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愛の歌
17 再会
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ローレライはキョトンとする。
「かっちゃんは人間じゃないわ」
ローレライの言葉に、結衣と善が目を丸くする。
「え? 人間じゃない?」
「ええ、かっちゃんは河童なの」
「河童?!」
結衣は素っ頓狂な声を上げた。
河童って緑の肌で甲羅を背負って、頭に皿を乗せている河童?
結衣は美人なローレライの隣に、頭に浮かんだ河童を並べてみた。全く釣り合いが取れない。
「かっちゃん、どこにいるんだろう」
うっとりと河童を思い浮かべるローレライを見て、心から愛しているのだろうことが伝わってくる。
見た目じゃなくて、中身を好きになったのだろうと、結衣は頬を緩ませた。
「ねえ善、かっちゃんはどこに行っちゃったんだろう?」
善は顎に手を添える。
「昔、この辺りに河童が住んでいたことは知っている。だがこの川の水質が悪くなり、住めなくなった。……待てよ。俺のところに河童が引っ越しの挨拶に来たな」
「本当!?」
結衣はパッと表情を明るくして、ローレライと顔を見合わせた。ローレライも期待で目が煌めいている。
善は思い出そうとしているのか、頭に手を当てて「うーん」と唸り声を上げる。
「早く! 善、思い出してよ!」
「気が散るから黙っていろ」
鋭い視線を投げかけられ、結衣は口を引き結んだ。
ワクワクとしながら待つが、善の気難しい表情にだんだんと不安になってきた。
それでも黙って待っていると、善がハッとした表情でローレライに目を向ける。
「お前、もしかしてライちゃんか?」
ローレライは目に涙を溜めて何度も頷いた。頭を振るたび、キラキラと涙が溢れる。
「かっちゃんは私のことをそう呼んでた」
「え? じゃあ善はかっちゃんのことを知っているの?」
「ライちゃんが探しにきたら渡して欲しいと手紙を預かっている。多分、本殿にあるだろう。……多分」
自信無さげな言葉が不安だが、かっちゃんの手がかりが見つかった。
ローレライと一緒に、家に向かう。
「かっちゃんからの手紙。離れていてもかっちゃんは私を思っていてくれたのね」
思い合う二人に、結衣は胸をキュンと疼かせる。
「いいなー。私もそんな恋がしてみたい」
「照れるのも可愛いけど、素直に好きだって伝えるのも大事よ」
真剣な表情のローレライに、結衣は「どういうこと?」と首を傾けた。
「ずっと手を繋いで仲のいい相手がいるんだから、その人の前でそんなことを言っちゃダメよ」
「だから照れてないし、善とはそんなんじゃないんだってば」
姿が見えなくなるから、手を離すことができないだけで。
善は結衣とローレライのやり取りよりも、手紙をどこにしまったのかを考えているようだった。
「掃除をしている宗一郎に聞くのが一番だろうか?」
そんな呟きが聞こえた。
家に着くと、善は御本殿の中に入っていく。
結衣は善だけでは不安で、境内を歩いている宗一郎に駆け寄った。
「おじいちゃん」
「結衣、おかえり」
「ねえ、おじいちゃんがいつも御本殿を掃除してるでしょ? 善が手紙を探してるんだけど、見たことない?」
宗一郎は小さく頷く。
結衣とローレライは手を握って軽やかにぴょんと飛ぶ。
「さすがおじいちゃん。どこにあるの?」
「善様が大事にしているものは、鍵のかかる棚にしまってある。鍵はばあさんが持っているから、借りてこよう」
家に向かう宗一郎の後を着いていく。
「なんでおばあちゃんが持ってるの?」
御本殿に入るのは、宗一郎だけだ。千代と結衣は中に入ることはできない。
「善様の大切なものだからね。いつも入るじいちゃんが持っていては、善様も安心できないだろう?」
宗一郎は千代から鍵を受け取ると、御本殿の中に入っていった。
しばらくすると、善と宗一郎が戻ってくる。
善が紙をローレライに渡した。
宗一郎は千代に鍵を返しにいく。
「河童から預かったのはそれだ」
紙は古く、黄ばんでいた。脆くなった紙を破かないよう、ローレライは慎重に広げる。
ローレライは読み終わると「ありがとう」と涙を流した。
