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生きるということ
異世界の子供たちを家に招き入れたら、お兄ちゃんにバレました
しおりを挟む峻兄ちゃんはりこちゃんと圭吾を見て、少し首をかしげた。
「友達の……弟と妹?」
私は一瞬、何て答えたらいいか迷ったけれど、蓮くんが横から「うん、そんな感じ」と自然に言ってくれた。
峻兄ちゃんの目がほんの一瞬だけ、私の目をのぞき込んで、何も言わずに「ああ、そうなんだ」とうなずいた。
「今日さ」
峻兄ちゃんがカバンを肩にかけ直す。峻兄ちゃんがカバンに付けた鈴の音がチリチリンと風鈴みたいな音を立てた。
「母さんと父さん、二人とも出張でいないんだ。あと3日間は帰ってこない」
りこちゃんが蓮くんの方を見て、あの人だあれ、と尋ねながらブランコから腰を下ろした。手は鎖を握ったままだった。
「連れて来いよ」
峻お兄ちゃんがくるりと体の向きを変えて、家の方へ歩き出した。
「母さん、俺今日、友達ん家に泊まるわ」
蓮くんがスマホを耳に当てている。蓮くんのお母さんの声がかすかに聞こえてくる。
「大丈夫だってさ」
蓮くんはりこちゃんの手を引く。私は尻もちを付いたままの圭吾くんを立たせる。
「私の家においで。」
圭吾くんが私の手を握り返してくれた。
峻兄ちゃんが家の鍵を探してカバンの中をあさっている。チャラチャラと鍵の音がカバンの中から聞こえてくる。ようやく見つけた鍵で峻兄ちゃんが扉を開けると、私の家の香りがした。峻兄ちゃんが渡り廊下の電気を付けた。圭吾くんとりこちゃんがそれに照らされる。
「うわ、光った!」
圭吾くんとりこちゃんが声を揃えて電気の方を見ている。それは、初めて流れ星を見た子供たちのようだった。
「あんまり見んとき」
蓮くんが圭吾くんとりこちゃんの眼を手で覆った。峻兄ちゃんが階段を上っていく。
「おいで」
峻兄ちゃんの後を二人の子供達がパタパタと足音を立ててついていった。峻兄ちゃんの背中は、蓮くんの背中より一回りだけ大きい気がした。
峻兄ちゃんが自室のドアを開ける。私が峻兄ちゃんの部屋に入るのは、天体図鑑を借りに行ったとき以来だ。
「佳奈美も入れよ」
私は峻兄ちゃんに促されて部屋に入った。峻兄ちゃんの部屋には、私が覚えてるよりも多くの本が床の上に山積みになっていた。
「都市伝説」「空間のねじれ」「パラレルワールド」「宇宙人」
そういった言葉が本の背表紙に見えた。
聞いてくれるかもしれない。峻兄ちゃんなら。
峻兄ちゃんはカバンをベッドの上にどさりと乗せると、床に山積みになった本を部屋の隅にどかし始めた。蓮くんがそれを手伝う。
「佳奈美お姉さん、この人だあれ?」
「私のお兄ちゃん」
「ふうん」
りこちゃんが圭吾くんを見た。圭吾くんはそれに気づかずに、部屋の隅々を観察するように顔を動かしていた。りこちゃんが私のズボンを指で軽く突いた。私がしゃがむと、りこちゃんは小さな手を丸めて私にだけ聞こえるように言った。
「圭吾くんみたいだね」
「お兄さん、これ、どうしますか」
蓮くんが5,6冊の本を腕に抱えている。例の本。
「ああ」
峻兄ちゃんが背表紙を目でなぞるように見た。
「その辺に置いといて」
蓮くんは、やっぱりなというようにそれらを峻兄ちゃんのベッドの傍に置いた。
峻兄ちゃんの左目が一瞬ピクピクと痙攣するように動いた。それは、峻兄ちゃんが何か伝えたいことがあるというメッセージだ。私は峻兄ちゃんに近づいた。
「この子らのご両親は」
それは、蓮くんと私が最も聞かれたくないことだった。数学の問題集が峻兄ちゃんのカバンから顔を出している。峻兄ちゃんの質問に「解なし」と答えられるわけがなかった。
「それについてもちゃんと、話すから」
峻兄ちゃんは何も言わないで黙って頷いてくれた。
「俺ね」
峻兄ちゃんが床にどっこいしょと腰を下ろした。
