能天気男子の受難

いとみ

文字の大きさ
21 / 73

18

しおりを挟む
入学式から数日が立ち、寮生活にも学園にも慣れて来て、皆は緊張感も薄くなってきた頃だと思うが、俺はまだ警戒心がとれずビクビクして過ごしていた。
何故なら…

「きゃあぁぁ!」
俺が廊下を歩いていれば、不意にリビアンが激突して来てアクションを起こそうとしてくる。
俺が鈍いからか、リビアンが巧みなのか解らないが、毎回押し倒されるという展開だ。
背中に乗られる格好になるので、辛い。

いつもテオルドかマクビルに助けてもらうが、たまにグレース王子が助けてくれた事もあった。

今日も見事に俺の背中に乗って悲鳴を挙げている。
俺は潰されたカエルのように、グエッとしか声が出ないんだけど。

いつもの事なので、皆も慣れて来て可哀想な目で見てくる。
俺…トイレ行きたかったんだけど………どうしよう…漏れそう……。

「きゃあぁぁあ!」
誰を呼んでいるのか、更に耳障りな大きな声で叫ぶ。

とマクビルが来て、何も言わずリビアンを退けて俺を起こしてくれた。助かったけど、乗られていたお陰で腰が痛い。

「マクビル様ー!お礼に、今日のお昼一緒に食べましょ!」

希望していた人物が来たからか、マクビルの腕に胸を擦り付けるようにし、腕を絡めていた。

悪いが俺はトイレに行きたい。
「マクビル、ありがとう。俺、おしっこ漏れるから後で。」


リビアンはマクビルやグレース王子が来ると、猫なで声ですり寄ってお礼という名の押し売りをするが、テオルドが来ると、可愛い顔が台無しの鬼の形相で罵ってくる。
その変わりようが、はっきり言って怖い。
俺の事は、マクビルとグレース王子を呼ぶ為の餌らしい。勘弁してくれ。

用を足し、教室に戻るとテオルドとマクビルが項垂れていた。

「マクビル、さっきはありがとう。それに…二人ともどうした?」
マクビルは解るが、テオルドも疲れてるのはどうしたんだろう?

「マクビルがリビアンに捕まってて、何をしても腕から離れなかったから、俺が助けに行ったんだけど…。」
はぁ、とテオルドはため息をついてる。

「マクビルと相思相愛だから邪魔するな、とか…。あんたは後で相手してあげるから待ってろ、とか何とか…。意味が解らないし、言葉も通じないしで…疲れた。」

「…お疲れ……。」
俺が捕まらなければこんな事になってないんだな…と思うと申し訳なくなってくる。

それにしても、リビアンも転生者なんだとしか思えない言動だ。
不可解な行動ばっかりして、ゲームのリビアンと違ってると今になって解る。
ゲームでの本当のリビアンは、夢見がちだけど消極的でおっちょこちょいで、ぶりっ子…そんな子だ。
だが、現存の彼女は積極的で自己中心的、ここはゲームだと思い込んでいるみたいだ。

ゲームと似ているが、皆の性格は違うし、この世界で俺達は生きている。
死んだからといってまた最初からゲームを出来る訳じゃない。
俺も転生者だって事がバレたら、何をされるか解らない。
俺は無用らしいから、関わりたくない。俺の腰の為にも。

関わりたくないと思っていても、光属性はフレス先生に魔法を教えてもらう為、一緒に教室で学んでいた。

「魔法を使う為には、魔力が必要になる。人それぞれ魔力量も違って、魔法を使う種類が限られてくる。まず、魔力量を計り、量が少なければ増やさなければならない。その為には、たくさん魔法を使う事が一番だ。」

「洗浄、浄化、など一般的な物だとしても、光属性を持っている者だと効果は絶大だ。」

基本的な事から、光属性の魔法の使い方などを学んでいく。
俺は、少しでも魔法が使えるように、忘れる前にノートに書いていく。

隣は、明らかにフレス先生の講義を聞いていないみたいで寝ている。
「リビアン、聞いていますか?」

「………くぅ……くぅ………。」

フレス先生が呼び掛けても返事は無い。少し寝息みたいなものも聞こえて来ている。寝るほど退屈だったのかな。

フレス先生は、リビアンの事は諦めているようで寝ていようが、話を聞いていなかろうが、構わず講義を続けた。
フレス先生の講義は解りやすい。優しそうな人柄もあり、俺は楽しんでいた。



だが次の日、あまりにもリビアンが講義中に寝ている為、フレス先生ではなく、長髪のイケメンのネフィルさんが代わりに来た。
ネフィル先生は黒く長い髪を結いもせず、下ろしているので色気が溢れている。
その色気に、頬を染めているのはリビアンだ。

ネフィル先生の講義は、難しくて付いていくのがやっとだ。
隣のリビアンというと…目を輝かせてネフィル先生を見つめている。話を聞いているのかは解らないが…。

「ネフィル先生、私、解らない事があるんですー。」
リビアンは目を潤ませ、上目遣いでネフィル先生を見ていた。
可愛い…けど、下心が透けて見える。
何だか、女性不信に陥りそう。

「どこが解りませんか?」
ネフィル先生は笑顔で接している。可愛い子に頼られたらニヤけるのは男の性だな。しょうがない。

「私の魔力量を計って貰えませんか?やり方が解らなくってぇ。」
リビアンは甘えたような猫なで声で言う。

魔力量を計る為には、他人と手の平を合わせて調べて貰うしかない。
リビアンは、それをしたいらしく手を出して待っている。
だが、ネフィル先生はリビアンの体に触れる事無く、かざしただけで解るらしい。

「フレス様が計った時と同じ量なので、大丈夫ですよ。」
リビアンを笑顔のままで突き放す。凄い…。そんな事が出来るのはネフィル先生だけじゃないのか。
リビアンも期待していた分、落胆も大きかったらしく、笑顔が引き吊っていた。

その後もネフィル先生は、何事も無かったかのように講義を続けていた。
だがリビアンは諦めず、ネフィル先生にアピールをしては玉砕していた。  
   


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...