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「うぐっ……!?」
「お、沖長っ!?」
まさか髪を自在に操ってくるとは思わず、沖長は咄嗟に《アイテムボックス》からナイフを取り出し、すぐさま自分を縛る髪を切断した。
「げほっ、げほっ、こ、このっ!」
ガラに向かってナイフを振るうが、相手はバックステップで軽やかにかわす。間一髪で締め落とされる事態を避け、夜風の前に立つことはできた……が、現状ピンチなのは変わらない。
自分一人ならばどうとでもなるが、夜風を守りながらというのが難度を上げている。しかも気になるのは……。
(コイツ、前の奴よりも強くねえか?)
見た目こそ同じでしかないが、明らかにその身に纏うオーラの圧が強い。
(ガラの正体はダンジョンコアの欠片で造られた妖魔だったよな。確か羽竹から聞いたけど、その強さは材料にしたコアの質に比例する……か)
ダンジョンにはランクが存在する。ノーマル・ハードと上位になるほど攻略難易度が増す。つまりコアもまたそれに見合う〝質〟があるのだ。
(前回会った奴は多分ノーマルダンジョンのコアだな。そんでコイツは多分――)
目の前からガラが消失したと思ったら、一瞬で沖長の頭上へと迫ってきていた。そしてそのまま踵落としを繰り出してくる。
(――ハード以上か!?)
沖長はオーラを両腕に集中させると同時に頭上でクロスさせ防御態勢を整える。ガラの右足が両腕に触れた瞬間に、凄まじい重みが襲い掛かってきた。
(ぐっ……重っ!?)
足場に亀裂が走り地面が凹むほどの衝撃である。しかしガラの攻撃はそれだけでは終わらない。そのままの体勢で、今度は髪を伸ばしてきた。
沖長は向かってきた髪に注視し、そして――〝回収〟を試みた。
伸びてきた髪が、半ばほどから切断されたように消失し、その現象を怪訝に思ったのか、ガラが身を翻しながら沖長から距離を取った。そして不思議そうに自身の髪を見つめながら、再び伸ばし始めている。
(……ふぅ。回収はできるけど、どうもあっちは伸ばし放題ってわけね)
目を凝らして確認すれば、開いての妖魔力が髪に集束していることが分かる。妖魔力で髪を伸縮させていることは明らか。つまり相手の妖魔力が尽きればあの能力も使えないということだが……。
(ちょっと現実的じゃねえ……か)
ガラは力を使い過ぎれば自滅する。しかし見たところ相手はまだまだ余裕そう。ガス欠にさせるにはまだ時間がかかるだろう。夜風がいる以上、できるなら短期で討伐してしまいたい。
ただ、相手の髪による攻撃に対しては、もう怖くないことが分かったのは大きな利だった。
それでもガラの体術は厄介だ。下手をすればナクル並みに鋭い。
「……ここは温存とか言ってる場合じゃねえか」
沖長は、素早く『呪花輪』を外して全力を出せるようにする。身体が軽くなり、全身に力が漲るのを感じた。
(俺ってば、『呪花輪』を外す機会が多過ぎねえか?)
