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tapestries. 魔術師見習いの一日②
しおりを挟む3刻からの授業は2単位。
今日は闇の日なので『魔法構築学2』と『生物学(魔物編)』の授業がある。
教会にいた頃は年のうち4ヶ月は式典の準備の為に学業を免除されていたので、僕は短期間で修了できる授業ばかりを選択していた。
今日の2つの授業も来月の試験に合格すると次の段階に進めるようになっている。
『魔術式と魔術紋』、『生態学』は、それぞれの基礎を修了していないと受講できない。より高度で、長期間の授業だ。
あと半年しか学園に居られなくても、どうしても受けてみたかった。
それらは、魔法の解釈や討伐に追従するといった僕の近い未来の為に、きっと役に立つはずなのだから。
「―――という実験により、腐食した木質のみを食べていたバルダムの巨大化は認められないということが分かったのです。この事から魔獣や魔魚の死骸に残留していた魔素濃度が巨大化に関与しているのではないかという仮説が立ったわけですが……。昼鐘が鳴ってしまったので本日はここまで。ご清聴ありがとうございました。」
生物学臨時講師のラジム先生が、ぺこりとお辞儀をして誰よりも先にそそくさと教室を出て行ってしまう。
残された僕らは、そのあまりのスピードに呆気に取られて先生を見送って暫し。
静まり返っていた教室が、一気に騒然となる。
「えっ!?」
「え!? でっ!?」
「結局なんで巨大化したのっ!?」
「巨大化した後どうなったのっ!?」
「仮説は立証されたのっ!?」
「先生っっ!!先生もういない!! 早っ!歩くの早っ!!」
ラジム先生は、教室中の生徒の心を鷲掴みにしたまま煙のように消え去り、僕らの心にはもやもやとした沢山の疑問だけが残ったのだった。
呆然としたまま学園の外に出ると、兵舎から出てきたフォルティス様の姿を見つけて僕は少し早足になる。手を振って立ち止まるフォルティス様の元に行くと額にキスをされて兵舎の中へと促された。
王城の食堂へ行くには、兵舎を通っていった方が早いのだ。
「? どうした?」
僕の顔を覗き込んできたフォルティス様が怪訝な顔をする。
「バルダムが…。」
「バルダム? 魔物の?」
「バルダムの巨大化が…。」
「?」
「お。セレスじゃねーか。」
「あ、こんにちは。」
兵舎から王城へと抜ける通路で、ランバードさんと行き会ったので僕らは3人で食堂へと向かう。
昼鐘のすぐ後なので、この時間帯から食堂はどんどんと混んでいく。
王城に所属する人達全ての食事がここで賄われるので食堂はとても広い。寮の食堂のように配膳係に取り分けてもらうのではなく、配膳台に乗っているものを自分で取ることになっている。
パンもメインも副菜も全てが3種類以上あって、温度調節された器具の上に山盛りになって置かれている。
僕の今日のお昼ご飯は、ガルバンゾーとトリの煮込み、いんげん豆と人参のグラッセ、黒パンにはクリームチーズとスグリのジャム。
王城の食堂でお気に入りの黒パンを見つけてうきうきしていると、僕のトレイを覗き込んでいたフォルティス様が無言のままテリーヌをひと切れと小さな丸パン一つ、そしてプルーンを二つ乗せてくる。
デリオットさんの言いつけを守って、フォルティス様は僕の食育に真面目に取り組んでいる。
僕の顔を見て真面目な顔で頷いてくるので、僕も真面目に頷き返す。
頑張れ。と言われた気がするので、頑張って食べます。と決意を新たにする。
「相変わらず少食だな。」
トレイを覗き込んできたランバードさんがそう言うので、僕はそうかなぁ…と、ちょっと無言になる。
ランバードさんの手の中にある山盛りのお皿を見ただけで、僕はお腹が一杯になりそうだった。
7刻半からは曜日によってまちまちだ。
光の日(日曜日)の前の日は隔週で座学があって、僕は『古代文字学2』を取っている。
文字の意味や文字の成り立ちまで詳しく習うので週の中で唯一2回授業がある。
授業のない週でフォルティス様とお休みが一緒の時は、王都のお屋敷に帰ったり(帰ったり!!)、王立図書館にいたり塔の探検をしてる。
その甲斐あってホスピティウムへの道も見つけたので、授業のない風の日の午後も時々遊びに行く。
ホスピティウムの老魔術師達は、いつ行っても歓迎してくれるのでついつい足を運んでしまうのだ。
僕はそこで、課題をしたり外を眺めたり沢山の面白い話に耳を傾けたりする。そして時には問題も出されたりする。
僕に『火』の天啓はないけれど、知らない呪文を解釈するのも面白かった。
『古代文字学2』に進んだことで、より専門性の高い理解が出来るようになってきたのも一因だと思う。
できた文言を見たエドアルトさんは、『もう少し捻りがあってもいい。30点。』とニヤリと笑う。その様子をチラリとみた隣に座るノアさんが『お前が納得するほど捻ったら、セレスが酷い二つ名で呼ばれることになるだろうが』と言って面白そうに笑った。
ノアさんの二つ名の由来を思い出して、僕はあははと声を上げて笑う。
でも折角なので、今度図書館で関連文献を読んでみようと思ったのだった。
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