上 下
52 / 116

第46話 スニーキングミッション

しおりを挟む
 俺達は角から魔族がいないかを確認する。

「いませんね」
「あぁ」

 深夜だからなのか人気は無い。
 実に好都合だ。

「よし、行くぞ」

 俺達は足早に城壁へと向かった。
 見つからないように、こそこそと向かったおかげか、誰にもバレる事無く、魔王城城壁の西門まで問題なく辿り着くことは出来た。

「下水道への入り口はどこなんだ、アマネ」
「……あの辺り」

 アマネが指差す地面には、取っ手のついた扉のようなものが存在している。
 ……あれが入り口だろうな。

 一応周りを確認してみるが、確かに城壁の上や入り口には衛兵が立っているが、下水道への入り口には誰も存在していいない。
 これなら忍び込めるな!

「では入るぞ」

 キザイアさんはおもむろに下水道への入り口を開ける。
 するとそこには、地下に続く階段の手前に、重厚な鉄格子がはめられたいた。

「むむ、困ったな」
「俺に任せてください」

 俺は皆の前に進み出て鉄格子を睨む。

「『魔剣ダーインスレイヴ』」

 そして右手に漆黒の剣を出現させる。

「なんだと!? アベル、お主!?」
「きゅ、急にどうかしたの!?」

 うおぉっ!
 今まで静かにしてたのに、急に大きな声を出されたら驚くよ……。

「お主、それが何なのかを知らんのか?」
「え? まぁ……」

 まぁ確かにこの技はグルミニアには見せて無いけど、そんなに驚くような技なのか?

「知らぬとは恐ろしいことだのう」

 グルミニアは訝し気にこちらを見る。
 この魔術がそれ程珍しいのだろうか?

 ……まぁいいや。
 今はやるべきことをやろう。

「はぁ!」

 俺は漆黒の剣を振り、鉄格子を綺麗に切る。
 すると、鉄格子は重たげな音を立てながら地面にバラバラと落ちた。
 いかに重厚な鉄格子も、この剣の前では無力だったようだ。

「さ、みんな。入ろうよ」

 俺は先に下水道の中へと入り、みんなを促した。
 そして全員が下水道に入ったのを確認して、俺達は進み始めた。

「『光玉ライト』」

 下水道は当然暗い。
 だからグルミニアは魔術で光をともす。

「意外と綺麗じゃな」
「……確かに」

 もっと下水道の中は汚いと思った。
 実際はそこそこ綺麗にされていて驚いた。

「……それなら、清掃……」

 そうアマネが言おうとした瞬間――
 奥から一体の巨体が姿を現す。

 3mはある石で出来た身体に、赤く光る瞳。
 俺は一度、それを見たことがあった。
 ――そうゴーレムだ。

「何!?」

 俺達は杖や剣を引き抜く。
 そして戦おうとした、が――

「……待って」

 アマネに止められる。

「どうしたんだ?」
「……アレは、悪くない」

 そうアマネに制され、様子を見るが……確かに一向に襲ってくる気配はない。

「……清掃、ゴーレム」

 清掃ゴーレム!?
 そんなものがいたのか。
 だからここはきれいだし、あのゴーレムも襲ってこないのだろう。

 そうと分かれば安全だ。
 俺達はゴーレムに注意しつつ、その横を通り抜ける。

 だが、安全とわかっていても怖い。
 だから俺はゴーレム通り過ぎた後、何度も後ろを振り返った。
 しかし、アマネの言う通り清掃用のゴーレムようで、追ってはこなかった。

