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 とてつもない威力だった。
 オレは黒髪の少年から放たれた黒い閃光に一気に興味が湧く。

「あの力、奴がもし使いこなすことができたら面白いかもしれん」

 まだまだ身も心も未熟。しかし確かに光るものを感じる。さすがは“神の御使い”なのか。

 まさか十八番の“44の魔本”の力も意に返さないほどの力を秘めているとは思わなかった。同じ“武器系”で、“44”というレアな番号が刻まれてあるのに、その上をいく武器。
 つまり奴の魔本は確実に“44の魔本”を越えるものだということ。そんな“武器系”は今まで一度しか目にしていない。

「もしかしたらアレに匹敵するのか……? 興味深いじゃないか」

 恐らく先程の一撃は文字通り全力を尽くしたものだったのだろう。気を失うほどのエネルギーを込めた一撃。

「その無謀さもなかなかに面白い」

 しかもその彼を守ろうと兵士たちが庇うように立っている。人望もなかなか。

「コイツが一角の将になれば、つまらない戦も面白くなるかもな」

 その時、足元が凍り始める。

「むっ!?」
「はあぁぁぁぁっ!」

 下から迫って来たのはクーアイだ。レイピアのように剣を突き刺そうとしてくる。
 オレはその場から後方へ移動し回避。

 コイツ……オレみたいに崖を登ってきやがったのか? いや……。

 見れば氷の階段が作られてある。

「なるほど、“青の魔本”で作ったのか」

 それならば登ってくることもできるだろう。彼女は倒れている少年を見て険しい顔つきになり、殺気を込めた視線をぶつけてくる。

「貴様ぁぁぁっ!」
「……フン、さすがにこれ以上は予定外過ぎる。玩具もどうやら潰されたようだしな」

 下を見ると、もう賊たちも屍の山に成り変わっている。

「まさか大敗したはずの部隊に、大敗させられるとはな。これだから戦は面白い」

 一つの油断で戦況は驚くほどあっさりとひっくり返る。だからこそ楽しいのだ。このコロコロ変わる戦況の中で身を置いていると、自分が本当に生きていることを実感できる。
 戦場の緊張が命の脈動を知らせてくれる。この快感はオレしか感じることはできないかもしれない。だが一度味わったらもう止められない。

「さすがだ、クーアイ騎士団」

 オレは称賛するために拍手をする。

「貴様、ふざけてるのか?」
「いいや、褒めてるんだ。あとそいつ、まだ死んでないから安心しな」
「何っ!?」

 死んだと思っていたのか、彼女の顔色に安堵の色が少し窺える。

「まだ死なれてもらっては困る」
「む? どうして貴様が困る?」
「そいつにはもっと大きくなってもらう。次に会う時は、更なる舞台で……存分に智と力をぶつけ合いたいからな」
「次があると思うのか?」

 彼女から逃がしはしないというオーラを感じる。

「今日はもう十分に満足した。だから、見逃してやろう」

 オレは懐から煙玉を取り出すと、地面に投げつける。ボフッと白い煙が濃霧のように広がり周囲を覆い隠す。

「じゃあな。ああ、あとそいつに言っておけ。オレの名は――アウォト・ゲヘナムだとな」





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