ステータスなしの元人気メンタリスト、異世界の最強ドラゴンをお手だけで服従させる~目を見ただけで思考が読めるので、魔法使いが詠唱してくれません

マーマー

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第4章第6節 形勢逆転

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「……彼女の力が制御できないのは、それが人の身に余る『神代の力』だからです。……だからこそ、聖女エリナ様は彼女を保護し、その力の覚醒を慎重に見守っておられるのです。……その深遠な配慮を、貴方がたは踏みにじるおつもりですか?」

 レンは、静まり返った法廷で、壇上の裁判長を見据えながら、低い声で言い放った。

 (……言っちゃった。もう後戻りはできない。頼む、信じてくれ、いや、信じなくてもいい、判断を迷ってくれ……!)

 レンの内心は悲鳴を上げていた。左手の鎖は鉛のように重く、全身から嫌な汗が噴き出している。胃酸が逆流し、喉の奥が焼けつくようだ。今すぐトイレに駆け込みたい衝動が、波のように押し寄せてくる。

 そんなレンの必死のハッタリ(「アリア=深淵の巫女」説)は、予想以上の効果を発揮していた。
 数百人の異端審問官たちが、互いに顔を見合わせ、ひそひそと声を交わし始めている。
「……深淵の巫女? 聞いたことがないぞ……」
「……だが、あの賢者が断言するのだ。もしや、我々が知らないだけの、秘密の伝承があるのでは……?」
「……聖女様が保護されていたというのも、事実だ。もしそれが『神代の力』だとしたら……」
 集団心理が、揺らぎ始めている。彼らは「確固たる信念」を持っているわけではない。ただ、強い者に従っているだけだ。その「強者」の定義が、今、揺らいでいるのだ。

 そして、最も重要なターゲットである裁判長。老獪な神官は、眉間の皺を深くし、視線を宙に泳がせていた。その視線が、無意識のうちに、自らの胸元にある「聖印のネックレス」へと落ちるのを、レンは見逃さなかった。
 (……効いてる。「未知への恐怖」と「宗教的タブー」。……得体の知れないものを前にして、判断を保留したがっている)

 レンは、この機を逃さなかった。
「……皆様、よくお考えください。もし、彼女の力が本当に『神の意志』によるものだとしたら……それを人の手で裁くことが、どれほどの不敬にあたるか。……もし、誤った判断を下せば、この国にどのような災厄が降りかかるか……」
 レンは、ゆっくりと法廷内を見渡し、一人一人の目を見つめるようにして語りかけた。
「……貴方は、その責任を負えますか? ……貴方は? ……そして、裁判長、貴方は?」
 名指しされた審問官たちが、次々と視線を逸らしていく。彼らは「責任」という言葉に弱い。

 (……よし、流れが変わった。……完全にこっちのペースだ)

 レンが内心でガッツポーズをした、その時だった。

「……フン。……なるほど。……さすがは、大陸中に名を轟かす賢者殿。……口が達者なことだ」

 壇上から、拍手の音が響いた。
 裁判長の隣に座っていた、左端の陪席判事――痩せこけた頬に、鋭い眼光を宿した男が、ゆっくりと立ち上がっていた。

「……だが、貴様の言葉には、決定的な『証拠』が欠けている」

 男の声は、乾いた砂のように冷たかった。
 レンは、瞬時に観察(スキャン)を開始した。
 (……こいつは、誰だ? ……裁判長とは違う。……目が死んでる。……感情がない。……これは、理屈が通じないタイプだ)

「……私は、異端審問局の特別監査官、ロキだ。……賢者殿。貴様の主張が真実だと言うのなら、その『深淵の巫女』の力を、今ここで証明してみせよ」
 ロキは、懐から小さな水晶玉を取り出した。
「……これは、魔力の本質を見極める『神託の水晶』。……もし彼女の力が神代のものなら、この水晶は白く輝くはずだ。……だが、もし不浄な魔女の力なら……黒く濁る」

 ロキは、水晶玉を被告人席のアリアに向けて差し出した。
「……さあ、証明してみせよ。……できなければ、その場で火刑だ」

 法廷の空気が、再び凍りついた。
 レンの心臓が、早鐘を打つ。

 (……やばい。……完全に詰んだ。……アリアの魔力は、どう見ても『深淵(中二病)』カラーのドス黒い魔力だ。……水晶が黒く濁るのは確定。……終わった……)

 レンは絶望した。自分のハッタリが、最悪の形で跳ね返ってきたのだ。

「……フフフ。……望むところよ!」

 しかし、アリアは、首輪の痛みに耐えながら、ニヤリと笑った。
「……私の深淵なる力が、そのような俗物で測れると思わないことね。……見よ! これぞ、神代の輝き!」

 アリアが、両手を水晶玉にかざした。
 その瞬間。
 カッ!!
 と、法廷内が、目も眩むような閃光に包まれた。

「……なっ!? ……これは……!?」
「……目が! ……目がぁぁぁ!」
 審問官たちが悲鳴を上げて目を覆う。

 光が収まった後、そこには、驚くべき光景が広がっていた。
 ロキの手にある水晶玉は、真っ二つに割れていた。
 そして、アリアの首につけられていた「魔封じの首輪」が、粉々に砕け散り、床に散乱していた。

「……な、何が起きた……!?」
 裁判長が、震える声で呟いた。

「……フン。……言ったはずよ」
 アリアが、自由になった首をさすりながら、不敵に笑った。
「……私の力は、俗物には測れないと。……どうやら、その器では、私の深淵を受け止めきれなかったようね」

 (……えっ? ……何これ? ……どういうこと? ……まさか、本当にアリアが……?)

 レンは、呆気にとられていた。アリアの魔力が、首輪の封印を自力で突破した? しかも、鑑定水晶まで破壊した?
 いや、違う。レンの観察眼が、ある事実を捉えていた。

 (……違う。……アリアの魔力じゃない。……この破壊の痕跡、そして、床に残った微かな魔力の残滓……。……これは、もっと別の、圧倒的に強大で、それでいて繊細な……)

 レンの視線が、法廷の入り口付近に向けられた。
 そこには、いつの間にか、一人の人物が立っていた。
 純白の修道服に身を包み、後光が差すような圧倒的な存在感を放つ少女――聖女エリナが。

「……騒がしいですわね。……私の離宮の庭先で、何事ですの?」
 エリナが、鈴を転がすような声で言った。その声は、法廷の隅々まで届き、全員の動きを止めた。

「……せ、聖女様……!?」
 裁判長が、椅子から転げ落ちるようにしてひれ伏した。他の審問官たちも、次々と平伏していく。

 エリナは、ゆっくりと法廷の中央へと歩みを進めた。彼女の周囲の空間だけが、異質なほどに清浄な空気に満ちている。
 彼女は、真っ直ぐにレンの元へと歩み寄り、その手を取った。

「……レン様。……お待たせいたしました。……教皇猊下との謁見が、長引いてしまいまして」
 エリナは、愛おしそうにレンの手を撫でた。その仕草は、完全に「恋人」のそれだ。

「……あ、ああ。……エリナ、君が……?」
 レンが、小声で尋ねた。
「……ええ。……少し、お手伝いをさせていただきましたわ」
 エリナは、ニッコリと微笑んだ。

 そう。水晶と首輪を破壊したのは、アリアではない。エリナが、遠隔から圧倒的な魔力干渉を行い、物理的に破壊したのだ。

「……さて。……裁判長、それに監査官ロキ。……これは、どういうことですの?」
 エリナの声から、感情の色が消えた。
 彼女は、冷たい瞳で、壇上の老人たちを見上げた。

「……私の大切な客人を、このような場所に連行し、あまつさえ、不敬な嫌疑をかけるとは。……私への挑戦と受け取ってよろしいのかしら?」

 法廷内の空気が、一変した。
 それは、レンのハッタリによる混乱とは違う。本物の「強者」が放つ、圧倒的な威圧感による支配だった。

 (……うわぁ。……ラスボス登場だ。……これで勝ったも同然だけど……)

 レンは、エリナに手を握られたまま、別の意味で恐怖していた。
 彼女の助けはありがたいが、それは同時に、「彼女の支配がより強固になった」ことを意味する。

 「魔女裁判」は、予想外の乱入者によって、新たな局面を迎えた。
 そして、レンの「聖教国での胃痛ライフ」は、ますます深刻化していくのだった。
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