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隠された真実
知られざる架け橋
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隠し扉の向こうは、廊下よりも暗くて完全に闇に包まれている。エメラルドの瞳の光で、辛うじて地下に続く階段がうっすらと見えた。
「二人とも、もう声出しても良いよ。外には聞こえない」
エメラルドがゆっくりと5段くらい降りてから、俺達に声を出す許可を出してくれた。エメラルドの声が暗闇に響く。
「お前、何処に行ってる」
「俺の部屋」
エメラルドの部屋が地下室にある?
「なるほどな」
サファイヤの声がエメラルドの瞳から聞こえる。
そうか…エメラルドは婚外子だ。王族扱いをしてもらえなかったっていうのは、こういうことだったのか。
「エメラルド…こんなこと聞くのは申し訳ないけど…地下に閉じ込められていたのならどうやってランドルフやアドルフに出会ったんだ」
百段くらい下り続けていた気がする。エメラルドはようやく、自分の部屋…地下牢に辿り着いた。
「それはね」
エメラルドが柵を開けて自ら地下牢に入っていった。自分は地下牢にいて当然だというように、少しの躊躇いも見せることなく。
「物心ついた頃に、ランドルフ兄上とアドルフ兄上がわざわざ地下牢に来てくれて、地球は大人が噂しているよりも綺麗な星だよって教えに来てくれたんだ」
「アドルフも?」
意外だ。
俺はアドルフが地球を兄弟の中で一番恐れていると思っていたのに。
ガチャン…
エメラルドが地下牢の柵を自ら閉めた。鉄でできたような重い柵の金属音が、鈍く響き渡る。
でも、待てよ。
こいつ、自分で牢に出入りしたぞ…。
こんなの、余裕で抜け出せるじゃないか。
「エメラルド、この地下牢、実質地下牢じゃないだろ」
エメラルドは俺を離すと、自分の足首に重そうな重りがついた鎖を慣れた手つきで巻き付けた。
「そうだよ」
エメラルドは、本当は…閉じ込められている振りをしていた?
「婚外子なら奴隷として働かせられた挙句、過労死するのが常なんだけど。アドルフ兄上とランドルフ兄上が、当時国王だった父上に頼み込んでくれたんだ。弟を殺さないでくれって」
エメラルドが目を瞑った。俺達は闇に包まれた。俺達の呼吸する音を除けば、他は何も聞こえない。音のない、真っ暗な世界。
「幸い、地下牢で過ごすことを許されたんだ。本当なら地下牢からは出られないはずなんだけど、アドルフ兄上がこっそり地下牢の鍵を壊しに来てくれたんだ。俺がいつでも出られるように」
アドルフ…お前、俺が思っていた以上にエメラルドを愛しているじゃないか。国の慣習を破ってまで。
「自分から出ることはしなかったけどな。兄上が咎められるから」
エメラルドが再び目を開いた。ほんの少しだけ、薄緑色に明るくなった。
「アドルフ兄上は、俺に地球を教えてくれた。いつか、兄弟3人で地球に旅行しようって。俺も無邪気にそれを楽しみにしてた」
エメラルドの声が震え始めた。顔はよく見えないが、泣いているのが分かった。
「アドルフ兄上は、お優しい方だ。だから…狂われた…」
「エメラルド、お兄さんに挨拶しなくて良いの」
これ以上、エメラルドに話をさせると可哀想な気がした。エメラルドは、アドルフを恐れているかもしれないけど、決して嫌っていないことは分かる。
「そうだな。行ってくる」
エメラルドは目を拭うと、鎖を外して柵を開けて階段を登っていった。
「ウルフ」
サファイヤの声が階段の方から木霊して聞こえてきた。
「俺がお前に映像として見せてやるから。王国で見せたみたいに。少し待ってろ」
ギイッ…
隠し扉の開く音が、遥か上の方から聞こえた。何も見えない。何も聞こえない。
これが、エメラルドの居場所だった…。
「寂しいな…」
俺の声が暗闇にポツリと力なく響いた。
エメラルドの故郷、獣神国。
彗星の故郷、澄白国。
どちらの星でも、俺達地球の存在は忌避される。
アドルフが即位出来たのは、楓色の絹と水晶を神殿に納めたから。それは、第一王女様の髪の毛と瞳かもしれない。地球を忌み嫌う人が、地球人のおかげで即位出来たとは、何と皮肉なことか。
アドルフは今でこそ地球を恐れている。でも、エメラルドに地球の美しさを語ったのは、紛れもなくアドルフ本人だった。アドルフの過去が、アドルフの変化に影響を与えたことは確実だろう。
アドルフもランドルフもエメラルドを、国の慣習を破ってまで弟として愛している。彼らが子供ながらに全力を尽くして得られた最善の結果が、エメラルドを地下深くの牢に軟禁することだった。エメラルド本人もそれを気にしていないなら、俺が勝手に心配しないほうが良いのだろうか。
『よくぞ生きていたな、ラルフよ』
この声は…?
