あなたには私を愛して頂きます

つぶあん

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8:魔女様の涙

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少し城内を探し回ったものの、レオン殿下は最終的に魔女様の部屋という場所に向かった。

「!」

ここが魔女様のお部屋?
少しだけ薄暗いけれど、いい匂い。

それに多くの書物や、よくわからない研究台みたいなものや、何故か知らないけれど光って浮いている球体などが激しく新鮮だわ。
こりゃ、三百年以上生きていても、不思議じゃない。

「……」

ごくり、と。
固唾を飲まずにはいられないというものよ。

そして部屋の中央にぺたりと坐り込む女性。
金髪の美女、この国の最高魔術師でもあるエレノアが、ひょいひょいと指を動かしている。不思議な力で物を動かし、何やら荷造りをしているらしかった。
そういえば、追放を命じたとか言ってたっけ。

「……レオン」

魔女様は大粒の涙を流しながら、レオン殿下を呼ぶ。
間髪入れずにレオン殿下が私の体で土下座した。

「ごめん!」

私にしては野太い声で、思いの真剣さが伝わってくる。
あと、結った髪が、すっごく乱れちゃう……

「エレノア、僕はお前に酷いことを言ってしまった。今日までの感謝も忘れて、お前を酷く侮辱してしまった。すまなかった。傷つけた。本当に申し訳ない!」
「レオン……」

ぐずり、と。
金髪の美女が更に泣いて、不思議な力でふよふよと宙を浮かせて運んでいた本がどさりと落ちる。

遅ればせながら私も跪いた。
一応は、皺くちゃ婆の暴言を吐いた体をお借りしている身であるわけで……

しかし男って、地面が遠いわね。

「私こそ、ごめんなさい」

魔女様が弱々しく謝る。

「赤ちゃんの頃から、レオンが可愛くて可愛くて……すっかり自分のもののような気がしていたの。勘違いだったわ。あなたの一生が欲しかった。でも、欲張り過ぎたのよ」
「エレノア……」
「追放されて当然。私、この王国を守ると、初代国王に約束したんだもの。それを破ろうとした。馬鹿だったわ」
「やめてくれ。お前の愛は……少し重すぎた。それに僕は応えられない。僕の責任でもある……というか、半分くらいは、僕の責任だ」
「優しいのね、レオン」

泣きながら微笑む絶世の美女エレノア。
本当に、魔法なんかかけずに、普通にアプローチしておけばよかったのに。

でも、こんな美女に言い寄られても尚レオン殿下のハートを射止め続けている女って、いったい何処の誰なのかしら。
ぜひ、その顔を拝んでみたいものだわ。

「あなたの恋が実を結ぶよう、大人しく祈るわ。魔法より、人を想う心のほうが強い。そして正しいのだもの」

ポロポロと涙を零しながら笑う魔女様は本当に美しかった。
私の顔でレオン殿下も涙ぐんで言った。

「ありがとう。僕のことは嫌いになってくれて構わない。憎んでくれて構わない。でもどうか……」
「ええ、わかっているわ」

ひゅっひゅっ。
魔女様の指が私とレオン殿下を交互に指差す。

と、次の瞬間。

「!」
「きゃっ」

入れ替わっていた二人の体が元に戻った。

「……」

おおおおお。
やっぱり、自分の体の方がしっくりくる。

これは、別人の体に入るという経験がなければ味わえない感覚だ。
ちょっと得した気分。

「ありがとう、エレノア」

レオン殿下の美声が真横から聞こえてきて、思わず凝視した。

「……カッコよ……」

間近で拝見する王子様の横顔は、それはもう、この世のものとは思えないほどに美形で、光り輝いて見えた。

「もし許して貰えるのなら、これからも家族でいて欲しい」
「こちらこそ、ありがとう、レオン。まだ私を家族と呼んでくれるのね」

高貴な美男美女による涙の和解を眺めていられる幸福。

「もし許していただけるなら、これからも、私に国を守らせてください。お願いします」

魔女で美女のエレノア様がしおらしく頭を下げる。
レオン殿下が慌てて這いずっていき、その肩を掴んだ。

「頭を上げてくれ。お前がそう言ってくれるなら、僕は、今度こそ、感謝と敬意を忘れないと誓う」
「レオン……」
「最高魔術師エレノア・ヴァンドルフ、を讃えます」

レオン殿下が王族として気品あふれる賛辞を向ける。
魔女エレノア様も、ちょっと感動したように目を見開いた。

それから笑顔になった。
この世の物とは思えない、美しく、可憐で、光り輝く笑顔はまだ涙に濡れていた。

世界一、美しい涙に。
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