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穢れた獣
33 穢れの臭い
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車に乗って莉子の家に向かう。
途中の公園にはまだ規制線が貼られていて、中に入ることはできない。
莉子の家に着き、後部座席のシートを倒して、自転車を押し込む。助手席を前に出して、なんとか詰めた。
「じいちゃんは先に帰ってるからな。気をつけて帰るんだよ」
「うん、わかった」
「結衣のことは俺に任せておけ。何があっても守る」
宗一郎に聞こえていないのに、真摯な表情で善は言い切った。結衣の頬は熱くなる。真剣に守るだなんて言われたら、嬉しくてニヤけてしまう。
「おじいちゃん、善が任せろって」
宗一郎は頭を下げて、車を発進させた。
「なにを笑っている? 行くぞ」
手を引かれて、結衣は「ちょっと待って」と莉子の家に目を向ける。莉子の部屋の電気がついていた。こんなに早い時間なのに起きているのか。
莉子が犬の散歩を5時にしていることを思い出した。
『おはよう。自転車を取りにきたよ。またいつでも呼んでね』
結衣が莉子にメッセージを送ると、すぐにカーテンが開いて莉子が顔を覗かせる。
そして顔を引っ込めると、数秒して玄関の扉が開いた。
「結衣、一人なの?」
「うん、おじいちゃんに自転車を乗せてもらったら、乗れなくなっちゃって。でも歩いて帰れる距離だから大丈夫だよ」
「ダメ、危ないよ。まだ動物は見つかってないみたいだし。昨日は知らなかったとはいえ、危ない時に呼んじゃってごめんね」
莉子は「家においで」と結衣の腕を引っ張る。結衣と善は莉子の部屋に案内された。
「おい、面倒なことになったぞ」
善がムスッとした表情で話しかけてくるが、莉子には善が見えていないから返事をすることができない。
「ねえ、おじいちゃんに迎えにきてもらえる? 無理ならお母さんに送ってって言うけど」
「大丈夫。おじいちゃんに来てもらうから」
こんなに早い時間に送ってもらうのは申し訳ない。
結衣は『迎えに来て』と宗一郎にメッセージを送った。
「ねえ莉子、外出禁止とかなの? 全然人が歩いていなかったけど」
「ううん、それはないんだけど、みんな不安で家を出ないんじゃないかな」
善が結衣の手をギュッと握り、結衣は驚いてそちらに目を向けた。
莉子には「どうしたの?」と首を傾けられる。結衣は「なんでもない」と首を振った。
「結衣、事件の詳しいことを聞け」
さっきまでは面倒と言っていたのに、と結衣は眉を顰める。
小さく息を吐いてから、莉子に向き直った。
「昨日のニュースで見たんだけど、本当に獣なの?」
「わかんない。服が真っ赤に染まっていたけど、じっくり見てなんていないし。怖かったし、とにかくすぐに通報しなきゃって必死で。警察にも聞かれたけど、近くに動物なんていなかったし、もちろん人も。私にわかることはあんまりないんだ」
「話してくれてありがとう」
莉子は微かに笑う。
「ねえ、楽しい話をしようよ。結衣の恋バナ!」
結衣は驚きすぎて咽せた。
「ないから!」
「なんで? 神社に綺麗な男の人がいるんでしょ?」
はっきり否定したのに、莉子は不思議そうに首を傾ける。
善の前ではやめてほしい。結衣は不自然に体を捩って善に背を向ける。
「一緒にいてドキドキしたりしないの?」
今、ものすごくドキドキしている。トキメキではなく、ハラハラしすぎて。
結衣は曖昧に笑った。後頭部に善の視線が刺さっているような気がするが、振り返ることができない。
「あのさ、内緒にしてくれないかな。昔、女の人が取り合って殺傷事件を起こしたらしいから」
莉子は目を丸くして、両手で口元を覆った。
「……だから神社で保護してるってこと?」
「あっ、うん。そんな感じ」
神社で祀られている土地神とは言えずに頷いた。
「わかった。居場所がバレて、また事件が起こったり、結衣が巻き込まれたら嫌だもん。美咲と沙苗にも連絡しとく」
莉子の親指がスマホの画面を縦横無尽に走る。フリック入力が速すぎる。すぐにグループにメッセージが送信された。
結衣のスマホに、別のメッセージが届く。
『着いた』
宗一郎からで、結衣は窓から外を覗く。ステーションワゴンが家の前に停まっていた。
「おじいちゃんが来たから行くね」
「うん、またね」
手を振って家を出て、車に乗り込む。
車を走らせながら、迎えに来てもらうことになった経緯を説明した。
「じゃあ公園にはまだ行っていないのか?」
「うん、行ってない。善、公園の近くで止まる?」
「ああ、そうしてくれ」
「おじいちゃん、お願いね」
すぐに車は公園に着き、停止する。
「窓を開けてほしい」
善が言い、結衣が自分の近くの窓を開けた。公園側だ。善が身を乗り出して、外を眺める。
結衣は善が近すぎて、気が気じゃない。
「やはり穢れの臭いだ」
「それってどんな臭いなの?」
「言葉にするのは難しいが、近いのはカビ臭さだな。それを粘っこくしたような感じといえばいいか?」
善は首を傾ける。結衣は鼻をスンスンと鳴らして外の匂いを嗅ぐけれど、全くわからなかった。
「これだけ匂いが強ければ、近くに居たらすぐにわかりそうだな」
「じゃあ今はここら辺には居ないの?」
「ああ、半径50メートル以内にはいないはずだ」
善の臭いがわかる範囲がそれくらいなのだろう。
