3 / 7
第二話 国を発つ
しおりを挟む
「よし、これで準備は終わったかな」
スクナは二つのウェストポーチと一つの肩掛け鞄を机の上に置いて、一息つく。
「もうこの家ともおさらばか……」
あの後、彼は自宅に戻り貴重品をまとめていた。
その目的は勿論、このパーシェルジュ王国から出ていくためだ。
王国軍の勇者という任から外された今、この差別意識の強い国に残る理由はない。
だから彼は出ていく事を決めたのだ。
だが、
「うーん……いくら差別の少ないカイザリア帝国に行くからといって、そう簡単に割りきれるものじゃないよなぁー」
彼は曲がりなりにもこの国で生まれ育ったのだ。
なのに離れるのは、つらい。
だが、そんな彼の葛藤を知りもせず、
――ガンガン
と、玄関が乱暴にノックされた。
「あ、はーい!」
スクナは身軽な動きでひょいひょいと玄関に向かい、扉を開いた。
「どちらさま……あっ!」
するとそこにいるのは、短髪を赤く染め上げたガラの悪い人間の女性。
成人男性の平均身長が165cm程のこの大陸東方において、彼女の身長は170cmもあり、その身体を赤い祭服に身を包んでいる。
その赤い祭服と、染め上げた髪の色からも分かるように、彼女は英雄神の神官だ。
「ウイッス。元気っスか、スクナさん」
「元気だよ、アノッカ」
アノッカ――そう呼ばれたガラの悪い女性は、こうみえて五指の勇者の一人だ。
当然スクナの知り合いであるし、謁見の間にもいた。
だから二人にとってはこれが二時間ぶりの再会だ。
「確かに思ったより元気そうっスね、スクナさん。正直、部屋の隅で泣いてると思ってましたよ」
「流石にこの年でそんな事しないよ。……まぁ心の中では大号泣だけどね」
スクナの見た目は子供でも、中身は子供じゃない。
恥も外聞もなく泣くには、年を取り過ぎている。
「その見た目なら、泣いてくれた方がもっと可愛いんスけどね」
「"もっと"? 僕の事、可愛いと思ってくれてるの?」
その瞬間。
スクナの表情が、獲物を見つけた肉食獣のような表情に切り替わる。
「スクナさん。そーゆーとこ、直した方がいいっスよ」
だがアノッカは特に気にした様子もなく、適当に流した。
「そうかな? でも『英雄、色を好む』って言うでしょ」
「それを英雄神の神官の目の前で言うんスか、けっこー度胸有りますね」
「男は度胸、女は愛嬌、貧乳は豊胸だからね」
「ウチも胸ないんスけど、当てつけっスか?」
「違うよ! だって当ててつけるのは――」
――シュンッッ!!
スクナが言い終わる前に、彼の顔面を目がけて高速の前蹴りが放たれる。
だが彼は、
「……っぶなっ!!」
プーミリアの身軽さで、その蹴りを、危なげながらもかわした。
「あんまセクハラばっかしてると、ガチで供物に変えますよ」
「ごめん……」
スクナは怒られてしゅんとする。
まるで小動物のようだ。
「……ま、いいっスよ」
「ありがとう、アノッカ!」
許されたことによって、スクナの表情が明るく輝く。
それを見て、何故かアノッカは恥ずかしそうに顔を逸らした。
「べ、別に気にする事じゃないっスよ……そ、それよりもこれからどうするんスか?」
「まずはカイザリア帝国の帝都に行こうと思ってるんだ。あそこなら種族差別も少ないだろうしね」
「いやそうじゃなくて、将来の目標みたいなものっスよ。ほら、シャルル王を殺すとか、この王国を滅ぼすとか」
勇者とは思えない発言。
アノッカも少々、頭の方がイカレているようだ。
「そうだね……一応あるにはあるんだけど……」
「聞かせてもらってもいいっすか?」
「恥ずかしいんだけど……その……『プーミリアの英雄』になりたいんだ」
「まさか人族を殺しまくって、プーミリアの時代にするんスか!?」
「ち、違うよ! 僕はただ、プーミリアの皆に勇気を分け与えられる存在になりたいだけだよ!」
最弱種族の未来を照らす灯火。
それがスクナの、これからの夢。
それを耳にし、アノッカにもつい、優し気な笑みがこぼれる。
「具体的には何する気なんスか、英雄スクナさん」
「まずは冒険者になって名を上げようかなーって」
「ふむふむ、でその後は?」
「どこぞの貴族の令嬢とでも婚姻して、地位を手に入れようかなーって」
「おおっと、雲行きが怪しくなってきたっスね」
「それで、最後は適当に悪役でも見繕って倒す、みたいな」
「流石ゲスクナさん、クズっすね」
パチパチ、とアノッカは拍手を送る。
「褒めないでよ」
「褒めてないっスよ」
アノッカはきっぱりと言い放つ。
「あはは……でも、取り合えずの所は帝都に行くのが先決かな」
「じゃあ、やっぱ会えなくなるんスね」
「そうだね。でも、皆にはきっとまた会えるよ」
「ウチもそう信じておきます」
「……ありがとう、アノッカ。じゃあ、そろそろ馬小屋に行ってくるよ」
スクナは目一杯の笑顔を浮かべて、荷物を抱えた。
「はい。……達者で」
「うん」
そうして勇者スクナは、この国を出た。
