冬の窓辺に鳥は囀り

ぱんちゃん

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47.あなただけのアウラヴェール

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第四騎士団の演習場へセレスを伴って向かうと、模擬訓練中の四団の皆は、静まり返って俺たちを迎えた。

俺はかなりばつが悪く、皆の顔を直視できない。
そうかといってセレスを見ることもできず、斜め下の地面ばかりを見てしまう。

「序列がネイトより下の奴らは全員解散。速やかに兵舎に戻って武具の点検にかかれ。散れ。」

いち早くドミーノさんが指示を出す。
若手が走り去っていくのが、気配でわかった。
瞬時に防音と目くらましの魔法が周囲に展開される。

「で、どういうことなんだ?」

俺はドミーノさんの顔を見る。
冷静さを取り繕っているのが、俺にはわかってしまった。
普段はのんびりとしているその表情が、明らかに強張っている。

俺はなんだか途方に暮れて、問われるままにあらましを話す羽目になった。





「なんなのお前は!!昔っからオレ達の気も知らないで!!突拍子もない行動ばっかりして!!」

根掘り葉掘り話を聞きだされた今現在、俺はネイトにこっぴどく怒られている最中にある。

「そういう所だからね!?お前が何で隊長をやらされる羽目になったのか良く考えてみなよ!!」

さっきまで笑い転げていたイーサンとレイモンドは、ようやっと笑いを収め、俺とネイトをニヤニヤと見ている。

「そしてなんでセレスをここに連れてきたの!」

爆笑は収まったのに、ネイトの怒りは収まる気配が見えない。
俺は渋々口を開く。

「なんか…、改めて自分の口から説明するのが恥ずかしくなって。」
「ああ!そうだろうね!! 騎士の礼までとったのに、端っから説明なんてとんだ間抜けだよっ!」

そう言ってドミーノさんを呼びつけ、セレスを押し付けてしまう。

「まぁまぁ。久々に本来のお前らしさが見れて、俺は楽しいけどな。」

イーサンがネイトを宥めながら、俺に向かってニッと笑う。

本来の俺らしさってなんだ……

「全く…。この一年近く、オレ達がどれだけお前に引きずられないようにしてきたかわかってる?お前が上司になる時に、あれだけオレ達に念押ししてきたランバードさんがさっき片手ひとつで無礼講を許したのも、今更無駄だって思ったからだよ。」

「えー? 俺上手くやれてなかったんですか?」
「無自覚かよ!」
「いややれてたよ?やれてたけどちょっとは突っ走った自覚あんだろ!?」
「まぁ、前みたいに肩肘張ってるよりかは、断然ましだけどな。」

イーサンがゲラゲラ笑う横で、レイモンドもニヤリと笑って俺の頭をぐしゃりと撫でる。
ネイトは大きな溜息を一つ付くと、「しかたないなぁ。」と呟いてニヤッと笑った。

「とんでも展開だったけど、これはこれで重畳!!もうあとは勝つだけの簡単なお仕事ですよ!」
「勝つだけだけど、その前に大事なことを聞いてないんだろう?」

周りの雰囲気を言葉一つで黙らせて、ドミーノさんがセレスの方に目くばせをする。
セレスはへにゃりと眉を下げて、俺の方を困ったように見つめていた。

「セレスを送ってこい。ちゃんとクレメンス司祭にも説明するんだぞ。」

そう言ったドミーノのみならず、演習場に残っていた古参全員がニヤリと笑って、人差し指と中指をクロスさせてくる。
ニヤつく皆に背を押され、俺とセレスは演習場から送り出されたのだった。





教会までの帰り道。
隣を見れば、読み取れない表情で前を向いて歩くセレスがいる。

二人で歩くのは、本当に久しぶりだった。
同じ景色が、1人の時とは全く違って見える。
ましてや、サントスを見送ったあの時とは、雲泥の差だ。

俺の視線に気づいたのか、ゆっくりと青灰の瞳が見上げてくる。

俺は、思わず苦笑してしまった。

まったく、締まらない。
好きな相手に思いを伝えるだけなのに、思い通りにならない事ばかりだ。

足を止めると、セレスは俺を見上げたまま同じように立ち止まった。
会わないうちに、随分背が伸びた。
ちょうど一年前の春、教会の裏庭で抱きしめた時は、頭まですっぽり胸の中に納まってしまっていたのに。
今では俺の肩口に、綺麗な青の瞳がある。

俺はそっと、その頬に手を伸ばす。
ふくふくとしていた頬は少し締まって、少年の殻を脱ぎ捨て、だんだんと青年へ近づいているのだと気付かせてくれる。

逸らすことなく見つめてくる青灰の瞳には、ひどく幸せそうに微笑む男が映りこんでいた。

「ドミーノさんから、話を聞いた?」

顎を僅かに引いて頷くその顔は、真剣そのものだ。

ああ。なんて愛しいんだろう。
俺の言葉を、真正面から真剣に考えてくれているのだ。

「俺は本気だよ。必ず勝って、誰はばかることなくお前に婚儀を申し込む。」

「アウラヴェールは、引き受けてくれる?」

青灰の瞳が僅かに潤んで、セレスの口元がわなないた。

「僕の一存で、決めていいのか、分からないんです。」
「うん。わかってる。」

泣かなくていいんだ。
俺はセレスに笑ってほしくて、頬を指の腹で撫でてほほ笑む。

「中央教会のセレスではなく、ただのセレス・アズユールは、どう思ってる?」

セレスの顔がくしゃりと歪む。瞳の中の涙が今にも溢れそうだった。

「僕は……。僕は、あなただけのアウラヴェールになりたい…っ。」

思いもよらぬ一言に、俺の顔がカッと熱くなった。
俺はセレスの頬からゆっくりと手を離し、自分の口元を抑える。
手の中の口が、自分の意思とは関係なしににやけてしまう。
セレスは目に一杯涙を浮かべながらも、酷く真面目な顔をしているというのに。

一体、ドミーノさんは何と言ってセレスに説明したんだろう。

俺は泳ぐ視線を青に縫い留め、右手を左胸に当てる。

「あなたの騎士として、心の剣に恥じぬ戦いをすると約束する。……。トーナメントまで、まだ2か月以上ある。ゆっくり考えてくれていい。セレスの本当の気持ちを、俺は何よりも優先するから。」

そう言って照れ隠しに笑うと、セレスもつられた様にふわっと笑って、ぽろりと涙がこぼれていった。




教会の裏口には、ちょこんとエレインが座り込んでいた。
俺たちに気が付くとパッと立ち上がり、口をパクパクさせて、結局口を閉じてしまう。

「エレイン!お腹は大丈夫?」

セレスが駆け寄ると、俺とセレスを交互に見つめコクコクと頷いた。
そして、なんとも恨みがましい目で俺を見上げてくる。
その表情に思い当たる節がないので、とりあえずふわふわの頭を撫でると、ふいっと視線を逸らされた。

「セレス、クレメンス司祭は、この時間はどこにいる?」
「おそらく、執務室だと思うんですけど。探してきます。」

そう言いながら裏口を開ける。
薄暗い廊下を二人に付いて歩く。
寮と教会の境目にたどり着いたとき、奥からやってくるクレメンス司祭と目が合った。
俺は僅かに頭を下げ、紫の瞳と対峙する。

さぁ。ここが正念場だ。









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