『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

文字の大きさ
96 / 213
隠された真実

知られざる架け橋

しおりを挟む
隠し扉の向こうは、廊下よりも暗くて完全に闇に包まれている。エメラルドの瞳の光で、辛うじて地下に続く階段がうっすらと見えた。

「二人とも、もう声出しても良いよ。外には聞こえない」
エメラルドがゆっくりと5段くらい降りてから、俺達に声を出す許可を出してくれた。エメラルドの声が暗闇に響く。

「お前、何処に行ってる」
「俺の部屋」

エメラルドの部屋が地下室にある?

「なるほどな」
サファイヤの声がエメラルドの瞳から聞こえる。
そうか…エメラルドは婚外子だ。王族扱いをしてもらえなかったっていうのは、こういうことだったのか。

「エメラルド…こんなこと聞くのは申し訳ないけど…地下に閉じ込められていたのならどうやってランドルフやアドルフに出会ったんだ」

百段くらい下り続けていた気がする。エメラルドはようやく、自分の部屋…地下牢に辿り着いた。

「それはね」
エメラルドが柵を開けて自ら地下牢に入っていった。自分は地下牢にいて当然だというように、少しの躊躇いも見せることなく。

「物心ついた頃に、ランドルフ兄上とアドルフ兄上がわざわざ地下牢に来てくれて、地球は大人が噂しているよりも綺麗な星だよって教えに来てくれたんだ」

「アドルフも?」

意外だ。

俺はアドルフが地球を兄弟の中で一番恐れていると思っていたのに。

ガチャン…

エメラルドが地下牢の柵を自ら閉めた。鉄でできたような重い柵の金属音が、鈍く響き渡る。

でも、待てよ。

こいつ、自分で牢に出入りしたぞ…。

こんなの、余裕で抜け出せるじゃないか。

「エメラルド、この地下牢、実質地下牢じゃないだろ」
エメラルドは俺を離すと、自分の足首に重そうな重りがついた鎖を慣れた手つきで巻き付けた。

「そうだよ」

エメラルドは、本当は…閉じ込められている振りをしていた?

「婚外子なら奴隷として働かせられた挙句、過労死するのが常なんだけど。アドルフ兄上とランドルフ兄上が、当時国王だった父上に頼み込んでくれたんだ。弟を殺さないでくれって」

エメラルドが目を瞑った。俺達は闇に包まれた。俺達の呼吸する音を除けば、他は何も聞こえない。音のない、真っ暗な世界。

「幸い、地下牢で過ごすことを許されたんだ。本当なら地下牢からは出られないはずなんだけど、アドルフ兄上がこっそり地下牢の鍵を壊しに来てくれたんだ。俺がいつでも出られるように」

アドルフ…お前、俺が思っていた以上にエメラルドを愛しているじゃないか。国の慣習を破ってまで。

「自分から出ることはしなかったけどな。兄上が咎められるから」

エメラルドが再び目を開いた。ほんの少しだけ、薄緑色に明るくなった。

「アドルフ兄上は、俺に地球を教えてくれた。いつか、兄弟3人で地球に旅行しようって。俺も無邪気にそれを楽しみにしてた」

エメラルドの声が震え始めた。顔はよく見えないが、泣いているのが分かった。

「アドルフ兄上は、お優しい方だ。だから…狂われた…」

「エメラルド、お兄さんに挨拶しなくて良いの」
これ以上、エメラルドに話をさせると可哀想な気がした。エメラルドは、アドルフを恐れているかもしれないけど、決して嫌っていないことは分かる。

「そうだな。行ってくる」
エメラルドは目を拭うと、鎖を外して柵を開けて階段を登っていった。
「ウルフ」
サファイヤの声が階段の方から木霊して聞こえてきた。
「俺がお前に映像として見せてやるから。王国で見せたみたいに。少し待ってろ」

ギイッ…

隠し扉の開く音が、遥か上の方から聞こえた。何も見えない。何も聞こえない。

これが、エメラルドの居場所だった…。

「寂しいな…」
俺の声が暗闇にポツリと力なく響いた。


エメラルドの故郷、獣神国。
彗星の故郷、澄白国。
どちらの星でも、俺達地球の存在は忌避される。

アドルフが即位出来たのは、楓色の絹と水晶を神殿に納めたから。それは、第一王女様の髪の毛と瞳かもしれない。地球を忌み嫌う人が、地球人のおかげで即位出来たとは、何と皮肉なことか。

アドルフは今でこそ地球を恐れている。でも、エメラルドに地球の美しさを語ったのは、紛れもなくアドルフ本人だった。アドルフの過去が、アドルフの変化に影響を与えたことは確実だろう。

アドルフもランドルフもエメラルドを、国の慣習を破ってまで弟として愛している。彼らが子供ながらに全力を尽くして得られた最善の結果が、エメラルドを地下深くの牢に軟禁することだった。エメラルド本人もそれを気にしていないなら、俺が勝手に心配しないほうが良いのだろうか。

『よくぞ生きていたな、ラルフよ』

この声は…?

真っ暗で何も見えないから俺が今目を瞑っているのか開いているのかは分からないが、地味な書斎にエメラルドとランドルフと、もう一人の狼男が立っているのが見えてきた。サファイヤが見せてくれているんだ。

『地球の香りがするが…』

楓色の光を目から発している狼男が、エメラルドと向き合うようにして立っている。こいつが、アドルフか…。

『しばし地球に遊びに行って参りました』
『地球だと…!』

エメラルドから地球という言葉が発された時のアドルフの反応は、ランドルフの時と似ていた。だけど、少し違っていた。

『近寄るな』

アドルフは吐き捨てるように言うと、エメラルドとランドルフを書斎から出ていくように示した。何も言わず、鋭い爪の生えた人差し指で書斎の出口を指差している。エメラルドもランドルフも、最初からそうなることが分かっていたのか、お互いに顔を見合わせて頷くと、アドルフに一礼してから書斎を出た。


『やはり、親友を殺した地球に恨みを抱いているのでしょうか』

エメラルドが隠し扉に手を掛けながら、ランドルフに尋ねた。

親友を…殺された?

『…ああ、お前のペットやらを兄上にはくれぐれも見せないように』

ランドルフはそれだけ言うと、エメラルドに背中を向けて歩き出した。だが、エメラルドが隠し扉を開けた時、ランドルフはエメラルドに背中を向けたまま呼び止めた。

『アドルフ兄上は、ラルフを嫌ってはいない。それだけは承知しておれ』

『…承りました』

「ただいまー」
サファイヤの声が階段の方から聞こえると、映像はプツン、と途切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...