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第二章 無償の愛
38 歯がゆい思い
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「カイくんにお願いがあるの。ボンドのギルドハウスに行って、薬の成分を調べてもらって。それと薬を渡した医者のことを伝えて、信頼のできるお医者様を紹介してあげて欲しいの」
「わかった。バージルさんに頼んでくる」
俺はシーナから残っている薬を全て受け取った。
「あと、私を家まで運んで。カイくんに任せっきりになってごめんね」
シーナは母親に覆いかぶさるように抱きついた。
「お願い、治って」
そう何度も呟き、シーナの体が崩れ落ちる。俺は慌てて抱き止めた。腕の中でシーナは固く目を閉じている。身体から力も抜けていた。
時の魔術を使ったんだ。母親の時間を戻して、薬を飲む前の身体にしたんだ。母親と子供を助けるために。
「えっ? どうなってるの?」
母親はベッドの上に座り、困惑の表情を浮かべている。急に体調が良くなったから当然だろう。
「お母さん!」
子供は泣きじゃくりながら母親に飛びついた。母親は受け止めて子供を抱きしめる。
「よかった、治って。でも、今度はお姉さんが倒れて……」
子供はシーナを不安そうに見ている。
「シーナは疲れて寝てるだけだから大丈夫。シーナが治したのは内緒にして欲しい」
俺はシーナをおぶって、家を出た。
母親を運ぶことになると思ってついて行ったのに、シーナを背負うことになるとは思っていなかった。
歩いている途中でルルとチアが駆けてきた。
俺に背負われているシーナを目に留めると、チアが悲鳴のような声を上げる。
「シーナはどうしたの?」
チアが俺を睨みつける。
俺はことのあらましを話した。
「チアはどうしてシーナに何かあったってわかったんだ?」
「シーナに何かあったってのはわからないよ。ルルが急に走っていったから、追いかけただけ。ルルはシーナが倒れたって、私に教えようとしてくれたんだね」
チアはルルを抱き上げて「教えてくれてありがとう」と顎の下を撫でる。ルルは気持ちよさそうに目を細めた。
「俺はシーナを送ってから、ボンドのギルドハウスに行って、バージルさんにこのことを伝えないといけない」
「私がバージルさんに伝えるよ。カイくんはシーナのそばにいてあげて」
俺はチアに薬を預ける。チアはルルとギルドハウスに向かって走って行った。
道具屋の扉を肩で押し開ける。カウンターの中にいるマナと、買い物に来ていたマイルズがこちらに丸くした目を向けた。
「お姉ちゃんはどうしたんですか?」
「時の魔術を使った。寝かせたいから部屋に行かせてくれ」
「わかりました」
マナが道具屋の奥にある階段を先に登る。俺はマイルズに「店番してろ」と言い、マイルズは「俺が?」と戸惑っていた。
マイルズのことは気にせずシーナを背負ったまま階段を登る。
マナが部屋のドアを開けて待っていた。
シーナの部屋は変わらずあまり物がなくて、整えられている。
マナにシーナの靴を脱がせてもらい、ベッドの上にそっと下ろした。
マナがシーナを支えて寝転がらせる。
シーナは穏やかな表情で眠っていた。
「私は下にいるので、カイさんはお姉ちゃんをよろしくお願いします」
マナは小さく会釈すると、部屋から出ていく。
俺はイスをベッドのそばに置いて座った。
まつ毛が影を落とす、シーナの頬を指先で撫でる。
母親と子供を助けるためだからしょうがないと言えばしょうがないのだけれど、あまり無理をしてほしくない。
何もできない自分が歯がゆい。頼られたいと思っても、今回俺にできることは何もなかった。
また数日、シーナは体調を崩すのだろうか。
「俺にできることあったら、なんでも言ってよ」
静かな部屋に、思ったよりも情けない声が響いた。
暗くなるまで待ってもシーナは目を覚まさず、俺は帰宅した。
次の日は早朝に道具屋へ向かうと、シーナは朝食を食べていた。
てっきりまだ寝ていると思ったから、驚いた。
「体調は?」
「元気だよ!」
シーナは屈託なく笑う。無理しているようには見えない。
「シーナは本当に元気なのか?」
マナに聞くと、「はい」と柔らかい顔で頷かれる。
「もう、どうしてマナに聞くの? 私が元気だよって言ったのに」
シーナは頬を膨らませて拗ねる。
可愛いな、……じゃなくて、シーナは無理して笑うのが上手いから、マナに聞くのが一番だ。
「リオに時の魔術を使った時は、結構引きずっただろ? だから確認したかった」
「カイさんが帰ってすぐくらいに目を覚ましましたよ。いっぱい食べて、またすぐ寝ましたが、昨日の夜からずっと元気です」
「リオくんの時は時間が経ってたから。昨日のお母さんは一時間くらい巻き戻しただけ。時間が短いほど後を引かないよ」
子供が早くシーナを呼びにきて、本当によかった。
「カイさんも朝ごはんを食べますか?」
「ありがとう」
マナに聞かれて、お言葉に甘えることにする。
シーナの隣に腰掛けると、パンとサラダとスープがテーブルに並んだ。
美味しく完食して、道具屋を出る。
シーナは大丈夫そうだし、俺も仕事をしなければ。
ボンドの寮に戻り、俺の隣の部屋を叩く。
すぐに扉が開き、マイルズの部屋に上がった。
「依頼受けようぜ」
「いいけど、シーナちゃんの様子を見に行かなくていいのか?」
「もう行ってきた。シーナは大丈夫だ」
