元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

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第61話

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 しばらくして部屋にやってきたラスカは、既に用意されているような状態だった紅茶とお菓子の乗った配膳台を見て驚いたように目を丸くしたけど、これが毒入りなのだと知るとそれはそれは綺麗な笑顔を浮かべた。

「なるほど、つまり私がなかなかリリィの元に戻れなかったのはお騒がせ王女様だけのせいじゃなかったわけね」

 わぁ、流石はカノンの妹、察しが早ぁい。
 ただ元々クスィオンさんを怪しいと踏んでいたとはいえ、こんなにすんなり受け入れていいものなのか、と首を傾げていると、ラスカが目を瞬かせ、それからすぐに小さく微笑んだ。

「どうして信じてくれるのか、って考えてる?」
「……なんでわかるの」
「ふふ、リリィは素直な良い子だから顔を見ていればよくわかるわ」

 にこにこと微笑むラスカに同意するようなカノンが零す笑い声と、リフのご機嫌な鳴き声。それらを咎めるより早く、ラスカは言葉を続けた。

「けど、だからよ。あなたは嘘を吐かない子でしょう?」

 その言葉にはすぐに答えられなかった。

 だって私はずっと嘘を吐いている。
 レイン兄やシル姉たちにも、もちろんカノンたちやリュミィたちにも、私は前世の記憶があるとは言っていない。
 それに今だってテオたちにも、私がフェルメニアの第二王女アクアリアだとは伝えていない。

 嘘を吐かない訳じゃない。むしろ嘘つきだ。
 そしてこの嘘はきっと自分が傷つかない為に、相手を傷つけないように、と嘘で塗り固めたものでもある。

 でも逡巡する私を見透かしたようにラスカは優しい笑顔を浮かべて言った。

「そうね、正しくは嘘を吐かないわけではないのかもしれないわ。でもその嘘は、誰かを貶めようとするものではないでしょう?」
「それは……」
幻獣私達にとって、それはとても大きな事柄なの。その人間がどれだけの悪鬼でも、野蛮でも、極悪非道でも、私達は時に心惹かれるけれど、それでも誠実に生きようとしている子は等しく好ましく、その本質だけは私達は決して見誤らないから」

 にこりと笑んでラスカは私の傍に近づき、その肩口にちょこんと留まるリフを優しく撫でる。

「それに、仔竜ちゃんがあなたと共に在る事もまた、理由よ。あなたはきっとレインさんたちの存在によるところが大きいというかもしれないけれど、この子があなたの事が大好きなのは、決してそれだけではないのだもの」
「それだけじゃないって、どういう……?」
「うふふ。殿下達のことを――テオドール殿下のことを一際好いている理由と同じ、ってことよ」

 ラスカはそれだけを答えて、それ以上私の疑問に明確な答えを示してくれる事はなかった。

 リフがテオを好ましく思って懐いているのは、テオがリフに対して好意的だからだと思うし、だからリフは私と一緒にいてくれるっていうのはわからないっていったら嘘になるけれど、こんなに可愛い子なんだもの、好意的な感情を抱くのは当たり前だと思うんだけど……違うのかな?
 視線を落とすと、丁度私を見上げていたリフがキューイ、と嬉しそうに鳴いた。うーん、かわいい。

「まあ、リリィはそのままで良いよ。テオも、言うまでもなく変わらないだろうけれど」

 くすくすと楽しそうにカノンが笑う。そうして彼はラスカを見て小首を傾げた。

「テオに昼食を共にするだけの時間は作ってもらえそうか?」
「ええ、おそらくは。というか、願えばどれだけ忙しくしていても話の出来るだけの時間は作ってもらえると思うけれど」
「え、えっ? ちょっと待って、ラスカもテオに話すのに賛成なの!?」

 私が慌てたように言うと、ラスカはきょとんとした表情を浮かべた後に柔和な表情を浮かべてひとつ、はっきりと頷く。

「賛成もなにも、疑いようもなくそうすべきだと思うけれど」
「で、でも、ただの推測でしかないのに……! それに、テオも、それにラスカだってクスィオンさんは執事としては優秀だって……」
「――だからよ」
「え?」

 ぽつ、とラスカが口にした言葉に呆けたような声を零した私に、彼女はただただ優しく微笑んでいた。
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