魔女の喫茶店

たからだから

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――魔女裁判編――

神の救い

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 裁判長は今回のケネディ警部殺害を企んだ証拠を警察側に出すよう、指示を出した。
「まず、此方の写真がナルシスと密会している場面になります」
 警察上層部の人間が手に持った写真を見せる。ナルシスとミアが夜に会っている様子であり、勿論ミアには覚えが無い。
 そもそもアリバイ等ギルが証明出来るのだ。証人としてギルを法廷に立たせるか、ミアは考えようとして止めた。何がなんでも証人として立たせる事は無い、と分かっているからだ。
「アリバイはリード被告人にはありません。……証人も存在しない事が分かっています」
「……っ、待って! 証人は居るわ!」
 ミアは思わず慌てて口を開くが、裁判長に人睨みされては口をつぐむ。思った通りだ。
「……許可するまで喋る事は許しません。被告人は静粛にお願いします」
 何が何でも刑務所へと送り込みたいのか、証拠を潰されている事に心が折れそうだった。
 様々な証拠を提出され、ミアはただ黙って聞いているしかなかった。
「それでは、被告人質疑応答します。被告人は聞かれた事だけに、答えてください」
 ミアは裁判長を真っ直ぐ見つめる。
「被告人ミア・リードはナルシスと共謀し、ケネディ警部殺害を企んだ事には間違い無いか?」
「……そんな事してません。その証拠も見覚えありませんし、証人ならちゃんと……っ!」
「結構」
 遮られる様に止められてしまえば、ミアは眉を寄せる。

 ケネディとオブリはお互いの息子が起こした悪事を公表したくないのは、ミアにとっても分かる事だった。
「……ナルシス・オブリとは何も、関係無いです。フォンス・オブリさんがよくご存知なのでは?」
 ミアはフォンスを見ては小さく笑った。ナルシスのフルネームは公表されていなかった事を、ミアは覚えていた。
 傍聴席は再び騒がしくなり、記者達は羊皮紙に素早くメモを書いていく。
「……裁判長、被告人は何の反省もしていない様ですが?」
「……被告人、ナルシス・オブリと言う本名は、本当か?」
 裁判長はフォンスの言葉を無視して続けた。
 反応を見ると息子だとは知らなかったのだろう。ミアは無実を証明するには今しか無い、と裁判長を見つめて口を開く。
「ええ、本当です。ナルシス・オブリはオブリ家の長男であり、死の使いスノードロップです。……フォンスさんはそれを、ご存知だった筈です」
 ミアはこの場に居る者に聞こえる様、ゆっくりと話す。裁判長も真剣に耳を傾けていた。

「……先日のビッグ・ベンでの件は大変申し訳無いと思っております。しかし、その時にナルシスの口から聞いています」
「……何を、だ?」
 裁判長はフォンスを黙らせると真剣な表情のまま問い掛ける。 
 傍聴席の者達も全て、静かにただミアの話を聞いていた。
「ナルシス・オブリの母、そしてフォンス・オブリの妻を殺した人物が、ケネディ警部だと。……ここまでお伝えすれば想像がつきますよね?  ナルシスが何故、ケネディ警部を殺害しようとしたのかは」
「な、何を言い出す! 裁判長! これはミア・リードが考えた嘘です! そんな事実はありませんぞ!」
 ケネディの父は勢い良く立ち上がると、裁判長に抗議を始める。それはフォンスも同じであった。
 ミアはその様子を見つめながら、なんて滑稽なのだろうかと小さく笑ってしまう。妻を殺した犯人の親と共に、息子の悪事をバラされたくないと必死なのだ。

「静粛に!」
 裁判長はガベルを叩き音を鳴らすと傍聴席、そしてフォンス達を静かにさせる。
「……被告人の言う事は充分な証拠は無い。提出の証拠も不正が無いか確認したが、不正は見られなかった」
 裁判長の言葉にミアは悔しそうな表情を浮かべた。証拠が何よりも大事な裁判において、ミア側には不利な証拠しか並べられてなかった。
「私の、証人はこの場に呼べないのですか?」
「残念ながら、申請されてない」
 裁判長の言葉にミアは納得した。誰も、ミアと会話をしなかった事に。きっと、ケネディ達の指示なのだろう。
 何も出来ない様に。




 傍聴席で黙って聞いていたギルはとても、悔しかった。本来ならばここで証人になる、と叫びたいところだがギルにはそれが出来ない。
 此処で目立ってしまってはの意味でミアの足を引っ張る事になってしまうからだ。
「……クソ、おせえな」
「ま、まだ来てくれないの?  ……大丈夫かな……」
 ルークとエミリアの表情は不安と焦りが混ざっていた。
 そして、ミアの場の空気を変える発言に流石だとは思う。一瞬にしてオブリ達への疑念を浮かんできたのだから。例え、自分が投獄されたとしても後に必ずオブリ達への聞き取り調査が始まる。そうすれば、真実が表に出る可能性がある、と。
 先程から記者達はオブリ達へと視線を向けていた。
 あと一押しなのは確実に証拠や証人なのだ。それを何故提示させてくれないのか、それは先程の2人の会話で分かった。
 何も申請をしていなかった。否、させてもらえなかったが正しいのだろう。ギルは痩せてしまったミアの背中を静かに見つめた。

 このままでは確実にミアの有罪が決まってしまう。
 ギルは足元に置いたトランクを見つめては、悩んでしまう。ミアは魔法が使える状態ではないのだ。

 ――……ダメ、何やっても不利になる。お願いだ、早く来てくれ……。


 普段ギルは神等信じておらず、祈るなんて事はしないが今日ばかりは神を信じたい気分だった。今のギルにとっての神は、かもしれないが。
 ギルがゆっくりとミアに目を向けた時だった。眩い光と共に人影が2つ見えたのは。


「ごきげんよう、裁判長」
「エリザベス校長も悪い人じゃの~」
 2人共何故か、子供の様に楽しそうに笑っていた。ミアは急に現れた2人に驚きながらも、楽しそうに笑いながら優雅に挨拶をするエリザベス校長を凝視してしまっていた。
 そして、2人の間で気まずそうにしているナルシスの姿も見え、ミアは更に驚く。
 それは傍聴席に居た人々も同じで、唖然とした様子だった。
「フフ、可愛い教え子の裁判には呼んでくださらないと?……オキザリス魔法学校現校長、エリザベス・レインウォーターが彼女の無実を証明します」
「ああ、それと副校長のワシ……じゃなくて、フローリス・ベルケンポスも証人として出席させてもらうぞ」
 2人の言葉に傍聴席は今まで以上に騒がしくなると、裁判長は驚いた表情で2人を見つめていた。

 魔法界で最強だと言われるオキザリス魔法学校の校長と、副校長が現れたのだ。最強で知識も豊富、そして英雄候補の2人に死の使いスノードロップとして疑われた英雄候補3人目のミア。
 記者達は食い入るように見ていた。
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