傲慢な神様の巫女

きたじまともみ

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愛の歌

18 神前式

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 週末になり、結衣が拝殿で儀式の片付けをしていると「結衣」と明るい声で呼ばれた。
 扉から顔を覗かせると、ローレライが結衣に気付いて手を振って駆けてくる。

「どうしたの?」
「遊びに来るっていったでしょ。私、船をどれだけ沈めたか競う相手しかいなくて、結衣が初めてのお友達なの」

 顔を赤らめてモジモジとするローレライに、結衣は胸をキュンと疼かせる。
 美人で可愛いなんてずるい。

「ちょっと待ってて。片付けたら私の部屋に行こ」

 結衣は拝殿を急いで綺麗にすると、ローレライを自室に案内する。
 部屋に入るとTシャツとショートパンツに着替え、ローレライとベッドに腰掛けた。

「河童とはどう?」
「かっちゃんと一緒にいられてすっごく楽しくて幸せよ」
「羨ましい!」
「結衣だってずっと善と一緒でしょ?」
「何度も言うけど、善は違うんだって」

 結衣は眉を下げる。
 ローレライは柔らかく笑った。

「恋の話って楽しいね」
「もう、いくらでも惚気て!」

 結衣は嬉しそうに河童の話をするローレライに、相槌を打ちながら耳を傾ける。
 結衣に初めて人間ではない友達ができた。

「結衣、お願いがあるんだけど」
「なに?」

 居住まいを正すローレライに、結衣も背筋を伸ばした。
 深刻なことなんだろうか、と身構える。

「私ね、かっちゃんと結婚式がしたいの」

 結衣はローレライの両手をギュッと握った。

「やろうよ! 協力するから。一緒に来て」

 結衣はローレライの手を引いて、階段を駆け降りる。
 リビングに揃っているみんなに事情を話した。
 千代と宗一郎は快諾してくれた。

 大安ということもあり、明日の夜にローレライと河童の神前式を行う。

「問題は衣装だよね」
「私とおじいさんが着たのならあるけど……。袖は確実に短いと思うの。丈はおはしょりがほとんど作れないけれど、いいかしら?」

 千代が言いにくそうに、ローレライに訊ねる。
 河童は宗一郎の服を着られるだろう。でも千代は小柄でローレライは結衣と目線が変わらない。確実に丈が足りない。
 ローレライに視線を投げると、大きな瞳を輝かせていた。

「衣装が着られるとは思っていなかったから嬉しい」

 千代は目を和ませる。

「ずっと仕舞い込んでいるから、今から陰干ししておくわね」

 千代がリビングを出ていく。

「明日が楽しみだね」
「うん、ありがとう!」

 ローレライは屈託なく笑う。




 次の日の夕暮れ時に、ローレライと河童が神社にやってきた。千代と宗一郎は初めて見る河童に少し驚いていたけれど、快く迎え入れる。

 着付けは千代と宗一郎に任せ、結衣は白衣と緋袴に着替え、拝殿で準備をする。
 忙しなく動く結衣とは対照的に、善はあぐらを描いて座り、全く動こうとしない。

「善も手伝ってよ」
「俺が取り仕切るだけでも、ありがたいと思え」

 動く気はなさそうで、結衣は善はいないものと考えて準備の続きをした。
 しばらくすると「着付けが終わったわよ」と千代が呼びにきた。

「こっちも終わったよ」

 結衣は千代と家に向かう。
 着替え終わったローレライを見て、結衣は思わず息を呑んだ。手足の長いローレライには袖が短かったが、白無垢がこんなに似合う人は他にいないというほど綺麗だった。

 頭はプラチナブロンドのウェーブヘアーを活かし、白い花の髪飾りで華やかにされている。

「ローレライ、すっごく綺麗だよ!」
「結衣、ありがとう」

 ローレライは瞳を潤ませる。

「うん、とっても綺麗だ」

 すでに河童は泣いていた。
 河童は紋付袴がジャストサイズだが、甲羅のせいで背中が膨らんでいる。愛嬌のある河童らしいな、と結衣は口元を緩ませた。

「河童も似合うじゃん!」

 結衣が褒めると、河童は照れくさそうに後頭部をかいた。

「かっちゃん、すごくかっこいいわ」

 ローレライはうっとりと河童を見つめる。
 お互いメロメロで火傷しそう。

「そろそろ行こうか」

 結衣は拝殿まで二人を案内する。中に入ると、「始めるぞ」と善の声が響いた。
 もう座り込んでおらず、姿勢を正して立っている。その佇まいに威厳を感じた。

 神前式が始まる。
 結衣は神聖な空気に包まれた拝殿で、二人の門出を見守った。

 善が大麻を降り、河童とローレライの身を清める。
 善の少し低い声が祝詞を上げた。二人の幸せが長く続くように祈っている善の声が耳に心地いい。

 祝詞が終わると、結衣は小盃を河童に差し出した。河童は緊張した面持ちで、恐々と受け取る。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だから」

 銚子を傾けて、3回目でお酒を注ぐ。

「2回は口をつけるだけで、3回目で飲み干して。でもお酒が苦手だったら、呑むふりだけでいいからね」

 河童は結衣の説明の通りにして、最後にお酒を飲み干した。
 結衣は河童が飲み干した小盃を一度預かり、それをそのままローレライに差し出した。ローレライの華奢な指がそっと小盃を受け取る。

 三三九度は一つの盃を分かち合うことで、二人の縁を結び固める儀式だ。
 お酒を注ぐと、ローレライは飲んだフリをして結衣に返した。

 中盃、大盃でも決められた順番でお酒を飲んでいく。
 170年の純愛を貫いた二人の愛の証に、結衣は胸がいっぱいになる。

 誓いの言葉を交わす番になった。
 結衣は定型文が書いてある紙を渡し忘れていた。でも河童は自分の言葉で愛を誓う。

「善様、僕はこれからもずっとライちゃんだけを愛し、守ると誓います。ライちゃん、僕の隣で歌ってください」

 心のこもっている言葉に、ローレライは涙を流しながら頷いた。結衣の目頭も熱くなる。
 その後は玉串を神前に捧げ、儀式は滞りなく終わった。

「結衣、本当にありがとう」

 ローレライは結衣に抱きついた。

「私に二人の結婚式のお手伝いをさせてくれてありがとう」

 結衣はそっとローレライの体に腕を回した。




 河童とローレライが帰った後、結衣は善の部屋に行き「ありがとう」とお礼を言った。
 善は微かに口元を緩める。

「でもさ、善も感動したでしょ!」
「別に。俺はただ見届けただけだ」

 そっけない返事だったけれど、声が柔らかく感じた。
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