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第64話
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セオドア・シャリエ伯爵令嬢。
シルヴェール王妃とアルマン国王陛下と幼馴染みだというその方の名に聞き覚えがある訳がないけれど、伯爵家のご令嬢だというのならば高い身分にあるのは確かだ。
ただ、とちらりとカノンを見遣るけれど、カノンは何か言う事もなくただ静かにサンドイッチに手を伸ばしていた。……何かあるおうち、ってわけでもなさそうな反応だ。
テオの生母――産みの母であるセオドア様。
でもシルヴェール王妃のお言葉から察するにセオドア様は既に亡くなっていらっしゃるんだろう。
そうじゃなきゃ忘れ形見だなんて言わないのだから。
でも、生きた証ってどういう事なのだろう、と考えていると、王妃様はそっと口を開いて言った。
「セオドアは、生来体が弱かったの。それこそ妊娠にも出産にも耐えられないだろう、と言われていたほどには」
「え……? じゃあ、もしかして……」
「……ええ、そう。セオドアは文字通り命懸けでテオドールを産んだの」
きっとシルヴェール王妃がこんなにもさらりとおっしゃるのだから、これは知ろうと思えば誰もが知る事が出来るような話なのだろう。
だからそこに政治的な思惑もなければややこしい事情もない筈だ。
王妃殿下は懐かしむように、その形の良い唇を動かした。
「だから、テオドールはセオドアの忘れ形見で、あの子の生きた証。どうあっても決して長くはなかったあの子の人生に意味を持たせ、出来なかった事ばかりだったあの子からの沢山の願いや祈りに包まれ産まれ、私とアルマンに託されたあの子の宝物なのよ」
目を細めるシルヴェール王妃は、とても慈愛に溢れた表情をしていた。けれどもすぐに、その表情に陰りが落ちる。
「大切に育ててきたわ。今だってジェラルドやリュシアン、それにリディアーヌと同じくらい大切に思ってる。テオドールの母親はセオドアしかいないけれど、それでも育ての親として恥ずかしくないように、って。でも……皮肉ね、よりにもよってあの子が、あの子だけが王家の祖先の姿を映すかのような色を持って、力までもを色濃く発現させてしまった」
「……テオの容姿は、スィエルの初代――女王の王婿の生き写しと言っていいほどそっくりですからね」
ミルクを飲んで満足したらしく、そのせいかうとうととし始めたリフを撫でてやっているカノンが言うと、シルヴェール王妃陛下は力なく少しだけ微笑んだ。
そういえばレイン兄とレナがそんな感じのことを言っていた気がする。テオはスィエル王家のご先祖様であるセイという方とよく似ているのだと。
それをシルヴェール王妃陛下も把握なさっていることらしい。多分、王家に連なる方々ならばきっと誰でもなんだろう。
「それだけなら、きっと良かったの。でも、テオドールは力までをも持って生まれてしまった。初代の王婿陛下は純粋な人間ではなかったと聞くし、彼以外に人とは違う力を発現させるような力をもった方はいらっしゃらないから……」
「その推測は正しいです、王妃陛下。テオは間違いなく初代の血を強く引いている……いえ、彼の力が強く遺伝していると言った方が良いか。とにかく、由来はそこにあるのは間違いありません」
「そう、やっぱりそうなのね。ええ、それ自体は疎むような事ではないのよ。けれど、そのせいであの子は心無い言葉を投げつけられ、必要以上の期待を勝手にかけられ失望され、恐れられるようになってしまった」
「どうして…………いえ、そうですね。本当にそっくりだというのなら、どんな形であれ力があるのなら」
期待をされるだろう。それと同時に恐れられるだろう。
そうしていろんな感情が入り混じったものに、テオは晒されて生きていたのだろう。
ああ、そうか。だから。
だからテオはどこか――自分といったものに頓着が薄いのか。
シルヴェール王妃とアルマン国王陛下と幼馴染みだというその方の名に聞き覚えがある訳がないけれど、伯爵家のご令嬢だというのならば高い身分にあるのは確かだ。
ただ、とちらりとカノンを見遣るけれど、カノンは何か言う事もなくただ静かにサンドイッチに手を伸ばしていた。……何かあるおうち、ってわけでもなさそうな反応だ。
テオの生母――産みの母であるセオドア様。
でもシルヴェール王妃のお言葉から察するにセオドア様は既に亡くなっていらっしゃるんだろう。
そうじゃなきゃ忘れ形見だなんて言わないのだから。
でも、生きた証ってどういう事なのだろう、と考えていると、王妃様はそっと口を開いて言った。
「セオドアは、生来体が弱かったの。それこそ妊娠にも出産にも耐えられないだろう、と言われていたほどには」
「え……? じゃあ、もしかして……」
「……ええ、そう。セオドアは文字通り命懸けでテオドールを産んだの」
きっとシルヴェール王妃がこんなにもさらりとおっしゃるのだから、これは知ろうと思えば誰もが知る事が出来るような話なのだろう。
だからそこに政治的な思惑もなければややこしい事情もない筈だ。
王妃殿下は懐かしむように、その形の良い唇を動かした。
「だから、テオドールはセオドアの忘れ形見で、あの子の生きた証。どうあっても決して長くはなかったあの子の人生に意味を持たせ、出来なかった事ばかりだったあの子からの沢山の願いや祈りに包まれ産まれ、私とアルマンに託されたあの子の宝物なのよ」
目を細めるシルヴェール王妃は、とても慈愛に溢れた表情をしていた。けれどもすぐに、その表情に陰りが落ちる。
「大切に育ててきたわ。今だってジェラルドやリュシアン、それにリディアーヌと同じくらい大切に思ってる。テオドールの母親はセオドアしかいないけれど、それでも育ての親として恥ずかしくないように、って。でも……皮肉ね、よりにもよってあの子が、あの子だけが王家の祖先の姿を映すかのような色を持って、力までもを色濃く発現させてしまった」
「……テオの容姿は、スィエルの初代――女王の王婿の生き写しと言っていいほどそっくりですからね」
ミルクを飲んで満足したらしく、そのせいかうとうととし始めたリフを撫でてやっているカノンが言うと、シルヴェール王妃陛下は力なく少しだけ微笑んだ。
そういえばレイン兄とレナがそんな感じのことを言っていた気がする。テオはスィエル王家のご先祖様であるセイという方とよく似ているのだと。
それをシルヴェール王妃陛下も把握なさっていることらしい。多分、王家に連なる方々ならばきっと誰でもなんだろう。
「それだけなら、きっと良かったの。でも、テオドールは力までをも持って生まれてしまった。初代の王婿陛下は純粋な人間ではなかったと聞くし、彼以外に人とは違う力を発現させるような力をもった方はいらっしゃらないから……」
「その推測は正しいです、王妃陛下。テオは間違いなく初代の血を強く引いている……いえ、彼の力が強く遺伝していると言った方が良いか。とにかく、由来はそこにあるのは間違いありません」
「そう、やっぱりそうなのね。ええ、それ自体は疎むような事ではないのよ。けれど、そのせいであの子は心無い言葉を投げつけられ、必要以上の期待を勝手にかけられ失望され、恐れられるようになってしまった」
「どうして…………いえ、そうですね。本当にそっくりだというのなら、どんな形であれ力があるのなら」
期待をされるだろう。それと同時に恐れられるだろう。
そうしていろんな感情が入り混じったものに、テオは晒されて生きていたのだろう。
ああ、そうか。だから。
だからテオはどこか――自分といったものに頓着が薄いのか。
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