『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

文字の大きさ
73 / 213
夏に散った桜

彷徨う霊魂の目的は〜仲間の誰かが死者だったかもしれない〜

しおりを挟む

「佳奈美。夕飯は何が…」
峻兄ちゃんが台所から玄関にやってきた。
「…泣いてたな」

私が台所に入る時に、峻兄ちゃんが私の耳元で、低い声で囁いた。

夜ご飯までの五時間。本当なら、圭吾くんを除いた王国組でもう一度王国の記憶を見に行く予定だったんだけど、私と蓮くんの様子がおかしいことに気付いた王国組が、予定を明日にずらしてくれたのだ。

「連日はさすがにね。精神的にも、身体的にもしんどいし。大事よ、休憩は」
サファイヤが金魚と一緒に水槽の中を泳いでいた。水槽から人の声が聞こえてくることに、全く動じない自分がいる。

慣れたから?

いや、信じたくないことがあるから。

圭吾くんとりこちゃんは、近くの空き地で鬼ごっこをして遊んでいる。バットは扇風機の前で畳にうつぶせになっている。エメラルドは、バットの隣で窓から子供たちの様子を見守っている。峻兄ちゃんは、畳に寝転がりながらスマホをいじっている。
「みんな…」
『ん?』
蓮くんの声にみんなが蓮くんに振り向いた。

「やめて!」

私は蓮くんが皆に何を相談しようとしているかが分かった。アパート全体が揺れてしまいそうなほどの私の叫び声に、男子陣が目を丸くして一斉に私に振り向く。

「やめて、話さないで!りこちゃんが消えちゃう!」

シン…

畳の部屋が静まり返る。子供たちの遊ぶ声が空き地から聞こえてくる。
「どういう…こと」
峻兄ちゃんがスマホをいじるのをやめて畳の上に置くと、身体を起き上がらせた。
「皆、りこってさ…生きてると思うか…?」

シン…

「やめて!」
「佳奈美!」

蓮くんが私を抱きしめて落ち着かせようとした。でも、私の身体が変。蓮くんを殴ったり蹴ろうとしたりしようとしている自分がいる。
「佳奈美、落ち着け」
峻兄ちゃんが私を蓮くんから引き剥がすと、私を後ろから抱きしめてお腹をポンポンと優しく叩き始めた。
「消えちゃう…やだ…」
私の身体が変。涙が止まらない。腕が震える。

「あ」

蓮くんが洗面所へタオルを取りに走った。
「大人しい佳奈美さんが失禁するって…何があったの」

蓮くんとバットで畳を拭いてくれている。峻兄ちゃんはお腹を優しく叩いている。
「佳奈美さん…ごめんね。少しだけだから」
エメラルドが私の目の前で、何か印のようなものを結んだ。

眠い。瞼が重い。峻兄ちゃんの身体が暖かい。

そういえば、昔、私がママとパパに激怒された時にも、峻兄ちゃん、こうやって慰めてくれたなあ…

✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮
   
佳奈美さんが眠り始めた。蓮は拭いたタオルを洗面所で洗って、畳の部屋に戻ってきた。
「蓮…りこが生きてるかどうかなんて…どういうことだ」
エメラルドの瞳がいつも以上に真面目だ。
「匂わないよな、ウルフ」
バットが俺を見た。そう、俺たち吸血鬼は、死んだ人間の匂いが分かる。だけど、りこからはその匂いがしない。
「…なんとなく…峻兄さん、今から桜大さんのお墓に連れて行ってくれませんか。お墓に「莉香」の名前が無いかを確認したいんです。なかったら、俺の嫌な想像で済む…」
「佳奈美はどうする」
バットが佳奈美さんを起こさないように、そっと峻兄さんから離させて畳の上に横たわらせた。
「俺が佳奈美さんの面倒を見ておいてやるよ。家に俺くらいいないと、圭吾たちが空き地から帰ってきたときに佳奈美さんを見てびっくりするだろ。ウルフ、お前は蓮たちと行け。それで目にしたことを、俺に交信して伝えろ」
蓮が心配そうに佳奈美さんを見たあと、不安な面持ちでりこたちがいる空き地に視線を向けた。りこの笑い声がする。
「佳奈美が言うように、りこが消えてしまわないかって…」
「大丈夫、俺が見ておいてやる。異変が起きたらすぐに知らせる」
バットはそう言って俺たちを送り出した。

「峻兄さん、案内をお願いします」
「…こっちだ」
何かが俺たちの前を風に吹かれて通り過ぎて行った。ピンクの花びら。

は?

この季節に?

その時俺は、今から俺たちが向かう墓に眠る少年の名前を思い出した。

桜大…お前か。

その花びらは、俺たちを導くように雑木林のほうへ飛んで行った。

風は吹いていないのに、花びらは自我を持っているように俺たちを雑木林の奥へ奥へと導いていく。峻兄さんも、エメラルドも、蓮も花びらの存在に気付いていた。

「お兄さん、あの花びらって」
「ああ、多分あいつだ。俺があいつの夢を見た時も、リビングの窓の外を花びらが舞っていたんだ」

雑木林の中は存外静かで、涼しささえ感じる。そうこうしてるうちに、雑木林の奥にお墓が寂しく並んだ墓地が見えてきた。
「あそこだ」
三人が墓地に向かって歩いていく。


…この匂い!


「おい!」
三人が俺に振り向いた。
「何だよ、ウルフ」
どう形容すれば良いか分からないけれど、匂う。間違いない。
「…死者の香りがする」



『峻』



一つの墓石から少年の声がした。まだ声変わりする前の、幼いガキの声だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...