元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

文字の大きさ
65 / 87

第64話

しおりを挟む
 セオドア・シャリエ伯爵令嬢。
 シルヴェール王妃とアルマン国王陛下と幼馴染みだというその方の名に聞き覚えがある訳がないけれど、伯爵家のご令嬢だというのならば高い身分にあるのは確かだ。
 ただ、とちらりとカノンを見遣るけれど、カノンは何か言う事もなくただ静かにサンドイッチに手を伸ばしていた。……何かあるおうち、ってわけでもなさそうな反応だ。

 テオの生母――産みの母であるセオドア様。
 でもシルヴェール王妃のお言葉から察するにセオドア様は既に亡くなっていらっしゃるんだろう。
 そうじゃなきゃ忘れ形見だなんて言わないのだから。
 でも、生きた証ってどういう事なのだろう、と考えていると、王妃様はそっと口を開いて言った。

「セオドアは、生来体が弱かったの。それこそ妊娠にも出産にも耐えられないだろう、と言われていたほどには」
「え……? じゃあ、もしかして……」
「……ええ、そう。セオドアは文字通り命懸けでテオドールを産んだの」

 きっとシルヴェール王妃がこんなにもさらりとおっしゃるのだから、これは知ろうと思えば誰もが知る事が出来るような話なのだろう。
 だからそこに政治的な思惑もなければややこしい事情もない筈だ。

 王妃殿下は懐かしむように、その形の良い唇を動かした。

「だから、テオドールはセオドアの忘れ形見で、あの子の生きた証。どうあっても決して長くはなかったあの子の人生に意味を持たせ、出来なかった事ばかりだったあの子からの沢山の願いや祈りに包まれ産まれ、私とアルマンに託されたあの子の宝物なのよ」

 目を細めるシルヴェール王妃は、とても慈愛に溢れた表情をしていた。けれどもすぐに、その表情に陰りが落ちる。

「大切に育ててきたわ。今だってジェラルドやリュシアン、それにリディアーヌと同じくらい大切に思ってる。テオドールの母親はセオドアしかいないけれど、それでも育ての親として恥ずかしくないように、って。でも……皮肉ね、よりにもよってあの子が、あの子だけが王家の祖先の姿を映すかのような色を持って、力までもを色濃く発現させてしまった」
「……テオの容姿は、スィエルの初代――女王の王婿おうせいの生き写しと言っていいほどそっくりですからね」

 ミルクを飲んで満足したらしく、そのせいかうとうととし始めたリフを撫でてやっているカノンが言うと、シルヴェール王妃陛下は力なく少しだけ微笑んだ。

 そういえばレイン兄とレナがそんな感じのことを言っていた気がする。テオはスィエル王家のご先祖様であるセイという方とよく似ているのだと。
 それをシルヴェール王妃陛下も把握なさっていることらしい。多分、王家に連なる方々ならばきっと誰でもなんだろう。

「それだけなら、きっと良かったの。でも、テオドールは力までをも持って生まれてしまった。初代の王婿陛下は純粋な人間ではなかったと聞くし、彼以外に人とは違う力を発現させるような力をもった方はいらっしゃらないから……」
「その推測は正しいです、王妃陛下。テオは間違いなく初代の血を強く引いている……いえ、彼の力が強く遺伝していると言った方が良いか。とにかく、由来はそこにあるのは間違いありません」
「そう、やっぱりそうなのね。ええ、それ自体は疎むような事ではないのよ。けれど、そのせいであの子は心無い言葉を投げつけられ、必要以上の期待を勝手にかけられ失望され、恐れられるようになってしまった」
「どうして…………いえ、そうですね。本当にそっくりだというのなら、どんな形であれ力があるのなら」

 期待をされるだろう。それと同時に恐れられるだろう。
 そうしていろんな感情が入り混じったものに、テオは晒されて生きていたのだろう。

 ああ、そうか。だから。
 だからテオはどこか――自分といったものに頓着が薄いのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...