139 / 258
138
しおりを挟む
玄関前でマスクを手渡されたので装着してから家の中へと招き入れられた。
水月はすぐに寝込んでいる弟の様子を見ようと奥へと足早に向かう。その間、沖長は内装を何となく見回していた。
このアパートは縦長のワンルームらしく、キッチンもあれば一応トイレらしき扉も発見する。風呂は存在していないか、もしくはトイレと一体化しているかどちらかだろう。
ここで水月たちは五人で過ごしているのだ。一人暮らしなら申し分ないと思うが、確かにここで家族一緒に過ごすのは結構狭いかもしれない。
しかしやんちゃな三つ子がいるにもかかわらず、部屋は整理整頓が行き届いており、キッチン回りも綺麗でゴチャゴチャとしているところが見当たらない。きっと家事を一手に引き受けている水月が毎日整えているのだと思い感心した。
「あ、ごめんね札月くん、今ちょっと弟が風邪で寝込んでてね」
「そっか。だから看病のために今日学校に来てなかったんだな」
「そういうこと。できれば紹介したいけど、風邪が移ってもあれだしさ」
「いいっていいって。……じゃあお大事に」
この流れで去ろうとしたが、ガシッと力強く腕を掴まれた。
「ど~こ行く~ん?」
「いや……ほら、もう用事はないかなぁって」
「君にはいろいろ聞きたいことがあるんだけどなぁ」
「はは……ですよね」
やはりこのままスルーすることはできそうにない。
というわけでキッチンの前に少しスペースがあるので、用意してもらった椅子に座ることになった。
「ごめんね、こんなもんしかないんだけど」
そう言ってグラスに入れてくれた茶を受け取りながら「お構いなく」と、とりあえず口にしておいた。
水月も椅子に腰かけて、彼女も喉が渇いていたのか茶を啜っている。そして流れる沈黙の時間。どうにも居たたまれない感じで気まずい。
「「……あのさ」」
意を決してこちらからと思ったが、そのタイミングが一緒だったようでハモることになった。
「あ、悪い。何か変に緊張しちゃって。そっちからどうぞ」
そう話を促すと、水月もまた同じように苦笑を浮かべつつ発言する。
「ありがと。えっとね、札月くんはどうしてあそこに来たの? 授業中……だったよね?」
水月が壁に賭けられた時計を一瞥しながら質問を投げかけてきた。
「あー……まあ、ね」
どうしたものか。ここで正直にダンジョンについて話してもいいのかどうか悩む。
原作では水月は勇者として覚醒する。ということは、すでに彼女は原作の流れに少なからず乗ってしまったということになる。
できることなら何も知らずに過ごした方が平和なのだろうが、ダンジョンの亀裂を目にしている以上は、このまま放置することは何となく危ないような気がする。
何せ例の〝ある存在〟に見られたか見られていないのか明確なことは分かっていないのだ。見られていないのであればいいが、そうでないなら奴は必ず彼女に接触してくるはず。
ここは見られていないという前提で動くよりは、悪い方を想定して行動すべきだろう。
「その前に九馬さんに一つ聞いておきたいことがあるんだよ」
「なぁに?」
「さっき公園で……何か見た?」
「さっき……! そ、そう! 見た見た! 何か目の前の空間がぐにゃってなって、そんでヒビみたいなのが入って! アレって何なん! もしかして何か知ってんの!」
やはりちゃんと認識しているようだ。こうなれば見間違いと誤魔化すこともできそうもない。
それなら彼女にもある程度の知識を与えておいた方が、今後何か起こっても冷静さを取り戻しやすいと踏んだ。
「実は――」
あの現象が、ダンジョンと呼ばれる異界に通じる時に起こること。そしてその中に生息する妖魔やダンジョン主の存在。さらに勇者と称される者のことも伝えた。
「――はは、嘘ばっかりぃ。そうやってからかおうったってダメだし!」
最初の反応は常識のある者ならば当然。しかし沖長がいまだに真剣な表情で水月を見続けていると、水月の笑顔は崩れ「……マジ?」と聞き返してきたので大きく頷きを返した。
「い、いやでも……ダンジョンとか……勇者とか……そんなゲームじゃないんだしさ」
