8 / 258
7
しおりを挟む
――翌日、午後一時。
昼食を食べたあと、外で遊んでくると葵に行って出かけた沖長は、散歩がてら新たな回収物を目指して街中を見回っていた。
道を行けば、様々なものに目が向かう。石ころや雑草なども随時〝回収〟していく。石ころはともかく、雑草の中には口にできるものもあるし手に入れておいて損ではない。一度手にすればリストのテキストを確認すれば、対象の正体も掴めるので本当に便利だ。
そのまま土手がある方へ向かう。そこならさらに食べられる野草があるはず。
土手に上がり、その先の河原に視線を向ける。あちこちに野草が生えていて、今の沖長にとっては宝物に見えた。
土手を降りていき、他人に見つからないように野草を頂戴していく。またゴミなども捨てられていたので、せっかくだからとそれも処分するために〝回収〟しておいた。
「いやぁ~、いい仕事したなぁ」
ひとしきり目ぼしい野草をゲットして河原の方へ出て「ん?」となる。
視線の先には、河原の近くで寂しそうに座っている一人の少女がいたからだ。歳は沖長とそう変わらない。また気になったのは、何故か道着らしきものを着用していたこと。柔道着か空手着なのかは分からないが。ただ帯は白いので、初心者なのかもしれない。
(何だあの子……物凄い哀愁が漂ってるんですけど……?)
まるで疲れ切った中年サラリーマンのような背中。表情はさすがに中年のそれではないが、それでも明らかに意気消沈している様子だ。
親に怒られて家出でもしてきたのだろうかと思っていると……。
「――やっぱここにいたか、ナクル!」
突然現れたのは日差しを浴びてキラキラと輝く銀髪をした同年代の少年。
(え? 銀髪……外国人?)
一瞬そう思うほどに外国製の整った顔立ちをしている。きっと成長すれば極上のイケメンの出来上がりだろう。
名前らしきものを読んだということは知り合いなのかと思ったが……。
「え……だ、だれッスか?」
少女の困惑する様子を見ると、どうもそうではないようだ。
さらに――。
「おい、そこのお前! 俺のナクルに近づくな!」
また一人の同年代の少年が現れた。しかもこの子も赤髪でオールバックという日本の子供らしさの欠片もない髪型をしていて、銀髪少年と負けず劣らずのイケメンだ。
俺のナクルと言った手前、こちらは本当に知り合いかと思った矢先……。
「し、しらない子がふえたッス……」
もうどういうわけか分からないが、また見知らぬ人物だったようだ。
「はあ!? 誰がお前のナクルだよ! ナクルは俺のものだ!」
「黙れよ! ナクルは俺の嫁の一人になるんだ! 邪魔するな!」
二人が互いに掴み合って視線で火花を散らす。
(…………どういう状況なの?)
突然現れた超絶イケメン二人が、一人の少女を取り合っているが、その当人は初対面らしい。
「し、しらない子たちが、ぼくのなまえをよんでるッスよぉ……」
それはとても怖いよねと、思わず震える少女に同情してしまう。
沖長だったらそんなストーカー野郎どもからさっさと逃げるが、少女は恐怖に慄いているのか徐々に後ずさっているだけ。
しかしその状況はとてもよろしくなかった。何故なら少女のすぐ背後は河が流れている。そのままドボンということになったら大変だ。ここの河はそれなりに流れもあるし水深もあるから夏でも遊泳は禁止されている。
二人の少年はいまだに睨み合っていて、少女の危険に気づいていない。
するとその内の一人――赤髪が、あろうことかもう金髪の顔面を殴り飛ばしてしまったのだ。
それに驚いた少女は、「ひゃっ!?」と声を上げてさらに大きく後ずさった。そこで恐れていた事態が起きる。一歩後ろに踏み出した足の先、そこには大きめの歪な形をした石があり、それを踏んだことで石はガクッと傾いて少女のバランスを崩してしまったのである。
