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第62話
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昼下がり。
麗らかな日差しが注ぐ中庭にある屋根付きのテラスに置かれた席に着いている私は、今目の前に広がる光景を未だに信じられずにいた。
「…………」
何かを話すことも出来ずにちらりと盗み見る。
もちろん盗み見ようがその光景が変わることはないのだけれど。
と、私の視線に気付いたその方がこちらを見て優雅に微笑む。
「ごめんなさいね。いきなりの事で驚かせてしまったわよね」
そう僅かに眉を下げる、傍に何人かの侍従と騎士を控えさせているのは、とても美しい貴婦人。亜麻色の髪に青い眼を持つその女性は手にしたティーカップに僅かに目を落とし、
「少しだけでもあなた方とお話したいと思って、私がラスカに無理を言ってしまったの。だからどうか、彼女を叱らないであげてね」
小さく小さく笑んだその方に、私はゆるゆると顔を横に振る。
「いいえ、どうぞお気になさらないでください。むしろこのようなお時間を設けていただけたこと、とても光栄だと思っています――シルヴェール王妃殿下」
テーブルを挟んで向かい側に腰掛ける貴婦人は、シルヴェール王妃殿下。
つまりは私はいま、シルヴェール王妃と一緒にティータイムを過ごしていた。
どうしてこんな事になったのか、だなんて事は多分誰も知らないけれど、理由はシルヴェール王妃様がおっしゃっていた通りなんだろう。
私達と話してみたかった、そう語った王妃様からの誘いは、配膳台を手にテオに声を掛けてくると言ったラスカがあっと言う間に戻ってきた時に聞いた事だ。
ラスカもまた予想外だと軽く戸惑っていた程には思いがけない誘い。
それを断ることなんてもちろんラスカにも私にも出来なくて、やってきたのが中庭でありテラスだった。
テラスに私達がやってきた時には、シルヴェール王妃は既に席についてお待ちだった。
そうして私達の訪れに気付くと、至極優しい笑顔を浮かべて、
「どうぞ、こちらにいらしてくださいな」
言いながらちょんちょん、と手招きされてしまえば応じない訳にもいかず、席に腰掛けたのはまだついさっきのことだ。
時に、私は一応フェルメニア王国の王女である。
だけど私が王女として過ごしていた年月は決して長くはなく、ゆえに一般人として過ごしてきた年月の方がよっぽど長い。
何が言いたいかというと、私に一国の王妃様と向き合ってお茶を飲めるほどの胆力は本来はない。
それにも関わらず比較的平然と過ごせているのは、私が前世の記憶を持っている――つまりは通算して三十年以上は生きている感覚と経験によるものである。予期せぬお得感よね。別にお得でもないけど。
何なら隣に座るカノンも、平皿からミルクを飲むリフも平然としてるしね。リフはともかくカノンはメンタルが強すぎると思う。……幻獣を人間のものさしではかるべきじゃないんだけどね?
