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隠された真実
桜と狼の少年時代
しおりを挟むエメラルドは牢の柵を開けて中に入ると、自分の足首に重りのついた鎖を巻き付けた。
「エメラルド…お前」
何と声をかけたら良いのか分からない。地球という言葉を口に出した途端、挨拶もままならないままアドルフに拒絶されたところを、俺はサファイヤを通じて見ていただけだ。
「ああ、心配するな。アドルフ兄上のこと、知りたいだろ」
エメラルドはさっきの事を全く気にかけていない。
「親友を殺されたって…」
サファイヤはじっと黙ったまま、まだエメラルドの瞳の中にいる。エメラルドの緑色の光が、常夜灯みたいに暗闇を照らしている。
「アドルフ兄上の親友は、地球人だったんだ」
「へ?」
俺の中で、アドルフに彗星の姿が重なった。
「10年くらい前かな…」
エメラルドは、アドルフの過去を語り始めた。
エメラルドの瞳は、俺の姿をボンヤリと照らしていた。
「兄上は10歳の時、父上と大喧嘩して家出した。あまりに帰りが遅いから、ランドルフ兄上が迎えに行こうとしたんだ。その矢先にアドルフ兄上が嬉しそうな顔で戻ってきた。地球に友達が出来たって。大人が言う、地球人は愚かだっていうのは、やっぱり間違っていたって」
エメラルドの緑色の瞳が暗闇を、蛍のように優しく、何処か寂しげに照らしている。
「俺さ、一瞬で帰されちゃったけど、アドルフの瞳から多分その親友との記憶を読み取れたから、見せようと思うんだけど」
サファイヤの言葉に、エメラルドが首を縦に振って目を瞑ると、視界は再び闇に包まれた。
『お前、犬?』
…これは、アドルフの記憶の中の声?
俺、この声に聞き覚えがあるぞ?
『ううん、狼』
会話の内容からして、狼だと答えたほうがアドルフの声だろう。今は心臓まで響くような低い声だが、ガキの頃は子猫みたいな可愛い声をしていたようだ。
『え、喋った?!』
ボヤケていた記憶の映像が、段々と鮮明に見え始めた。
一匹の小さな狼が小学生中学年くらいの男の子を見上げている。下校中だろう。オレンジがかった太陽の光が二人を照らして、道に二人の影がニョキッと伸びている。男の子はランドセルを背負って、狼…アドルフを子犬みたいに撫でている。
…こいつ…?!
『君、名前何ていうの?俺は桜大』
…桜大?!
あの、楓を迎えに行っている、あの桜大か?
峻兄さんの友達だった、あの桜大か?
10歳の時に交通事故で亡くなった、あの桜大か?
間違いない。同姓同名なんかじゃない。
こいつは、正真正銘の桜大だ…。
『僕はアドルフ』
アドルフは短い尻尾を激しく振って、ピョンピョンと跳ねながら桜大を見上げている。
桜大が…アドルフの親友だった?
『俺、この後塾があるから帰らないといけないけど…明日はスイミングがあるし…そうだ、明後日の夜、俺の家においでよ。遊ぼ?』
嫌な予感がする…。
『分かった。桜大の匂いを辿れば家に行けるから。バイバイ』
桜大が手を振って、ランドセルを揺らしながら夕方の色に染まった住宅街を駆けていく。アドルフは、桜大の姿が小さくなって見えなくなるまで見送ると、フット姿を消した。
「兄上…?桜大…?」
映像が途切れた。エメラルドは遠い所を見つめるように、ボウっと虚空を見つめている。
「エメラルド、アドルフの親友って…」
「桜大…だった…?」
筋は通る。
おそらく、桜大は間もなく交通事故に遭って命を落とす。記憶の映像の次の日くらいに…。
きっと、約束通り地球にやってきたアドルフは、桜大の遺体を目の当たりにした…。
だから、親友を殺した地球を憎んだ?
或いは、地球は親友の死を思い出させるから、避けるようになった?
スゥーッ…
サファイヤが息を吸ったのが聞こえた。
「俺が読み取れたのはここまでだ。この先は…どうしようか…」
カツ…カツ…
誰かが地下牢に降りてくる。
アドルフか……?!
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