俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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 ――【壬生島家】。

 放課後、千疋の来訪により、彼女が世話になっている壬生島家へ向かうことになった沖長、ナクル、水月の三人だが、呼び出した張本人である壬生島このえではなく、何故かその父である王樹と対面していた。しかも何故か沖長だけ。

「……えっとぉ……どうして自分が呼ばれたんでしょうか?」

 座布団の上で正座しながら、目の前でキセルを片手にこちらを値踏みするかのように睨みつけている王樹に恐る恐る尋ねた。子供がいるからか、さすがに煙を燻らせてはいないが、キセルをクルクルと回しながら堂々とした態度で座する姿に、かの戦国武将である前田慶次のような貫禄を感じる。もっとも慶次には会ったことはないので、恐らくとしか言えないが。

「ククク、そう委縮するんじゃねえよ。別に会ったのは初めてでもあるまいし、もっと気楽にしやがれ」
「は、はあ……けど何で自分だけがここに?」
「なぁに、男同士でしかできねえ話があんだろ? 何せおめえさんは千疋の主って話じゃねえか」
「それは……まあ千疋が勝手に言ってることで」
「あぁん?」
「いえ! 主としてふんぞり返らせてもらっています、はい!」
「別にふんぞり返らなくてもいいがな、ククク」

 楽し気に頬を緩める王樹を見て、どうやらからかわれていることに気づき溜息が零れる。

「…………またダンジョンに挑んだんだってな?」
「! ……千疋から?」
「まあな。しかもハードダンジョンだったんだろ?」
「……壬生島さんは」
「王樹でいいぜ」
「……では王樹さん、で。その、王樹さんはどこまでダンジョンのことを?」
「これでも政財界に顔が利く立場にいるんでな。それなりには知ってるぜ。【異界対策局】のことも、それが現総理の意向によって創設されたってこともな」

 原作でも壬生島家は千疋と関わりがあったはず。その繋がりでダンジョンについても熟知していることは疑いようはない。ただ、あまり原作では大っぴらに語られる家ではないので、いわゆるモブのような立場だと思っていた。

 しかしこの世界では、そんな千疋の主が沖長ということ、加えて同じ転生者であるこのえが壬生島家であることから、今後もガッツリ物語に食い込むことは自然の流れだろう。

「もしかして修一郎さんや師しょ……籠屋家についても?」
「直接の面識はねえがな。ただ、ウチの親父が総理と喧嘩仲間でよ。俺もガキん頃に世話になってんだよ」
「なるほど……。ところで王樹さんは千疋についてどこまで知ってるんですか? 彼女が抱えていた呪いに関して知っているようでしたが」
「あぁ……粗方はこのえを通して聞いてるぜ。そういや、おめえさんがあの子の呪いを解いたんだってな。……どうやったんだ?」
「それは……企業秘密ってことで」
「カッハッハ! そう簡単には吐かねえか。まあ、俺としちゃどんな方法だろうが、あの子に笑顔が戻ったんならそれでいい」
「……大事にされてるんですね」
「当然だろ。アイツはもうこのえと同じ俺の娘同然だ。前にも言ったが、泣かせたら許さねえぜ?」
「はは……怖いですね。もっとも泣かせる予定はありませんけど」

 事実、千疋の方が圧倒的に強いだろうし、逆にこっちが泣かされるまである。

「それと壬生島の力のこともご存じ、なんですよね?」

 このえが持つ転生特典。身体のあらゆる場所を糸化することができ、その力を駆使して動くことなく長距離範囲での情報収集を可能とする。

「おうよ。よく縛られてんぜ」

 そういえば前にも一度全身を縛られて折檻されていたことを思い出す。
 ただ気になるのは転生したことは知らない様子だ。それに関しては千疋にもまだ伝えていないようだ。ならここでその話題を出すのは違うだろう。

「そういやこのえと千疋と、おめえさんはどっちなんだ?」
「は? どっち、とは?」
「コイバナだよ、コ・イ・バ・ナ」
「こ、恋バナ……ですか?」
「ほれほれ、どっちが欲しいんだ? やっぱ慕ってくれる千疋か? それともクール美少女のこのえか?」
「あの、いきなり何の話を……?」
「それとももう許嫁でもいるのか? そういや他にも侍らせてる子がいたな。その二人のうちのどっちかともうデキちまってるのか?」
「いえいえ、あの二人とは友達ですよ。それに千疋と壬生島についても同じです」
「何でぇ、つまんねぇヤツだなぁ。俺がおめえさんくれえには、もう恋の一つや二つはしてたぜ?」

 いや、知らないし。おっさんの恋バナなんてどうでもいいし。

「まあこのえたちが欲しいってんなら、まずは俺を乗り越えてもらう必要があるけどよ? なあ?」
「なあ? って言われても……」

 やはり男親らしい思考は有しているらしい。

「しかしまあ……ダンジョンに勇者ねぇ。十三年前と同じ悲劇が繰り返さなければいいがなぁ」
「悲劇? それって……」

 内容を聞こうと思ったその直後に襖が勢いよく開いた。

「――親父殿! このえが痺れを切らしておる! そろそろ我が主を返してほしいのじゃが!」

 ――千疋だった。

「おいおい、もうかよ。せっかく男同士で楽しくやってたのによぉ。なあ、オキナガ?」
「え? あ、はい。ははは……」

 こっちは委縮していただけだったが……。

「ふむ? 一体何の話をしておったんじゃ?」
「なぁに、このえとおめえの将来についてのことだ。どっちを嫁にするかってな」
「それはもちろん儂に決まっておろうがっ! のう、主よ!」

 何故か自信満々に胸を張る千疋。沖長は顔を引きつらせてしまうが、王樹は一瞬呆気に取られつつも愉快気に笑う。

「カーッハッハッハ! これほど好かれてるとはな! だがオキナガ、さっきも言ったように、俺の娘が欲しけりゃ……分かってんな?」
「…………肝に銘じておきます」

 そう言うしかなかったので、とりあえずその場はそれで乗り切ることにした。
 その後は、仕事に戻るといった王樹を見送って、沖長は千疋とともにこのえたちが待つ離れへと向かった。


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