私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  策動

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 謙信は景虎を北条に戻さず、養子のまま越後に置いた。
 それとなく家中には、景虎に上杉家、景勝に長尾家を継がせると言う風を見せる。

 戦さには景勝を伴い、城には景虎を置いた。
 また景虎に嫡子道満丸が生まれると、光徹こと上杉憲政の引き合わせたりした。

 ただ明言はしなかった。

 家中には対立の芽がある。もし明言すれば、一方は景虎に付き、対立する側が景勝を担ぎ上げるからだ。
 そうなればそこを織田に突かれ、朝倉の様に滅ぼされると思ったからだ。

 だからあくまでそれとなく、今のところそういう考えであると見せるだけにとどめた。




 そして数年が経ち、手取川で織田との戦さを終え謙信が越後に戻ると、遠山康光が訪ねて来た。

「お人払いを・・・・・」
 そう康光が言うので、側に控える直江信綱に退がるよう命じる。

 信綱が退がり二人になると、康光はジッと謙信を見つめて、静かに告げた。
「万事整いました」
 うむ、と謙信は頷く。
「越後より兵を出せば、小田原から相模守が打って出ます」
 淡々と康光は続ける。その相模守という言葉に、敬意も何もない。
「さすれば上野で、相対する事になるでしょう」
 いつもの事だ。毎年の様にやっている戦さだ。
「そうなれば小田原の城で・・・・・・」
「幻庵宗哲が立つか」
 謙信の言葉に康光は頷く。

「従う者がそれほどいるのか?」
「相模守の嫡子、国王丸さまを立てます」
 ほぉ、と謙信は呟く。
「そして越後勢と挟み撃ちにして、相模守に隠居を迫るので御座います」
 うむむむっ、と唸り、謙信は顎に手をやる。

「国王丸とやら幾つだ?」
「十五にございます」
 近々、元服という話ですが・・・・・と康光は付け足す。
「これを機にと言うことか?」
 はい、と康光は頷く。

「その国王丸さまを上野に向かわせ、関東管領となられました三郎さまに忠誠を誓わせます」
 ふっ、と謙信は鼻で笑う。
 既に謙信と康光の間で、その事は決められていたが、改めてハッキリと康光が口にしたのだ。
「勿論、まことの主人は不識庵(謙信)さまでございます」
 康光が深く頭を下げた。
 それを眺めながら、ニヤリと謙信は笑う。

 幻庵宗哲こと北条長綱にも、おそらく同じような事を言っているのだろう。
 謙信と長綱の間に立ち双方を上手く言いくるめ、景虎を関東管領にして、叔父である自分が景虎を操る。
 策士め、と頭を下げる康光を見つめながら思う。

 当然、謙信もただ利用されるつもりはない。
 いざとなれば康光を強引に除くか、密かに処刑するかすれば良い。
 今は関東が手に入る。それが重要だ。



 関東を制する者が、天下を制する。
 かつて曽呂利新左衛門が言った言葉が、謙信の頭をよぎる。
 北条を傘下に治めれば、後は武田を屈服させるのは容易だ。
 そして毛利と東西から、織田を挟み撃ちにする。
 最期に毛利を滅ぼせば、天下は謙信のものだ。

 謙信は天下などどうでもよかった。越後一国さえ平穏なそれで良かった筈だ。
 それが思わぬ事になった。

 まぁ、取れる天下なら、取っておくさ・・・・・・。

「分かった、手筈通り進めろ」
 ハハッ、と康光が答える。
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