能天気男子の受難

いとみ

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俺の身体がおかしかったのは、媚薬のせいだとマクビルに言われた。
確かに、身体が熱くなり頭がぼーっとして、理性を失わせ、酒を飲んだ時のような…さらに性欲が強くなる感覚がずっと続くようだった。
だが、そんなものを食べたり、飲んだりした覚えがない。

「誰かに、盛られたな。」

マクビルに言われたが、心当たりがない。
どうして、『俺』、なんだ?俺に飲ませても、エロくてムラムラするどころか、汚くて醜いものを見せていた事だろうに。
もしかして…それが目的か?面白おかしく、飲ませてみようと………悪質ないじめ?
そう考えると、怖くてゾッとする。

「大丈夫だ。俺が守る。」

怖くて、無意識に腕を抱えていた俺を、マクビルに優しく抱き締められた。

その後、薬のせいで長時間の激しい運動の為、疲れがでて食事もマクビルの部屋でとった。
お腹が膨れると、すぐに眠気が襲いマクビルのベッドを占領した。


マクビルは、ルシオンが眠った後、侍従に使いを頼んだ。たぶん、心配しているだろうセレスに、ルシオンの無事を知らせる為に。

コンコン「マクビル、良いか?」
「どうぞ。」

思っていた通り、セレスはマクビルの部屋に来た。
セレスの顔は、いつもの爽やかな笑顔がなく、どことなく疲れているようにも思えた。セレスはルシオンの顔を見るまでは安心出来ないようだった。

「ルシオンはどこに?」
「今は眠ってます。」

マクビルほ寝室のドアを開けた。ルシオンの赤い跡を見られる事も想定していた。

「これは……何かの病気か?治るのか?」

「………セレス様、お話しします。」

2人はルシオンを起こすまいと、リビングに移動する。
ソファに座り、マクビルは今までの状況を、簡単に説明した。もちろん、あの赤い跡がキスマークだという事も…。

「俺を、殴って下さい。覚悟は出来てます。」

セレスは騎士ではないが、それなりに強いはずだ。そのセレスに殴られて無事ではすまないだろう。マクビルは覚悟の上で、ルシオンに会わせたのだ。

「いや………それはまた今度にしよう。その状況では、俺も同じ事をしてたかもしれない。」

怒りはあるが、セレスもルシオンの身体中に、見境なく跡を付けていただろう。もしくは、抱き潰していたかもしれない。

「それより…誰が……。これでは学園内にいても、毒殺が出来るという事になってしまう。」
「はい。エルーシ殿下や、グレース王子にも危険が及ぶ可能性があると言う事になります。犯人は捕まえますが…。」

セレスとマクビルは同時に重い溜め息をつく。
今まで、こんな事がなかったのは、貴族同士それなりに敬意を払っていたからだ。しかも大事になれば、国を揺るがしかねない。
大抵の厄介事は女絡みが多い。今回も異分子の女が絡んでいるだろうと2人は思っていた。

「この事は、エルーシ殿下にも報告する。今後の警備体制も変わるかもしれないから、その時は風紀副委員長、よろしく頼む。」
「はい。解りました。」


セレスは少しの沈黙の後、真剣な顔で言った。
「…やっぱり殴らせてくれ。」

「それは、今度にしましょう。」
マクビルはニヤリと笑った。



◆◆◆


あれからルシオンは、何かと世話を焼きたがるマクビルの部屋に、まだいた。身体はどこも悪くないし、身体中の赤い跡も薄くなったのに、学園は休んでいた。
マクビルは、風紀委員の関係とかで部屋にいない時間も多かったが、朝昼晩と必ずルシオンに食事を運んでいた。

「なぁ、俺いつまで休んでなきゃならないんだ?」
ルシオンは退屈すぎて、早く学園に行きたかった。

「まだだ。まだ、犯人が捕まっていない。」

あの日、ルシオンのコーヒーに媚薬を入れた侍従は捕まえた。妹を拐われ脅されて加担しただけだった。その後、その侍従の妹は無事に戻ってきたし、彼は罪悪感でここを辞めて行った。

この計画をたてて、侍従の妹を拐い実行させた奴は捕まっていない。
目ぼしい奴は何人かいるのだが、証拠が何も無く、また狙われる可能性があった。
マクビルは決して、ルシオンを束縛したい訳じゃない。いや、今の状況が凄く楽しいのは自覚しているが。

「もう少しだ。」
何度目かのセリフで話を切り上げる。
ルシオンは納得していないようだが、マクビルは、守ると誓ったのに危険にさらしてしまった現状が、悔しかった。もし、あれが媚薬ではなく毒だったら、と思うと怖かった。
ルシオンには、まだここにいてもらうしかない、そう、マクビルは思っていた。




だが、ルシオンはそんなマクビルの気持ちに気付かず、次の日にはこっそり学園に行ってた。
『行ってしまえばこっちのもんだ。』
そんな呑気な事を考えながら、1人学園まで歩く。
朝、マクビルが朝食を運んでくれて、学園に行った後で自分も制服に着替え、寮に誰もいなくなってから出た。

ずっと部屋に閉じ込められたままでは、ルシオンは窮屈でおかしくなりそうだった。
外の空気を思いっきり吸うと、気分も晴れやかだった。
太陽の明るさにも、少し浮かれていたかもしれない。
それが間違いだった。


誰もいない学園の門をくぐり中に入ると、後ろから腕を押さえ付けられ、鼻と口に布を当てられた。薬草のツーンとした匂いを嗅がされると、すぐに意識が遠退いてしまった。



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