真っ暗で何も見えないから俺が今目を瞑っているのか開いているのかは分からないが、地味な書斎にエメラルドとランドルフと、もう一人の狼男が立っているのが見えてきた。サファイヤが見せてくれているんだ。
『地球の香りがするが…』
楓色の光を目から発している狼男が、エメラルドと向き合うようにして立っている。こいつが、アドルフか…。
『しばし地球に遊びに行って参りました』
『地球だと…!』
エメラルドから地球という言葉が発された時のアドルフの反応は、ランドルフの時と似ていた。だけど、少し違っていた。
『近寄るな』
アドルフは吐き捨てるように言うと、エメラルドとランドルフを書斎から出ていくように示した。何も言わず、鋭い爪の生えた人差し指で書斎の出口を指差している。エメラルドもランドルフも、最初からそうなることが分かっていたのか、お互いに顔を見合わせて頷くと、アドルフに一礼してから書斎を出た。
『やはり、親友を殺した地球に恨みを抱いているのでしょうか』
エメラルドが隠し扉に手を掛けながら、ランドルフに尋ねた。
親友を…殺された?
『…ああ、お前のペットやらを兄上にはくれぐれも見せないように』
ランドルフはそれだけ言うと、エメラルドに背中を向けて歩き出した。だが、エメラルドが隠し扉を開けた時、ランドルフはエメラルドに背中を向けたまま呼び止めた。
『アドルフ兄上は、ラルフを嫌ってはいない。それだけは承知しておれ』
『…承りました』
「ただいまー」
サファイヤの声が階段の方から聞こえると、映像はプツン、と途切れた。
「二人とも、もう声出しても良いよ。外には聞こえない」
エメラルドがゆっくりと5段くらい降りてから、俺達に声を出す許可を出してくれた。エメラルドの声が暗闇に響く。
「お前、何処に行ってる」
「俺の部屋」
エメラルドの部屋が地下室にある?
「なるほどな」
サファイヤの声がエメラルドの瞳から聞こえる。
そうか…エメラルドは婚外子だ。王族扱いをしてもらえなかったっていうのは、こういうことだったのか。
「エメラルド…こんなこと聞くのは申し訳ないけど…地下に閉じ込められていたのならどうやってランドルフやアドルフに出会ったんだ」
百段くらい下り続けていた気がする。エメラルドはようやく、自分の部屋…地下牢に辿り着いた。
「それはね」
エメラルドが柵を開けて自ら地下牢に入っていった。自分は地下牢にいて当然だというように、少しの躊躇いも見せることなく。
「物心ついた頃に、ランドルフ兄上とアドルフ兄上がわざわざ地下牢に来てくれて、地球は大人が噂しているよりも綺麗な星だよって教えに来てくれたんだ」
「アドルフも?」
意外だ。
俺はアドルフが地球を兄弟の中で一番恐れていると思っていたのに。
ガチャン…
エメラルドが地下牢の柵を自ら閉めた。鉄でできたような重い柵の金属音が、鈍く響き渡る。
でも、待てよ。
こいつ、自分で牢に出入りしたぞ…。
こんなの、余裕で抜け出せるじゃないか。
「エメラルド、この地下牢、実質地下牢じゃないだろ」
エメラルドは俺を離すと、自分の足首に重そうな重りがついた鎖を慣れた手つきで巻き付けた。
「そうだよ」
エメラルドは、本当は…閉じ込められている振りをしていた?