その結果、大きく後ろによろめいた少女は、そのまま河へと吸い込まれていき、少女もまた覚悟したように目を閉じた……が、少女の動きがそこでピタッと止まる。
「ふぅ~、ギリギリセーフ」
寸でのところで少女の手を掴んで落下を防いだのは沖長だ。
少女も瞼を上げて自分が助かったことに気づいた様子だが、いまだに思考がストップしているようで呆気にとられている。
そんな少女を引っ張り上げて河から少し距離を取ってから手を離す。すると少女は目をパチパチと開閉しながらもジッとこちらを見つめていた。
「怪我はない?」
そう聞くと、ようやくハッとした少女が「は、はいっす!」と返事をしてくれたので安堵する。とにかく危機一髪間に合って良かったと思っていると……。
「おいてめえ! いきなり現れて俺のナクルに近づいてんじゃねえぞ!」
背後から聞こえた声。先ほど金髪少年を殴り飛ばした赤髪の少年が沖長に怒りを露わにしていた。対して金髪少年は気絶しているのか横たわったままだ。
「えっと……ちょっと落ち着いたら? 君たちのせいでこの子がビックリして危なかったんだからさ」
「うるせえ! そんなことよりさっさとナクルから離れやがれ!」
言うに事欠いてそんなことよりと言ってきた。
(コイツ、この子が好きなんじゃないの? それなのに自分たちのせいで危ない目に遭ったことをそんなことって……)
恐らく噛み砕いて注意しても話を聞く輩ではなさそうだ。何せ簡単に暴力を振るえるような奴だから。
そう思っていると、今度は沖長を殴り飛ばそうと詰め寄ってきた。
「てめえみてえなモブが、俺みたいな選ばれた主役に逆らうんじゃねえよ!」
何だかよく分からないことをほざきながら突っ込んでくるが、その直後にその場から一瞬にして消えた。
当然その状況に少女は「ふえぇぇぇっ!?」と愕然としているが、沖長は少女の手を掴むと、
「ここから離れた方が良いよ。行こう」
そう言うと、少女も若干戸惑いつつも「は、はいっす」と答えてついてきてくれた。
昼食を食べたあと、外で遊んでくると葵に行って出かけた沖長は、散歩がてら新たな回収物を目指して街中を見回っていた。
道を行けば、様々なものに目が向かう。石ころや雑草なども随時〝回収〟していく。石ころはともかく、雑草の中には口にできるものもあるし手に入れておいて損ではない。一度手にすればリストのテキストを確認すれば、対象の正体も掴めるので本当に便利だ。
そのまま土手がある方へ向かう。そこならさらに食べられる野草があるはず。
土手に上がり、その先の河原に視線を向ける。あちこちに野草が生えていて、今の沖長にとっては宝物に見えた。
土手を降りていき、他人に見つからないように野草を頂戴していく。またゴミなども捨てられていたので、せっかくだからとそれも処分するために〝回収〟しておいた。
「いやぁ~、いい仕事したなぁ」
ひとしきり目ぼしい野草をゲットして河原の方へ出て「ん?」となる。
視線の先には、河原の近くで寂しそうに座っている一人の少女がいたからだ。歳は沖長とそう変わらない。また気になったのは、何故か道着らしきものを着用していたこと。柔道着か空手着なのかは分からないが。ただ帯は白いので、初心者なのかもしれない。
(何だあの子……物凄い哀愁が漂ってるんですけど……?)
まるで疲れ切った中年サラリーマンのような背中。表情はさすがに中年のそれではないが、それでも明らかに意気消沈している様子だ。
親に怒られて家出でもしてきたのだろうかと思っていると……。
「――やっぱここにいたか、ナクル!」
突然現れたのは日差しを浴びてキラキラと輝く銀髪をした同年代の少年。
(え? 銀髪……外国人?)
