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たぬきの餅つき
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ここは、たぬきの里。
たぬきがいっぱい住んでいます。
このたぬきの里に“たぬ吉”という 子どものたぬきがおりました。
このたぬ吉は まだまだ小さく、そしてとても おちゃめでした。
好きな遊びといえば、親から教えてもらった呪文で何かに化けることが一番の楽しみでした。
これがこれが たぬ吉にとっては面白く、お花や猫、犬やキツネなど思いつくままに化けてみんなを驚かせていました。
「ポコポコリ~ン!まんじゅうにな~れ!」
そう呪文をとなえると、パッとまんじゅうに早変わり・・
そして、木の根元にでも転がっていると お腹のすいたたぬきがまんじゅうを見つけ しめしめと手を伸ばしてきます。
その瞬間に、ドロンとたぬきの姿に戻ります。
「ちぇっ!またたぬ吉に騙された・・!」
騙されたたぬきは怒って帰ってしまいました。
また、ある時は
「ポコポコリ~ン!どんぐりにな~れ!」
と呪文をとなえ、パッとどんぐりに早変わり!
すると、リスがやってきて そのどんぐりを食べようとパクッと口を開けた瞬間、またもやドロンとたぬきの姿に戻ります。
「なぁ~んだ!たぬ吉のしわざかぁ・・」
そう言って、リスはがっかりしました。
そんなおちゃめなたぬ吉は、ちっとも悪いことをしているつもりはありませんでした。
むしろ、みんなが喜んでくれていると思っていたのです。
そんな日々が続く中、そろそろ年の瀬がやってきました。
たぬきの里では、総出で餅つきをします。
大人のたぬきたちは準備で大忙しですが、その合間をぬって、
タヌキの長から話があると、みんなが集められました。
「今年も、餅つきの時期がやってきた。
いつも通りに行うが初めての者もいるだろうから、手順を言っておく。
新しい年を迎えるため、餅つきは全員でおこなう。
気を引き締めてやるぞ・・
餅のつき方だが、男衆が中心となってキネとウスで餅をつく。
女衆は、なめらかな餅になるようウスの中のもち米に合いの手を入れる。
子どもたちは、かけ声をかけ それに合わせ大人たちが餅をつくんだ!
かけ声は ”せ~の!” でキネを振り上げ、”よいしょぉ!” で振り下ろす。
そして、”はい~~はい~~” で女衆がウスの中の蒸したもち米を外から中へと折りたたむ!
なめらかな餅になるまで、これを繰り返す!
みなが心をひとつにしないとうまくいかないぞ・・
うまい餅になるかどうかは子ども達のかけ声しだいだ・・」
大人のたぬきたちは、毎年のことで慣れているのでフムフムと聞いているだけでしたが、たぬ吉たち子どもたぬきは、ワクワクしてじっとなどしていられませんでした。
すると、突然どこかから大きな声が聞こえてきました。
「あぁ~!大変だぁ!ウスにひびが入っている。
これじゃ餅がつけねぇ・・
ついているうちに、ウスが割れちまうぞ!!」
「そんなぁ~・・」
「今ごろになって、そんなこと言っても・・」
「じゃっ、今年の餅つきはどうなるんでぇ・・」
みんなが口々に心配そうな声をあげています。
子どものたぬきたちも、餅を食べるのをとても楽しみにしていたので、大騒ぎになってしまいました。
みんなが頭を抱える中、たぬ吉はハタと思いつきました。
「そうだ!オレが、ウスに化けるよ・・
そうしたら、餅がつけるじゃないか!」
たぬ吉は、こんな名案に気づけたことが誇らしくなってしまいました。
それに、みんなが喜んでくれるだろうと思うとそれが一番うれしかったのです。
化けるのはお得意中のお得意・・
「オレに任せておけって!」
大人のたぬきたちは
「でも・・」と言って、心配そうです。
「大丈夫!大丈夫!ウスぐらい簡単に化けられるよ!」
たぬ吉は、もう餅のことしか頭にないようでした。
そうして、餅つきは今年最後の日に行うことになりました。
その日は、朝から餅つきが始まります。
蒸されたもち米が運び込まれるとたぬ吉は、
「ポコポコリ~ン!でっかいウスにな~れ!」
と、呪文をとなえました。
すると、パッと大きなウスに化けることができました。
「では、始めるぞぉ~!」
タヌキの長の大きな声で餅つきが始まりました。
たぬ吉が化けた大きなウスに、蒸されたもち米がドサッ!と
入れられました。
「あっちぃ!」たぬ吉があまりの熱さに悲鳴をあげました。
でも、もう後戻りはできません。
いよいよ餅つきの始まりです。
子どもたぬき達のかけ声が、一斉に響き渡ります。
「せ~のぉ!」
「よいしょぉ!」
ドスッ!