スクナは二つのウェストポーチと一つの肩掛け鞄を机の上に置いて、一息つく。
「もうこの家ともおさらばか……」
あの後、彼は自宅に戻り貴重品をまとめていた。
その目的は勿論、このパーシェルジュ王国から出ていくためだ。
王国軍の勇者という任から外された今、この差別意識の強い国に残る理由はない。
だから彼は出ていく事を決めたのだ。
だが、
「うーん……いくら差別の少ないカイザリア帝国に行くからといって、そう簡単に割りきれるものじゃないよなぁー」
彼は曲がりなりにもこの国で生まれ育ったのだ。
なのに離れるのは、つらい。
だが、そんな彼の葛藤を知りもせず、
――ガンガン
と、玄関が乱暴にノックされた。
「あ、はーい!」
スクナは身軽な動きでひょいひょいと玄関に向かい、扉を開いた。
「どちらさま……あっ!」
するとそこにいるのは、短髪を赤く染め上げたガラの悪い人間の女性。
成人男性の平均身長が165cm程のこの大陸東方において、彼女の身長は170cmもあり、その身体を赤い祭服に身を包んでいる。
その赤い祭服と、染め上げた髪の色からも分かるように、彼女は英雄神の神官だ。
「ウイッス。元気っスか、スクナさん」
「元気だよ、アノッカ」
アノッカ――そう呼ばれたガラの悪い女性は、こうみえて五指の勇者の一人だ。
当然スクナの知り合いであるし、謁見の間にもいた。
だから二人にとってはこれが二時間ぶりの再会だ。
「確かに思ったより元気そうっスね、スクナさん。正直、部屋の隅で泣いてると思ってましたよ」
「流石にこの年でそんな事しないよ。……まぁ心の中では大号泣だけどね」
スクナの見た目は子供でも、中身は子供じゃない。
恥も外聞もなく泣くには、年を取り過ぎている。
「その見た目なら、泣いてくれた方がもっと可愛いんスけどね」
「"もっと"? 僕の事、可愛いと思ってくれてるの?」
その瞬間。
スクナの表情が、獲物を見つけた肉食獣のような表情に切り替わる。
「スクナさん。そーゆーとこ、直した方がいいっスよ」
だがアノッカは特に気にした様子もなく、適当に流した。
「そうかな? でも『英雄、色を好む』って言うでしょ」
「それを英雄神の神官の目の前で言うんスか、けっこー度胸有りますね」
「男は度胸、女は愛嬌、貧乳は豊胸だからね」
「ウチも胸ないんスけど、当てつけっスか?」
「違うよ! だって当ててつけるのは――」
――シュンッッ!!
スクナが言い終わる前に、彼の顔面を目がけて高速の前蹴りが放たれる。
だが彼は、
「……っぶなっ!!」
プーミリアの身軽さで、その蹴りを、危なげながらもかわした。
「あんまセクハラばっかしてると、ガチで供物に変えますよ」
「ごめん……」
スクナは怒られてしゅんとする。
まるで小動物のようだ。
「……ま、いいっスよ」
「ありがとう、アノッカ!」
許されたことによって、スクナの表情が明るく輝く。
それを見て、何故かアノッカは恥ずかしそうに顔を逸らした。
「べ、別に気にする事じゃないっスよ……そ、それよりもこれからどうするんスか?」
「まずはカイザリア帝国の帝都に行こうと思ってるんだ。あそこなら種族差別も少ないだろうしね」
「いやそうじゃなくて、将来の目標みたいなものっスよ。ほら、シャルル王を殺すとか、この王国を滅ぼすとか」
勇者とは思えない発言。
アノッカも少々、頭の方がイカレているようだ。
「そうだね……一応あるにはあるんだけど……」
「聞かせてもらってもいいっすか?」
「恥ずかしいんだけど……その……『プーミリアの英雄』になりたいんだ」
「まさか人族を殺しまくって、プーミリアの時代にするんスか!?」
「ち、違うよ! 僕はただ、プーミリアの皆に勇気を分け与えられる存在になりたいだけだよ!」
最弱種族の未来を照らす灯火。
それがスクナの、これからの夢。
それを耳にし、アノッカにもつい、優し気な笑みがこぼれる。
「具体的には何する気なんスか、英雄スクナさん」
「まずは冒険者になって名を上げようかなーって」
「ふむふむ、でその後は?」
「どこぞの貴族の令嬢とでも婚姻して、地位を手に入れようかなーって」
「おおっと、雲行きが怪しくなってきたっスね」
「それで、最後は適当に悪役でも見繕って倒す、みたいな」
「流石ゲスクナさん、クズっすね」
パチパチ、とアノッカは拍手を送る。
「褒めないでよ」
「褒めてないっスよ」
アノッカはきっぱりと言い放つ。
「あはは……でも、取り合えずの所は帝都に行くのが先決かな」
「じゃあ、やっぱ会えなくなるんスね」
「そうだね。でも、皆にはきっとまた会えるよ」
「ウチもそう信じておきます」
「……ありがとう、アノッカ。じゃあ、そろそろ馬小屋に行ってくるよ」
スクナは目一杯の笑顔を浮かべて、荷物を抱えた。
「はい。……達者で」
「うん」
そうして勇者スクナは、この国を出た。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる