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日常のひと時
心の奥に閉じ込めて
しおりを挟むバットは鞄から手の平サイズのメモ帳を取り出して、ペンで滑らかに何かを書きつけると、それを私と蓮くんに見せた。
「俺が鷲山翔飛。で、ウルフは血洗夕牙。」
なんか新鮮な感じ。
「俺、名前、どうしよう」
サファイヤがスマホとにらめっこしているときに、峻兄ちゃんが商品受け取りのところから、丼が乗ったトレーを運ぶように叫んだ。
「お前は、えー、海斗だ。苗字は適当に考えろ」
エメラルドとウルフ、バットが私たちの分まで運びに行ってくれた。テーブルには蓮くんと私とサファイヤが残ってる。
「二人さ、苗字何なの」
峻兄ちゃんたちが美味しそうな丼を運んでくるのが見える。
「俺が成瀬で、佳奈美が渡辺」
「へい、お待ち」
バットが蓮くんの前にアナゴ丼を置いて、私の前にいくら丼を置いてくれた。
「じゃあ、俺、渡瀬海斗にするわ」
全員揃ってから、いただきますをしてすぐに、サファイヤがかつ丼を食べ始めた。
「ねえ、エメラルドは名前どうするの?」
エメラルドは口に運ぼうとしていたお箸を元に戻して、腕を組んで天井を仰いだ。
「…狼谷…碧はどうだ」
「お前、苗字さ、もうちょっと考えたら。単純すぎないか」
峻兄ちゃんはもう、半分くらいまで食べ終えている。
「そんなこと言ったら、田中さんはどうなるんだよ。原さんは?林さんは?」
エメラルドの反論に峻兄ちゃんは何も答えられなくて、そのままかつ丼を食べ始めた。
『ご馳走さまでした』
私たちが全員昼食を食べ終えたのは、時計の針が12時を後数分で指すタイミングだった。値段の割に量が多かったから、美術館のイベントが始まるまでの1時間でもう一品食べられる余裕もない。バットたちが使い終わったトレーを回収棚に戻して、蓮くんと私で燃えるごみをゴミ箱に捨てた。その間、サファイヤとエメラルドが、借りてきた椅子を元あったテーブルのところへ戻しに行っていた。
「思ったよりも早く食べ終わっちゃったね、俺たち」
フードコートを出て、私たちは目当てもなく彷徨い歩いた。ここに来た本来の目的は、買い出しをすることなんだから、イベントが始まる前に済ませてしまったらどうだろう。そうしたら、帰る時間までイベントを楽しめるし。バットたちはベンチに腰を下ろして、背もたれに背中を預けながらスマホをいじくっている。
「ねえ、バット」
バットはスマホを見るのをやめて、私の方を見たけど、右の手の平を私に見せて何も言わずに黙っている。
「ちょっと…待っ…ああ、クソっ」
バットはくしゃみが出そうだったのに出なかったようで、そのむず痒さを払うように頭を若干激しく振った。
「くしゃみ出なかったよ」
そう言って、バットは右手の人差し指で鼻の下をこすった。
「先に買い物済ませようよ。そしたら、皆も美術館のイベントに参加できるでしょ?」
私と、首を縦に振りかけたバットの間にウルフが突然腕を広げて割り込んできた。
「いや、蓮と佳奈美さんだけで行ってきな。俺たちは俺たちで時間つぶすからさ」
ウルフの瞳を観察するように見ていたサファイヤが、何かに気付いたようにニヤリと笑った。
「俺もそれが良いと思う。俺、探索してる。エメラ…碧、お前もついて来いよ」
結局、16時まではサファイヤとエメラルド、峻兄ちゃんは本屋さんで過ごして、吸血鬼ペアは買い出しが終わったらショッピングモール内を適当に散歩して過ごして、蓮くんと私は一階のホールでイベントに参加することになった。16時に入り口近くにある像で待ち合わせることになっている。
左手首に付けた腕時計は、12時5分を指している。
「蓮くん、あと1時間ぐらいあるけど、どこで時間を潰そうか」
ゲーセンからコインのジャラジャラした音が絶えず聞こえてくる。
「あ!」
私は、今日、ここに来たかったもう一つの理由を突然思い出した。
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