俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
158 / 258

157

 まるで一つの世界の神にでもなった気分だった。
 いろいろ試したが、凡そここで出来ないことはほとんど何もなかったのである。
 気候だってコントロールできるし、食材や日用品など現実に存在するありとあらゆるものを再現することも可能だった。しかも食料は、しっかりと味はあるし満足感も得られる。

「ん~……けど何のためにこの〝Ⅹ界〟はあるんだろうなぁ」

 いや、そのお蔭で九死に一生を得たのだから感謝すべきことだが。
 しかしボックス内にこのような空間がある意味が分からない。何のために存在するのか。存在する以上は何かしら意味があるはずだと思う。

「…………ま、いっか」

 とりあえず考えても分からないので今は保留ということにした。そもそも在って困ることでもないし、それどころかこの空間はメリットしかないのだ。

「でもできないこともあるんだよなぁ……」

 それは自分が生物と認識した存在を現象化することができないこと。

「ただその代わりに――」

 想像した存在が即座にその場に現れた。
 それは巨大な石像。しかし次の瞬間に、ゆっくりとだが確かに身体を動かし始めたのである。歩いたり腕を振ったり、また屈伸などをしてまるで生きているような動きを見せる。

 しかしながら生きているわけではない。これはファンタジー用語で言うと、いわゆるゴーレムと呼ばれるもの。
 命は宿っていないが、主の命令をプログラムとして認識することができて、その通りに動くことができるのである。

 こんな感じで、自動人形とでも呼べる存在ならば創造することができるようなのだ。ただしここで創造したものは、この空間でのみ存在することができるらしく、外へと持ち運ぶことはできそうにない。
 その証拠にボックス内に創造物は記載されていないのだ。これでは現実世界に戻っても、ゴーレムなどを取り出すことはできないだろう。

「まあ、ココで創ったものを現実に持ち出せたら、それこそバグどころか神の御業そのものだしな」

 何せ試してみたが、AランクだろうがSランクだろうが生み出せるのだ。これでは《アイテムボックス》の複製や再生などが意味をなさなくなる。さすがにそこまでのバグっぷりは反映されていない様子。少し残念ではあるが。

「あとはここから出る方法だけど、これも願えばできる……か?」

 そう思い、外へと通じる扉のようなものをイメージした。
 すると目前に幾何学模様が施された重厚な扉が誕生する。そして音を立てて開くと、そこには見知った景色が映っていた。間違いなく先ほど自分がいた路地である。

「お、おお……マジでできたし」

 もう何でもありだなと思いつつ、そこに人気がないことを確認する。どうやらユンダはすでに去った後らしい。
 今なら外に出ても再び襲われることはないはずだ。そう判断すると、躊躇うことなく扉を潜った。

「っ………………戻った……よな?」

 後ろを振り返れば、すでに扉はそこには無い。

「うわ、ていうか地面が陥没してるし」

 間違いなくユンダの一撃によって生まれたものだ。そして周囲には大量の血液と丸鶏の肉片が飛び散っている。

「このままだとマズイ……か?」

 人がここを通れば、いずれ警察が調査をするかもしれない。血液を採取されるのは何となく嫌だったので、すぐさま見える範囲ではあるが血液と肉片を回収しておいた。
 陥没した地面はさすがに元には戻せないので、そこは諦めるしかない。

「そういやユンダの奴はダンジョンの方へ行ったのか? それとも……!」

 ナクルたちの方へ向かった可能性もあると察し、すぐさまスマホを確認してみる……と、そこにはナクルからの伝言が入っていた。
 どうやら無事に水月を家に送り届けて、今も待機中とのこと。すぐに電話をかけてナクルの安否を確かめる。

『――オキくん?』

 その声音を聞いてホッとした。切羽詰まった様子もないし、普段通りのナクルだ。

「ああ、俺だよ」
『そっちはどうッスか? ダンジョンは?』
「あー……」

 結局ダンジョンを確認できていない。どう言い訳をしたものか。
 素直にユンダと一戦交えたと言えば間違いなく心配するだろう。何せこちらは一度は死を覚悟した身だ。そんなことを伝えて心配させることもないと判断した。

「悪いな、途中で腹が痛くなってさ。コンビニのトイレに駆け込んた」
『え? そうなんスか? お腹は大丈夫ッスか?』
「おう、もう大丈夫。ところでナクルは今も九馬さんの家か?」
『はいッス。水月ちゃんは今、洗濯物を取り込んでる最中ッスよ』

 どうやら水月の家に上がり込んでいるようだ。今もユンダに襲われていないということは、彼はダンジョンの方へ向かった可能性が高い。

(アイツ……九馬さんに興味を持ってたのに向かわなかったのか? それともナクルがいたから手を出してない?)

 邪魔者である沖長を始末したから、いつでも水月を利用できると判断し、優先すべきはダンジョンの確認だったのだろうか。それと同時に厄介な組織である【異界対策局】の調査。

 ユンダの考えを読むことは難しいが、今すぐにナクルたちが危険に遭うことはなさそうで安堵した。

(どうする? ダンジョンは……一応遠目でも確認しておくか?)

 当初の目的なので遂行するべきだと思いつつも、そこにいるユンダに気づかれる危険性を考えると躊躇してしまう。いずれ生存がバレるとしても、今すぐにというのは避けたい。

「ナクルは、もうしばらくそこにいてくれ。用事が済んだら俺もそっちに行くから」

 そう伝えると「分かったッス!」と言って通話を終えた。
 すると直後に着信が入ったので反射的に電話に出る。

『沖長くん?』
「その声……蔦絵さん? どうかしたんですか?」
『どうかしたんですじゃないわよ。今どこにいるのかしら? 私はダンジョンが発生した場所の近くにいるんだけれど?』

 ……忘れていた。そういえば蔦絵と合流する予定だったのだ。



あなたにおすすめの小説

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監
ファンタジー
日本のIT企業戦士であった有能な若者がある日突然に異世界に放り込まれてしまった。 異世界に転移した際に、ラノベにあるような白い世界は無かったし、神様にも会ってはいない。 但し、理由は不明だが、その身には強大な魔法の力が備わっていた。 転移した異世界の都市は、正にスタンピードで魔物の大襲撃に遭っているところであり、偶然であるにせよその場に居合わせた転移者は魔物を殲滅して街を救い、以後その異世界で大魔法師として生きることになった。 そうして、転移から200年余り後、親族や大勢の弟子が見守る中で彼は大往生を遂げた。 しかしながら、異世界で生涯を終え、あの世に行ったはずが、230年余りの知識経験と異能を持ったまま赤子になって明治時代に生まれ変わってしまったのである。 これは異世界に転移したことのある出戻り転生者の物語である。 *  あくまでもフィクションであり、登場人物や時代背景は史実とは異なります。 ** 史実に出て来る人物又は良く似た名前の人物若しくは団体名が登場する場合もありますが、広い心で御容赦願います。 *** 週1(土曜午後9時)の投稿を予定しています。 @ 「小説家になろう」様にも投稿しています。

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)