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真実との対峙
眠れる記憶よ、目覚めの時だ
しおりを挟むゴンミョンが立っているはずの場所には、血にまみれた知らない人間が立っていた。粉々に砕けた、パイロットが着けるようなゴーグルが、赤い彼の顔にへばり付いている。
「何…。ソクヒョン、どうした」
彼からゴンミョンの声がする。彼が俺を心配して手を伸ばしてくれたが、俺は彼の手を取れず、数歩後退りした。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
俺の心臓の音がガンガンと鳴り響く。
「誰……」
胸が苦しい。息が出来ない。
俺の肺が精一杯空気を吸い込もうとしても、空気がとても苦くて重く感じた。俺は、俺を見つめる彼の声が怖くて俯いて目を逸らさずには居られなかった。
「ソクヒョン!!」
空気を破るような彼の泣き叫ぶような怒鳴り声。俺は思わず顔を上げた。
「あ……良かった。ゴンミョン…」
彼が立っていた場所には、ゴンミョンがいた。ゴンミョンは泣きそうな表情で俺を見ている。トユンとビョングォンは呆気に取られたような表情で呆然と立ちすくしている。ミンホとアローは、怯えたような表情で縮こまっている。
「ソクヒョン」
ソンイルが、いつになく優しくて、でも何処か苦しそうな声で俺を呼んだ。ソンイルは俺の肩に自分の右手を置いた。ソンイルの温かくて大きな手が、プルプルと小さく震えている。
「デビュー直後だからって気にすることはない。取り返しのつかないことになる前に、活動休止でも…」
俺達がデビューしてから1か月も経っていない。
「いや…違う。そうじゃなくて…」
その間、俺は昨晩見た夢を思い出していた。
俺は不思議なくらいに冷静に、今起こったことを分析していた。
俺は今まで、どうやら何度か前世の記憶の片鱗を悪夢という形で見てきたらしい。サファイヤ曰く、驚くべきことに、俺の前世はドラゴンだった。もしも、俺がそれを知ったことで、ドラゴンの異能が俺に目覚めかけてるなら…。もしも、ドラゴンに、誰かの前世を見ることが出来る能力があるなら…。
ゴンミョンの前世では空軍の兵士で、戦死したことを俺は見てしまったことになるのか…?
あ。
今朝のゴタゴタで、台所に移動させられなくて今も寝室に置いてある水槽が、リビングの扉の隙間から見えた。
小さな金魚が一匹、俺の方を静かに見つめていた。
白い太陽の光が、水槽の中を揺ら揺らと照らす。
オレンジ色の鱗は、ラメのように輝いている。
一見、何の変哲もない金魚。
だが、その瞳は水色。
サファイヤが来た。
いったい、いつの間に来たのか。
彼は何かを言うわけでもなく、俺たちのやり取りの一部始終を黙って見守っていた。彼は、普通の金魚の振りをすることに徹していた。
それは、何の予兆もない、突然のことだった。
パキン……
右耳の奥の方で、聞いたことのない音がした。それはまるで、この世界を覆っていた結界が割れたような音だった。静かなのに、海の底まで響きそうな深い音。サファイヤの瞳から、一瞬にして水色の光が放たれた。
その閃光に目が眩む。
頭を斧で割られるような頭痛がして、悪夢の記憶が蘇る。
例のノイズが喧しく脳裏を駆け巡る。
血なまぐさい煙が、全身を包む感覚。
両足に力が入らない。床がまるでスライムになったようだ。
天井がグルグルと回る。
俺に駆け寄る皆の姿が歪み、表情すら分からない。
ただ、皆が何度も俺の名前を叫ぶ声だけは鮮明に聞こえた。
『李龍臣』
もはや視界は、歪んで、汚い煙のように見えていた。俺の耳に流れ込んだサファイヤの声は、澄んだ水のようだった。
『いってらっしゃい』
その瞬間、世界は闇に呑まれ、一切の音が途絶えた。
世界が事切れた。
何も見えない世界で、俺は不思議なくらいに穏やかな気持ちで、世界が息絶える瞬間を看取った。
気が付けば俺は、たった独りでガラ空きの映画館の隅の方にいた。
50人も座れないほどの小さな映画館。
俺の呼吸音が聞こえる。
俺の心臓の響きが全身に伝わり、俺の身体がごく僅かに揺れる。
冷房が効きすぎているのか、半ズボン半袖姿だった俺は鳥肌が収まらない。
赤茶色の柔らかそうな座席が、狭い映画館に整然と並んでいる。
これも夢なのか…?
フッ…
映画館の照明が消えた。小さな映画館には不釣り合いな大きなスクリーンだけが、眩しく白く光っている。
気付けば俺は、その画面の目の前に立っていた。俺が自らそうしたわけではないのに。俺は狐に摘まれたような気分になった。
ザァ……
不気味なほど真っ白だったスクリーンに、灰色の砂嵐が流れた。そこには、赤文字で大きく警告文のようなものが映し出されていた。それは、俺が知る限り地球上の言語ではなかった。なのに、どういう訳か、それが伝えようとする意味が直感的に分かった。
『前世記憶残存症候群治療法にご協力頂き、誠にありがとうございます。今からお見せする映像は、患者様の無意識下の記憶を忠実に再現したものです。治療を受けたことで、今後の生活に影響は無いことを保証します』
スクリーンに、『拒否する』と『了承する』という意味であろう言葉が2つ並んでいる。恐らく、俺が自分でどちらかを選ばないといけない。いずれにせよ、早くこの映画館から出ないといけない。それに、俺を苦しめるあの悪夢のような前世の記憶が無くなるならば、俺にとっては寧ろ好都合だ。
俺がスクリーンに近づいて『了承する』をタップしようとした時、俺は背後から誰かに呼び止められた。爽やかだけど重厚感があって、威厳もある若い男性の声だった。
振り向くと、俺のすぐ後ろに、筋肉質で背の高い、髪を緑色と銀色に染めた20歳くらいの男性が立っていた。髪色と声に相応しい爽やかな笑顔を浮かべている。
「貴方がイ・ソクヒョンさんですね」
彼は上品な笑顔で、俺にそう言った。
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