結衣も手紙を見せてもらう。
『ライちゃんへ 君と過ごした場所を離れることになりました。水質が悪くなり、僕は住み続けることができなくなりました。待つことができなくてごめんなさい。でもライちゃんともう一度会いたい。ずっと君だけを思っています』
最後に住所が書かれていた。
C市の隣にあるT市の山奥だった。
「車じゃないと行けないよ。おじいちゃんに連れてってもらえるように頼んでくる」
結衣は千代と宗一郎に事情を話す。
すぐに向かってくれると快諾してくれた。
全員でステーションワゴンに乗り込んで、河童の元を目指す。
ローレライは期待に胸を膨らませ、河童との再会を待ちきれないといった様子だ。
目的の山に入り、くねくねとした道を進んでいくが、途中で小さな駐車場に車を停める。
河童のいる場所は、整備された道はない。
宗一郎と千代には車で待機してもらい、結衣と善とローレライは未舗装の険路を進んでいく。
辺りは薄暗くなっており、結衣のスマホのライトで先を照らす。
足元に気をつけながら慎重に進んでいくと、小さな滝が見えた。
「ここにいるのかな?」
結衣は視線を走らせるが、滝壺に打つ水音が聞こえるだけで、生き物の気配は感じられなかった。
「歌ってみろ」
善はそう言うと、耳栓を装着する。
ローレライは胸を押さえて、深呼吸をした。
ローレライが瞼を下ろして大きく息を吸い込む。綺麗な高音を響かせて歌いはじめた。
泣きたくなるような悲しい歌じゃない。河童に会いたいと切望する、情熱的な歌だった。
しばらくすると滝壺にボコボコと空気の泡が浮かんでは消える。それを眺めていると、水面からピカピカに光る皿が見えた。
結衣が目をまん丸にして凝視していると、ぴょんと飛び出てきたのは河童だ。河童といっても、美人のローレライに好かれるのだから、美形が出てくるんじゃないかと少しだけ期待していた。結衣が思い描いていた通りの河童だった。
河童は手拍子しながらこちらに近付いてくる。
ローレライはペチペチと濡れた手で叩かれた音に瞼を持ち上げた。
河童とローレライの視線が絡む。
河童がものすごい速さでローレライと距離を詰めて手を掴んだ。
「……かっちゃん」
ローレライは唇を震わせ、涙声で河童を呼んだ。河童は涙を流して笑う。
「ライちゃん、また会えて嬉しいよ。ライちゃんの歌がもっと聴きたい。歌って」
ローレライは目を潤ませながら微笑んだ。
幸せに満ち溢れた歌声で、結衣の顔も自然と緩む。
河童とローレライは歌に合わせてクルクル回り、ステップを踏んでダンスを踊る。
「よかった。河童に会えて」
結衣は愛に溢れた二人を見て、涙を滲ませた。
綺麗なローレライと河童という見た目の違和感はすごいけれど、二人を見ていると心で通じ合っているのが伝わってくる。
結衣は善の肩を叩いて、こちらに目を向けさせた。
「なんだ?」
善が結衣を見下ろす瞳が、少しだけ和らいで見えた。
善も二人の再会を喜んでいるのかもしれない。
「あのさ、ローレライのことを許してあげて。船を沈めてたのもすごく昔のことだし、最近は男の人を魅了してたかもしれないけど、ローレライから離れていったから被害は出てないんだよね?」
善は未だに歌って踊っている二人を一瞥して口を開いた。
「船を沈めていたのは、俺の守護する領域外でのことだ。俺には関係ない。今回は勝手に男たちが魅了されただけで、ローレライは歌っていただけだ。ただ一人のために」
結衣はホッと胸を撫で下ろした。
満足したのか、ローレライと河童が手を繋いでこちらに駆けてくる。
「結衣、善、かっちゃんに会わせてくれてありがとう」
「善様、ライちゃんに手紙を渡してくださり、ありがとうございました」
二人揃って頭を下げる。
善は耳栓を取った。
「お幸せにね!」
「もう面倒事は持ち込むなよ」
結衣は二人に手を振った。来た道を戻る。
「結衣、また遊びに行くから」
後ろからローレライの声が聞こえて、「待ってるね」と大声で返した。
「かっちゃんは人間じゃないわ」
ローレライの言葉に、結衣と善が目を丸くする。
「え? 人間じゃない?」
「ええ、かっちゃんは河童なの」
「河童?!」
結衣は素っ頓狂な声を上げた。
河童って緑の肌で甲羅を背負って、頭に皿を乗せている河童?
