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第49話 悲しき帰路

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「……よいしょっと」

 俺は船を港にロープでくくり付ける。

 魔王城の脱出から2週間ほど、俺達はようやくペレッキの港に帰ってきていた。
 実はドラゴギアに会ったら手伝ってもらおうと思っていたんだが、帰り際には会えなかった。

「お疲れさまじゃ」
「……お疲れ」

 二人にねぎらいの言葉をかけられる。

「ラッコ号はこれからどうする?」

 後は陸路で宮殿まで帰るだけだ。
 これからはどこかで馬車を見つけなければならないし、ラッコ号はもう使わないだろう。

「あの船屋の男にでも渡すか。アマネそれでいい?」
「……うん」

 俺達はそのまま船屋のおっさんに会いに行くことにした。
 しかし意外なことに、道中の人々は行きよりも少なかった。
 ……何かあったのだろうか?

「おじさんいますか?」

 俺は船屋の入り口を開け、声を掛ける。

「……ん? おうお前か! よく来たな」

 おじさんは船を作っていた手を止めて、振り返る。

「船を返しておきたいんですが……」

 俺は申し訳なさそうにそう言う。

「どうかしたのか?」
「……その、もう使わないかもしれませんので」

 頑張って作っていたものなのに、いきなり返されたら嫌だろうな。
 でも港にそのまま置いていくのも悪いし、だからこうやって直接言いに来たんだが……。

「そうか……。お前達にも何か理由があるんだろ」
「まぁ……」
「ならいいさ受け取っておく。お前には面白いアイデアをもらったしな」

 魔石エンジンの事か。
 元々俺のアイデアではないけどな。
 でも――

「ありがとうございます」

 俺は頭を下げた。
 本当に筋を通してよかったと思う。

「それより、人が少ないが何かあったのか?」

 グルミニアがおっさんに尋ねる。
 これに関しては俺も気になっていた。

「どうやら新魔王が倒されたようでな」
「……ッ!」

 俺達に衝撃が走る――

 当然だ。
 俺達が新魔王を倒したのだから。

 でもバレない方がいいだろうし、それを顔に出さないように努める。

「それでこの街にいた魔族が何故か撤退してな」

 おそらく新魔王亡き後の魔王の座を狙ったのだろう。
 ロッキンジーの言っていた通り、このまま魔王軍は崩壊するだろうな。

「急なことで何があるか分からないからみんなびびってるんだよ」
「そういうことであったか」

 グルミニアは飄々と答える。

「お前らも何か無い間に逃げた方がいいかもしれんぞ」
「大丈夫じゃろ」

 俺もそう思う。
 おそらく魔族同士で戦いに行っただけだしな。

「そういうもんか?」
「そういうもんじゃ。しかし早々に去るさ」
「気をつけろよ」
「あぁわかっておる」

 俺達はそうしてペレッキの港を後にする事にした。

 帰りも行きと同じく、グルミニアの魔術でバレないように城壁を超えた。

「ここからどうすんだ?」

 俺達はグルミニアに促されるまま、馬車を置いていった森に来ていた。
 何故かグルミニアが行くといったのだ。

「ん? あぁそのことか」
「何か策あるのか?」
「まぁ見ておれ。ピューー」

 グルミニアは指笛を吹き、その音を森に響かせる。
 そして――
 それに引かれるように馬がやってくる。

「……え!? なんだと!?」
「この近くからこやつの気配がしてな」

 そう言いつつグルミニアは馬の背中を撫でる。

「すごいな。……しかし一頭だけだが」

 俺達は3人と一匹なのに対し、やって来た馬は一頭だけだ。

「3人乗りでいいじゃろ。わしもアマネもさほど大きくない」
「それもそうだな」
「それよりも……アベル、アマネ」

 急にグルミニアが真剣な眼差しになった。

「どうしたの?」
「……なに?」
「アニはスライムじゃ。流石に宮殿には入れぬと思うが……どうするのじゃ?」

 それもそうだな。
 シェルブール宮殿みたいな厳格な場所に、スライムとは言えモンスターが入れる訳が無い。

「うーん、どうしようか?」

 俺は一度、アニの方を見てみた。
 すると――

「え!? いない!?」

 アニがいなくなっていた。

「……わしらの話を聞いておったのか? いや、モンスターが人語を解するはずがないのじゃ」
「でも、確かにいないよな……」
「わしらに気を使ったのかの? ……そんな事をせんでもよいのに」
「探すか?」
「……見つけ出して連れ戻すことがアニにとっての幸せとも限るまい。意志を尊重してやるのじゃ」
「……そうだな」
「……」

 こうして俺達は一匹の仲間と別れ、馬に乗って宮殿に向かうことになった。
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