ミスティック・ツアーズ〜転移魔法の旅行会社〜

きたじまともみ

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33 水遊び

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 窓から差し込む光が顔に当たり、眩しくて目覚めた。
 眠い目を擦りながら時計に目を向けると、まだ朝の六時。

 視線を巡らせて部屋の中を見渡すと、ベッドにセレスティアさんがいなかった。
 お手洗いや洗面所を確認したけれど見当たらない。

「こんな時間にどこへ行ったんだろう」

 部屋を出て廊下を歩いていると話し声が聞こえた。
 そちらに向かおうと角を曲がり、すぐに引き返す。
 顔だけこっそりと覗かせた。

 大きな窓の前で景色を眺めながら、ライナスとセレスティアさんが話していた。
 指を絡めるように繋いでいて、二人がうまくいったのだと悟る。

 部屋に引き返そうと思った時、肩をトントンと叩かれて体が跳ねた。驚いて叫びそうになるのを、手で口を押さえて耐える。
 振り返るとフィンが不思議そうに首を傾けていた。

 フィンの腕を掴んでその場を離れる。
 部屋の前まで引っ張ってきて手を離した。

「あんなところで何をしていたんですか?」
「セレスティアさんが起きたらいなかったから探してたの」
「ライナスさんもいませんでした」
「セレスティアさんと一緒にいたよ」

 昨日の夜、部屋に戻る前に話していたのは、朝にデートをする約束をしていたのだろう。

「朝食まで少し時間があるし、コーヒーでも飲む?」
「はい、ありがとうございます」

 フィンを部屋に招き入れて、簡易キッチンでコーヒーを淹れた。
 ソファの背もたれに体を預けて、コーヒーを飲みながらのんびりする。

「ねえ、朝ごはんを食べたら、私とルミナちゃんとエレナちゃんと遊ばない?」

 セレスティアさんとライナスを二人きりにしてあげたいし、オーナーたちも夫婦だけで過ごす時間もないだろう。これから子供がもう一人増えるならなおさら。

「はい、いいですね」

 フィンは朗らかに笑う。




 朝食の時間になって部屋から食堂に移動する。
 食事をしながらオーナーに夫婦水入らずで過ごして、と伝えると、子供を預かることに了承してくれた。

 ホテルを出てレンタル衣装を返し「十一時に街の入り口に集合」とオーナーに言われ、みんなと別れる。

「子供が遊べるようなところってある?」

 フィンに聞けば、「あります!」とハキハキと返される。

「昨日の噴水ショーをしていた場所は、ショーをしていない時間は水遊びができるみたいです」
「噴水に入れるの?」
「水遊びしたい!」

 二人が飛び跳ねて喜びをあらわにする。
 噴水までゆっくり歩いた。




 昨日は三つとも水が噴き出ていたが、今は水盤に水が溜まっているだけ。
 子供たちが水の中を走り回って、元気な声が至る所から聞こえた。

 水は子供の膝くらいの高さに調節されているようで、安心して遊ばせられる。
 ルミナちゃんとエレナちゃんは噴水の中に駆けていった。

 私とフィンは水盤の縁に腰掛けて、足を水につけながらはしゃぐ二人を眺める。

「この水、結構温かいね」

 お風呂ほど温度は高くないけれど、ぬるくて心地が良い。

「子供が遊ぶ用に、水温を高くしているみたいです」
「本当によく調べてるね」
「ホテルを予約する時に失敗してしまったので。子供の喜びそうなところはいっぱい調べました」
「すっごく楽しんでくれてよかったね」