「で、どの辺りだ?」

 キザイアさんは魔王城への入り口をアマネに聞く。

「……あと、角二つ」
「わかった。本当にわかりづらいな……」

 キザイアさんがそういうのも無理ない。
 同じような光景ばかり続くし暗い。
 本当に関係者しか道は知らないだろう。

 だから俺達はアマネの指示に従って、足音と声を小さくして歩いた。
 そしてしばらく歩くと、アマネはとあるはしごの元で歩みを止めた。

「……ここ」

 上に向かうそのはしご長さはそう長くない。
 おそらく地下室に繋がっているのだろう。

 それに清潔に保たれている。
 ……清掃ゴーレムさん、ありがとう。

「皆準備はいいか?」

 その言葉に3人と1匹は首を縦に振る。

 そしてキザイアさんを先頭にして、
 ――カンカンカン。
 と高い音を鳴らしながら、皆は上に登っていく。

 そして、

「大丈夫だ。誰もいない」
「ふぅ……良かったですね」

 無事、敵に出会わずに魔王城に侵入する事が出来た。

「にしても、ここはどこなのかな」

 部屋は暗いが、グルミニアが灯りを作ってくれており、真っ暗闇ではない。
 だからなんとなく部屋の様子は分かる。

 ぱっと見て、感じた印象は地下倉庫。
 だが、大きな長方形の箱が10数個丁寧に並べられているだけで、他には何もない。

「ん? この箱だけふたがないな」

 俺はその箱達の中の一つ、開け放たれた空の箱をじろじろと見る。

 何故かその箱にはふたがされておらず、中には何も無い。
 だが、ただ一言だけ箱の底に、誰かの名前であろう文字が刻まれていた。
 その名は、

 ――ルテニア・ホーエンドルフ。

「これは誰の名前だろうか?」

 しかし、俺に悩む時間は与えられなかった。

「おい、アベル。ここは敵地だ、集中しろ」

 キザイアさんに怒られた。

「す、すみませんっ!」
「まったく……で、アマネ。ここからはどうすればいい?」
「……中央の塔。……そこから、グルミニア。……魔術で、行ける」
「ならまずはその中央の塔だな」
「よし、では行くかの」

 一応明かりを消し、俺達は倉庫から出て周りを見る。
 深夜なのもあり地下は暗く、更にこの辺りに衛兵はいない。

 だからすぐに廊下を通り、中央の塔の下にある階段へと向かう。

「……だよな。なぁ……」
「あぁ。……そうだな……」

 だが、行く手を阻むかのように階段の近くで声が聞こえてきた。
 おそらくは衛兵だ。

 物陰に隠れながら、目を凝らしてよく見てみれば、階段の前で2人の男がイスに座っている。

「どうする?」

 俺は小さな声で皆を見る。

「流石に服装でバレるだろうしな」
「倒すしかないの」

 グルミニアは杖を抜く。

「出来れば殺したくないけど……」

 魔族とはいえ彼らに罪は無い。
 だから無駄な殺しはしたくない。

「わかっておる。『草拘束グラスバインド』」
「……うわっ!」

 グルミニアが杖を振ると、衛兵たちのイスから草が伸び、二人の身体と口を塞いでいく。
 そして間もなく、不意を突かれた衛兵たちはなすすべなく、完全に動きと声を封じられてしまった。

 俺達はその様子を確認し、階段の方へと向かった。

「これ大丈夫なのか?」

 階段のすぐ側まで来ると、イスに縛り付けられた衛兵たちはじたばたしていた。
 彼等は身動きが取れない状況だが、まだ意識はある。
 交代の衛兵に報告でもされたら大変だ。

「一応用心しておくかの」

 グルミニアは剣を奪いその辺りに放る。
 そして腰から取り出した黄色い粉をふりかけ、衛兵たちを眠らせた。

「これなら安心そうだな」

 俺達は安心し階段を上がる。

 中央塔の階段はらせん状で物凄く長い。
 しかし船を動かし森を越えた俺にはこれくらい問題ない。

「ここか?」

 おそらく最上階の部屋の前にある扉に来た。
 聞き耳を立てるが音は聞こえてこない。
 だからゆっくりと扉を開ける。

 すると、その最上階の部屋の大きな窓からは、巨大な城や街の様子が一望できた。
 この塔は最も高い場所のようで、近くに城の天守閣のような場所がある。
 ここから渡れるな。

「アベル、固いハンガーを4つ作ってくれ」
「ハンガーでいいのか?」
「あぁ」
「『聖形成ホーリーシェイプ』」

 俺はハンガーを作り始める。
 その間グルミニアは窓を開き、袋から種を取り出し窓枠の上にそれを置く。

「『成長グローアップ』」

 そのまま杖を振ると、その種はツタとなり、天守閣の方へまっすぐ伸びていく。
 そしてロープとなり、天守閣の屋上につながった。

「ハンガーは作り終えたかの?」
「出来たよ」

 この長いツルと4つのハンガー。
 何となく使い方は分かる。
 ……ふぅ。

「先に行かせてもらうぞ」

 キザイアさんはツルにハンガーをくっつけ、強度を確かめる。
 そして――
 そのまま天守閣の方にハンガーで滑っていく。

 ……怖えええ!!

「っと」

 グルミニアはそれに続くように滑っていく。

「……」

 アマネもアニを取っ手に纏わせて補助してもらいながら、恐怖無く滑っていく。

 ……次は俺の番だ。
 足が震えていないだけ成長したんだろうな。
 ハンガーは今までにないくらいの力で握られる。
 そして俺は叫び声を押し殺しながら、ひきつった顔で滑って行った。
しおりを挟む

処理中です...