ。ツナギよ、どうやら神が何やら用立てたみたいだ」
「用立てたって……あれ何?」
「確認してみれば分かるであろう」

 それは確かに。
 ということで僕は奇妙な物体にそっと近づき、引き戸になっている部分に手をかけた。
 そのまま静かに引くと、中から一枚の手紙が出てきたのである。

「封筒? いや、手紙……か? ……あ、もしかしてこれポストなの?」

 手紙の封にも〝神〟という判子が押されていた。

「なるほど。さしずめ【神のポスト】といったところか」

 僕が目を丸くしたことでも分かる通り、こんなシステムはゲームにはなかった。

「とりあえずその手紙は神からのお達しだろう。読んでみろ」

 ヤタの言葉に従い封を開けると、中から二つ折りにした一枚の便せんが出てきた。
 開けて確認してみると、上部に大きく〝神のミッション〟と書かれていたのである。

「〝神のミッション〟? どゆことヤタ?」
「ううむ。ミッションということは、神からツナギへ与えられた任務だと思うが。続きを読んでみよ」
「う、うん。えっと……【箱庭】の管理人、そう、千野ツナギくん、君にボクからミッションを与えちゃうよー。……ずいぶんとフレンドリーな神様なんだな」

 名指しを受けていることから、どうやらこれは自分宛で間違いないようだが、神様が書く文面がここまで威厳ゼロだとは思わなかった。
 もう少しこう大人な感じというか、気品すら感じさせるような言い回しかと思ったから。

「このミッションを達成できれば、【箱庭】にとって素晴らしい特典を上げちゃう! 管理人としても一つ成長できること間違いなしだよー! ……だって」
「ふむ。さすがは神、ツナギを大きくさせるための試練を与えようというわけか」

 えぇ……ハッキリ言って超迷惑なんだけどなぁ。

 自分の成長くらい自分の都合で伸ばしていきたい。

「えーっと、これって強制なの?」

 ちなみに手紙には強制とは書いていない。つまりやるもやらないも自由ということではなかろうか。
 だとしたらミッションなんて面倒なので止めておきたいのだが……。

「ミッションを行わないつもりか、ツナギ? せっかく大きく成長できるやもしれぬのに」
「う~ん……」
「このミッションはゲームにもあったのか?」
「え? なかったけど……」
「だったら猶更やっておくべきだと思うぞ。そうして神に近づいていけば、お主の望みも叶う可能性が出てくる」

 なるほど。それは考えていなかったことだ。
 確かに創造主の出す任務を攻略すれば、その恩恵もまた計り知れないかもしれない。
 もしかしたら元の世界に戻る方法に近づくチャンスという可能性も……。
 それに自分の成長はともかくとして、【箱庭】に対しての特典というのも気にはなる。

「…………そうだね。やってみるか」

 そうと決まればと、続きに目を通していく。


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