こういう封印というものは、漫画やアニメでは切り札として使用される。特にそれらは逆転劇を生み出すきっかけとなるのだが、最近では何度も繰り返しているのだ。これが物語ならば、あまりにお粗末な構成であろう。
しかし言い訳をさせてもらえるなら、次々と襲い掛かるトラブルが悪い。しかもどれもがメイン級のトラブルであり、封印したままで乗り越えられるようなものではなかった。
沖長だって、でき得るなら物語の主人公のように、いざって時にだけ封印を解いて逆転劇を披露したいとか思ったりする。
(でもま、ここは俺にとって現実でしかないしな)
ご都合主義なんてものは現実には存在しない。故にその都度、最善を尽くすしか方法はないのである。
「お、沖長? だ、大丈夫?」
背中越しに、心配そうな声音が聞こえてくる。
「……夜風さんは絶対にそこから動かないでくださいね」
「で、でも……」
「お願いします」
「っ……う、うん」
悪いが夜風に下手に動かれる方が問題だ。ここは解決するまで大人しくしてもらうしかない。
若干警戒態勢を見せていたガラだが、髪に異常がないと判断したようで、またこちらに意識を向けて距離を詰めてきた。しかし今度はこちらから動く。
手に持っていたナイフを投げつけると、ガラは器用に髪で払い落とす……が、沖長は《ボックス》から大量の千本を出して、息も吐かせないように投擲を繰り出した。
正確に急所へと向けられた千本に対し、ガラは足を止めて防御に集中する。向かってく大量の千本に対して、一本もその身に通しはないというように髪で迎撃していく。
ただ沖長は、そこに隙を見た。ガラは千本を弾き飛ばす際に、その千本に視線を向けているのだ。正確にいえば意識か。つまり少なからず、ガラの意識から沖長の存在が薄れていた。
沖長はさらに千本を増やして投擲し、ガラの意識を自分から遠ざける。その計画は功を奏し、相手の視線がいよいよもって沖長から外れた瞬間を捉えることができた。
その一瞬の隙を見て、沖長は電光石火の動きで相手の背後へと回ることに成功する。ただ相手も強者。すぐさま沖長の存在に気づいたが、一歩だけ沖長の方が速かった。
オーラを纏った回し蹴りが、背後からガラの脇腹へと突き刺さる。防御が間に合わなかったガラは、顔をしかめたまま弾かれるように飛んでいく。
(うしっ、手応えあり!)
しかしそれで終わるようなタマではないと判断し、すぐさま追撃を開始。吹き飛びながら地面を転がるも、すぐさま起き上がったガラに迫り、今度は顔面に拳を放つ。
見た目が女の子なだけに抵抗は若干あるが、今はそんな些末な感情に身を委ねている場合ではない。全力で右拳を突き出し大ダメージを与えようとする……が、すんでのところで髪を操作して沖長の拳をガラが払ってきた。
舌打ちをした沖長だが、それでも手を緩めることはしないで連撃を放っていく。ガラが後ずさりしながらも、見事な髪捌きで防御を見せる。
そんな攻防を傍目から見ていた夜風は完全に呆気に取られていた。
「お、沖長っ!?」
まさか髪を自在に操ってくるとは思わず、沖長は咄嗟に《アイテムボックス》からナイフを取り出し、すぐさま自分を縛る髪を切断した。
「げほっ、げほっ、こ、このっ!」
ガラに向かってナイフを振るうが、相手はバックステップで軽やかにかわす。間一髪で締め落とされる事態を避け、夜風の前に立つことはできた……が、現状ピンチなのは変わらない。
自分一人ならばどうとでもなるが、夜風を守りながらというのが難度を上げている。しかも気になるのは……。
(コイツ、前の奴よりも強くねえか?)
見た目こそ同じでしかないが、明らかにその身に纏うオーラの圧が強い。
(ガラの正体はダンジョンコアの欠片で造られた妖魔だったよな。確か羽竹から聞いたけど、その強さは材料にしたコアの質に比例する……か)
ダンジョンにはランクが存在する。ノーマル・ハードと上位になるほど攻略難易度が増す。つまりコアもまたそれに見合う〝質〟があるのだ。
(前回会った奴は多分ノーマルダンジョンのコアだな。そんでコイツは多分――)
目の前からガラが消失したと思ったら、一瞬で沖長の頭上へと迫ってきていた。そしてそのまま踵落としを繰り出してくる。
(――ハード以上か!?)
沖長はオーラを両腕に集中させると同時に頭上でクロスさせ防御態勢を整える。ガラの右足が両腕に触れた瞬間に、凄まじい重みが襲い掛かってきた。
(ぐっ……重っ!?)
