俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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「けれどそれでよく結婚できましたね。特に師匠とトキナさん」

 思わず沖長は浮かんできた疑問を口にした。
 ユキナはともかく、トキナは当主なのだ。そんな簡単に結婚相手を決めて良い立場でもなかっただろう。

「はは、あの時の大悟は凄かったなぁ。何せいきなり本家に殴り込んで、当時の当主に向かってトキナを寄こせって堂々と言い張ったんだから」
「あの時の大ちゃん、カッコ良かったなぁ」

 当時の思い出が蘇っているのか、トキナは両頬に手を当てながら嬉しそうに言う。

「っ……おい修一郎てめえ、何ガキ連中の前で、んなこっ恥ずかしいこと口走ってんだよ!」
「恥ずかしがることはないだろ? 俺だってあの時のお前はカッコ良いと思ったぞ」
「けっ……てめえだってユキナとの結婚を認めさせるために当主とタイマン張ったじゃねえか」

 どうやら想像以上に、修一郎と大悟の二人は熱血展開を繰り広げていたらしい。

「それにしてもそこまで想ってくれる男性が現れるなんて、お二人のことを羨ましいって思います」
「あら、蔦絵ちゃんだって美人なんだし、男なんて引く手数多でしょ?」

 トキナのその言葉に苦笑いを浮かべ「そんなことはないですよ」と謙遜する蔦絵。実際蔦絵は美人だ。モデルや女優をしていると言われても何の誤解も生まない程度には。

 きっとこれまでモテモテの人生だったのも間違いない。そしてこれからもさらに大人の色気がプラスされて益々美に磨きがかかっていくだろう。そして多くの男たちは彼女に一縷の望みを抱いて告白をするはずだ。

 ただそう言われれば確かに不思議でもある。何故なら蔦絵に関して色っぽい話を聞かないから。彼氏がいるような素振りなど微塵もないし、休日出掛けるのも同性だけらしく、きっちり午後五時までには帰宅している。
 修一郎は保護者としての立場はあるものの、そこらへんはもう蔦絵も大人なのだから好きにさせているようだが、それでも男の匂いがしないということは、やはり誰かと付き合っているわけではないのだろう。

 もしかして実は男ではなく女が好みなのではと思ったが、普段の生活からもそんな雰囲気は見当たらない。

(美人だけど性格が悪いせいで男が寄り付かないってわけじゃないしなぁ)

 怒った時は怖いが、とても優しく母性にも溢れていて、沖長だって何度もドキッとさせられているし、お嫁さんにするなら現在蔦絵一択とも言えるほどに魅力的な女性だ。

 つまり結果として、ただ単に蔦絵が恋愛に興味がないということになる……が、先ほどの発言で羨ましいと言っていることからも、恋人関係あるいは結婚そのものには、同年代の女性のように興味はありそうだ。

「これだけの美人で有能なあなただもの。蔦絵ちゃんが射止める男は、きっと物凄い魅力的なんでしょうね。ね、沖長くんもそう思うでしょう?」

 おっと、いきなり話題がこちらに向けられてきた。

「そうですね。蔦絵さんなら素敵な恋人ないし将来の旦那さんを見つけられると思います」
「も、もう、沖長くんったら恥ずかしいこと言わないでちょうだい」

 照れ臭そうに頬を染める蔦絵の仕草はどこか色っぽい。思わず見惚れていると、右脇腹に痛みが走る。見るとナクルが口を尖らせながら抓ってきていた。

「えと……どうしたんだ、ナクル?」
「べっつに~。オキくんもやっぱり男の子だって分かっただけッスよ~だ」
「……何だそれ?」
「フン! ボクだってもう少し成長したら蔦絵ちゃんみたいな美人さんになるッスもんね!」
「おいおい、何当たり前なこと言ってんだ?」
「ふぇ?」
「お前は美男美女の夫婦から生まれた子だぞ。今ももちろん可愛いけど、成長したら今よりもっともっと可愛くなるなんて当然じゃないか」

 きっとそこらのアイドルに負けないほどの魅力溢れる女子になることだろう。いや、今でもデビューすれば、きっと超人気アイドルになるだろう。間違いない。

(俺の大事な世界一可愛い妹分なんだ。そんじょそこらのアイドルに負けるわけがない!)

 兄貴分としてそれだけは確信が持てる。

「~~~~~~っ!? …………もう、これだからオキくんは……」
「ん? 聞こえないぞ。何だよ?」
「何でもないッス~! オキくんは相変わらずあざといッスって言っただけッスもんね!」
「はあ? 男の俺があざといわけがないだろ? ねえ、蔦絵さん?」
「え? あー……どちらかというと私もナクル寄りかなぁ」
「嘘!?」

 同意を求められると思っていたのに裏切られた。今度はすぐにトキナに視線を向けるが、彼女は微笑ましそうにしているだけ。
 誰か味方はいないかと困惑していると、

「ったく、沖長よぉ、そんな簡単に女口説いてっと、いつか修一郎みてえになっちまうぜ?」

 大悟がわけの分からないことを言ってきた。

「おい大悟、それはどういう意味かな?」
「あぁん? てめえ、忘れたのかぁ? 学生ん時、女をヤンデレ化させてトラブル起こしたの」
「は……は? ヤンデレ?」
「そう……そう言えばそうでしたね。あの時は、随分とやきもきさせられましたよ」
「ちょ、ユキナまで!? まったく見覚えないんだけど!?」
「へいへい。色男は気軽で良いねぇ。いいか、沖長。女のことに関してだけは、修一郎を見習うんじゃねえぞ」
「そうだよねぇ。お兄さんってば、呼吸するように女の子口説いてたから。そういえば近所の奥様方にも人気なんだってね」
「トキナまで!?」

 すると直後にブリザードが吹いているかのように車内が凍り付く。その原因は間違いなくユキナだった。彼女は冷徹な笑みを浮かべながら、切れ長の瞳で修一郎を見つめる。

「修一郎さん? まさか……浮気なんてしていませんよね?」
「お父さん……」
「師匠……」

 ナクルと蔦絵も、どこかノリのような感じではあるが、若干引き気味に言葉を漏らした。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺が浮気なんてするわけがないだろうっ! おい大悟とトキナ、お前らのせいで俺のイメージがどんどん悪くなってるんだが!」
「はあ? 学生ん時からてめえがいろんな女に言い寄られてたのは明らかじゃねえか。それにトキナに聞いたけどよぉ、てめえも満更じゃなかったみてえだし」
「おまっ……何てことを言って……はっ!?」

 その時、さらに凶悪になるブリザード。そして静まり返る車内で、ユキナが一言呟くようにその言葉を口にする。

「向こうに着いたら、いろいろ聞かせてもらいますからね?」
「…………はい」

 修一郎は冷や汗で全身を濡らしながら頷くことしかできなかった。
 そんな彼を見て不憫だと思いつつも、こうはなりたくないなと心の底から思ったのだった。


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