「ここでの生活はどうかしら? 何か不便や問題はないかしら?」
おもむろに尋ねられて瞬きをひとつ、ふたつ。
私は顔を横に振り、
「不便や問題などはひとつもありません。とてもよくしていただいています」
「そう、それなら良かった……」
安堵したような笑みを浮かべて、ほう、と息を吐くシルヴェール王妃様は手元のカップに視線を落とし、
「此処は決して、あなたにとっては決して心休まる場所にはなり得ないでしょうから……ずっと気がかりだったのよ」
それはごく普通の気遣いのようでいて、私にとってはとても大きな気遣いで。
だからなのだろう、我関せずと紅茶を飲んでいたカノンがふ、と微笑み、
「王妃殿下の心よりの気遣い、この子の保護者としても感謝致します」
「かしこまらないでちょうだい。これはとても幸運で僥倖なことでもあるけれど、私達の身勝手には変わりないのだから」
慮るのは当然だわ、とシルヴェール王妃様はそれはごく当然のことであるとばかりににっこりと笑ったのだ。
麗らかな日差しが注ぐ中庭にある屋根付きのテラスに置かれた席に着いている私は、今目の前に広がる光景を未だに信じられずにいた。
「…………」
何かを話すことも出来ずにちらりと盗み見る。
もちろん盗み見ようがその光景が変わることはないのだけれど。
と、私の視線に気付いたその方がこちらを見て優雅に微笑む。
「ごめんなさいね。いきなりの事で驚かせてしまったわよね」
そう僅かに眉を下げる、傍に何人かの侍従と騎士を控えさせているのは、とても美しい貴婦人。亜麻色の髪に青い眼を持つその女性は手にしたティーカップに僅かに目を落とし、
「少しだけでもあなた方とお話したいと思って、私がラスカに無理を言ってしまったの。だからどうか、彼女を叱らないであげてね」
小さく小さく笑んだその方に、私はゆるゆると顔を横に振る。
「いいえ、どうぞお気になさらないでください。むしろこのようなお時間を設けていただけたこと、とても光栄だと思っています――シルヴェール王妃殿下」
テーブルを挟んで向かい側に腰掛ける貴婦人は、シルヴェール王妃殿下。
つまりは私はいま、シルヴェール王妃と一緒にティータイムを過ごしていた。
どうしてこんな事になったのか、だなんて事は多分誰も知らないけれど、理由はシルヴェール王妃様がおっしゃっていた通りなんだろう。
私達と話してみたかった、そう語った王妃様からの誘いは、配膳台を手にテオに声を掛けてくると言ったラスカがあっと言う間に戻ってきた時に聞いた事だ。
ラスカもまた予想外だと軽く戸惑っていた程には思いがけない誘い。
それを断ることなんてもちろんラスカにも私にも出来なくて、やってきたのが中庭でありテラスだった。
テラスに私達がやってきた時には、シルヴェール王妃は既に席についてお待ちだった。
そうして私達の訪れに気付くと、至極優しい笑顔を浮かべて、
「どうぞ、こちらにいらしてくださいな」
言いながらちょんちょん、と手招きされてしまえば応じない訳にもいかず、席に腰掛けたのはまだついさっきのことだ。
時に、私は一応フェルメニア王国の王女である。
だけど私が王女として過ごしていた年月は決して長くはなく、ゆえに一般人として過ごしてきた年月の方がよっぽど長い。
何が言いたいかというと、私に一国の王妃様と向き合ってお茶を飲めるほどの胆力は本来はない。
それにも関わらず比較的平然と過ごせているのは、私が前世の記憶を持っている――つまりは通算して三十年以上は生きている感覚と経験によるものである。予期せぬお得感よね。別にお得でもないけど。
何なら隣に座るカノンも、平皿からミルクを飲むリフも平然としてるしね。リフはともかくカノンはメンタルが強すぎると思う。……幻獣を人間のものさしではかるべきじゃないんだけどね?
「ここでの生活はどうかしら? 何か不便や問題はないかしら?」
おもむろに尋ねられて瞬きをひとつ、ふたつ。
私は顔を横に振り、
「不便や問題などはひとつもありません。とてもよくしていただいています」
「そう、それなら良かった……」
安堵したような笑みを浮かべて、ほう、と息を吐くシルヴェール王妃様は手元のカップに視線を落とし、
「此処は決して、あなたにとっては決して心休まる場所にはなり得ないでしょうから……ずっと気がかりだったのよ」
それはごく普通の気遣いのようでいて、私にとってはとても大きな気遣いで。
だからなのだろう、我関せずと紅茶を飲んでいたカノンがふ、と微笑み、
「王妃殿下の心よりの気遣い、この子の保護者としても感謝致します」
「かしこまらないでちょうだい。これはとても幸運で僥倖なことでもあるけれど、私達の身勝手には変わりないのだから」
慮るのは当然だわ、とシルヴェール王妃様はそれはごく当然のことであるとばかりににっこりと笑ったのだ。
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