ギルド《ボンド》

きたじまともみ

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第一章 癒しの矢

11 薬草採取

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 ギルドの受付で、シーナの薬草採取依頼の手続きをしてもらった。
 マイルズとチアと道具屋へシーナを迎えに行く。シーナは準備を整えて、道具屋の前で待っていた。

 街では長めのスカート姿をよく見かけるが、今日はパンツスタイル。ケイルの森で初めて会った時もパンツスタイルだった。森を歩くには、こちらの格好の方が動きやすいからだろう。

「シーナおはよう」
「うん、おはよう。今日はよろしくね。マイルズくん荷物がいっぱいだね。しまうよ」

 シーナは収納ボックスを見せる。朝日のようなキラキラの笑顔が眩しい。
 マイルズが薄暗い時間に起きて作ったらしい弁当は、収納ボックスに入った。

 ルルに乗ってケイルの森を目指す。歩くと半日の距離も、ルルが風を切って駆ければすぐに着いた。
 ルルは小さくなり、マイルズに飛びついて抱えられる。

「ルルは本当にマイルズくんが好きだね」
「男の人に懐くのは初めてかも」
「そうなの? すげぇ嬉しい」

 シーナとチアの言葉に、マイルズが顔を綻ばせてルルの顎を撫でる。ルルは気持ちよさそうに目を細めて、されるがまま。
 ちょっと羨ましい。

「ルル、俺は?」

 手を顎に持っていくと、そっぽを向かれた。そっけない。

「攻撃されないから、嫌われてはいないよ」

 チアにフォローされたが嬉しくない。
 話しながら進み、薬草が生えている場所に着く。

「オリリソウって言う薬草を摘んで欲しいの」

 シーナがしゃがんで摘む。俺には生えているものが全部同じようなものに見えるが、シーナは選んで採取している。

「オリリソウは、葉の表面がツルツルしているのがそうだよ。形は似ていても、ザラザラしているものは摘まないで。あとは濃い緑色を選んでね。色が薄いのは、まだ育ちきっていないから」

 シーナに教えられた特徴を元に探す。それっぽいものを摘んで見せた。

「これでいいの?」
「うん! 合ってるよ。初めてでオリリソウを取れるってすごいよ」

 シーナに褒められて得意気になったが、マイルズも初めてでもオリリソウを見つけられたから、肩透かしを食らう。シーナの説明が良かったから採れたんだ。

「オリリソウってどうやって使うんだ?」
「止血作用のある薬草なんだ。少し揉んで傷口に貼り付けてもいいし、道具屋では使いやすいように塗り薬にしてるよ」
「俺とマイルズが買った傷薬?」

 初めて道具屋に行った時に買った傷薬を見せる。

「うん、そうだよ。小さな傷ならすぐに治るよ」

 オリリソウを摘んで、時折り違うと言われた。完璧に見分けるのはまだまだ難しい。

「みんなありがとう。四人だと早いね。欲しかった量を採れたよ」
「じゃあご飯だね」

 チアが瞳を輝かせる。
 太陽はまだ真上に来ていない。昼前だが、朝から動きっぱなしで俺も空腹だ。
 シーナが収納ボックスから取り出して、弁当を広げる。肉と野菜がバランスよく入った、彩りの鮮やかな弁当だ。

「美味しそう! いただきます」

 チアが真っ先に食べる。マイルズが小さく切ってルルに取り分けると、ルルもすぐに口に入れて、にゃー、と甘えの含んだ鳴き声を出す。美味しいと言っているのだろう。

「もう、チアは本当に食いしん坊なんだから」
「美味しいものを遠慮したら、美味しいものに失礼だから」
「チアちゃんの食べっぷりは見ていて気持ちいいよ。美味しそうにいっぱい食べてくれると俺も嬉しい」

 マイルズの弁当に舌鼓を打ち、満腹になるまで食べた。食べすぎてすぐには動けない。
 シーナがテキパキと片付けて、マイルズが温かい紅茶を配る。息を吹きかけて冷ましつつ飲んだ。

「そういえばさ、俺は炎の魔術の素質があるって言われたんだけど、魔術ってどうやって使うんだ?」

 炎なんて産まれてから一度も出したことがないから、どうすればいいのか分からない。魔術師のチアに、コツを教わりたい。

「カイって魔術使えんの?」

 マイルズが目を白黒させた。
 俺は落ちている葉を拾って、手のひらに乗せる。そこに力を送り込むつもりで集中すると、葉の周りが焦げた。

「すげぇ!」

 歓声を上げるマイルズとは対照的に、チアとシーナは顔を見合わせて気まずそうに眉を下げた。

「どうしたんだ?」
「うん、言いにくいんだけど、ハッキリ言った方がいいと思うから言うね。炎の素質はあるかもしれないけど、弱い」

 言いにくいと言いながらも、チアにズバッと言われて目を見張る。弱い?

