異世界勇者のアフターライフ

あきょう

文字の大きさ
24 / 27
異世界勇者、世界と強くなる

勇者、装備を新調する、あと感心する。

しおりを挟む
 信吾に連れられて工場の奥の方へ進む。そもそもそんなに大きな工場でもないので、特に隠し事とかできないはずだが、と思っていたが、俺の知らない間に妙な扉があった。いや待てよこれ、どっかで見たことあるぞ、どこだったか……

「レイダーシリーズ第5作目、レイダーシアンのキャリアローダーベースそのまんまにしたんですよ」

 うん、思い出した。前に信吾が見せてくれた特撮の一場面だ

「で?見せたいのっていうのはまさかこれだけじゃあないんだろう?」

「もちろんそうですよ!」

 キタさんに促され、信吾が得意げに扉を開けると……広い空間が広がっていた。奇怪な道具が所狭しと並んでおり、なんなら実用的な家財道具すら一式そろっている。

「空間拡張魔法でクローゼットの中身を拡張した後に、創造魔法で物体を確保してみました」

 そうぞ、創造魔法!?しれっといったが世界にも数人しか習得することのできないあの魔法を?……よそう、たぶんあれだ。知識として触れたからわかるが、この世界の人間は物質についての理解が相当高い。魔力や魔素といった要素を一切省いた本質が、信吾には見えているからこその創造魔法なのだろう。

「……いや、凄すぎて言葉も出ないが、この空間の維持はどうやっている。拡張魔法も創造魔法も、一定の魔力がないと維持できないはずだが」

 どちらも有名な話で、一度魔法が解けると中のものがザーッと押し出されるように外に出てくる。だからこそ歯車蜥蜴は巣穴から遠くに行くことはできないし、住居に空間拡張の魔法は使われないのだ。

「そこは簡単ですよ。この空間を丸ごと『こういう状態のものである』と定義して、いったん魔力にデータとして記録させるんです。記録しているのはこの扉です。そうですねぇ、パソコンの電源を落としても中身が消去されないのと同じ原理です。その後扉に魔力が流れると再度記録したデータが展開されるので、あたかも中身がそのままになっているように見えるんですね」

 いや、なんだ、それはつまり、記録媒体さえあればどこでもこの空間を再現可能ってことか?技術革新にもほどがあるぞ。この技術さえあれば、旅の荷物は格段に少なくなるし、危険な野宿をする必要もなくなる。宿屋も今までの「安かろう悪かろう」の方向性から転換することを余儀なくされることだろう。

「それに最大の特徴として、魔力の使い方を知らない人間がこれを使おうとしても反応しないっていうことと、一度中に入って閉じてしまえば魔力の持った人間が外から開けようとするか、内側から開けない限りただのクローゼットにしかならない、という点です」

 何でこう、我が国の魔法使いが思いも付かなかった使用方法をぽんぽんと思いつくんだ信吾は。だがそれって危険じゃあないのか?

「なぁ信吾、その場合中に入った状態で扉を破壊されたら相当マズいんじゃないのか?」

「そこはご安心を。扉が破壊されたとしても、内側から開けるコードが最優先で働きますから、たとえ消滅していたとしてもその場にいつの間にか復活していた扉から出ることが可能です。記録媒体は作り直しになっちゃうんですけどね。」

 決めた。俺この技術持ち帰って向こうで売る。絶対凄い商売になる。余生はこれ売った金で豪遊して暮らすんだ。

「御託はいいから、中に入れておくれよ。なんかつくってあるんだろう?」

「あ!そうでした!まだまだ見せたいものはたくさんあるんですから!」

 そういって意気揚々と扉をくぐる信吾に続いて、俺とキタさんも中に入っていった。





「っはぁ、凄いねぇアンタ。まるで宇宙船か何かみたいじゃないか」

「そうでしょうともそうでしょうとも。内装にもこだわりぬいたんですから。3D職人の凝り性が出てしまいましたねぇ」

 鼻高々といった信吾の言葉を耳にしながら、俺も内装を見遣る。恐ろしいほどまで凝った意匠を施された内装には、俺のいつも着ている戦闘服と、その他に見慣れない装備がいくつか。

