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第63話
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さあ、どうぞ、とシルヴェール王妃が促すのは用意された軽食だ。
ラスカを介してこの場が設けられたわけだけれど、元々声を掛ける予定だったテオのことも王妃様は呼び招いているとの事らしく、この場にはしっかりと昼食用にとつまみやすいものが用意されていたのである。
私はその言葉をありがたく受け取って、手元にサンドイッチを取り分け、
「まずは……そうね、他の子供たちからもあったかもしれないけれど、リュシアンの言動に関して謝らせてほしいの」
それがどこからどこまでの事を言っているのかはわからない。
初めて会った時のことなのか、王城の全てに目があると思えば今朝のことを指しているかもしれないし。
けど顔を上げると、王妃様はただただすまなそうに眉を下げていた。
それは紛れもなく我が子の失態を恥じる、ひとりの母親の顔。
それ以上も何もない様子に、私はゆるゆると首を横に振る。
「謝罪を口になさる必要はありません。王妃殿下がおっしゃった通り、既にテオドール殿下たちからそうしたお言葉は何度もいただいていますし。何より、私は気にしていませんから」
「そう言ってもらえると、少し助かるわ。……ここ最近のリュシアンの様子は目に余るとは聞いていたのだけれど、客人であるあなた方への態度まで変わってしまうとは思わなかったから」
決められたものとはいえ、婚約者への態度も歓迎すべきものではないけれど、と言って困ったように微笑むシルヴェール王妃は変わらずお母さんの顔をしていた。
だけどそれもすぐに引き締められる。
「理由がどこにあるのかは、もちろん把握しているわ。でもだとしても、あの子が自らああした言動をしたということは、本心でもあるという事だものね」
そう告げる王妃様に私が掛けられる言葉はない。
確かにそうなのかもしれない、だとか、曖昧な言葉しか掛けられない。
ただそもそもとして私からの何らかの言葉を待っていたわけではなかったのだろう。これはきっと私達、というかカノンに対して、もう看過はしないという宣言の意味合いを多く含んでいたのだ。
といってもカノンは一切気にした様子はなく。のんびりと紅茶を飲んでるんだけどね。
マイペースなんだからなあ、と横目で眺めていると、シルヴェール王妃はふ、と微笑んで間を置いてからそっと口を開いた。
「……少し、聞いてもいいかしら?」
紡がれた丁寧な確認には思いもよらず、瞬きをひとつふたつ。
「はい。大丈夫ですけれど……」
頷き、言葉でも受諾をすると、シルヴェール王妃はしばしの沈黙の後、
「テオドールは、貴女がたにご迷惑を掛けたりしていないかしら?」
尋ねられた内容は、これまた思いがけないことだった。
けれども返答に悩むようなものでもなく、私はすぐに首肯する。
「迷惑はひとつも。むしろ、気遣ってくださっていたと思います。我が家でも、王都までの道中でも、今も」
確かに、行き倒れていたところを見つけた時にはびっくりしたけれど、迷惑を掛けられた覚えはない。むしろ迷惑を掛けられたどころか、多くの状況で私達の気持ちを慮ってくれていたくらいである。
はっきりと答えると、王妃様は心から安堵したような表情でぽつりと言った。
「そう……それなら良かった……あの子は少しだけ私に遠慮がちだから、何があったとしても大丈夫としか言ってくれないのだもの」
「…………」
それをまっすぐに見詰めて聞きながら、逡巡する。
尋ねて良いものか、と僅かに躊躇って。けれども少しだけ気になって、私は口を開いた。
「あの、王妃殿下」
「うん? 何かしら?」
「テオドール王子は、その……シルヴェール王妃殿下の御子ではないと聞いたのですが……」
ずっとずっと、というほど長くはないけど、ラスカに聞いてから気にはなっていたのだ。
テオはシルヴェール王妃殿下の子供ではないって。
それと城仕えの執事やメイドや、騎士の中にも奇妙なことにテオを怖がっているような人たちがいることも。
決して恐れられるような振る舞いをしてないのに、それはどうしてなのだろうかってずっと気になってた。
だから、と窺うように聞くと、シルヴェール王妃は数回ほど目を瞬かせた後に、僅かに視線を落としながら、それでいてとても優しい表情で頷いて答えた。
「ええ。テオドールは確かに私の血の繋がった子ではないわ。あの子はね、セオドアの忘れ形見よ」
「セオドア、様?」