結衣は美人なローレライの隣に、頭に浮かんだ河童を並べてみた。全く釣り合いが取れない。
「かっちゃん、どこにいるんだろう」
うっとりと河童を思い浮かべるローレライを見て、心から愛しているのだろうことが伝わってくる。
見た目じゃなくて、中身を好きになったのだろうと、結衣は頬を緩ませた。
「ねえ善、かっちゃんはどこに行っちゃったんだろう?」
善は顎に手を添える。
「昔、この辺りに河童が住んでいたことは知っている。だがこの川の水質が悪くなり、住めなくなった。……待てよ。俺のところに河童が引っ越しの挨拶に来たな」
「本当!?」
結衣はパッと表情を明るくして、ローレライと顔を見合わせた。ローレライも期待で目が煌めいている。
善は思い出そうとしているのか、頭に手を当てて「うーん」と唸り声を上げる。
「早く! 善、思い出してよ!」
「気が散るから黙っていろ」
鋭い視線を投げかけられ、結衣は口を引き結んだ。
ワクワクとしながら待つが、善の気難しい表情にだんだんと不安になってきた。
それでも黙って待っていると、善がハッとした表情でローレライに目を向ける。
「お前、もしかしてライちゃんか?」
ローレライは目に涙を溜めて何度も頷いた。頭を振るたび、キラキラと涙が溢れる。
「かっちゃんは私のことをそう呼んでた」
「え? じゃあ善はかっちゃんのことを知っているの?」
「ライちゃんが探しにきたら渡して欲しいと手紙を預かっている。多分、本殿にあるだろう。……多分」
自信無さげな言葉が不安だが、かっちゃんの手がかりが見つかった。
ローレライと一緒に、家に向かう。
「かっちゃんからの手紙。離れていてもかっちゃんは私を思っていてくれたのね」
思い合う二人に、結衣は胸をキュンと疼かせる。
「いいなー。私もそんな恋がしてみたい」
「照れるのも可愛いけど、素直に好きだって伝えるのも大事よ」
真剣な表情のローレライに、結衣は「どういうこと?」と首を傾けた。
「ずっと手を繋いで仲のいい相手がいるんだから、その人の前でそんなことを言っちゃダメよ」
「だから照れてないし、善とはそんなんじゃないんだってば」
姿が見えなくなるから、手を離すことができないだけで。
善は結衣とローレライのやり取りよりも、手紙をどこにしまったのかを考えているようだった。
「掃除をしている宗一郎に聞くのが一番だろうか?」
そんな呟きが聞こえた。
家に着くと、善は御本殿の中に入っていく。
結衣は善だけでは不安で、境内を歩いている宗一郎に駆け寄った。
「おじいちゃん」
「結衣、おかえり」
「ねえ、おじいちゃんがいつも御本殿を掃除してるでしょ? 善が手紙を探してるんだけど、見たことない?」
宗一郎は小さく頷く。
結衣とローレライは手を握って軽やかにぴょんと飛ぶ。
「さすがおじいちゃん。どこにあるの?」
「善様が大事にしているものは、鍵のかかる棚にしまってある。鍵はばあさんが持っているから、借りてこよう」
家に向かう宗一郎の後を着いていく。
「なんでおばあちゃんが持ってるの?」
御本殿に入るのは、宗一郎だけだ。千代と結衣は中に入ることはできない。
「善様の大切なものだからね。いつも入るじいちゃんが持っていては、善様も安心できないだろう?」
宗一郎は千代から鍵を受け取ると、御本殿の中に入っていった。
しばらくすると、善と宗一郎が戻ってくる。
善が紙をローレライに渡した。
宗一郎は千代に鍵を返しにいく。
「河童から預かったのはそれだ」
紙は古く、黄ばんでいた。脆くなった紙を破かないよう、ローレライは慎重に広げる。
ローレライは読み終わると「ありがとう」と涙を流した。
結衣も手紙を見せてもらう。
『ライちゃんへ 君と過ごした場所を離れることになりました。水質が悪くなり、僕は住み続けることができなくなりました。待つことができなくてごめんなさい。でもライちゃんともう一度会いたい。ずっと君だけを思っています』
