勇者召喚されたのは俺で、魔王召喚されたのも俺?

陽真

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第二章 ライザイの街

ハンズさん

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「何をって‥‥助けに来たんです」
他に敵がいないか探知で索敵しながらギルマスの質問に答える。
「お前、魔力は?」
「大丈夫です!回復済みですから」
「そういう問題じゃないだろ」
明らかに呆れた声がギルマスの口から漏れる。

「諦めろ。ツバキくんの規格外は今に始まったことではないだろう?」
「まぁ、そうだな」
俺の背後から聞き馴染みのある声がすると、ギルマスは諦めたように呟いた。
背後の声の人物が気になり後ろを振り向くと、声は知っているはずなのに顔は全く見知らぬ、男性が立っていた。
「えっと?」
「あぁ、この格好では初めてか」
「え?」
見知らぬ男性は俺の反応に納得したようだが、俺にはこの人が誰なのか全く分からない為、なんとも言えない。
この格好では初めて、と言われても元が誰なのかが分からないから納得のしようがない。
「あぁ~、こいつはルイナスだ」
「え、え、え?」
あまりに悩んでいたように見えたのか、ギルマスが言いにくそうににそう言った。

「ル、ルイナスさん、なんですか?」
「まぁ、一応。この格好の時はハンズと名乗っているけどな」
「じゃあ、ハンズさんの方が良いですか?」
「そうだな。その方が助かる」
「でも、なんで変装?なんかを?それに妙にクオリティ高くないですか?」
「ん~、なんで説明したが良いのか」
ルイナスさん又の名をハンズさんはそう言いながら頭を抱えていた。

「そんなに悩むことでもないだろ」
ギルマスは考え込むハンズさんの肩に手を置き軽くそう言った。
「どう言うことだ?」
「正直に話してしまえばいいだろって話だ」
「そ、それは」
「どうせ話はないといけないことだったんだろ?だったら、今から言うも後から言うも同じだろ?」
ハンズさんはギルマスの問いかけに若干の難色を示していた。
にしてもハンズさんの、いや、この場合はルイナスさんの俺に話さなきゃいけないことってなんだろう。
このハンズさんの格好でも十分に驚いると言うのに。

「実はな、」
「た、大変ですっ!」
ハンズさんが話し始めようとしたその時、鬼気迫った声が俺たちのかなを響き渡った。
その声の主は魔法職なのか剣や盾と言った武器系のものを持ってない青年だった。
「何事だ」
「あ、あなたは‥‥良かった。あのっ!助けて下さいっ!北の隊の冒険者の一人、急に、味方に刃を向けて、それが異常に強くて、それで、ヤバいと思って、僕、なんとかして伝えなきゃって、それで、伝えにきま」
そこまで言うと青年は力尽きたように地面に倒れてしまった。

「魔力の使いすぎだな。ここまで休まずに知らせにきたんだろうな」
ハンズさんは倒れてしまった青年に持ってい魔力治癒薬を少しずつ飲ませながら、ギルマスに向かって言う。
「だろうな。くそっ、」
「そういや、この冒険者の言っていた冒険者っていうのは魔族なんじゃないか」
「あぁ。俺も同じ考えだ、と言いたいところなんだが、急に味方に刃を向けた理由が分からん。が、少々タイミングが気になるな」
ギルマスは悔しそうな顔をして吐き捨てるように言った。
「そうなんだよな。しかし、ここで考えても仕方ないだろ。取り敢えず、北の隊の元へ急ごう」
ハンズさんは埒が開かないと思ったのか、そう口にし、ギルマスと一緒に走り出す体制をとった。
「お、俺も行きます」
「遅れるなよ」
「足手纏いになっても助けてやれないからな」
「はい‥‥っ!」
揶揄なく真剣な表情でそう言う二人に俺の気持ちも引き締まった。

しばらく走っているとふと、ギルマスのさっきの言葉が気になった。
タイミングが気になる‥‥?
ギルマスが言いたいのは恐らく、もし、その冒険者が魔族ならば、ここまで待たずとも魔物との死闘のなか、しれっと冒険者たちを殺めることなど造作もなかったはずだ。
それを魔物が一掃されたタイミングで自身の正体を晒した。
確かに、奇妙だ。
でも、それって本当に自らの意思なのだろうか?
会っていないから分からないが、もしかして操られているだけなのではないか?

「あの、ギルマス、ハンズさん。一つ気になったことがあって」
「なんだ?」
「止まった方が良いのかな?」
「あ、いや、止まらずで大丈夫です」
ハンズさんが俺を気遣って止まろうとするのを止めながら、本題へ入る。
それからギルマスとハンズさんに俺が疑問に思ったことを走りながら話した。
二人は最初こそ、訝しげに聞いていたが話が終わるころにははっとしたような驚いたように俺を見て、立ち止まった。

「な、なんですか?」
「あ、いや、済まない。お前の口からそんな見解が出てくると思わなかったからな」
ギルマスはバツが悪そうに、頭を掻きながらそう答える。
まぁ、確かにギルマスの俺の第一印象って常識を知らない小僧だっただろうから仕方ないよな。
だけど、俺もヒーカさんに教えてもらったからある程度の常識は身につけたし、先輩冒険者からアドバイスもたくさん貰い、冒険者としても成長したはずだ。

「そう思ってしまいますよね。だってギルマスと初めて会った時、俺、常識知らずの小僧だったでしょうから」
「ま、まぁ、そうだな。で、どうする?」
ギルマスは俺の潔さに若干、虚をつかれたように反応すしたが、すぐに次にどういう行動を取るのが最善なのかを考え始めた。
こういう切り替え方、すごく尊敬するな。
「あちらの出方がわからない事には何も。俺たちが持っている情報はあの冒険者が言った、突然に人型の魔物が暴れ始めた、というものだけだ。ここまでくるとそれさえも罠の可能性がないわけでもない」
ハンズさんはギルマスの問いかけにそう答えた。

「えっ、仮にあの冒険者のいうことが罠だったとして、なんのために?」
「考えられる可能性としては、俺たちをあの場から誘導するためとかだな」
俺がハンズさんとギルマスに質問すると、ギルマスが少し考えた後、そう言った。
「しかし、魔族側が俺たちのことを脅威だと思うのか?」
「俺たちじゃなくて、〝勇者〟になり得る人物だったら」
「お前それ‥‥」
ギルマスは真剣な表情でハンズさんを見て言う。
それに対してハンズさんは何か言いたそうにギルマスの方を向いた。

二人にはお互いが何を話したいのか分かっているようだが、俺には全くと言って良いほど二人の会話が理解できない。
そもそも勇者は俺がで、別に生まれたとも、召喚されたとも話を聞いたことがない。
「あの、それってどういう意味ですか?」
「あ、いや、その、気にしないでくれ」
二人の会話の真意が知りたくて、質問するが、答えてはくれなかった。
そこまで秘密にしたいのなら無理に詮索はしないけど、仲間はずれのようで少し寂しかった。

「ま、それはお前の推論だろ?」
微妙な空気感になってしまったのを打破するように、ハンズさんがそう言った。
「あぁ。確実なことは何も言えないのが現状だからな」
「だとしたら、それ相応の警戒をとりながら急ぐべきだ。もし罠じゃないとしたら、ここでちんたらやっているの得策じゃない」
「‥‥そうだな。急ごう」
ギルマスのその言葉で歩を緩めていた俺たちは再び走り始めた。


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