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第二章 無償の愛
39 サブマスター
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ギルドハウスに入ると、依頼が貼ってあるボードを眺めた。今日は人が少ないような気がする。
「どれにする?」
「二人で行けそうなものはどれだろう」
ボードの前で迷っていると、コツコツとこちらに近付いてくる足音に気付く。別の人も誘って依頼を受けるのもいいな、とそちらに目を向けるとルーカスさんだった。
……ルーカスさんは気軽に誘えないな。
「マイルズ、ちょっといいか? カイも一緒か。二人とも私についてきてほしい」
俺とマイルズは顔を見合わせて頷いた。
ルーカスさんから、ピリピリとしたプレッシャーのような圧を感じる。
ルーカスさんは表情は豊かではないけれど、面倒見のいい優しい人だ。何もないのに、こんな空気を纏うことはない。
俺とマイルズは緊張した面持ちで、静かに後をついていく。
連れて行かれたのはバージルさんの部屋。
扉を開けると、ソファにバージルさんが座っており、三十代くらいの妖艶な美女がしなだれかかっていた。見たことのない人だ。
部屋の端にはチアやリオにアレンといった、Aランクのギルド員が何人か立っていた。何でこんなに集められているのだろう。
「二人は会ったことはなかったよな? サブマスターのヴィクトリアさんだ」
戸惑っている俺たちに、ルーカスさんが紹介してくれた。
俺とマイルズは慌てて頭を下げる。
「初めまして、カイといいます」
「マイルズです。よろしくお願いします」
「よろしく。そんなに固くならないで、普段通りで構わないから」
気さくに笑うヴィクトリアさんに俺たちはホッと胸を撫で下ろす。
顔を上げると、ジーッと見られて居心地が悪い。
「二人ともイケメンじゃない! 私があと十歳若ければ」
「ヴィクトリア」
カラカラ笑うヴィクトリアさんに、バージルさんが嗜めるように名を呼ぶ。
そういえばバージルさんの奥さんなんだよな。バージルさんは五十代だから、だいぶ歳が離れているように見える。
「冗談よ。バージル以外に興味なんてないんだから」
ヴィクトリアさんはバージルさんの頭を撫でた。
バージルさんはされるがまま。心なしか嬉しそうにも見える。
バージルさんが女房一筋と言っていたことを思い出す。好きな相手だと、ギルドマスターのバージルさんも威厳なんてなくなるんだな。
俺たち以外はみんな慣れているのか、あまり気にした様子もない。
「三十年の間違いでしょ」
チアが呟いた言葉に、ヴィクトリアさんが片眉を跳ね上げて過敏に反応する。
「チア、何か言った?」
「四十年の間違いでしょ。図々しい」
チアはさっきより十年増やした。
ヴィクトリアさんはチアの育ての親だ。言い争っている姿を見て、良好な関係なんだと頬が緩む。チアは言いたい放題言っているが、イキイキとした表情に見えた。
「ヴィクトリアさんっておいくつなんですか?」
マイルズがルーカスさんに疑問を投げると、曖昧な笑みが返ってきた。
「女性の年齢に触れるものではない」
チアの言葉から、バージルさんと年齢は近そうだが、深く聞くのはやめといた。
「ルーカスさんはバージルさんに育てられたんですよね? それならヴィクトリアさんにも?」
「そうだな。私が拾われてからヴィクトリアさんがチアと街の近くに住むまでは、一緒に暮らしていた」
二十五歳のルーカスさんが赤ん坊の時より前から一緒にいて、お互いを思い合っているのを隠そうともしない夫婦は輝いて見えたし、憧れもする。
コンコンと扉がノックされた。まだ誰か来るのか。
ルーカスさんが開けると、シーナが恐る恐る入ってきた。
バージルさん、ヴィクトリアさん、ルーカスさんのSランクの三人と、Aランクの数名が集まっているんだ。
その中に俺とマイルズがいるのも意味がわからないし、シーナも自分が呼ばれた理由がわかっていないようだ。
「シーナ、そこに座れ」
シーナの体調を気にかけてか、バージルさんが自分の正面のソファを指した。シーナは顔を強張らせながら座る。
「全員集まったから本題に入る」
バージルさんの言葉で、一気に空気が張り詰めた。
チアとヴィクトリアさんのやり取りで和やかだったムードは途端になくなる。
「昨日、医者が痩せる薬と渡した薬で、妊婦が倒れた。すぐにシーナとカイが処置をして、体調は持ち直した」
俺は何もできなかったんだけど。俺とシーナの手柄みたいになっている。
「薬には『スドヒヨ草』が入っていた」
ヴィクトリアさんの言葉に、シーナだけが反応した。眉間を狭めて、下唇を噛む。
「シーナ、スドヒヨ草について説明してくれる?」
「はい、スドヒヨ草は毒草です」
ざわめきが起きる。
毒草? それを人に飲ませてたってことか? 医者が?