「よかった。昨日、ずっと気になって仕方がなかったんだよね」
マイルズは心底ホッとしたように笑う。
マイルズの身支度が整うと家を出て、ギルドハウスに向かった。
「わかった。バージルさんに頼んでくる」
俺はシーナから残っている薬を全て受け取った。
「あと、私を家まで運んで。カイくんに任せっきりになってごめんね」
シーナは母親に覆いかぶさるように抱きついた。
「お願い、治って」
そう何度も呟き、シーナの体が崩れ落ちる。俺は慌てて抱き止めた。腕の中でシーナは固く目を閉じている。身体から力も抜けていた。
時の魔術を使ったんだ。母親の時間を戻して、薬を飲む前の身体にしたんだ。母親と子供を助けるために。
「えっ? どうなってるの?」
母親はベッドの上に座り、困惑の表情を浮かべている。急に体調が良くなったから当然だろう。
「お母さん!」
子供は泣きじゃくりながら母親に飛びついた。母親は受け止めて子供を抱きしめる。
「よかった、治って。でも、今度はお姉さんが倒れて……」
子供はシーナを不安そうに見ている。
「シーナは疲れて寝てるだけだから大丈夫。シーナが治したのは内緒にして欲しい」
俺はシーナをおぶって、家を出た。
母親を運ぶことになると思ってついて行ったのに、シーナを背負うことになるとは思っていなかった。
歩いている途中でルルとチアが駆けてきた。
俺に背負われているシーナを目に留めると、チアが悲鳴のような声を上げる。
「シーナはどうしたの?」
チアが俺を睨みつける。
俺はことのあらましを話した。
「チアはどうしてシーナに何かあったってわかったんだ?」
「シーナに何かあったってのはわからないよ。ルルが急に走っていったから、追いかけただけ。ルルはシーナが倒れたって、私に教えようとしてくれたんだね」
チアはルルを抱き上げて「教えてくれてありがとう」と顎の下を撫でる。ルルは気持ちよさそうに目を細めた。
「俺はシーナを送ってから、ボンドのギルドハウスに行って、バージルさんにこのことを伝えないといけない」
「私がバージルさんに伝えるよ。カイくんはシーナのそばにいてあげて」
俺はチアに薬を預ける。チアはルルとギルドハウスに向かって走って行った。
道具屋の扉を肩で押し開ける。カウンターの中にいるマナと、買い物に来ていたマイルズがこちらに丸くした目を向けた。
「お姉ちゃんはどうしたんですか?」
「時の魔術を使った。寝かせたいから部屋に行かせてくれ」
「わかりました」
マナが道具屋の奥にある階段を先に登る。俺はマイルズに「店番してろ」と言い、マイルズは「俺が?」と戸惑っていた。
マイルズのことは気にせずシーナを背負ったまま階段を登る。
マナが部屋のドアを開けて待っていた。
シーナの部屋は変わらずあまり物がなくて、整えられている。
マナにシーナの靴を脱がせてもらい、ベッドの上にそっと下ろした。
マナがシーナを支えて寝転がらせる。
シーナは穏やかな表情で眠っていた。
「私は下にいるので、カイさんはお姉ちゃんをよろしくお願いします」
マナは小さく会釈すると、部屋から出ていく。
俺はイスをベッドのそばに置いて座った。
まつ毛が影を落とす、シーナの頬を指先で撫でる。
母親と子供を助けるためだからしょうがないと言えばしょうがないのだけれど、あまり無理をしてほしくない。
何もできない自分が歯がゆい。頼られたいと思っても、今回俺にできることは何もなかった。
また数日、シーナは体調を崩すのだろうか。
「俺にできることあったら、なんでも言ってよ」
静かな部屋に、思ったよりも情けない声が響いた。
暗くなるまで待ってもシーナは目を覚まさず、俺は帰宅した。
次の日は早朝に道具屋へ向かうと、シーナは朝食を食べていた。
てっきりまだ寝ていると思ったから、驚いた。
「体調は?」
「元気だよ!」
シーナは屈託なく笑う。無理しているようには見えない。
「シーナは本当に元気なのか?」
マナに聞くと、「はい」と柔らかい顔で頷かれる。
「もう、どうしてマナに聞くの? 私が元気だよって言ったのに」
シーナは頬を膨らませて拗ねる。
可愛いな、……じゃなくて、シーナは無理して笑うのが上手いから、マナに聞くのが一番だ。
「リオに時の魔術を使った時は、結構引きずっただろ? だから確認したかった」
「カイさんが帰ってすぐくらいに目を覚ましましたよ。いっぱい食べて、またすぐ寝ましたが、昨日の夜からずっと元気です」
「リオくんの時は時間が経ってたから。昨日のお母さんは一時間くらい巻き戻しただけ。時間が短いほど後を引かないよ」
子供が早くシーナを呼びにきて、本当によかった。
「カイさんも朝ごはんを食べますか?」
「ありがとう」
マナに聞かれて、お言葉に甘えることにする。
シーナの隣に腰掛けると、パンとサラダとスープがテーブルに並んだ。
美味しく完食して、道具屋を出る。
シーナは大丈夫そうだし、俺も仕事をしなければ。
ボンドの寮に戻り、俺の隣の部屋を叩く。
すぐに扉が開き、マイルズの部屋に上がった。
「依頼受けようぜ」
「いいけど、シーナちゃんの様子を見に行かなくていいのか?」
「もう行ってきた。シーナは大丈夫だ」
「よかった。昨日、ずっと気になって仕方がなかったんだよね」
マイルズは心底ホッとしたように笑う。
マイルズの身支度が整うと家を出て、ギルドハウスに向かった。
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