「ヒィ~!」たぬ吉がうめきます。
「はい~~はい~~」女たぬきの合いの手です。
“ウヒョッ!ウヒョッ!ウッヒョッ!ヒョッ!” たぬ吉は今度はお腹をさすられて、くすぐったくてたまりません。
「せ~のぉ!」
「よいしょぉ!」
ドスッ!
「ヒィ~!グエッ!」 たぬ吉はあまりの衝撃に、声なのか何なのかわからないような声が出ます。
「はい~~はい~~」
“ウヒョッ!ウヒョッ!ヘッ!ヘッ!ヘッ!” たぬ吉のどうにもくすぐったそうな声が、漏れ聞こえてきます。
たぬ吉は、何十回も繰り返されるこの餅つきに、痛くて くすぐったくて涙にあふれますが、なす術がありません。
途中でたぬきに戻ってしまったら、餅が台無しなってしまうからです。
みんなの残念な顔を見たくはありません。
でも、もう我慢限界で たぬ吉の呪文は解けかかっていました。
すると、次にウスがドスッ!ときた瞬間にたぬ吉のしっぽがピョコッ!と飛び出してしまったのです。
もうダメだ!と、たぬ吉が思ったその時です。
「お~い!餅がつけたぞぉ!」
そんな声が合図となり、餅つきは終了しました。
たぬ吉は、やっとたぬきに戻ることが出来たのです。
出来上がった餅を見たたぬ吉は、涙があふれてたまりません。
真っ白で柔らかそうな餅が自分のお腹で出来たのだと思うと、涙が止まらなかったのです。
タヌキの長がたぬ吉に言いました。
「たぬ吉!ようがんばってくれたなぁ・・
これで、新年を祝うことが出来る!おまえのおかけだな・・」
そう言って、たぬ吉にこれでもかというほど たくさんのお餅を一番先に食べさせてくれたのでした。
「おいしい・・おいしい・・こんなにおいしいお餅は初めて食べた!」
たぬ吉の次に食べたのは、タヌキの長です。
タヌキの長も、餅のおいしさに満足そうな顔をしています。
「今までで、一番うまい餅がつけた!
みんなぁ!! 来年はいい年になるぞぉ!」
つづいて、里のみんなにもお餅が分け与えられると それぞれ家にもって帰って行きました。
たぬ吉も、持って帰れないほどたくさんのお餅を何とか かついで帰っていきました。
帰り際、誰かの声が聞こえました。
「たぬ吉!また、来年もたのむぞぉ!」
たぬ吉は、ギョッとしてしまいましたが、家に戻り父さん、母さんのはじける笑顔を見たら、“来年も、またやってもいいかな・・” なんて密かに思うのでした。
たぬきがいっぱい住んでいます。
このたぬきの里に“たぬ吉”という 子どものたぬきがおりました。
このたぬ吉は まだまだ小さく、そしてとても おちゃめでした。
好きな遊びといえば、親から教えてもらった呪文で何かに化けることが一番の楽しみでした。
これがこれが たぬ吉にとっては面白く、お花や猫、犬やキツネなど思いつくままに化けてみんなを驚かせていました。
「ポコポコリ~ン!まんじゅうにな~れ!」
そう呪文をとなえると、パッとまんじゅうに早変わり・・
そして、木の根元にでも転がっていると お腹のすいたたぬきがまんじゅうを見つけ しめしめと手を伸ばしてきます。
その瞬間に、ドロンとたぬきの姿に戻ります。
「ちぇっ!またたぬ吉に騙された・・!」
騙されたたぬきは怒って帰ってしまいました。
また、ある時は
「ポコポコリ~ン!どんぐりにな~れ!」
と呪文をとなえ、パッとどんぐりに早変わり!
すると、リスがやってきて そのどんぐりを食べようとパクッと口を開けた瞬間、またもやドロンとたぬきの姿に戻ります。
「なぁ~んだ!たぬ吉のしわざかぁ・・」
そう言って、リスはがっかりしました。
そんなおちゃめなたぬ吉は、ちっとも悪いことをしているつもりはありませんでした。
むしろ、みんなが喜んでくれていると思っていたのです。
そんな日々が続く中、そろそろ年の瀬がやってきました。
たぬきの里では、総出で餅つきをします。
大人のたぬきたちは準備で大忙しですが、その合間をぬって、
タヌキの長から話があると、みんなが集められました。
「今年も、餅つきの時期がやってきた。
いつも通りに行うが初めての者もいるだろうから、手順を言っておく。
新しい年を迎えるため、餅つきは全員でおこなう。
気を引き締めてやるぞ・・
餅のつき方だが、男衆が中心となってキネとウスで餅をつく。
女衆は、なめらかな餅になるようウスの中のもち米に合いの手を入れる。
子どもたちは、かけ声をかけ それに合わせ大人たちが餅をつくんだ!
かけ声は ”せ~の!” でキネを振り上げ、”よいしょぉ!” で振り下ろす。
そして、”はい~~はい~~” で女衆がウスの中の蒸したもち米を外から中へと折りたたむ!
なめらかな餅になるまで、これを繰り返す!
みなが心をひとつにしないとうまくいかないぞ・・
うまい餅になるかどうかは子ども達のかけ声しだいだ・・」
大人のたぬきたちは、毎年のことで慣れているのでフムフムと聞いているだけでしたが、たぬ吉たち子どもたぬきは、ワクワクしてじっとなどしていられませんでした。
すると、突然どこかから大きな声が聞こえてきました。
「あぁ~!大変だぁ!ウスにひびが入っている。
これじゃ餅がつけねぇ・・
ついているうちに、ウスが割れちまうぞ!!」
「そんなぁ~・・」
「今ごろになって、そんなこと言っても・・」
「じゃっ、今年の餅つきはどうなるんでぇ・・」
みんなが口々に心配そうな声をあげています。
子どものたぬきたちも、餅を食べるのをとても楽しみにしていたので、大騒ぎになってしまいました。
みんなが頭を抱える中、たぬ吉はハタと思いつきました。
「そうだ!オレが、ウスに化けるよ・・
そうしたら、餅がつけるじゃないか!」
たぬ吉は、こんな名案に気づけたことが誇らしくなってしまいました。
それに、みんなが喜んでくれるだろうと思うとそれが一番うれしかったのです。
化けるのはお得意中のお得意・・
「オレに任せておけって!」
大人のたぬきたちは
「でも・・」と言って、心配そうです。
「大丈夫!大丈夫!ウスぐらい簡単に化けられるよ!」
たぬ吉は、もう餅のことしか頭にないようでした。
そうして、餅つきは今年最後の日に行うことになりました。
その日は、朝から餅つきが始まります。
蒸されたもち米が運び込まれるとたぬ吉は、
「ポコポコリ~ン!でっかいウスにな~れ!」
と、呪文をとなえました。
すると、パッと大きなウスに化けることができました。
「では、始めるぞぉ~!」
タヌキの長の大きな声で餅つきが始まりました。
たぬ吉が化けた大きなウスに、蒸されたもち米がドサッ!と
入れられました。
「あっちぃ!」たぬ吉があまりの熱さに悲鳴をあげました。
でも、もう後戻りはできません。
いよいよ餅つきの始まりです。
子どもたぬき達のかけ声が、一斉に響き渡ります。
「せ~のぉ!」
「よいしょぉ!」
ドスッ!
「ヒィ~!」たぬ吉がうめきます。
「はい~~はい~~」女たぬきの合いの手です。
“ウヒョッ!ウヒョッ!ウッヒョッ!ヒョッ!” たぬ吉は今度はお腹をさすられて、くすぐったくてたまりません。
「せ~のぉ!」
「よいしょぉ!」
ドスッ!
「ヒィ~!グエッ!」 たぬ吉はあまりの衝撃に、声なのか何なのかわからないような声が出ます。
「はい~~はい~~」
“ウヒョッ!ウヒョッ!ヘッ!ヘッ!ヘッ!” たぬ吉のどうにもくすぐったそうな声が、漏れ聞こえてきます。
たぬ吉は、何十回も繰り返されるこの餅つきに、痛くて くすぐったくて涙にあふれますが、なす術がありません。
途中でたぬきに戻ってしまったら、餅が台無しなってしまうからです。
みんなの残念な顔を見たくはありません。
でも、もう我慢限界で たぬ吉の呪文は解けかかっていました。
すると、次にウスがドスッ!ときた瞬間にたぬ吉のしっぽがピョコッ!と飛び出してしまったのです。
もうダメだ!と、たぬ吉が思ったその時です。
「お~い!餅がつけたぞぉ!」
そんな声が合図となり、餅つきは終了しました。
たぬ吉は、やっとたぬきに戻ることが出来たのです。
出来上がった餅を見たたぬ吉は、涙があふれてたまりません。
真っ白で柔らかそうな餅が自分のお腹で出来たのだと思うと、涙が止まらなかったのです。
タヌキの長がたぬ吉に言いました。
「たぬ吉!ようがんばってくれたなぁ・・
これで、新年を祝うことが出来る!おまえのおかけだな・・」
そう言って、たぬ吉にこれでもかというほど たくさんのお餅を一番先に食べさせてくれたのでした。
「おいしい・・おいしい・・こんなにおいしいお餅は初めて食べた!」
たぬ吉の次に食べたのは、タヌキの長です。
タヌキの長も、餅のおいしさに満足そうな顔をしています。
「今までで、一番うまい餅がつけた!
みんなぁ!! 来年はいい年になるぞぉ!」
つづいて、里のみんなにもお餅が分け与えられると それぞれ家にもって帰って行きました。
たぬ吉も、持って帰れないほどたくさんのお餅を何とか かついで帰っていきました。
帰り際、誰かの声が聞こえました。
「たぬ吉!また、来年もたのむぞぉ!」
たぬ吉は、ギョッとしてしまいましたが、家に戻り父さん、母さんのはじける笑顔を見たら、“来年も、またやってもいいかな・・” なんて密かに思うのでした。
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