足場に亀裂が走り地面が凹むほどの衝撃である。しかしガラの攻撃はそれだけでは終わらない。そのままの体勢で、今度は髪を伸ばしてきた。
沖長は向かってきた髪に注視し、そして――〝回収〟を試みた。
伸びてきた髪が、半ばほどから切断されたように消失し、その現象を怪訝に思ったのか、ガラが身を翻しながら沖長から距離を取った。そして不思議そうに自身の髪を見つめながら、再び伸ばし始めている。
(……ふぅ。回収はできるけど、どうもあっちは伸ばし放題ってわけね)
目を凝らして確認すれば、開いての妖魔力が髪に集束していることが分かる。妖魔力で髪を伸縮させていることは明らか。つまり相手の妖魔力が尽きればあの能力も使えないということだが……。
(ちょっと現実的じゃねえ……か)
ガラは力を使い過ぎれば自滅する。しかし見たところ相手はまだまだ余裕そう。ガス欠にさせるにはまだ時間がかかるだろう。夜風がいる以上、できるなら短期で討伐してしまいたい。
ただ、相手の髪による攻撃に対しては、もう怖くないことが分かったのは大きな利だった。
それでもガラの体術は厄介だ。下手をすればナクル並みに鋭い。
「……ここは温存とか言ってる場合じゃねえか」
沖長は、素早く『呪花輪』を外して全力を出せるようにする。身体が軽くなり、全身に力が漲るのを感じた。
(俺ってば、『呪花輪』を外す機会が多過ぎねえか?)
こういう封印というものは、漫画やアニメでは切り札として使用される。特にそれらは逆転劇を生み出すきっかけとなるのだが、最近では何度も繰り返しているのだ。これが物語ならば、あまりにお粗末な構成であろう。
しかし言い訳をさせてもらえるなら、次々と襲い掛かるトラブルが悪い。しかもどれもがメイン級のトラブルであり、封印したままで乗り越えられるようなものではなかった。
沖長だって、でき得るなら物語の主人公のように、いざって時にだけ封印を解いて逆転劇を披露したいとか思ったりする。
(でもま、ここは俺にとって現実でしかないしな)
ご都合主義なんてものは現実には存在しない。故にその都度、最善を尽くすしか方法はないのである。
「お、沖長? だ、大丈夫?」
背中越しに、心配そうな声音が聞こえてくる。
「……夜風さんは絶対にそこから動かないでくださいね」
「で、でも……」
「お願いします」
「っ……う、うん」
悪いが夜風に下手に動かれる方が問題だ。ここは解決するまで大人しくしてもらうしかない。
若干警戒態勢を見せていたガラだが、髪に異常がないと判断したようで、またこちらに意識を向けて距離を詰めてきた。しかし今度はこちらから動く。
手に持っていたナイフを投げつけると、ガラは器用に髪で払い落とす……が、沖長は《ボックス》から大量の千本を出して、息も吐かせないように投擲を繰り出した。
正確に急所へと向けられた千本に対し、ガラは足を止めて防御に集中する。向かってく大量の千本に対して、一本もその身に通しはないというように髪で迎撃していく。
ただ沖長は、そこに隙を見た。ガラは千本を弾き飛ばす際に、その千本に視線を向けているのだ。正確にいえば意識か。つまり少なからず、ガラの意識から沖長の存在が薄れていた。
沖長はさらに千本を増やして投擲し、ガラの意識を自分から遠ざける。その計画は功を奏し、相手の視線がいよいよもって沖長から外れた瞬間を捉えることができた。
その一瞬の隙を見て、沖長は電光石火の動きで相手の背後へと回ることに成功する。ただ相手も強者。すぐさま沖長の存在に気づいたが、一歩だけ沖長の方が速かった。
オーラを纏った回し蹴りが、背後からガラの脇腹へと突き刺さる。防御が間に合わなかったガラは、顔をしかめたまま弾かれるように飛んでいく。
(うしっ、手応えあり!)
しかしそれで終わるようなタマではないと判断し、すぐさま追撃を開始。吹き飛びながら地面を転がるも、すぐさま起き上がったガラに迫り、今度は顔面に拳を放つ。
見た目が女の子なだけに抵抗は若干あるが、今はそんな些末な感情に身を委ねている場合ではない。全力で右拳を突き出し大ダメージを与えようとする……が、すんでのところで髪を操作して沖長の拳をガラが払ってきた。
舌打ちをした沖長だが、それでも手を緩めることはしないで連撃を放っていく。ガラが後ずさりしながらも、見事な髪捌きで防御を見せる。
そんな攻防を傍目から見ていた夜風は完全に呆気に取られていた。
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