「さて、新装備の紹介ですよ!いままでシモンさんには、重たい装備の運搬をしてもらっていました。なんなら職務質問を食らったら、一発アウトになりかねない装備のオンパレードでしたからね。防御力にも不安がありました、攻撃面でも千日手になりかねない、心もとないもの鹿提供できませんでした。でもご安心を。今度の装備からそういった不安からは一切解放されます」

 そういった信吾が俺に手渡してきたのは、非常に素朴な腕時計だった。

「本来ならもっとごてごてとした変身アイテムがよかったんですがね、ぼくもTPOをわきまえたオタクとしてそこは不採用にさせていただきました。この空間拡張魔法の応用として、魔力を流すと一瞬のうちに衣装を変更できる腕時計、題して『DX スーツジョインター』です!ちょっと試してみてくださいよ」

 信吾の力説に気おされながらも、魔力を流してみると、一瞬のうちに俺の来ていた服が装甲付きのものへと変わった。仮面も兜のように頭部全体を覆っているようだ。しかし視界が異様にいい。透過魔法を内側からかけているのか。

「っくふふふふ、ぁー、たまらないですねぇこのフォルム!僕が長年あっためていたオリジナルヒーローをそのまま現実に置き換えたようなこの装備!もちろんただのコスプレってわけじゃあないんですよ。全身の装備はスーツジョインターにため込まれた魔力で形成されています。行動の補助のほか、今まで致命傷だった攻撃もこのスーツがあれば死ぬことなく受けることもできるでしょう。それ以外にも細かな変更点はありますが、そこはおいおい話しますね。ただいろいろ詰め込み過ぎたせいか、溜めた魔力のバッテリー量から一分半ほどしか持ちません。まぁ、そこは今後要改善していく所存です」

 信吾の言葉通り、体が軽い。どんな見た目しているか今この場で俺が確認できないが、俺の見た目を見ている二人からしてひどい物でもなさそうだ。

「そしてヒーローと言ったらメインウェポンですよ。シモンさんはことあるごとに剣が欲しいとおっしゃっていましたのでね、そこを加味したものとなっています」

 続いて持ってきたのは、刀剣の柄の部分。刃は全くない。

「『アミュレットソード』。これは魔力を込めることで創造魔法が発動し、刀剣を生み出すという素敵装備です。創造魔法でいくらでも再生するので、多少ムチャしても問題ないですよ」

 言われたとおりに魔力を流すと、本当に刀身が瞬時に生まれた。手持ちの札を一枚落とすと、するりと切れる。とんでもない切れ味じゃねぇか。

「本当に凄いな信吾は!!」

 思わず声に出さずにはいられなかった。何でこいつはこっちの世界に生まれてきたんだろうな……俺の世界にいたら確実に世界のてっぺんにいる人間だぞ信吾は。

「ま、まぁ?それほどでも、あるかもしれませんね?お次はこれです。札をその場で印刷して飛ばす、その名もずばり『タリスガン』です!」

 そういって信吾の出したものは、手のひらから少しはみ出るくらいの大きさの銃だ。こちらの世界でいう拳銃というものが近いのだろうか、しかし銃口が横に平たい上に後ろにあるつまみの部分には各札の名前が。つまり本当に印刷して飛ばすんだな。

「どれもこれも銃刀法には引っかからない素敵装備のオンパレードです!存分に使ってくださいね!」

 そういう信吾の頭を少し乱暴に撫でながら、こいつはどこに行くんだろうと少し考えてしまった。これほどの技術力を持つ信吾の事を、ほっとく者はいないだろう。少し本腰を入れて彼を守らなければならないと、俺は強く心に決めた

「ちなみに魔法、外見デザインがぼく、施工はパパ、電子工学はママに手伝ってもらいました」

 ……この一家を絶対に、絶対に守らなければならないと、改めて強く心に決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...