「――セオドア・シャリエ。シャリエ伯爵家の一人娘で、私とアルマンの幼馴染みでもあった女性。テオドールはね、彼女の生きていた証なの」
ラスカを介してこの場が設けられたわけだけれど、元々声を掛ける予定だったテオのことも王妃様は呼び招いているとの事らしく、この場にはしっかりと昼食用にとつまみやすいものが用意されていたのである。
私はその言葉をありがたく受け取って、手元にサンドイッチを取り分け、
「まずは……そうね、他の子供たちからもあったかもしれないけれど、リュシアンの言動に関して謝らせてほしいの」
それがどこからどこまでの事を言っているのかはわからない。
初めて会った時のことなのか、王城の全てに目があると思えば今朝のことを指しているかもしれないし。
けど顔を上げると、王妃様はただただすまなそうに眉を下げていた。
それは紛れもなく我が子の失態を恥じる、ひとりの母親の顔。
それ以上も何もない様子に、私はゆるゆると首を横に振る。
「謝罪を口になさる必要はありません。王妃殿下がおっしゃった通り、既にテオドール殿下たちからそうしたお言葉は何度もいただいていますし。何より、私は気にしていませんから」
「そう言ってもらえると、少し助かるわ。……ここ最近のリュシアンの様子は目に余るとは聞いていたのだけれど、客人であるあなた方への態度まで変わってしまうとは思わなかったから」
決められたものとはいえ、婚約者への態度も歓迎すべきものではないけれど、と言って困ったように微笑むシルヴェール王妃は変わらずお母さんの顔をしていた。
だけどそれもすぐに引き締められる。
「理由がどこにあるのかは、もちろん把握しているわ。でもだとしても、あの子が自らああした言動をしたということは、本心でもあるという事だものね」
そう告げる王妃様に私が掛けられる言葉はない。
確かにそうなのかもしれない、だとか、曖昧な言葉しか掛けられない。
ただそもそもとして私からの何らかの言葉を待っていたわけではなかったのだろう。これはきっと私達、というかカノンに対して、もう看過はしないという宣言の意味合いを多く含んでいたのだ。
といってもカノンは一切気にした様子はなく。のんびりと紅茶を飲んでるんだけどね。
マイペースなんだからなあ、と横目で眺めていると、シルヴェール王妃はふ、と微笑んで間を置いてからそっと口を開いた。
「……少し、聞いてもいいかしら?」
紡がれた丁寧な確認には思いもよらず、瞬きをひとつふたつ。
「はい。大丈夫ですけれど……」
頷き、言葉でも受諾をすると、シルヴェール王妃はしばしの沈黙の後、
「テオドールは、貴女がたにご迷惑を掛けたりしていないかしら?」
尋ねられた内容は、これまた思いがけないことだった。
けれども返答に悩むようなものでもなく、私はすぐに首肯する。
「迷惑はひとつも。むしろ、気遣ってくださっていたと思います。我が家でも、王都までの道中でも、今も」
確かに、行き倒れていたところを見つけた時にはびっくりしたけれど、迷惑を掛けられた覚えはない。むしろ迷惑を掛けられたどころか、多くの状況で私達の気持ちを慮ってくれていたくらいである。
はっきりと答えると、王妃様は心から安堵したような表情でぽつりと言った。
「そう……それなら良かった……あの子は少しだけ私に遠慮がちだから、何があったとしても大丈夫としか言ってくれないのだもの」
「…………」
それをまっすぐに見詰めて聞きながら、逡巡する。
尋ねて良いものか、と僅かに躊躇って。けれども少しだけ気になって、私は口を開いた。
「あの、王妃殿下」
「うん? 何かしら?」
「テオドール王子は、その……シルヴェール王妃殿下の御子ではないと聞いたのですが……」
ずっとずっと、というほど長くはないけど、ラスカに聞いてから気にはなっていたのだ。
テオはシルヴェール王妃殿下の子供ではないって。
それと城仕えの執事やメイドや、騎士の中にも奇妙なことにテオを怖がっているような人たちがいることも。
決して恐れられるような振る舞いをしてないのに、それはどうしてなのだろうかってずっと気になってた。
だから、と窺うように聞くと、シルヴェール王妃は数回ほど目を瞬かせた後に、僅かに視線を落としながら、それでいてとても優しい表情で頷いて答えた。
「ええ。テオドールは確かに私の血の繋がった子ではないわ。あの子はね、セオドアの忘れ形見よ」
「セオドア、様?」
「――セオドア・シャリエ。シャリエ伯爵家の一人娘で、私とアルマンの幼馴染みでもあった女性。テオドールはね、彼女の生きていた証なの」
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