魔法学院のヴァンパイア、強かったのも昔の話 ~昔は最強の吸血鬼だったけど、目立ちたくないので、ひっそりと学院の事件を解決していきます~

一条おかゆ

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第8話 決闘

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 花壇のすぐ近く、花々や、それに群がる春の虫が見える場所で、先行する眼鏡の男は足を止めた。

「この辺りでいいか?」
「構わないよ」
「う、うん……」

 校舎を出て中庭に行くと、既に"決闘"なるものを行っている人達が何人かいる。

 水の壁を張って、火の玉を防ぐ者。
 雷を放って、相手を感電させる者。
 俊敏な体捌きで、土のつぶてをかわす者

 死にはしないんだろうけど、当たるとどれも痛そうだなぁ……。

「なにをよそ見しているんだ、シュテルとやら。怖気づいたのか?」

 おどおどきょろきょろとする僕に、眼鏡の男が煽ってきた。
 強がってもしょうがないし、僕は至って正直に答えた。

「う、うん。かなり怖いかな」
「ふんっ、情けない奴だ。では、辞退するか?」
「さすがにそれは出来ない、かな?」

 ぶっちゃけ、低位の魔法をくらうより何倍も怖い思いをしてきたし、決闘も、今更と言えば今更だ。
 僕も覚悟を決めよう!

 無駄に重たい上着のコートを脱ぎ、きれいに畳んでその場に置いた。
 いちおう、耐炎・耐雷性能のある代物だけど、余計な重りになるだけだ。

 花壇の端に腰掛けて、シャツ姿でストレッチする僕を見て、眼鏡の男は独り言ちる。

「そこまでして入り込もうとは……。そうか、お前もか……」
「ん? 今なにか言った?」
「……がぜんやる気が湧いてきた、と言ったのだ」

 眼鏡の男は制服のコートの下から、細長い杖を取り出した。

 長さは20センチほど。短い。
 材質は木。枝を削って作ったのだろう。

 いわゆる魔法杖(まほうじょう)の一種、短杖(たんじょう)だ。
 見たところ、目掛樫(メカケガシ)を材木に選んでいるようだな。
 ま、細かい話はさておき、

「ルールはどうするの、三人いるけど?」

 二人なら、その二人で戦えばいい。
 四人なら、天下一を決める武闘会のように、トーナメントができる。

 だけど、僕たちは三人だ。
 一対二じゃ決闘にならないし、トーナメントも出来ない。
 必然的に総当たりになるんだろうけど……

「俺とお前が戦って、勝った方が図書委員。これでどうだ?」
「えぇ!? り、リタは!?」
「定員は二人なんだ。決まりでいいだろう」

 な、なにを言っているんだこいつは……?

「俺はな、お前を図書委員にはしたくないんだよ、シュテル」
「な、なにか恨みを買うような真似でも、したっけ?」
「存在自体が気に食わないんだよ」

 う、うぐ……っ!
 心が痛む! 精神攻撃の類かっ!

「お前、今朝の魔力測定で第零位階だったよな。どうやってこの魔法学院に入ったのかは知らんが、そんな奴が俺と同じ教室にいる、というだけで虫唾が走る」
「そ、そんなひどい事言わなくても……」
「事実だろう。それより、早く始めないか? お前なんかと話すために、俺の貴重な時間は割けない」

 すごい嫌われようだ。
 心底、僕を毛嫌いしていると見える。
 なら……やるしかないか。

 拳を握り、花壇から立ち上がる。

「ルールは?」
「先に攻撃を当てた方の勝利、でどうだ? シンプルでわかりやすい」
「おっけー。じゃ、さっそくスタートね」

 一応の礼儀として握手しようと、僕は眼鏡の男の元へと歩く。
 察してくれたのか、彼は数歩だけ前に歩き、手を差し出した。
 僕は握った拳を一度開いて、がしっ! と固めに握手をする。

「よろしくね」
「ふんっ、せいぜい頑張ること……ん?」

 握手した手の内で、
 もぞもぞっ! 何かが蠢く気色悪い感触。
 彼が握手を解き、自身の手の平を見ると──青緑色のイモムシが乗っていた。

「うわあああああぁぁぁぁぁああ!!」

 絶叫し、後退る眼鏡の男。
 手をぶんぶんと振り回し、半狂乱になって喚く。

 完全に、僕の事が頭から消えた。

「隙ありッ!」

 全身でバネみたく跳ね飛び、直後。
 空中で丸くした身体を一気に伸ばし、驚く彼の顔面目がけて、全体重を乗せた"ドロップキック"をお見舞いする。

「ぐおおぉぉぅっ!」

 蹴り押された衝撃に、眼鏡の男はもんどり打って後転。
 地面に、うつ伏せに倒されて、痛そうに鼻頭を押さえる。

 僕は埃を払いながら立ち上がり、イモムシさんを花壇に帰してやった。

「はい、僕の勝ち。なんで負けたか、明日までに考えておく事だね」
「……きゅ、急になにしやがるッ!」

 鼻血を袖で拭いながら立ち上がる彼に、説明してあげる。

「世の中には、マジカルパンチと称してキックする人がいるらしい。なら、今の技は"マジカルラリアット"ってとこかな……」
「そういう話じゃないッ! 卑怯だ、って言ってんだ! 魔法を使ってないじゃないかッ!」
「でもルール上は、先に"攻撃"を当てた方の勝利だよ。魔法なんて、一言も聞いてないけどねぇ?」
「屁理屈野郎がぁ……ッ!」

 眼鏡の男は、ぎりィッ……という歯軋り音が聞こえてきそうなほど、悔しそうに奥歯を噛む。

 いじめとか、復讐とか、今後の学校生活を考えると、ちょっと怖い顔だ。
 プライドの高い人間は、見下していた人物に敗北することを、なによりも忌み嫌うからね……。

 でも、リリーに言われている以上、図書委員の座は決して譲れない。
 それに、実際の戦争はこんなにも生ぬるくない。

 定められたルールを破ってきたり、闇討ちや奇襲を受けたり、腹心の中に裏切者がまぎれていたり……。その程度、日常茶飯事だ。
 文句を言おうとしても、聞く耳を持つ奴なんてまずいない。
 有効な発言ができるのは、勝利した者のみだ。

 敗北とはつまり、自己責任ってやつなのだ。

「それじゃ、僕は報告しにいくね。あっ、リタ。立ち会い人として、一緒に来てもらってもいい?」
「う、うん」

 眼鏡の奥の眼光が、とても厳しいものだった。
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