最後に住所が書かれていた。
C市の隣にあるT市の山奥だった。
「車じゃないと行けないよ。おじいちゃんに連れてってもらえるように頼んでくる」
結衣は千代と宗一郎に事情を話す。
すぐに向かってくれると快諾してくれた。
全員でステーションワゴンに乗り込んで、河童の元を目指す。
ローレライは期待に胸を膨らませ、河童との再会を待ちきれないといった様子だ。
目的の山に入り、くねくねとした道を進んでいくが、途中で小さな駐車場に車を停める。
河童のいる場所は、整備された道はない。
宗一郎と千代には車で待機してもらい、結衣と善とローレライは未舗装の険路を進んでいく。
辺りは薄暗くなっており、結衣のスマホのライトで先を照らす。
足元に気をつけながら慎重に進んでいくと、小さな滝が見えた。
「ここにいるのかな?」
結衣は視線を走らせるが、滝壺に打つ水音が聞こえるだけで、生き物の気配は感じられなかった。
「歌ってみろ」
善はそう言うと、耳栓を装着する。
ローレライは胸を押さえて、深呼吸をした。
ローレライが瞼を下ろして大きく息を吸い込む。綺麗な高音を響かせて歌いはじめた。
泣きたくなるような悲しい歌じゃない。河童に会いたいと切望する、情熱的な歌だった。
しばらくすると滝壺にボコボコと空気の泡が浮かんでは消える。それを眺めていると、水面からピカピカに光る皿が見えた。
結衣が目をまん丸にして凝視していると、ぴょんと飛び出てきたのは河童だ。河童といっても、美人のローレライに好かれるのだから、美形が出てくるんじゃないかと少しだけ期待していた。結衣が思い描いていた通りの河童だった。
河童は手拍子しながらこちらに近付いてくる。
ローレライはペチペチと濡れた手で叩かれた音に瞼を持ち上げた。
河童とローレライの視線が絡む。
河童がものすごい速さでローレライと距離を詰めて手を掴んだ。
「……かっちゃん」
ローレライは唇を震わせ、涙声で河童を呼んだ。河童は涙を流して笑う。
「ライちゃん、また会えて嬉しいよ。ライちゃんの歌がもっと聴きたい。歌って」
ローレライは目を潤ませながら微笑んだ。
幸せに満ち溢れた歌声で、結衣の顔も自然と緩む。
河童とローレライは歌に合わせてクルクル回り、ステップを踏んでダンスを踊る。
「よかった。河童に会えて」
結衣は愛に溢れた二人を見て、涙を滲ませた。
綺麗なローレライと河童という見た目の違和感はすごいけれど、二人を見ていると心で通じ合っているのが伝わってくる。
結衣は善の肩を叩いて、こちらに目を向けさせた。
「なんだ?」
善が結衣を見下ろす瞳が、少しだけ和らいで見えた。
善も二人の再会を喜んでいるのかもしれない。
「あのさ、ローレライのことを許してあげて。船を沈めてたのもすごく昔のことだし、最近は男の人を魅了してたかもしれないけど、ローレライから離れていったから被害は出てないんだよね?」
善は未だに歌って踊っている二人を一瞥して口を開いた。
「船を沈めていたのは、俺の守護する領域外でのことだ。俺には関係ない。今回は勝手に男たちが魅了されただけで、ローレライは歌っていただけだ。ただ一人のために」
結衣はホッと胸を撫で下ろした。
満足したのか、ローレライと河童が手を繋いでこちらに駆けてくる。
「結衣、善、かっちゃんに会わせてくれてありがとう」
「善様、ライちゃんに手紙を渡してくださり、ありがとうございました」
二人揃って頭を下げる。
善は耳栓を取った。
「お幸せにね!」
「もう面倒事は持ち込むなよ」
結衣は二人に手を振った。来た道を戻る。
「結衣、また遊びに行くから」
後ろからローレライの声が聞こえて、「待ってるね」と大声で返した。
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