私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  高梨政頼と村上義清

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「ですが、他にも厄介な事が起きましてねぇ」
 顔を顰めて景虎が言う。
「と仰いますと?」
「信濃のですよ」
 それはそれは、と定満が呟く。



 甲斐の守護、武田大膳晴信が信濃を侵略した。
 信濃は守護の小笠原家や、諏訪大社の諏訪家、豪族の木曽家、村上家などがそれに対抗する。
 しかし晴信は、それをそれぞれを個別に晴信は潰していき、信濃の大半を手に入れたのである。


「中野の高梨どのが、来られてね」
 景虎が言う中野の高梨とは、北信濃中野城主、高梨政頼の事である。
 政頼の母が為景の妹なので、政頼は景虎の従兄弟だ。
 しかし景虎が末っ子だから、政頼は二十以上、歳上だ。

「大きゅうなられたな」
 春日山に来た政頼は、景虎を見るなりそう言った。
 政頼曰く、幼い時に一度会った事があるらしい。
 寺に入る前だと思うが、景虎は記憶に無い。

 高梨政頼は、大きな顔に厚い唇をしている。
 肉厚の顔で、陽気な男の様だ。

 挨拶もそこそこに、政頼は隣に座る男を紹介する。
「こちらは、村上左近衛少将どのにござる」
 村上左近衛少将義清でござる、と男は名乗った。
 五十過ぎの痩せた男で、鋭い目と張った顎をしている。
 威厳のある武者。

「村上どのは、まこと勇ましき御仁で・・・・・」
 政頼が義清の、武勇を褒める。
 義清は武田晴信の侵攻を、二度破っている。
「しかし武田大膳は、卑劣な男でござる」
 戦さで義清に勝てない晴信は、謀で義清から城を奪ったのだ。
「平三どのに、ぜひ、助太刀を頼みたい」
 晴信の次の標的は正頼だ。
 要は正頼は、景虎に義清を引き取って貰い、兵を率いて晴信から義清の領地を取り返して貰いたいという事らしい。



「・・・・・・・」
 唾を巻き散らしながら喋り続ける正頼の隣で、義清は黙ったままだ。
 寡黙な男という事もあるだろうが、義清からすれば、正頼、そして景虎との関係が微妙だからという事もあるだろう。

 武田晴信が攻めてくる前、義清と正頼は絶えず戦さをしていた。
 更に関東管領上杉顕定が、景虎の父為景を討つため越後に攻め入った時、義清は顕定を支持したのだ。
 これは別に、関東管領だから顕定を支持したのでは無い。
 叔父である為景の為、正頼が越後に兵を出したので、正頼を攻める為、顕定を支持しただけだ。
 
 だから為景の息子である景虎を頼るのも、義景は気が引ける様だ。
 一方の正頼は、仇敵で義清を助けるのに、あまり抵抗が無いらしい。
 義清に恩を売っておきたいという打算もあるだろうが、おおらかな人物なのだろう。
 頼みます、と政頼が深く頭を下げる。
 隣で義清も、少し頭を下げる。
 分かりました、と景虎は答えるしかない。


 政頼は従兄弟であるし、父為景が上杉顕定に追われた時に手を貸してくれた。
 国を跨いで婚姻を結ぶのは、助けたり助けられたりする為だ。
 為景が助けられた以上、景虎は政頼を助けなければならないし、そうすれば今度、景虎に何かあれば、政頼か或いはその子供が、景虎を助けてくれる。
 そういうものだ。

 
 村上義清は、上杉憲政の様に、早く兵を信濃の出してくれと、せっつく事はなかった。
 息子を景虎に人質に出し、替わりに景虎が越後の南、信濃との国境にある根知城を与えると、そこに散り散りになった家臣たちを集めている。
 自力で武田と戦うつもりだ。
 勝てるわけがない。
 それは義清も分かっている筈だ。
 おそらく義清は、息子を景虎に預けお家の存続をはかり、己は武田との戦いで死ぬ気なのだろう。
 誇り高い男だ。

 政頼のこともあるので、信濃には攻めないといけない。

「困ったものですよ」
 景虎が呟くと、まことに、と定満が頷く。
「ただ、平三さまが思っている以上に、厄介な事なのです」
 そう微笑みながら、定満が言った。



 
 



 
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