「だったらあの現象が何か説明できる?」
「それは……できないけど、でも異界に通じるとか言われても……さ」
頑なに信じないのは無理もないだろう。
沖長の場合は予備知識があったからこそ信じることはできた。しかし何もない無垢な状態では、これが普通なのかもしれない。実際にダンジョン内に入ったなら別だが、まだ亀裂が完成する前にあの場から逃げてきたからか、水月にとって信じがたいのだろう。
「でも本当のことだ。そんでこっからもっと厄介なんだけど」
「え、まだその先があんの?」
「こっからが本題だよ。さっきも説明したけど、ダンジョンに入れる者は限られる。そして九馬さん、君も入ることができるはずだ」
「えぇ!? な、何で!? あたしってそこらへんにいる一般人だよ!」
「しかももしかしたら勇者の可能性がある」
「ちょっとこれ以上設定を盛らないで! あたしが勇者なんて有り得ないって! 喧嘩だって弟たちとしかしたことないし、しかも口喧嘩! それなのにヨーマとかいうモンスターと戦うなんて絶対ムリ!」
「いや別にダンジョンに入りたくなければそれでいいんだよ。これは強制されるようなことでもないし」
「え、そうなの?」
「まあ……ダンジョン攻略に固執する悪い大人たちに知られたら執拗に追いかけられるかもしれないけど」
「何それ! 暗い未来しか見えないんだけど!? ていうか大人はダンジョンについて知ってるの!?」
「……少なくともこの国のトップや防衛大臣は知ってるみたいだよ。何せ、ダンジョン内には極めて上質な物資があるらしくて、それを日本国発展に役立てようとしてるみたいだから」
「っ……あ、あれかな。オリハルコンとかエリクサーとか、すっごいファンタジーアイテムがあったり?」
「へぇ、九馬さんってそっち方面には明るいんだな」
「ネット小説とかは好きで読んだりするんだよ。ファンタジーものも結構、ね」
なるほど。だから基本的なRPG用語などは熟知しているらしい。
水月はすぐに寝込んでいる弟の様子を見ようと奥へと足早に向かう。その間、沖長は内装を何となく見回していた。
このアパートは縦長のワンルームらしく、キッチンもあれば一応トイレらしき扉も発見する。風呂は存在していないか、もしくはトイレと一体化しているかどちらかだろう。
ここで水月たちは五人で過ごしているのだ。一人暮らしなら申し分ないと思うが、確かにここで家族一緒に過ごすのは結構狭いかもしれない。
しかしやんちゃな三つ子がいるにもかかわらず、部屋は整理整頓が行き届いており、キッチン回りも綺麗でゴチャゴチャとしているところが見当たらない。きっと家事を一手に引き受けている水月が毎日整えているのだと思い感心した。
「あ、ごめんね札月くん、今ちょっと弟が風邪で寝込んでてね」
「そっか。だから看病のために今日学校に来てなかったんだな」
「そういうこと。できれば紹介したいけど、風邪が移ってもあれだしさ」
「いいっていいって。……じゃあお大事に」
この流れで去ろうとしたが、ガシッと力強く腕を掴まれた。
「ど~こ行く~ん?」
「いや……ほら、もう用事はないかなぁって」
「君にはいろいろ聞きたいことがあるんだけどなぁ」
「はは……ですよね」
やはりこのままスルーすることはできそうにない。
というわけでキッチンの前に少しスペースがあるので、用意してもらった椅子に座ることになった。
「ごめんね、こんなもんしかないんだけど」
そう言ってグラスに入れてくれた茶を受け取りながら「お構いなく」と、とりあえず口にしておいた。
水月も椅子に腰かけて、彼女も喉が渇いていたのか茶を啜っている。そして流れる沈黙の時間。どうにも居たたまれない感じで気まずい。
「「……あのさ」」
意を決してこちらからと思ったが、そのタイミングが一緒だったようでハモることになった。
「あ、悪い。何か変に緊張しちゃって。そっちからどうぞ」
そう話を促すと、水月もまた同じように苦笑を浮かべつつ発言する。
「ありがと。えっとね、札月くんはどうしてあそこに来たの? 授業中……だったよね?」
水月が壁に賭けられた時計を一瞥しながら質問を投げかけてきた。
