『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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日常のひと時

「好きだよ」

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最近ますます日差しが強くなってきた。私たち人間はすぐにへこたれてしまいそうな暑さでも、朝顔は寧ろここぞとばかりに花を大きく咲かせて、ベランダを紫やピンク、藍色に染めている。

朝顔が植えられた鉢植えの横に、峻兄ちゃんが幼稚園の時から使っているのに妙に綺麗なまま残っている、緑色の像の形をしたじょうろが置かれている。幼稚園児用だから、持ち手に手を入れるのに苦労をするけれど、水やりには丁度いいサイズ。中に入れた水の量が多すぎて重くて運べないということもない。

私がそのじょうろを鉢植えの横から持ち上げると、カラカラと乾いた音がした。

台所の水道の水を少し入れて、朝顔の根元に水がかかるように少しかがんだ。根元の土が小さく盛り上がっている。今日からこの鉢植えは、金太郎のお墓。

金太郎は、峻兄ちゃんが小学校に入学して初めて行った地元の夏祭りで金魚すくいをしてから、我が家の一員として暮らしてきた。他にも3匹くらいいたのだけど、その子達は6年くらい前に亡くなってしまった。その日以来、金太郎は、峻兄ちゃんや私がパパとかママに怒られたり、学校で嫌なことがあった時の愚痴の聞き役を担ってきたわけだけど、とうとう金太郎も虹の橋を渡っていった。享年12歳。金魚の平均寿命が長くて10年だっていうことを考えると、人間で考えたら120歳くらいまで生きたことになるんだろうか。
「長い間、お疲れ様」

朝顔は空に向かって誇らしく花を咲かせている。雲一つない真っ青な空に、形が少しだけ金魚に似た雲が泳ぐように遠くへゆっくりと移動していった。

チョロ…

じょうろが空になった。

ベランダの扉を開けて台所に入ると、冷蔵庫の真上に取り付けられた冷房の冷気が服の隙間から服の中へと入っていく。

リビングの方でドタバタした音が聞こえるんだけど、何やってるんだろう。

「何してんの?」
蓮くんは漫画をソファに雑に置いたまま床に倒れ込んでウルフを見上げてるし、ウルフは蓮くんの前で仁王立ちしている。
「蓮くん、暑い?もっと冷房の温度下げてこようか?」
蓮くんの頬っぺたが少しだけ赤い気がする。
「佳奈美さん、俺たち今からショッピングモールに出かけるでしょ」
ウルフが充電用のケーブルをスマホから抜きながら、画面を私に見せてきた。今、ショッピングモールで美術館が主催している期間限定のイベントの案内だった。
「蓮と佳奈美さんさ、美術部員だろ?興味あるかなって」

ウルフが画面を下にスクロールしていくと、興味深そうなキャッチコピーが次々と現れる。

『子供たちが描いたお魚さんの絵で、水族館を作ろう!親御さんも大歓迎!』
これは私には少し早すぎるし遅すぎる。

『真珠の耳飾りの少女になってみよう!』
ちょっと恥ずかしい。

『哲学と美術』
難し過ぎる。

「これとか良いんじゃない?」
ウルフがある写真を指差した。

色とりどりの花畑に、真っ黒な女性のシルエットが佇んでいる写真。

紫色の大きな星雲の中で、腕を大きく広げて立っている子供のシルエットの写真。

ウルフが私をソファに座るように促して、私がウルフと並んで腰かけると、床に倒れ込んでいた蓮くんがウルフと私の間に座った。

蓮くんが邪魔で、ウルフのスマホが見えない。
「ちょっとどいて」
蓮くんの身体を無理やり押しのけて、私はウルフのスマホに映るイベントの開催場所と開催時刻を確認した。

『午後の部:13時~17時』

ショッピングモールで昼食を済ませてから帰るまでに4時間は楽しめそう。
「ねえ、蓮くん」
蓮くんの背中がソファの柔らかい背もたれに食い込んでいる。やっぱり、蓮くん、顔赤い気がする。
「これ、一緒に行こうよ。蓮くん、私の世界を描いてみてくれない?」
蓮くんは赤い顔のまま、私から目を逸らして小さく頷いた。
「ちょっと待っててね」

冷凍庫にアイスが大量に買いだめしてあるはず。圭吾くんとりこちゃんが好きな時に食べられるように、峻兄ちゃんが箱買いしてきた。でも、圭吾くんたちはしばらくの間は帰ってこれないだろうし、早いとこ食べておかないと消費期限が心配。

冷蔵庫の一番下にある冷凍庫を開くと、白くて冷たい空気が私の顔を撫でた。

抹茶。イチゴ。チョコ。バニラ。パイナップル。

パイナップル?

何それ、私も食べてみたい。

私はパイナップルのカップアイスを取り出した。カップの側面に付いた氷の粒粒が、私の手の中で冷たい水滴になって、何滴か床に落ちた。台所の引き出しから私のスプーンと蓮くんのスプーンを取り出して、私はリビングに戻った。蓮くんは、まだ背中を背もたれに食い込ませたまま。
「蓮くん、半分こしよ?」
私は蓮くんのスプーンを蓮くんに渡して、蓮くんの横に座った。

あ、しまった。

「蓮くん、ごめん。パイナップル苦手だったね」
私はアイスを自分の前のテーブルに置いた。

蓮くんは幼稚園児の時に、パイナップルの棘が指先に刺さってけがをして以来、パイナップルを恐れてきた。

「いや、好き」
蓮くんは私の手を掴んで、オレンジ色のアイスにスプーンを指して口に入れた。


「…好きだよ」
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