 満面の笑みで水をかけ合う二人を、フィンは眩しそうに目を細めて眺める。

「調べている時も楽しかったですよ」

 ビショビショになった二人がこちらに水をかけてきた。

「ステラちゃんとフィンくんも遊ぼうよ」

 もう一度かけられる。

「フィン、行くよ」

 腕を掴んで立たせると、二人に向かって水をかけた。
 逃げる二人を追いかけながら水をかけ、反撃されて私もびしょびしょ。

「フィン、楽しいよ」

 こちらを見ていたフィンに手招きをする。
 フィンの瞳は愛おしそうに甘く細められていた。
 咄嗟に視線を外して、フィンに背を向ける。

 なんて顔してこっちを見てんの?! いつから? もしかして、ずっと?
 顔が熱いのを自覚してハッとする。

 ……なんで私がフィンのことで狼狽えなきゃいけないの?
 気まずさを追っ払うように首を振った。

「ねぇ、フィンにもいっぱい水をかけてきて」

 ルミナちゃんとエレナちゃんは張り切ってフィンに水をかける。
 フィンもびしょ濡れになってみんなで笑った。

 甘い雰囲気は慣れなくて居心地が悪い。
 今はみんなで楽しく遊びたい。
 私も水のかけ合いに混ざりに行く。




 たくさん遊んで体をタオルで拭い、服を買って着替えた。

「お土産を見に行ってもいいですか?」

 フィンに聞かれ「いいよー」とルミナちゃんとエレナちゃんが笑った。何を買おうか、と楽しそうに相談している。

 お土産屋さんに入り、二人が民族衣装を着たふわふわのウサギのぬいぐるみに目を輝かせた。

「どの子にしようかな」
「みんな可愛くて迷っちゃう」

 よく見ると、目や口の位置が違って、全く同じ顔のぬいぐるみはいない。

「女の子はこういうのを喜ぶの?」

 フィンがしゃがんでぬいぐるみを掴んでは置いてを繰り返す。

「うん、好き」
「可愛いもん」
「そっか、じゃあこれにしようかな」

 誰かに贈るのだろうか?
 胸の中がモヤモヤとする。
 三人は仲良くぬいぐるみを選んでいる。
 フィンの楽しそうな顔を見ると、モヤモヤが増した。
 胸をさすって息を吐く。

「フィンは誰にあげるの?」
「リリアですよ」

 姪のリリアちゃんの名前を聞いて、モヤモヤは霧散した。

「じゃあそのぬいぐるみは、やめときなよ。赤ちゃんはなんでも口に入れるから、口の中が毛だらけになるよ。それに目や鼻も取れて誤飲の恐れがあるから、刺繍してあるのを選んであげて」
「そうなんですね。教えてくれて助かります」

 フィンは隣に置かれた、布でできたクマのぬいぐるみに目を映す。

「これにします」

 フィンが決め、迷っていたルミナちゃんとエレナちゃんも連れて帰るぬいぐるみを決めたようだ。

 お会計をして、街の入り口に向かう。
 そろそろ集合時間だ。
 綺麗な運河を眺めながら歩く。
 楽しい時間はあっという間。

「ステラさん、楽しかったですね」
「そうだね。またみんなで旅行したいね」
「行きたーい」
「また遊んでね」

 袖をくいくいと引かれて視線を下げると、キラキラとした瞳とかち合った。

「また遊ぼうね」

 そう返せば、両手をあげて喜ばれた。




 集合場所には私たちが一番最後についた。

「二人を見てくれてありがとう」
「服はどうしたんだ?」

 オーナーがルミナちゃんとエレナちゃんを抱っこして聞く。

「水遊びで濡れちゃったから買ってもらったの」
「ぬいぐるみも買ってくれた」

 抱えているぬいぐるみをオーナーの顔に近付けて見せる。

「ステラ、フィン、ありがとな。二人の服も出すから全部でいくらだったか教えてくれ」

 金額を伝え、お金をもらう。
 ライナスとセレスティアさんは無言だけど、二人を包む空気が優しい。

「忘れ物はないか? なければ帰るが」

 オーナーが全員の顔を見渡す。
 ライナスが魔法陣を展開させた。
 白い光に包まれて、瞼を下ろす。光が消えて目を開けると、ミスティック・ツアーズに戻っていた。

 店を出て全員と別れる。
 フィンと隣のアパートに向かい、家の前で声をかけた。

「ねぇ、グタンに連れて行ってあげようか? お土産を渡したいでしょ?」

 フィンは顎に手を添えて考え込む。
 少しの沈黙の後、真剣な目で私を見据えた。

「一週間後でもいいですか?」
「いいけど、仕事次第だけどいい?」

 私は一日に五回しか転移魔法が使えない。

「はい、仕事を優先させてください。それでグタンに行く前日に、俺の料理をもう一度食べてくれませんか?」

 フィンは少し眉を下げて、私の返事を不安そうに待っている。

「わかった。食べさせて」
「はい。美味しい煮込みハンバーグを作ります」

 フィンは肩の力を抜いて、満面の笑みを見せる。

「じゃあ、また明日ね」
「はい。また明日」

 部屋に入って、ベッドにダイブする。
 フィンは自分から食べて欲しいと言った。美味しく作れるようになったんだ。
 美味しかったら、告白されて返事をする約束をしている。

「困ったな……」

 料理が美味しければいいのに、と思う自分に戸惑う。
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