「婚外子なら奴隷として働かせられた挙句、過労死するのが常なんだけど。アドルフ兄上とランドルフ兄上が、当時国王だった父上に頼み込んでくれたんだ。弟を殺さないでくれって」
エメラルドが目を瞑った。俺達は闇に包まれた。俺達の呼吸する音を除けば、他は何も聞こえない。音のない、真っ暗な世界。
「幸い、地下牢で過ごすことを許されたんだ。本当なら地下牢からは出られないはずなんだけど、アドルフ兄上がこっそり地下牢の鍵を壊しに来てくれたんだ。俺がいつでも出られるように」
アドルフ…お前、俺が思っていた以上にエメラルドを愛しているじゃないか。国の慣習を破ってまで。
「自分から出ることはしなかったけどな。兄上が咎められるから」
エメラルドが再び目を開いた。ほんの少しだけ、薄緑色に明るくなった。
「アドルフ兄上は、俺に地球を教えてくれた。いつか、兄弟3人で地球に旅行しようって。俺も無邪気にそれを楽しみにしてた」
エメラルドの声が震え始めた。顔はよく見えないが、泣いているのが分かった。
「アドルフ兄上は、お優しい方だ。だから…狂われた…」
「エメラルド、お兄さんに挨拶しなくて良いの」
これ以上、エメラルドに話をさせると可哀想な気がした。エメラルドは、アドルフを恐れているかもしれないけど、決して嫌っていないことは分かる。
「そうだな。行ってくる」
エメラルドは目を拭うと、鎖を外して柵を開けて階段を登っていった。
「ウルフ」
サファイヤの声が階段の方から木霊して聞こえてきた。
「俺がお前に映像として見せてやるから。王国で見せたみたいに。少し待ってろ」
ギイッ…
隠し扉の開く音が、遥か上の方から聞こえた。何も見えない。何も聞こえない。
これが、エメラルドの居場所だった…。
「寂しいな…」
俺の声が暗闇にポツリと力なく響いた。
エメラルドの故郷、獣神国。
彗星の故郷、澄白国。
どちらの星でも、俺達地球の存在は忌避される。
アドルフが即位出来たのは、楓色の絹と水晶を神殿に納めたから。それは、第一王女様の髪の毛と瞳かもしれない。地球を忌み嫌う人が、地球人のおかげで即位出来たとは、何と皮肉なことか。
アドルフは今でこそ地球を恐れている。でも、エメラルドに地球の美しさを語ったのは、紛れもなくアドルフ本人だった。アドルフの過去が、アドルフの変化に影響を与えたことは確実だろう。
アドルフもランドルフもエメラルドを、国の慣習を破ってまで弟として愛している。彼らが子供ながらに全力を尽くして得られた最善の結果が、エメラルドを地下深くの牢に軟禁することだった。エメラルド本人もそれを気にしていないなら、俺が勝手に心配しないほうが良いのだろうか。
『よくぞ生きていたな、ラルフよ』
この声は…?
真っ暗で何も見えないから俺が今目を瞑っているのか開いているのかは分からないが、地味な書斎にエメラルドとランドルフと、もう一人の狼男が立っているのが見えてきた。サファイヤが見せてくれているんだ。
『地球の香りがするが…』
楓色の光を目から発している狼男が、エメラルドと向き合うようにして立っている。こいつが、アドルフか…。
『しばし地球に遊びに行って参りました』
『地球だと…!』
エメラルドから地球という言葉が発された時のアドルフの反応は、ランドルフの時と似ていた。だけど、少し違っていた。
『近寄るな』
アドルフは吐き捨てるように言うと、エメラルドとランドルフを書斎から出ていくように示した。何も言わず、鋭い爪の生えた人差し指で書斎の出口を指差している。エメラルドもランドルフも、最初からそうなることが分かっていたのか、お互いに顔を見合わせて頷くと、アドルフに一礼してから書斎を出た。
『やはり、親友を殺した地球に恨みを抱いているのでしょうか』
エメラルドが隠し扉に手を掛けながら、ランドルフに尋ねた。
親友を…殺された?
『…ああ、お前のペットやらを兄上にはくれぐれも見せないように』
ランドルフはそれだけ言うと、エメラルドに背中を向けて歩き出した。だが、エメラルドが隠し扉を開けた時、ランドルフはエメラルドに背中を向けたまま呼び止めた。
『アドルフ兄上は、ラルフを嫌ってはいない。それだけは承知しておれ』
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