『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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静かなる暴走

異変の覚醒

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「何だよ、エメラルド。どうした」

エメラルドは普段、冷静沈着であるが故に、エメラルドの何かに恐れ慄く様子は俺達にとっては見慣れないものだ。

「…え」

おかわりのデザートを貰いに、小皿を持って立ち上がったサファイヤが、中腰のまま楓を見つめていた。サファイヤが小皿をそっと机の上に置いた。

「あの黒いやつ…」

サファイヤがそう口にした途端、エメラルドが机に両手を付いて勢い良く立ち上がり、楓を目掛けて全速力で走り出した。


ガタン!


エメラルドの座っていた椅子が倒れた音に、食堂が静まり返った。

『エメラルド、どうしたの?』

晴馬と悠馬が、2人並んでエメラルドの後ろ姿を不思議そうに見送っている。


「え…あ…?なんですか?」

楓は、物凄い形相でいきなり自分を目掛けて走ってきたエメラルドに、戸惑いを隠せず、一裕と彗星の間でオロオロしていた。

「おい、お前…」

楓を食わんとするばかりの勢いのエメラルドを止めに、蓮が間に立とうとしたが、エメラルドはそれを押しのけて、楓を無理やり立たせたかと思えば、四つん這いにさせて背中を強く叩き始めた。エメラルドに押し退けられた蓮は、そのまま後ろに倒れて、佳奈美さんが座っている椅子の脚に背中を思い切りぶつけた。

「え、ちょっとお前、何してんの!」

バットが慌てて、エメラルドのもとに駆け寄る。賑やかだった食堂が騒然とする。

「吐け!早く!」

エメラルドは目の色を変えて、四つん這いになっている楓の背中に向かって怒鳴る。一裕と彗星がエメラルドを止めようとしたが、エメラルドの隣に立って様子を見守っていたサファイヤが2人を冷静に止めた。

『どうされました?!』

厨房の方から、中村が慌てた様子で走ってきた。エプロンが中途半端に脱がれた状態のままだ。ただならぬ様子に驚いた圭吾たち何人かの火の玉が、厨房にいた中村を呼びに行ったのだ。

「袋を!バケツでも良いです!」

俺が見るに、楓の体調は悪くはなさそうなのだが。気になるのは、口から出ている黒い煙だけだ。

「え…なんで?」

楓は四つん這いになったまま、エメラルドを見上げて戸惑った表情を見せている。

中村と夜桜が、掃除箱から大きめの袋とバケツを持って走ってきた。

「吐け!楓!」

エメラルドは四つん這いになっている楓の口に袋の口を当て、吐け、吐けと怒鳴り続ける。戸惑った表情を見せる楓に、サファイヤが一歩近付いた。黒い煙は絶えず、楓の口からモクモク上がっている。

「君は…楓くんじゃないね?」
「う…」

サファイヤにそう言われた途端、楓は拒絶反応を見せるように、口を押さえてガタガタと震え始めた。楓の額から、冷や汗が濁流のように流れている。エメラルドが、口を押さえている楓の口を無理やり剥がして叫んだ。

「出てこい!黒憶虫!」
「う…オエッ!」

透明な袋の中に、楓の口から漆黒の吐瀉物が流れ込む。

『ひっ…』

俺の後ろにいた晴馬と悠馬が、俺の服の中に潜り込んだ。

何だ…この…ゲロ。

今までにも、学校で友達が給食の後に吐いたり、自分が吐いたりしたこともあったが、こんなに泥みたいに真っ黒なゲロは見たことがない。


「オエッ!う…う…ぇっ!」

楓は咳き込みながら、漆黒のゲロを吐いていく。

「駄目だ!足りない!」

エメラルドの持っている袋が、黒い吐瀉物で満パンになり始めた。エメラルドは、ゲロが一瞬だけ口から出てこなくなる隙をついて、袋を楓の口から離し、楓の口の下に、中村が持ってきたバケツを用意した。


「はあ…はあ…はあ…」

楓は10分もの間、吐き続けた。バケツの中の真っ黒な吐瀉物が、まるで生きているように蠢いている。

「逃げろ!お前ら、早く!」

バケツの中から、黒い煙のようなものが登ってくる。ゲロ特有の刺激臭は全くない。寧ろ、雨が降った日の土の匂いみたいな湿った匂い。エメラルドは、楓の周りを2メートルくらい離れた距離から円になって見守っている火の玉たちに向かって怒鳴った。

『え…何で?』

俺は晴馬たち火の玉を夜桜に頼んで、食堂の外に連れて行ってもらった。晴馬がウルフは来ないのかと言ってきたが、俺はこの状況に向き合わないといけないと半ば衝動的に思った。

ほとんどの火の玉は、戸惑いながらも中村に食堂の外に連れていかれたが、火の玉も子供だ。ダメと言われたらしたくなる子だっているのだ。

『この黒いやつ、なに?』

三人くらいの火の玉が、黒い煙に近づいた。

「やめろ、馬鹿…」

エメラルドが手を伸ばして三人を止めようとしたが、既に手遅れだった。

真っ黒な煙が、三人を包んだ。

その瞬間。

『死にたくない…嫌だ!』
『怖い…怖い…』
『ママ…パパ…どこ?』

三人は、昨晩悪夢に唸っていた晴馬と悠馬と同じように、泣き始めた。

「あ…」

楓が三つの火の玉を見て、申し訳なさそうな表情を見せたかと思うと、バケツの中のゲロを飲もうと色白の細い腕でバケツを持ち上げて口に近づけた。

「何してんだよ!」

俺は咄嗟に楓からバケツを取り上げた。楓がバケツに手を伸ばそうとするのを、エメラルドが必死に止めている。

「まだそこにいる…どうしよう…このままだと」

エメラルドの瞳が、絶望に歪んでいた。

「心臓を手術できる人はいませんか!?」

エメラルドは楓を取り押さえたまま、食堂の外から火の玉たちと俺たちの様子を伺っていた中村に叫んだ。

『います!転生受付所の同僚に一人!』

中村が食堂の外から声を張り上げて叫んだ。

「今すぐ連れてきてください!」

エメラルドがそう叫ぶと、中村は火の玉たちを夜桜に頼むと、スタッフ室に向かって走り出した。
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