「毒草と言っても、毒自体は弱いものです。健康的な大人なら、お腹がゆるくなるくらいで。一時的に体重は減ると思います。だから痩せる薬だと渡したのかもしれません。お年寄りや子供でまれに重篤化することはあります。今回は妊婦さんだったから、危険な状態になったのだと思います」
辺りはしんと静まり返る。
「どれにする?」
「二人で行けそうなものはどれだろう」
ボードの前で迷っていると、コツコツとこちらに近付いてくる足音に気付く。別の人も誘って依頼を受けるのもいいな、とそちらに目を向けるとルーカスさんだった。
……ルーカスさんは気軽に誘えないな。
「マイルズ、ちょっといいか? カイも一緒か。二人とも私についてきてほしい」
俺とマイルズは顔を見合わせて頷いた。
ルーカスさんから、ピリピリとしたプレッシャーのような圧を感じる。
ルーカスさんは表情は豊かではないけれど、面倒見のいい優しい人だ。何もないのに、こんな空気を纏うことはない。
俺とマイルズは緊張した面持ちで、静かに後をついていく。
連れて行かれたのはバージルさんの部屋。
扉を開けると、ソファにバージルさんが座っており、三十代くらいの妖艶な美女がしなだれかかっていた。見たことのない人だ。
部屋の端にはチアやリオにアレンといった、Aランクのギルド員が何人か立っていた。何でこんなに集められているのだろう。
「二人は会ったことはなかったよな? サブマスターのヴィクトリアさんだ」
戸惑っている俺たちに、ルーカスさんが紹介してくれた。
俺とマイルズは慌てて頭を下げる。
「初めまして、カイといいます」
「マイルズです。よろしくお願いします」
「よろしく。そんなに固くならないで、普段通りで構わないから」
気さくに笑うヴィクトリアさんに俺たちはホッと胸を撫で下ろす。
顔を上げると、ジーッと見られて居心地が悪い。
「二人ともイケメンじゃない! 私があと十歳若ければ」
「ヴィクトリア」
カラカラ笑うヴィクトリアさんに、バージルさんが嗜めるように名を呼ぶ。
そういえばバージルさんの奥さんなんだよな。バージルさんは五十代だから、だいぶ歳が離れているように見える。
「冗談よ。バージル以外に興味なんてないんだから」
ヴィクトリアさんはバージルさんの頭を撫でた。
バージルさんはされるがまま。心なしか嬉しそうにも見える。
バージルさんが女房一筋と言っていたことを思い出す。好きな相手だと、ギルドマスターのバージルさんも威厳なんてなくなるんだな。
俺たち以外はみんな慣れているのか、あまり気にした様子もない。
「三十年の間違いでしょ」
チアが呟いた言葉に、ヴィクトリアさんが片眉を跳ね上げて過敏に反応する。
「チア、何か言った?」
「四十年の間違いでしょ。図々しい」
チアはさっきより十年増やした。
ヴィクトリアさんはチアの育ての親だ。言い争っている姿を見て、良好な関係なんだと頬が緩む。チアは言いたい放題言っているが、イキイキとした表情に見えた。
「ヴィクトリアさんっておいくつなんですか?」
マイルズがルーカスさんに疑問を投げると、曖昧な笑みが返ってきた。
「女性の年齢に触れるものではない」
チアの言葉から、バージルさんと年齢は近そうだが、深く聞くのはやめといた。
「ルーカスさんはバージルさんに育てられたんですよね? それならヴィクトリアさんにも?」
「そうだな。私が拾われてからヴィクトリアさんがチアと街の近くに住むまでは、一緒に暮らしていた」
二十五歳のルーカスさんが赤ん坊の時より前から一緒にいて、お互いを思い合っているのを隠そうともしない夫婦は輝いて見えたし、憧れもする。
コンコンと扉がノックされた。まだ誰か来るのか。
ルーカスさんが開けると、シーナが恐る恐る入ってきた。
バージルさん、ヴィクトリアさん、ルーカスさんのSランクの三人と、Aランクの数名が集まっているんだ。
その中に俺とマイルズがいるのも意味がわからないし、シーナも自分が呼ばれた理由がわかっていないようだ。
「シーナ、そこに座れ」
シーナの体調を気にかけてか、バージルさんが自分の正面のソファを指した。シーナは顔を強張らせながら座る。
「全員集まったから本題に入る」
バージルさんの言葉で、一気に空気が張り詰めた。
チアとヴィクトリアさんのやり取りで和やかだったムードは途端になくなる。
「昨日、医者が痩せる薬と渡した薬で、妊婦が倒れた。すぐにシーナとカイが処置をして、体調は持ち直した」
俺は何もできなかったんだけど。俺とシーナの手柄みたいになっている。
「薬には『スドヒヨ草』が入っていた」
ヴィクトリアさんの言葉に、シーナだけが反応した。眉間を狭めて、下唇を噛む。
「シーナ、スドヒヨ草について説明してくれる?」
「はい、スドヒヨ草は毒草です」
ざわめきが起きる。
毒草? それを人に飲ませてたってことか? 医者が?
「毒草と言っても、毒自体は弱いものです。健康的な大人なら、お腹がゆるくなるくらいで。一時的に体重は減ると思います。だから痩せる薬だと渡したのかもしれません。お年寄りや子供でまれに重篤化することはあります。今回は妊婦さんだったから、危険な状態になったのだと思います」
辺りはしんと静まり返る。
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