「入団試験の時に、リオはそんなこと言ってなかったぞ」
「リオは魔術が全く使えないから、知らないんじゃないかな」

 チアが葉を手のひらに乗せると、燃えてチリすら残らなかった。

「はい、シーナもやって」

 チアが葉を握った。ヨレヨレになった葉をシーナの手のひらに乗せる。すぐに瑞々しい若葉に変化を遂げた。

「シーナは治癒術だから、こういう変化になるの」

 その後チアは、バチバチと電気を発する雷や葉が浮く風、水分を含んで膨れ上がる水と見せてくれた。

「チアを基準にしないでね。チアは四属性全て使えて、規格外の魔力を持っているから」
「普通は違うのか?」
「大体一つだよ。まれに二つはいるけれど」

 チアってすごい魔術師だったんだな。

「あー、俺は何も変化しない」

 ずっと手のひらに葉を乗せて集中していたマイルズだったが、諦めて葉を落とした。

「弱いって、どれくらいはできる? 戦闘に使えるか?」
「訓練すれば使えるようになるかもしれないけど、難しいと思う。薪に火をつけるくらいは、できるようになると思うよ」
「訓練って?」
「イメージトレーニングだね。手に力を集めて、炎に変えるイメージを持つ」

 両手に集中するが、ポカポカと温かくなったような気はするが、熱くもないし、炎が出る気配は全くしない。

「魔術は生まれ持った素質ってリオに聞いたけど、チアは最初から四属性使えたのか?」
「そうだよ」
「チアちゃんすごいね」

 マイルズが目を輝かせるが、チアは視線を外して表情を曇らせた。

「今はこの力があって良かったって思えるけど、昔はそうじゃなかったんだよ」
「チア……」

 シーナがチアを気遣うように寄り添う。「大丈夫」とチアがシーナの手を握って、弱々しい笑みを向けた。

「私は産まれた時から力が強かったの。赤ちゃんの頃はコントロールなんてできないから、私が泣けば村を竜巻が襲ったり水没したりした。両親は全く魔術が使えなかったらしいから、私の力を抑えることもできない。その村にいられなくなった両親が、私を抱えて途方に暮れていたら、近くの街にすごい魔術師が来ているって情報を得たの。それがボンドのサブマスターのヴィクトリアさんだった」

 チアはふぅ、と息を吐いて紅茶を口に含む。

「魔術のコントロールを覚えたら両親の元へ返す、という約束をして、私はヴィクトリアさんに育てられた。テアペルジが私の力で傷つかないように、少し離れた草原に結界を張った家を建ててね。コントロールの練習ができるようになったら、テアペルジにも連れて行ってもらえるようになった。シーナとは買い物に連れて行ってもらった時に仲良くなったんだ」
「私とマナが道具屋に引き取られてすぐだよね」

 チアが頷いてまた口を開く。

「七歳の時に完璧にコントロールできるようになった。そこで両親に会ったんだ。でも両親は私に怯えているようだった。私のせいで村を追い出されたんだから当然だよね。両親とはいられないと悟り、私はテアペルジに住むことになって、すぐにギルド入団試験を受けた。ヴィクトリアさんの役に立ちたくて。私がボンドに入ったのはそんな理由」

 シーナもチアも、小さな頃に辛い経験をしているにも関わらず、笑って前を向いて自分の足で立っている。だから魅力に溢れているんだ。
 マイルズは鼻をすすって目元を拭っている。

「何も知らないのにすごいねって言ってごめんね」
「気にしないで。今はこの力があって良かったって言ったでしょ。この力がなかったら、私がテアペルジに来ることも、ボンドに入ることもなかったんだから」

 チアは穏やかに微笑む。
 満腹になり、足元で丸まっていたルルの耳がピクリと動いた。顔を上げると大きくなって威嚇をするように唸る。チアがハッとして叫んだ。

「立って! 何か来る! ルルはシーナから離れないで」
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