一瞬そう思うほどに外国製の整った顔立ちをしている。きっと成長すれば極上のイケメンの出来上がりだろう。
名前らしきものを読んだということは知り合いなのかと思ったが……。
「え……だ、だれッスか?」
少女の困惑する様子を見ると、どうもそうではないようだ。
さらに――。
「おい、そこのお前! 俺のナクルに近づくな!」
また一人の同年代の少年が現れた。しかもこの子も赤髪でオールバックという日本の子供らしさの欠片もない髪型をしていて、銀髪少年と負けず劣らずのイケメンだ。
俺のナクルと言った手前、こちらは本当に知り合いかと思った矢先……。
「し、しらない子がふえたッス……」
もうどういうわけか分からないが、また見知らぬ人物だったようだ。
「はあ!? 誰がお前のナクルだよ! ナクルは俺のものだ!」
「黙れよ! ナクルは俺の嫁の一人になるんだ! 邪魔するな!」
二人が互いに掴み合って視線で火花を散らす。
(…………どういう状況なの?)
突然現れた超絶イケメン二人が、一人の少女を取り合っているが、その当人は初対面らしい。
「し、しらない子たちが、ぼくのなまえをよんでるッスよぉ……」
それはとても怖いよねと、思わず震える少女に同情してしまう。
沖長だったらそんなストーカー野郎どもからさっさと逃げるが、少女は恐怖に慄いているのか徐々に後ずさっているだけ。
しかしその状況はとてもよろしくなかった。何故なら少女のすぐ背後は河が流れている。そのままドボンということになったら大変だ。ここの河はそれなりに流れもあるし水深もあるから夏でも遊泳は禁止されている。
二人の少年はいまだに睨み合っていて、少女の危険に気づいていない。
するとその内の一人――赤髪が、あろうことかもう金髪の顔面を殴り飛ばしてしまったのだ。
それに驚いた少女は、「ひゃっ!?」と声を上げてさらに大きく後ずさった。そこで恐れていた事態が起きる。一歩後ろに踏み出した足の先、そこには大きめの歪な形をした石があり、それを踏んだことで石はガクッと傾いて少女のバランスを崩してしまったのである。
その結果、大きく後ろによろめいた少女は、そのまま河へと吸い込まれていき、少女もまた覚悟したように目を閉じた……が、少女の動きがそこでピタッと止まる。
「ふぅ~、ギリギリセーフ」
寸でのところで少女の手を掴んで落下を防いだのは沖長だ。
少女も瞼を上げて自分が助かったことに気づいた様子だが、いまだに思考がストップしているようで呆気にとられている。
そんな少女を引っ張り上げて河から少し距離を取ってから手を離す。すると少女は目をパチパチと開閉しながらもジッとこちらを見つめていた。
「怪我はない?」
そう聞くと、ようやくハッとした少女が「は、はいっす!」と返事をしてくれたので安堵する。とにかく危機一髪間に合って良かったと思っていると……。
「おいてめえ! いきなり現れて俺のナクルに近づいてんじゃねえぞ!」
背後から聞こえた声。先ほど金髪少年を殴り飛ばした赤髪の少年が沖長に怒りを露わにしていた。対して金髪少年は気絶しているのか横たわったままだ。
「えっと……ちょっと落ち着いたら? 君たちのせいでこの子がビックリして危なかったんだからさ」
「うるせえ! そんなことよりさっさとナクルから離れやがれ!」
言うに事欠いてそんなことよりと言ってきた。
(コイツ、この子が好きなんじゃないの? それなのに自分たちのせいで危ない目に遭ったことをそんなことって……)
恐らく噛み砕いて注意しても話を聞く輩ではなさそうだ。何せ簡単に暴力を振るえるような奴だから。
そう思っていると、今度は沖長を殴り飛ばそうと詰め寄ってきた。
「てめえみてえなモブが、俺みたいな選ばれた主役に逆らうんじゃねえよ!」
何だかよく分からないことをほざきながら突っ込んでくるが、その直後にその場から一瞬にして消えた。
当然その状況に少女は「ふえぇぇぇっ!?」と愕然としているが、沖長は少女の手を掴むと、
「ここから離れた方が良いよ。行こう」
そう言うと、少女も若干戸惑いつつも「は、はいっす」と答えてついてきてくれた。
1,016
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる