14 / 22
第十四話 麹町時也と理事長
しおりを挟む
期末テストが終わり、学年順位が廊下に貼り出された。上位五十名の名前がずらりと並ぶ。
成績上位者もそうでない者も、ぞろぞろとその順位を確認しに行く。
可もなく不可もない私には縁のないものだけど、他の生徒たちの動きに釣られて廊下に出た。
「すっげぇ、委員長。満点トップだって」
「つーか、一位と二位凄すぎ。三位以下と別次元の点数ついてるし」
廊下の端で騒いでいるのは、うちのクラスの生徒たちだ。
「何、何? どうしたの?」
近づいて尋ねると、興奮した様子で順位表を指し示された。
「あれ、あれ! 望が千点満点!」
視線を向けると、一の文字の下に『羽鳥望』と書かれている。そしてその下にはやや小さめの字で1000と書かれている。……その他全員と比べて桁が一つ多い。
「すっごい! 望くんが頭いいのは知ってたけど、こんなに凄いなんて……」
「当然だ」
ぶっきらぼうな口調で隣から声がした。
望が腕を組んで、順位表を見上げている。
「今回は中間の時以上に勉強した。それが結果に反映されたまでだ」
「勉強したっていうのは分かるけど……それにしたって満点って……」
「まぁ、満点だったのは偶然だな。いくら理解が深かったとしても、一つのミスもなく解答欄を埋めていくのは難しい」
視線を少しずらし、望は「しかし」と続けた。
「満点を取れたのが今回で良かった。……ふふ、ふふふふふふふふふ」
周りにいた望の友人も、その低い笑い声を聞いた瞬間身を引いた。
望が不気味な笑い声を上げたのには理由がある。
私も、望が見ていた二位の欄へと視線を移す。
――二位 麹町時也 998
「ふふふ。二点差とはいえ勝ちは勝ち」
「麹町くん、すごいなー」
「……俺の方がすごい」
私が時也を褒めたらすかさず望が自己アピール。負けず嫌いらしく、意地になる様子が面白い。
「二位と三位で百点近く差があるもん。二人とも次元が違うよ」
「えっへへ~、真里菜《まりな》ちゃんに褒められちゃったぁ~」
噂をすれば影が差す。
固い雰囲気の望とは対称的に、ゆるんだ顔で現れたのは麹町時也その人だった。
「出たな、負け犬」
「オレに勝てて舌好調だね、委員長」
からからと楽しそうに笑う時也はまるで勝者のようだ。
望と時也のやり取りに夢中になっていて気付かなかった。
近くにいた望の友人たちを含め、生徒たちがいつの間にか消えている。
「何を騒いでいる」
冷たく厳しい声が廊下に響き渡った。
「理事長!」
望が言った。
理事長? ということは、時也のパパさん?
つい時也と理事長を見比べてみたけれど、全然似ていない。顔立ちを比べる以前に身にまとう空気感がまるで違う。
理事長は私たちを順番に眺めた後、順位表へと目を向けた。そして溜息を吐く。
「時也。なんだこの結果は」
「ん~、期末テストの結果かな」
「それは分かっている。問題は中身だ。……なぜ二位だというのにそんなにへらへらとしていられるんだ」
威圧的な物言いに、傍で見ていた私の方が絶句した。
二位だって十分にすごいことだ。……ううん、この結果表に名前が載るだけですごいこと。
「二位だって良いよね。親父の方こそ順位ばっか見て点数を見てないんでしょ」
「二点欠けたという事実が何を指すか分かっていないようだな」
理事長の声が一層厳しいものに変化した。
「点数を見るに、能力的には拮抗しているのだろう。しかし能力が互角であるにも関わらず負けたということは、勝負所で決められない大バカ者ということだ」
「勝負所って……たかが学校のテストだよぉ。一位だって二位だって、付く成績は5じゃないの」
「たかがテストで勝てないようでは、この先重要な勝負で勝てるはずがない」
熱の籠もった眼差しで、理事長は時也を睨めつける。
「いいか、時也」
「よくない。聞かない。耳障り」
廊下に嫌な沈黙が生まれた。
こんな怖そうな理事長になんて口を利くんだ。いやまぁ、時也にとっては父親だから親しみがあるんだろうけど。
「もうオレ行くね。あと、学校では話しかけないで」
「待ちなさい、時也」
走らんばかりの早足で廊下を去っていく時也。それを追う理事長。
遠くで成り行きを見守っていた生徒が、ぎょっとして道を開けた。周囲を気にせず二人は言い争いをしながら、去って行った。
成績上位者もそうでない者も、ぞろぞろとその順位を確認しに行く。
可もなく不可もない私には縁のないものだけど、他の生徒たちの動きに釣られて廊下に出た。
「すっげぇ、委員長。満点トップだって」
「つーか、一位と二位凄すぎ。三位以下と別次元の点数ついてるし」
廊下の端で騒いでいるのは、うちのクラスの生徒たちだ。
「何、何? どうしたの?」
近づいて尋ねると、興奮した様子で順位表を指し示された。
「あれ、あれ! 望が千点満点!」
