俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
113 / 258

112

しおりを挟む
「――――なるほど。例の転生者の身内からの相談、ね」

 このえの呟きに対し、沖長が素直に「ああ」と頷いた……が、ここで大きな過ちに気づく。

「……のう、テンセイシャとは何のことじゃ?」
「「……あ」」

 この場に千疋もいることを完全に忘れていた。確かこのえもまだ自身が転生者だということは誰にも伝えていなかったはず。

「あー……ほら、前にダンジョンで会った銀髪の子供のことだ」
「銀髪……ああ、あの赤髪にあっさりやられておった小童のことじゃな。して、そやつがテンセイシャとはどういうことじゃ?」

 やはり食いついてくる。チラリとこのえを一瞥すると、無表情が特徴の彼女の目が完全に泳ぎまくっている。そして助けを求めるように沖長を見てきた。

 まあ千疋に話したところで然程問題になり得ないとも思うが、ここで教えるのも沖長としては構わないが、このえにも心の準備というものが必要だろう。何せ親友であるはずの千疋に今まで伝えて来なかった理由が確かにあるだろうから。
 ここは一旦誤魔化す方面に話を持っていくことにした。

「アイツ、自分のことをそう言ってるんだよ。俺は選ばれた転生者だってな。そうだよな、壬生島。お前もあの糸の能力で、そう口にしてる金剛寺を見たことがあるんだろ?」

 そうやってフォローすると、「そ、そうよ……うん、絶対そう」などと明らかに動揺している感は否めないがそう言った。

「テンセイ……つまり生まれ変わり、転生ってことかのう」
「だろうな。ほら、よく厨二病で、自分のことを前世が魔王だったって設定してる奴がいたりするしな」
「ふむふむ。つまりあの銀髪は可愛そうな奴じゃということじゃな。確かにあやつの言動は変人のそれじゃったしなぁ」

 カラカラと笑う千疋を見て、このえがホッと胸を撫で下ろしている。どうやら話を逸らせたようで、さっそく本題へと入る。

「その銀髪……金剛寺銀河っていうんだけど、そのお姉さんには俺が一年生の頃から世話になっててな。だから相談を受けて、できれば解決してあげたいって思ったんだよ」
「なるほどのう。しかし受けた恩義に対し真っ向に報いるとはさすがは我が主様よのう」

 恩義なんて大層なものではない。ただ世話になった人が頼ってきたから、見捨てるなんて自分の美学に反することをしたくないだけである。

「それで? あなたはわたしに何を望むの? 知っての通り、今のわたしにできることは限られているわよ?」

 このえは生まれながらの虚弱体質であり、外で活発に行動することができない。人が多いというより、刺激が強い場所に足を運ぶこともできない。
 しかし問題はない。沖長が彼女を頼りにしているのは、彼女が秘める能力だ。

「例の糸を使って、金剛寺を調査してほしいんだよ」

 金剛寺は夜になっても中々帰ってこないと夜風は言っていた。彼が何をしているのか突き止めるには尾行する必要があるだろう。何せ聞いたところで答えてくれるとは思えないからだ。
 まあナクルが頼めばいけるかもしれないが、できるだけアイツら転生者コンビにはナクルを近づけたくないという思いから却下した。

 沖長が尾行するにも、夜中に出歩くのは両親の心配へと繋がるので、これもできれば最終手段にしておきたい。
 ということで考えた結果、調査任務ならば適役であろうこのえを頼ったのである。彼女の能力ならば、誰にも気づかれずに尾行し調査することができるから。

「そういうことね。それくらいなら問題ないわ」
「別に尾行ならワシがしてもいいんじゃがのう」
「確かに十鞍は、知識や経験上では大人と同格だけど、それでもまだ身体的には子供なのは確かだろう。せっかくこれからちゃんと大人として成長できるのに、夜更かしして成長止まってもいいのか?」
「そ、それは嫌じゃ! ワシだっていつかはいつかはと思い、ないすばでぃなれでぃを夢見ては諦めてきたんじゃからな!」

 十五歳で確実に死んできたのだから、大人の女性にはなり得なかった。少なくとも身体的にはだが。だからこそ彼女がかつて見た夢を叶えられる状況なのに、それが失敗に終わることを許容なんてできないだろう。

「このえ! ワシは動けん! 夜はしっかり牛乳を飲んでから寝ると決めておるからのう! そうでないと主様を誘惑できる身体が手に入らん!」
「そ、そうね……大丈夫よ。今回はわたしが頑張るから……」

 千疋の気迫に押される形でこのえが頷く。

(ていうかコイツ、さらっととんでもないこと言わなかったか?)

 誘惑するとか聞こえたが、それが本気でないことを祈るばかりだった。

「けど、その能力って制限時間とか効果範囲とか大丈夫なのか?」

 主に手に入れたいのは金剛寺の夜の行動ではあるが、できるなら一日中彼の行動を知っておきたい。もし制限時間があるなら一日ぶっ続けても大丈夫なのか確かめておきたかった。それとどこまでの範囲内に能力を行使できるのかもだ。

「そうね。今回の場合は……特に緻密な制御が必要というわけでは……ないから問題ないわ」

 前に沖長を調査した時も、二十四時間監視したこともあるというので信頼できそうだ。

「ただ効果範囲なのだけれど……わたしから……半径三十キロ圏内くらい……かしらね」
「いやいや、十分だから」

 三十キロというと市内であれば何の問題もない。つまりその範囲内なら、このえは糸を広げて、あるいは飛ばして情報を密かに入手することができるということ。
 やはり転生者に与えられた能力は図抜けていると実感する。

(ただ回収はできそうもないんだよなぁ)

 彼女が繰り出す糸は、彼女の身体そのものであり、沖長は生物の一部だと認識してしまっている。故に制約が発動し回収することができないのだ。
 回収できて自分も扱えるようになれば最高だったが、そう都合よくいかないことに肩を落とした記憶がある。

「じゃあさっそく……調査に向かわせるわね」

 そう言うと、このえの右手の指先から解けるようにして糸が生まれていく。それらが次々と小鳥の姿になり、開け放たれた窓から飛び立っていく。気づけばこのえの右腕全体が無くなっていた。こうして見ると痛々しそうだが、別段痛みは感じないらしい。
 まずは金剛寺を探すところからだ。見つかれば、あとはそのまま尾行を――。

「――見つけたわ」
「はやっ!?」

 思わずギョッとしたほどの速度だったが、こちらとしては都合が良い。
 あとは数体だけを金剛寺の周辺に張り巡らせて様子を見るとのこと。

 そしてその翌日、さっそくこのえから連絡が入ったのですぐに向かうことになった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。 だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。 一度目では騙されて振られた。 さらに自分の力不足で全てを失った。 だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。 ※他サイト様にも公開しております。 ※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※ ※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...