除霊と妖狐

陽真

文字の大きさ
6 / 8

謎の人物の正体

しおりを挟む
「お、落ち着いてください、弟君。私はあなたを害する気はありません」
「落ち着いてって言われても、俺にとっては不審者と変わらないんだけど。あやかし?それとも霊?」
依然、臨戦体制を崩さない俺への対応に困っているのか無言の空気感が俺たちの間を流れていく。

桜夏おうかどうかした?」
「に、兄さん。ん?桜夏おうか?」
俺たちの無言の空気感を壊したのは二階に上がってきた兄さんだった。
兄さんは男の人の方を見ながら不思議そうに聞いた。
「あ、怜。遅かったから心配したよ」
兄さんは俺が発した言葉で俺に気付いたのか緊張感のない声で言った。
「申し訳ありません、我が主。主から仰せつかった任、果たせず、あまつさえこのような醜態を晒してしまうとは」
男の人は兄さんの方を見ながら平身低頭し、謝っていた。

「そういう堅苦しいのは辞めてくれると助かるよ。きみ別に、江戸とか明治とかそういう昔に死んだ存在じゃないんだからさ。僕を敬ってくれるのは嬉しいけど、それだと接しづらいからね。あとすぐに謝るのは無し!」
「承知いたしました。善処します」
俺は全く状況が掴めず、ただその様子を見ておくことしか出来なかった。

「に、兄さん‥‥‥」
絞り出した声で兄さんに呼びかけると、兄さんは俺の方を向き微笑んだ。
何の微笑みだよぉ‥‥‥。
俺の心情を悟ったのか微笑みながら俺の頭を優しく撫で始めた。
「ごめんね。説明忘れてた」
その笑顔意味を知っても俺の中には兄さんに対する呆れが凄かった。
さっきまでの恐怖はどこかへ行き、分からない状況に目を回すしか無かった。

心ここに在らずの俺は兄さんと一緒にゆっくりと一階に降りると、母さんが用意したおやつが机の上に並べてあった。
「あら、やっときたのね。怜」
「ごめん、ちょっと色々あってね」
母さんに一言謝ると、俺と兄さんは席についた。
いまだに桜夏おうかと呼ばれた男の人の説明をしていない。
「優、説明してあげないと怜が桜夏おうかくんのことが気になって仕方ないみたいよ」
俺がチラチラと桜夏おうかさんの方を見ていた事に気づいていたのか母さんが言った。

「そうだね。怜、式神は知ってるよね」
「うん。巴菜はなみたいな人でしょ。式神は善と悪を見分ける能力を持った者で元人間が霊となり、相応しき主に仕える者のこと。だったっけ」
「そう、正解!さっすが怜だね」
兄さんは俺の答えが満足のいくものだったのか頭をよしよしと撫でてくる。
でも、今更なんでそんなことを聞くんだろ。
除霊家に生まれた以上この知識は最低限知っておかなければいけない事の中に入る。
兄さんはその存在を再確認させたかった?
いやでもなんで?
この状況から桜夏おうかさんが関係しているのか?
あ、まさか‥‥‥‥‥。
「兄さん一つ質問」
「うん?どうした」
「もしかしてその人、桜夏おうかさんは兄さんの式神なの?」

俺の中で一つの答えに辿り着き兄さんに確認すると、兄さんは一度離していた手をまた俺の頭に置きもう一度ニコニコしながら撫でてきた。
「兄さん?」
「いや、ごめん。うちの弟は優秀だなと思ってさ」
そう言いながらさらに強く撫でる。
「兄さん流石に痛いかも」
「あ、ごめん。つい」
「で、桜夏おうかさんは本当に式神なの?」
「うん。そうだよ」
俺が聞くと兄さんは少し真面目な顔をして答えてくれた。

「やっぱりそうなんだ。母さんは知ってたの?」
「えぇ、もちろん。知らなかったのは怜と颯ね。ここに連れてきた時は來くんと驚いたわ」
母さんに聞くと、母さんはその時を思い出したのか、クスッと笑って答えてくれた。
「いつから桜夏おうかさんは式神なの?」
「弟君、私のことは桜夏おうかとお呼びください」
「じゃあ桜夏おうかも弟君は辞めて。怜で良いから」
「では、恐れながら怜さまとお呼びさせていただきます」
桜夏おうかは俺の気が狂いそうなほど丁寧に話す。

「全く、さっきの善処します、はどこに行ったんだろね~」
兄さんは桜夏おうかにわざとらしく言う。
「申し訳ありません。なんか抜けなくて」
「抜けないって、癖なの?この喋り方」
俺は桜夏おうかの言い方に何か引っ掛かり、尋ねた。
「いや、最初に桜夏おうかと会って、式神にした時は普通にフランクな喋り方だったんだけどね。うちに連れてきた途端こうなった」
「どういうこと?それと兄さんが桜夏おうかを式神にしたのはいつなの?」
連れてきた途端とは一体何があったのか。
それに、もし桜夏おうかがずっと以前からいたのならばなぜ気付かなかったんだろ?
「式神にしたのは昨日だね。昨日の現場で桜夏おうかを見つけて、除霊しようとしたんだけど、霊にしては珍しくあやかし並みに霊力があったから勿体無いと思って式神にならないか誘ったんだよ。まぁ、でも一番の理由は空気が綺麗だったからかな」
兄さんの言葉にその時のことを思い出しているのか桜夏おうかは軽く目を閉じていた。

〝霊は空気を纏う〟
これは霊と関わりを持つ除霊家、巫女家では常識的に教えられることだ。
そしてその見え方は人によって違がうが、基準として悪霊は漆黒のような禍々しい空気を纏っており、良霊りょうれいは新緑のような新鮮で清々しい空気を纏っているという。
この空気は術を使う者との相性が良ければ良いほど綺麗に感じるそうだ。
だから兄さんと桜夏おうかは相性がいいのだろう。

「それで桜夏おうかがこうなった理由は‥‥‥原因は巴菜はなだね」
「そうね。巴菜はなね」
兄さんの言葉に母さんは同意するように繰り返す。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...