視線を向けると、一の文字の下に『羽鳥望』と書かれている。そしてその下にはやや小さめの字で1000と書かれている。……その他全員と比べて桁が一つ多い。
「すっごい! 望くんが頭いいのは知ってたけど、こんなに凄いなんて……」
「当然だ」
ぶっきらぼうな口調で隣から声がした。
望が腕を組んで、順位表を見上げている。
「今回は中間の時以上に勉強した。それが結果に反映されたまでだ」
「勉強したっていうのは分かるけど……それにしたって満点って……」
「まぁ、満点だったのは偶然だな。いくら理解が深かったとしても、一つのミスもなく解答欄を埋めていくのは難しい」
視線を少しずらし、望は「しかし」と続けた。
「満点を取れたのが今回で良かった。……ふふ、ふふふふふふふふふ」
周りにいた望の友人も、その低い笑い声を聞いた瞬間身を引いた。
望が不気味な笑い声を上げたのには理由がある。
私も、望が見ていた二位の欄へと視線を移す。
――二位 麹町時也 998
「ふふふ。二点差とはいえ勝ちは勝ち」
「麹町くん、すごいなー」
「……俺の方がすごい」
私が時也を褒めたらすかさず望が自己アピール。負けず嫌いらしく、意地になる様子が面白い。
「二位と三位で百点近く差があるもん。二人とも次元が違うよ」
「えっへへ~、真里菜《まりな》ちゃんに褒められちゃったぁ~」
噂をすれば影が差す。
固い雰囲気の望とは対称的に、ゆるんだ顔で現れたのは麹町時也その人だった。
「出たな、負け犬」
「オレに勝てて舌好調だね、委員長」
からからと楽しそうに笑う時也はまるで勝者のようだ。
望と時也のやり取りに夢中になっていて気付かなかった。
近くにいた望の友人たちを含め、生徒たちがいつの間にか消えている。
「何を騒いでいる」
冷たく厳しい声が廊下に響き渡った。
「理事長!」
望が言った。
理事長? ということは、時也のパパさん?
つい時也と理事長を見比べてみたけれど、全然似ていない。顔立ちを比べる以前に身にまとう空気感がまるで違う。
理事長は私たちを順番に眺めた後、順位表へと目を向けた。そして溜息を吐く。
「時也。なんだこの結果は」
「ん~、期末テストの結果かな」
「それは分かっている。問題は中身だ。……なぜ二位だというのにそんなにへらへらとしていられるんだ」
威圧的な物言いに、傍で見ていた私の方が絶句した。
二位だって十分にすごいことだ。……ううん、この結果表に名前が載るだけですごいこと。
「二位だって良いよね。親父の方こそ順位ばっか見て点数を見てないんでしょ」
「二点欠けたという事実が何を指すか分かっていないようだな」
理事長の声が一層厳しいものに変化した。
「点数を見るに、能力的には拮抗しているのだろう。しかし能力が互角であるにも関わらず負けたということは、勝負所で決められない大バカ者ということだ」
「勝負所って……たかが学校のテストだよぉ。一位だって二位だって、付く成績は5じゃないの」
「たかがテストで勝てないようでは、この先重要な勝負で勝てるはずがない」
熱の籠もった眼差しで、理事長は時也を睨めつける。
「いいか、時也」
「よくない。聞かない。耳障り」
廊下に嫌な沈黙が生まれた。
こんな怖そうな理事長になんて口を利くんだ。いやまぁ、時也にとっては父親だから親しみがあるんだろうけど。
「もうオレ行くね。あと、学校では話しかけないで」
「待ちなさい、時也」
走らんばかりの早足で廊下を去っていく時也。それを追う理事長。
遠くで成り行きを見守っていた生徒が、ぎょっとして道を開けた。周囲を気にせず二人は言い争いをしながら、去って行った。
0
あなたにおすすめの小説
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
『推しに転生したら、攻略対象が全員ヤンデレ化した件』
春夜夢
ファンタジー
「推しキャラが死ぬバッドエンドなんて認めない──だったら、私が推しになる!」
ゲーム好き女子高生の私が転生したのは、乙女ゲームの中の“推しキャラ”本人だった!
しかも、攻略対象たちがみんなルート無視で私に執着しはじめて……!?
「君が他の男を見るなんて、耐えられない」
「俺だけを見てくれなきゃ、壊れちゃうよ?」
推しキャラ(自分)への愛が暴走する、
ヤンデレ王子・俺様騎士・病み系幼なじみとの、危険すぎる恋愛バトルが今、始まる──!
👧主人公紹介
望月 ひより(もちづき ひより) / 転生後:ヒロイン「シエル=フェリシア」
・現代ではゲームオタクな平凡女子高生
・推しキャラの「シエル」に転生
・記憶保持型の転生で、攻略対象全員のヤンデレ化ルートを熟知している
・ただし、“自分が推される側”になることは想定外で、超戸惑い中
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる