異世界勇者のアフターライフ

あきょう

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異世界勇者、世界を楽しむ

勇者、デートする。あと身バレする。

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「あれ?シモンくんじゃんおひさおひさ!携帯買った?」

 ある日の平日。信吾が学校に行っていて、俺の仕事もやることが無くなってしまったのでブラブラと仙台駅のアーケードを歩いていたら、焼津の姐さんに出会った。

「おお、焼津の姐さん。この通り」

 俺は自分のスマホを取り出し、姐さんに見せた。先ほど買ったばかりの新品だ。

「いいじゃんいいじゃん。じゃあちょっと貸しな」

 そういってた姐さんにスマホを渡すと、なにやらスイスイ動かしてから返してくれた。

「アタシの連絡先。今度約束の町案内と、飯食いに行くよ!」

「おお、いいな!頼む!」

 そういって、その場は焼津の姐さんと別れ、画面越しの話が始まった。結構筆まめというか、暇なのかわからないが、姐さんの返信速度はだいぶ早く、またこちらへの連絡も欠かさないのでついつい話しがちになってしまう。

 この技術を向こうへ持って行けたのならこのような友人間との話はもちろん恋人同士や軍事利用まで様々な利用方法が湯水のように思い浮かぶ。そうなった俺は発明の父として未来永劫称えられるだろう。是非とも解析、魔力による応用を実現したいものだ。

 そんな感じでこの世界の技術力に思いを馳せつつ、焼津の姐さんと文章交流をしているうちに、約束の日取りが決まった。信吾との交流も楽しいが、こういう大人の付き合いというのも中々おつなものである。向こうの世界じゃあ旅の服か戦闘服か研究服しか着なかったもんな。謁見の時に来たオシャレ服はあまりにもオシャレ過ぎて着こなせなかった節もあるし、こっちであか抜けた男になりたいと切に願う。

 閑話休題、そんな俺が朝早くから服の色合わせに苦心していると、学校に行く前に俺を見た信吾が一言

「え?今日デートですか?」

「いや?まさか。大人の付き合いってやつだ。今日は帰りが遅くなるから先に寝ていていいぞ」

「はーい」

 特に気にするでもなく、信吾は学校へ行った。

 うん、デートじゃないよな?そうだよ、デートじゃない。そんな、デート?いやいや。デートってのはこう、男女がだな、あれ?デート?これってデート?あれ?どうしよう。デートかもしれない。

 いや?よしんばデートだとしても?向こうがほら、向こうが意識していないから!だからデートじゃない!そう!デートじゃないから!ほら戦闘用の服ももってっちゃうし!恋は戦闘ってやかましいわ!








 いったん意識しだした童貞精神は、待ち合わせ場所に着いたあたりから加速しだした。いやだってさぁ、だってさぁ!信吾がさぁ!

「お、いるじゃん。お待たせ」

「あっ、いやっ、ぜんぜ……?」

 焼津の姐さんのほうを見やると、なんというか、いつもよりかわいい服というか、フワッとした服を着ていた。色合いもいつもの荒々しい感じのものではなく、冬の仙台によく合った、白を基調としたものになっていて、そんな服を着ている姐さんは、茹でだこのように赤くなっていた。


「似合う、かな?」

 あっあっあっ姐さんも意識していらっしゃるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!

「に、似合ってるとも!すごく!!」

「そっか、よかった!いやさ?あ、アタシには似合わないって言ったんだけどさ?同居人がさ?デートならしっかり決めなきゃって言ってたからさ?アタシはそんなんじゃないっていったんだけどさ?あれ?何言ってるんだろねアタシ。言わんでよかったねヘヘヘ」

 顔を真っ赤にしながらそういう姐さん。分かる、わかるぞそういう他の人に言われて意識しちゃう感覚!俺も味わっているから!今も!

「じゃ、じゃあ、行こうか?」

「い、行こうか」

 こうして、変に異性慣れしていない男女の送る仙台観光が今、始まった。




「ここが、おしゃれなカフェの入り口だね。一見すると普通の通路だし、通路を抜けた先もカフェっぽくないんだけど、ここを上った先にあるカフェが凄く落ち着くんだ」

「ほぉ、さしずめ隠れ家カフェといったところなんだな。」

 ふっ、俺ほどの男にもなると、あの辺に甘酸っぱい空気なんてサッと鎮めることが出来るのさ。そして姐さんほどの女性であれば、さっさと気持ちを切り替えて案内の一つや二つをこなせる。俺たちは大人だからなぁ!余裕も余裕よ!それにしても、騒がしいアーケードから少し離れるだけでこんなに静かになるとは……

「此処のチーズケーキがアタシ大好きでさぁ!あんまり騒いじゃダメだからね!静かな店だから」

「へー、男女二人で入ると割引になるのか。カップル割り……」

 やっべ、藪蛇だ。やっべ。俺はもうだめだ。意識しちゃった。姐さんどうかこの雰囲気を変えてくれ。

「か、カップルじゃないけど、カップルじゃないけど!使っちゃおうかね!せっかく使えるからね!」

 ダメだった。姐さんもバリバリ意識しちゃった。もうだめです。ここで食べたケーキの味とか全くわかりません。思わず心の声が信吾の口調になっちゃうくらいダメです。





「こ、ここがアタシの行きつけのゲーセンだよ!!むしゃくしゃしたときとかはこのゾンビゲーでストレス解消するのさ!!」

 そういって銃を使って腐食死兵みたいなのを倒すゲームを進める姐さん。俺も100円を入れて参加する。なるほどなるほど、引き金を引くと弾が飛び出て敵を倒す武器なんだな。恐らくゲームだから色々簡略化されているとは思うが、仕組みは大体こんなもんなんだろう。それにこのゲームなら万に一つもフワフワ甘酸っぱい空気になんかならないだろうしな!さすが姐さんだ!

「おっ!中々筋がいいねぇ!何かやってた?」

「武器全般ならなんとなく扱えるぞ」

「ヒュー!頼もしいねぇ!」

 冗談で済む感じで言ったら案外行けるかなと思って行ってみたら案の定冗談で済んだ。頭は一発、胴撃ち二発。腕はちぎれるだけか。なるほどなかなかどうして面白い。この形式の訓練があれば、兵士の質を飛躍的に向上させることが出来るかもしれない。

「ラスボスだ!初めて見た!」

「初めて!?」

「毎回一面で死んでるからね!それよりラストショットだよ!0.1秒になったら目を打ち抜いて最後さ!がんばって!」

「俺がやるのかよ!」

 姐さんの急激なムチャぶりにも、正確に応えることのできる俺の精密性には花丸を上げたいね。唸り声をあげて溶鉱炉の中に沈んでいくラスボス。喜ぶ姐さん、でもその、抱き着いてはしゃぐのは違うと思うよ。当たってるの、何がとは言わないけど。結構大きいんですね。

「……あっ」

 せめて気が付かないとか、気にしないていを取ろうよ。恥ずかしがらないでくれよ。余計恥ずかしくなっちゃうから。






「此処がアタシの行きつけの酒場だよ!!!!」

「もうやけくそじゃないですか姐さん!」

「分かんない!アタシもう今日どうしたらいいかわかんない!」

 二人でワーワー言いながらやってきた酒場は地下にあり、一歩抜けるとすごく色合いも音楽も、温かみを持って褪せたものに変わった。

「此処はねぇ、昭和を意識した居酒屋なのさ!飲み放題があるからね!飲むよ今日は!すみませーん!串の盛り合わせ10本二つと豚足二つとあと飲み放題でビール二つお願いします!」

 そんなこんなで姐さんと飲み始め、飯のうまさも相まって結構すいすいと飲んでしまった。しかし今日一日を通してなんとなぁーくそんな雰囲気が出ていた両者、全く酔えない。なんだその目は姐さん。俺のせいだって言いたいのか。そんなことないぞ。抱き着いてきたアンタも同罪だぞ。

 飲み放題の時間90分はあっという間に過ぎ、楽しくも謎の緊張感のある飲み会は、8時半という結構中途半端な時間に終わってしまった。

「こ、これからどうしよっか。二件目行っちゃう?」

「それも構わないが……」

 じわっとお互い分かってる。これ何件行っても酔い切れず、次の日に地獄を見るコースだと。そして同時に、お互いのそういう事興味度も結構高い事にも気が付いていた。

「~~っ!わかった!決めるよ覚悟!」

「待て待て待て姐さん早まるな!!」

 どこかに行こうと俺の手を握って歩き出そうとする姐さんを全力で止める。

「だってさぁ!だってじゃん!完全にそういう感じだったじゃん!」

「そうだけども!そうだったけども!『まだ数回しかあっていない男と初デートで』はあまりにも爛れすぎてる!自分をちゃんと大切にしようよ姐さん!」

「いいんだよもう!ヤリまくりな人間が跋扈している世界の中36で未経験は結構怖いんだよ!周りとの価値観の違いに押しつぶされそうになるんだよ!」

 姐さん見えてる!!!心の中の見せちゃいけないところが見えてる!

「だからってさぁ!「アタシに!」ん!?」

「……アタシに、魅力感じない?」

 そう言って、目に涙を溜めて俺を見上げる姐さん……そういうの、ホント狡いぞ。酒でだいぶ鈍った、しかし全く酔った気のしない脳みそを本気で回す。数秒の脳内会議、しかし心の内で引き延ばされた時間は永劫にも感じられる間を生み出した……






「で、どうするんだ俺。ヤるのか?」

「おいやめろ比較的冷静な分野の俺。性欲の方の俺が拘束を千切って襲い掛かってくるぞ」

「抱けぇっ!!抱けっ!!抱けーっ!!抱けーっ!!」

「黙れ気ぶりな俺!」

「しかし女性にここまで言わせてしまうのは、男としてどうかと思いますねぇ」

「知的な俺!そうだよな!これはもう、だよな!」

「行くぞ!行くぞ!解放だ!解放の時だ!!攻め入れー!!!」

「今こそ時は、極まれりぃー!!!」





 心の中で、答えは決まった。交際期間とか、些末な問題だったんだ。でもな、こういう時でも真摯な俺は、しっかりと姐さんに最終確認を怠らない。

「おっ、俺で、後悔しないのか?」

「アンタがいい」

 うーん、即答。それじゃ、そう、そういうとこ、行くかぁ。

 近くにあった休憩室付きの、そういうとこ。乗り込んだエレベーターの中で、俺たちは無言だった。これから起こることに、えらく緊張しているからだ。お互い初めて。生まれて初めて歯の根が合わない。必死でバレないように歯と歯の間に舌を挟んで我慢する。うわー、俺異世界で卒業するんだ。こんな形で卒業するとは思わなかった。うわー。

 チンッ、となったエレベーターに、2人の方が震える。そうして開いたエレベーターの扉の前から




 血まみれの男が立っていた。




「っぶねぇ!」

 こういう衝撃的なものが見えるところにあった時、一番に警戒するのはその周りだ。一点に目をくぎ付けにして、無防備なところを殺す。俺は焼津の姐さんを抱えてしゃがませる。数舜間をおいて、男から短剣が飛び出し先ほどまで俺らの立っていたところに短剣が刺さる。間一髪だった。

「んー?戦い慣れている奴がいるのかぁ」

 そう言って男の物陰から出てきたのは、緑色の肌に蜥蜴とかげを想起させる顔。ああ最悪だ最悪だ最悪だ!!よりにもよって守る人がいる時に出くわすのがテメェか!難度は文句なしの最!わざわざ人間の言葉を行使することもできる知能の高さ、獲物を精巧な罠におびき寄せ、残忍に殺すことから付いたその名が歯車蜥蜴!こんな入り組んだところで出くわすかよクソが!俺はポケットに忍ばせておいた札を、いつでも出せるように握る。

「な、なんだアイツ……こ、なんで、え?」

 姐さんの震えがダイレクトに伝わってくる。そりゃそうだ。こんな目にあって、怖くないわけがない。

「ま、それも関係ないけどね。じゃあねぇカップルさん」

 そういって歯車蜥蜴がもう一本短剣を振る、見当違いなところに刺さったかと思ったその瞬間に、エレベーターは自由落下を始めた。

「ッキャァーーーーー!!!!」

 姐さんが悲鳴を上げるが、ちょっと今それにかまっている暇はない。俺は手に握っていた札を発動する。こいつは緊急時にいつでも使えるよう仕込んでおいた防御札。俺一人ならえらい目にあったで済むが、姐さんは死んじまうからな。

 すさまじい衝撃音と共に、エレベーターが地面に激突する。上を見上げれば穴が開いていて、箱を止めるための機構もつぶされていた。ハナからこうするつもりだったんだろうな。

「姐さん、無事か?」

「なんとか……それより、さっきのは」

 声色から察するに、よほど怖かったんだな。結果論とは言え俺が一緒にいてよかった。

「忘れた方がいいといっても忘れられないだろうから言っとく。あれは歯車蜥蜴。罠を張って人をいたぶるのが趣味の最低野郎だ」

「は?何言って、ていうか何で知ってんだいアンタ」

 その疑問、当然だよなぁ。嫌だなぁ姐さんに嫌われるの。まあ守る為なら何でもするがな!

「俺があいつらと同じ世界から来た人間で、あの時の黒ローブだからだ」

 全くそんな役回りだ、俺の人生いっつもこうさ。いいことが起こると、それよりも酷いことが起こる。直視したくないことばかり見せられる。ま、慣れっこだけどな?慣れっこだけど辛いんだぞ!!きっとコレで姐さんも俺を怖がって

「そっかぁ。まぁそれはいいとしてだ」

 あれぇ?

「アンタ、死ぬ気かい?」

「そんな事はないが、というか怖くないのか?」

 何でそんなに冷静なんだ姐さん……

「あのトカゲは超怖い!あと死人もめちゃ怖い!!でもねシモン!アンタは怖くないよ!飲んだら誰でも友達だし!今日のデートめっちゃ楽しかったし!それにアンタ、魔法か何かでアタシを守ってくれたろう?そんな人間を、怖がるアタシじゃあないさ」

 姐さん、本当によく見てるな……

「死ぬかもしれない戦いに義務感だけで行くってんなら、アタシは止めるよ。でも譲れない一線を守るために命張るってんなら行っといで!アンタの帰り、待ってるからね」

 そういって、エレベーターの中に寝そべる姐さん。なん、何だこの人……俺がコレまでにあったどんな人間よりも肝が座り過ぎてる。ははは、コイツは参った。まったく姐さんには敵わないなぁ。

「……わかった。行ってくる!」

 ツナギを着て、仮面を被る。札は充分にある。それに相手は歯車蜥蜴、この世界であれば元の世界より怖い相手でもない!そして俺の帰りを待ってくれてる女性ひとがいる!!

 エレベーターが動いていた縦穴を、三角跳びの要領で駆け上がる。色んな意味で長い夜が、始まった。
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