「あ、佳奈美、あれ持ってきてあげて」
何のことか一瞬分からなかったけれど、すぐに思い出した。パパが、私たちに買ってくれた子供用の座布団があったはずだ。私は峻兄ちゃんの部屋の隣にある物置に探しに行った。
あ、あった。
もう使わないと思っていたものを再び手に取るとは。
私は峻兄ちゃんの部屋に戻って、圭吾くんとりこちゃんの足元に置いた。
「これに座りな」
りこちゃんはちょこんと足を揃えてその上に正座した。圭吾くんは胡坐だった。峻兄ちゃんがギョッとした顔で圭吾くんから顔を背けた。
しまった。
スカートの中が。
「圭吾くん」
私は峻兄ちゃんの部屋の引き出しから新しいタオルを出して圭吾くんの膝に掛けた。峻兄ちゃんはもう一度正面を向いた。
「座んなよ」
「あ、はい」
私は圭吾くんの、蓮くんはりこちゃんの隣に腰を下ろした。夕焼けの光が峻兄ちゃんの部屋の中に差し込んで、ゆらゆらと魚みたいに泳いでいた。
「俺ね、世界って一つじゃないと思うんだ」
峻兄ちゃんの言葉に反応するように、カーテンがふわりと膨らんでゆっくりとしぼんでいった。
峻兄ちゃんがリモコンで部屋の電気を付けると、部屋を泳いでいた夕日の魚たちはどこかに行ってしまった。
「佳奈美は知ってると思うけど、俺宇宙人と遊んでみたかったんだ」
峻兄ちゃんが、蓮くんが置いた本の山から本を一冊、ジェンガを抜くようにして抜いた。トサッと上の本が落ちる音がする。
「この本を見て、どうしても会ってみたいと思ったんだ」
峻兄ちゃんは取り出した本を私たちの方に向けてパラパラと捲りだした。
身体が銀色のもの。目が異様に大きくて黒いもの。目が赤いものもいれば、光っているものもいる。峻兄ちゃんが私たちに見せてくれたほとんどは目撃情報に基づく想像図だったけれど、中には本物の写真らしきものも含まれていた。
「あ、楓だ」
峻兄ちゃんがあるページを開いたとき、圭吾くんがページの上に覆いかぶさるようにして床に両手を付いた。峻兄ちゃんはのけぞって、そのまま後ろに手を付いた。圭吾くんが見ているページの文字が見えにくい。黄色い大きなカタカナの見出しが見える。
ヒューメイリアン
「圭吾くん、私たちにも見せて」
圭吾くんが、ページがめくれてしまわないように手で押さえながら私たちのところへ持ってきた。四人でそのページをのぞき込む。
楓くんの写真は載っていなかったけれど、実際のヒューメイリアンだと告白した人たちのインタビュー記事がコラムになっていた。国籍も、年齢もバラバラ。でも、彼らの眼だけは宇宙みたいにどこまでも広がっていそうな深い黒色をしていた。
「連れてくればよかったね」
りこちゃんが寂しそうにつぶやいた。
「お兄さん」
蓮くんがページから顔を上げて峻兄ちゃんに顔を向けて姿勢を正した。
「お兄さんの感覚は、間違ってません。ただ、興味本位で語るだけではあまりにも…。」
蓮くんが言いにくそうにうつむく。蓮くんが何を言いたいのか、理由は分からないけれどわかった気がした。
「あまりにも、その人たちのことに関心を抱いてないよ」
峻兄ちゃんは、圭吾くんとりこちゃんの隙間から本を見ている。
「どういうことや」
私も峻兄ちゃんに向き直った。
「私たち、宇宙人の血を引いた子供に会った」
「どこでや」
峻兄ちゃんの顔が本から私に向けられた。
「その子は、私達人間が勝手な好奇心で語っていいような存在じゃない」
峻兄ちゃんは、黙ったまま数回蓮くんと私を交互に見た。すると、峻兄ちゃんは意を決したように顔の動きを止めた。
「あんたら、どこに行ってきた。この子らは、どこからやってきた」
無我夢中で本をのぞき込んでいた二人が、ビクッと反射的に肩を震わせ、峻兄ちゃんの方を振り向いた。
どこか遠くで犬が喧嘩して飼い主たちのなだめる声が部屋まで聞こえてきた。
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