「あー……まあ、ね」
どうしたものか。ここで正直にダンジョンについて話してもいいのかどうか悩む。
原作では水月は勇者として覚醒する。ということは、すでに彼女は原作の流れに少なからず乗ってしまったということになる。
できることなら何も知らずに過ごした方が平和なのだろうが、ダンジョンの亀裂を目にしている以上は、このまま放置することは何となく危ないような気がする。
何せ例の〝ある存在〟に見られたか見られていないのか明確なことは分かっていないのだ。見られていないのであればいいが、そうでないなら奴は必ず彼女に接触してくるはず。
ここは見られていないという前提で動くよりは、悪い方を想定して行動すべきだろう。
「その前に九馬さんに一つ聞いておきたいことがあるんだよ」
「なぁに?」
「さっき公園で……何か見た?」
「さっき……! そ、そう! 見た見た! 何か目の前の空間がぐにゃってなって、そんでヒビみたいなのが入って! アレって何なん! もしかして何か知ってんの!」
やはりちゃんと認識しているようだ。こうなれば見間違いと誤魔化すこともできそうもない。
それなら彼女にもある程度の知識を与えておいた方が、今後何か起こっても冷静さを取り戻しやすいと踏んだ。
「実は――」
あの現象が、ダンジョンと呼ばれる異界に通じる時に起こること。そしてその中に生息する妖魔やダンジョン主の存在。さらに勇者と称される者のことも伝えた。
「――はは、嘘ばっかりぃ。そうやってからかおうったってダメだし!」
最初の反応は常識のある者ならば当然。しかし沖長がいまだに真剣な表情で水月を見続けていると、水月の笑顔は崩れ「……マジ?」と聞き返してきたので大きく頷きを返した。
「い、いやでも……ダンジョンとか……勇者とか……そんなゲームじゃないんだしさ」
「だったらあの現象が何か説明できる?」
「それは……できないけど、でも異界に通じるとか言われても……さ」
頑なに信じないのは無理もないだろう。
沖長の場合は予備知識があったからこそ信じることはできた。しかし何もない無垢な状態では、これが普通なのかもしれない。実際にダンジョン内に入ったなら別だが、まだ亀裂が完成する前にあの場から逃げてきたからか、水月にとって信じがたいのだろう。
「でも本当のことだ。そんでこっからもっと厄介なんだけど」
「え、まだその先があんの?」
「こっからが本題だよ。さっきも説明したけど、ダンジョンに入れる者は限られる。そして九馬さん、君も入ることができるはずだ」
「えぇ!? な、何で!? あたしってそこらへんにいる一般人だよ!」
「しかももしかしたら勇者の可能性がある」
「ちょっとこれ以上設定を盛らないで! あたしが勇者なんて有り得ないって! 喧嘩だって弟たちとしかしたことないし、しかも口喧嘩! それなのにヨーマとかいうモンスターと戦うなんて絶対ムリ!」
「いや別にダンジョンに入りたくなければそれでいいんだよ。これは強制されるようなことでもないし」
「え、そうなの?」
「まあ……ダンジョン攻略に固執する悪い大人たちに知られたら執拗に追いかけられるかもしれないけど」
「何それ! 暗い未来しか見えないんだけど!? ていうか大人はダンジョンについて知ってるの!?」
「……少なくともこの国のトップや防衛大臣は知ってるみたいだよ。何せ、ダンジョン内には極めて上質な物資があるらしくて、それを日本国発展に役立てようとしてるみたいだから」
「っ……あ、あれかな。オリハルコンとかエリクサーとか、すっごいファンタジーアイテムがあったり?」
「へぇ、九馬さんってそっち方面には明るいんだな」
「ネット小説とかは好きで読んだりするんだよ。ファンタジーものも結構、ね」
なるほど。だから基本的なRPG用語などは熟知しているらしい。
300
あなたにおすすめの小説
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2025年12月に第4巻が発売されました
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる