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貴方は知る由もない
しおりを挟む五月に入り、すくにやってくるゴールデンウィーク。
たくさんの人が帰省したり、旅行に行ったりと楽しい長期休日。
今日は、快晴で遊ぶには最高の日。
そんな中、私は学校に来ていた。
来ているのは、私だけではなく三年生全員。
今いる場所は学校にある大きな駐車場。
なぜこんな時に学校に来ているのか。
今日から学校の大きなイベントがあるからだ。
二泊三日の高校最初で最後の修学旅行。
三日間で京都、大阪、広島の三つを訪れる予定だ。
今は、集合五分前。
殆どの生徒が今か今かと、待機している。
『お前らはどこ行く?』
『鹿苑寺~』
『そんなとこ行ってどうすんだよ』
『何となく』
『そんなところよりさ、もっと楽しいとこ行こうぜ!京都はアニメの聖地だしさ』
『いいね~!』
そんな楽しみにしている男子達の話し声がちらっと聞こえた。
この修学旅行。
四月ごろから、旅行の計画は立てていた。
班というものはなく、基本的には自由行動。
私は、バスケ部の人達と一緒に行くことにした。
その計画を立てていた時、菅原君がたまたま学校にいたので、席の方へ行ってこう言っておいた。
席の方に行くと、彼は相変わらず本を読んでいた。
「せめて修学旅行は来た方がいいよ。きっといい思い出になるから」
そう言うと菅原君は照れくさそうにそっぽを向いて、
「気が向いたらな」
と返してくれた。
私は菅原君がきっと来てくれると信じていた。
時間は経って、集合時間一分前。
校門の方に一人の男子が立っているのが見えた。
そしてその彼は、時間があまりないにも関わらず、ゆっくりとこちらに歩いてきた。
―――――――――――――――――――――――――――
陽太が学校に着くと、駐車場には大きなバスが三台とまっていた。
本当は行くつもりはなかったが、前に聖菜に言われたことを思い出して、行かないわけにもいかなくなった。
だが、陽太は思っていた。
『思い出』にはなるかもしれないけど、それは決して良いものではないだろう、と。
陽太が三組のバスの方に行くと、近くにいた聖菜に話しかけられた。
「おはよ。来てくれたんだね」
「別に君のためじゃないから」
淡々と話して、陽太はバスに乗り込んだ。
急いで淡々と話してバスに乗り込んだのは、言い方を変えれば逃げたと言ってもいい。
どこか言うのが照れくさかったから。
バスの席は自由。
陽太の隣には誰も座っていなかった。
それは陽太が他人を避けたのではなく、クラスメイトが陽太を避けたからだ。
当然といえば当然だろう。
隣に座っても楽しくないと思ったのだろうから。
だからそのことに関しては、特に気にしなかった。
全員集合したところで、バスは動き始めた。
移動中、全て本を読もうと思っていた陽太だが、生憎バスには少々弱い。
そのため、本を読むのは諦めて外の景色を楽しむことにした。
京都周辺になり、ようやく退屈な緑の景色から解放された。
学校にいた時の天気は、あまり良くなく少し心配だったのだが、こちらは快晴。
修学旅行日和と言ったところだろうか。
都会ならではの景色に皆胸が高鳴り、バスに乗っている誰しもが窓の外を見て興奮していた。
一方の陽太は、多少憂鬱であった。
本当は家でゆっくりしていたかったのに、なぜこんなところに来なければいけないのか……、と陽太は後悔していた。
「なんで来たんだろう……」
バスが到着し、先生の合図で解散となった。
生徒達は、それぞれ四方八方に歩き始める。
時刻は正午。
朝ご飯から約五時間経って、陽太の腹は空腹状態だった。
そのため陽太は、昼ご飯を食べるために近くの飲食店を探し始めた。
古くの景色を生かしたこの辺りは、電柱などを地面に埋め込んだり、コンビニも古くの外観に近づけられていた。
その甲斐があってか、京都の街からはどこか古い感じが感じられた。
外国人観光客もチラホラと見られ、ここが世界的に人気なことがよく分かる。
陽太はこの地、京都に何度か訪れていた。
昔、家族と一緒に旅行しに来た。
その時の記憶は殆どないが、楽しかったのは間違いない。
そう。ここに来たのはあの日の少し前だった。
陽太が適当に歩いていると、丁度美味しそうなラーメン屋があった。
古びた外観が、いい味を出した店だ。
陽太は、店に入り一番近くのカウンター席に座った。
店員さんの威勢のいい挨拶が聞こえてくる。
床は脂でギトギト。
こってり系の店ならではの特徴だ。
陽太はラーメンがとても好きだ。
特にこってりとしたラーメン。
背脂が浮かんだドロドロとしたスープに、細い麺が絡まって最高のコンビネーションを生み出す。
そんな豚骨系を求めて、この店にした。
メニュー表を開くと、オススメに濃厚豚骨ラーメンの文字があった。
陽太は、すぐさまラーメンを一つ注文した。
周りを見渡すと、かなり客がいた。
結構、人気の店のようだ。
陽太は、暇潰しにと携帯を取り出した。
普段なら小説を出すところなのだが、もし脂がついたら大変なことになるため、しまっておくことにした。
携帯のメールを開く。
友達などおらず、メールを開くことは滅多にないのだが、ごく稀に親からメールが来る可能性があったので開くことにした。
因みにメールアドレスを交換しているのは、両親のみ……。
……のはずだったのだが……。
「メールアドレス交換しない?」
「なんで?」
「菅原君、どこにいるか分からないから。どこにいるか分からないと、お願いしに行けないじゃん」
「来なくて、いいから……。何度も断ってるでしょ」
「諦められないの……」
「……、はぁ~。分かった」
「え?本当に?」
「一応言っておくが、本当に用がない時以外は送ってくるなよ?いいな?」
「うん!」
つい最近、学校にいた時に聖菜に交換をせがまれていた。
陽太は仕方なく、受諾した。
最初はうるさくメール送ってくるだろうと心配していたが、そんなことはなく一度も送っては来なかった。
そう、今の今までは……。
『迷子になっちゃった』
陽太は、その文を見て肩を落とした。
まだバスから降りて、三十分経っていない。
それに聖菜は、バスケ部の人達と一緒に行動すると言っていた。
とりあえず陽太は、面倒なことは嫌だったのでその文を無視した。
そして、携帯を閉じラーメンを待った。
暫くして、ラーメンが来た。
背脂がたっぷり浮いたスープに、三枚のチャーシュー。
そして、抜群の半熟具合の煮卵。
陽太は最初に、レンゲでスープを啜った。
「旨い」
その言葉に尽きた。
濃厚な旨みの中に、魚介のあっさりとした旨みが入り込み最高だった。
続いて割り箸を丁寧に割って、麺をすする。
麺にまとわりつく、スープが最高だ。
途中で、チャーシューを挟んだり、スープに浸した海苔を食べたり……。
色々な味の変化をゆっくりと堪能した。
半分ほど食べ終えたところで、頭にふとよぎった。
『迷子になっちゃった』
最初は、無視しようと思った。
でも何故か、完全には無視出来なかった。
心配なのか、不安なのか……。
そんな気持ち、芽生えるはずがなかった。
何故なら聖菜は、陽太にとってそんなに大切な人だとは思っていなかったから。
それに、聖菜のような完璧女子高生が迷子一つで困ったりしないだろう。
そう思っていたから、特に気にはしなかった。
でも、次第にラーメンの湯気のように心にモヤがかかる。
この麺のように、自分の気持ちにストレートになればいいものを陽太はなれずにいた……。
その後も食べ続けたが、それがどうしても気になってか、次第に味わえなくなってきていた。
「はぁ~……」
陽太は、大きな溜息をつく。
そして、何かを決心したように思考を切り替えた。
再び携帯を開き、素早くメールを送る。
すぐに返信が来たのを見て、再び携帯を閉じた。
そしてラーメンを勢いよく啜り、スープを急いでグッと飲み干した。
席を立ちお金を払い、店を出て勢いよく走り出した。
「仕方ないな……」
向かうのは、当然……。
彼女の方である。
メールで聖菜の居場所は把握出来ていた。
場所は、清水寺付近。
ここらは人気スポットのため、人通りも多い。
そのため走っている途中、歩いている着物の女性や観光客に変な目で見られたが、特に気にしなかった。
「おい!」
陽太の通う高校の制服を着た美少女が、店のそばで立っていた。
「す、菅原君」
「他の人は?」
「はぐれちゃって……。私、方向音痴でどこに行けばいいか分からないの」
周りを見渡しても、同じ制服を来た人たちは見当たらなかった。
「はぁ……。お陰様でせっかくのラーメンが半分味わえなかった……」
「ごめん……。ありがとうね」
「正反対の言葉を並べるな。どっちかにしとけ」
陽太は照れくさくて、聖菜から目を離した。
「で、他の人たちがどこにいるか知ってるのか?」
「……」
「ん?」
聖菜は何故か、黙った。
「ごめん、迷ったっていうのは嘘」
その言葉を聞いて、陽太は少し驚いた。
「菅原君と一緒にまわりたくて」
「なんで?僕といるよりも、彼女らといた方が楽しいでしょ?」
「菅原君、友達いなくて一人で居たらつまらないだろうし、せっかくの修学旅行なのに思い出つくらないと意味無いかなって思って」
「思い出、つくってあげなくちゃってか?」
「菅原君……?」
陽太の声は、一転した。
心の底からこみ上げてくる怒り。
最も触れて欲しくなかったところに、彼女は触れていた。
「大きなお世話だ……」
小さくて、消えそうな声。
聖菜には聞こえていないみたいだった。
だから次は、大きな声でこう言った。
「大きなお世話だ!」
「ちょっ、菅原君!」
陽太はその一言を言ってとにかく遠くにへと走り出した。
友達がいないのは、作れないからじゃなくてあえて作ろうとしなかったから。
一人でいるのは苦痛ではないし、周りの人に迷惑をかけるくらいなら苦痛を背負った方がいい。
聖菜が、陽太になぜ友達がいないのか。なぜ一人でいるのかという理由を知るわけがない。
なのに、そんな責任のない聖菜に厳しいことを言ってしまった。
逃げだしてから後悔しても遅いが、そう思っていた。
「君は、僕がいかに辛いかなんて知る由もない」
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