「宗一郎に帰ると伝えろ」
結衣は窓を閉めて「おじいちゃん、家に向かって」と告げた。
途中の公園にはまだ規制線が貼られていて、中に入ることはできない。
莉子の家に着き、後部座席のシートを倒して、自転車を押し込む。助手席を前に出して、なんとか詰めた。
「じいちゃんは先に帰ってるからな。気をつけて帰るんだよ」
「うん、わかった」
「結衣のことは俺に任せておけ。何があっても守る」
宗一郎に聞こえていないのに、真摯な表情で善は言い切った。結衣の頬は熱くなる。真剣に守るだなんて言われたら、嬉しくてニヤけてしまう。
「おじいちゃん、善が任せろって」
宗一郎は頭を下げて、車を発進させた。
「なにを笑っている? 行くぞ」
手を引かれて、結衣は「ちょっと待って」と莉子の家に目を向ける。莉子の部屋の電気がついていた。こんなに早い時間なのに起きているのか。
莉子が犬の散歩を5時にしていることを思い出した。
『おはよう。自転車を取りにきたよ。またいつでも呼んでね』
結衣が莉子にメッセージを送ると、すぐにカーテンが開いて莉子が顔を覗かせる。
そして顔を引っ込めると、数秒して玄関の扉が開いた。
「結衣、一人なの?」
「うん、おじいちゃんに自転車を乗せてもらったら、乗れなくなっちゃって。でも歩いて帰れる距離だから大丈夫だよ」
「ダメ、危ないよ。まだ動物は見つかってないみたいだし。昨日は知らなかったとはいえ、危ない時に呼んじゃってごめんね」
莉子は「家においで」と結衣の腕を引っ張る。結衣と善は莉子の部屋に案内された。
「おい、面倒なことになったぞ」
善がムスッとした表情で話しかけてくるが、莉子には善が見えていないから返事をすることができない。
「ねえ、おじいちゃんに迎えにきてもらえる? 無理ならお母さんに送ってって言うけど」
「大丈夫。おじいちゃんに来てもらうから」
こんなに早い時間に送ってもらうのは申し訳ない。
結衣は『迎えに来て』と宗一郎にメッセージを送った。
「ねえ莉子、外出禁止とかなの? 全然人が歩いていなかったけど」
「ううん、それはないんだけど、みんな不安で家を出ないんじゃないかな」
善が結衣の手をギュッと握り、結衣は驚いてそちらに目を向けた。
莉子には「どうしたの?」と首を傾けられる。結衣は「なんでもない」と首を振った。
「結衣、事件の詳しいことを聞け」
さっきまでは面倒と言っていたのに、と結衣は眉を顰める。
小さく息を吐いてから、莉子に向き直った。
「昨日のニュースで見たんだけど、本当に獣なの?」
「わかんない。服が真っ赤に染まっていたけど、じっくり見てなんていないし。怖かったし、とにかくすぐに通報しなきゃって必死で。警察にも聞かれたけど、近くに動物なんていなかったし、もちろん人も。私にわかることはあんまりないんだ」
「話してくれてありがとう」
莉子は微かに笑う。
「ねえ、楽しい話をしようよ。結衣の恋バナ!」
結衣は驚きすぎて咽せた。
「ないから!」
「なんで? 神社に綺麗な男の人がいるんでしょ?」
はっきり否定したのに、莉子は不思議そうに首を傾ける。
善の前ではやめてほしい。結衣は不自然に体を捩って善に背を向ける。
「一緒にいてドキドキしたりしないの?」
今、ものすごくドキドキしている。トキメキではなく、ハラハラしすぎて。
結衣は曖昧に笑った。後頭部に善の視線が刺さっているような気がするが、振り返ることができない。
「あのさ、内緒にしてくれないかな。昔、女の人が取り合って殺傷事件を起こしたらしいから」
莉子は目を丸くして、両手で口元を覆った。
「……だから神社で保護してるってこと?」
「あっ、うん。そんな感じ」
神社で祀られている土地神とは言えずに頷いた。
「わかった。居場所がバレて、また事件が起こったり、結衣が巻き込まれたら嫌だもん。美咲と沙苗にも連絡しとく」
莉子の親指がスマホの画面を縦横無尽に走る。フリック入力が速すぎる。すぐにグループにメッセージが送信された。
結衣のスマホに、別のメッセージが届く。
『着いた』
宗一郎からで、結衣は窓から外を覗く。ステーションワゴンが家の前に停まっていた。
「おじいちゃんが来たから行くね」
「うん、またね」
手を振って家を出て、車に乗り込む。
車を走らせながら、迎えに来てもらうことになった経緯を説明した。
「じゃあ公園にはまだ行っていないのか?」
「うん、行ってない。善、公園の近くで止まる?」
「ああ、そうしてくれ」
「おじいちゃん、お願いね」
すぐに車は公園に着き、停止する。
「窓を開けてほしい」
善が言い、結衣が自分の近くの窓を開けた。公園側だ。善が身を乗り出して、外を眺める。
結衣は善が近すぎて、気が気じゃない。
「やはり穢れの臭いだ」
「それってどんな臭いなの?」
「言葉にするのは難しいが、近いのはカビ臭さだな。それを粘っこくしたような感じといえばいいか?」
善は首を傾ける。結衣は鼻をスンスンと鳴らして外の匂いを嗅ぐけれど、全くわからなかった。
「これだけ匂いが強ければ、近くに居たらすぐにわかりそうだな」
「じゃあ今はここら辺には居ないの?」
「ああ、半径50メートル以内にはいないはずだ」
善の臭いがわかる範囲がそれくらいなのだろう。
「宗一郎に帰ると伝えろ」
結衣は窓を閉めて「おじいちゃん、家に向かって」と告げた。
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