19 / 29
ほんとう
しおりを挟む
「あっけないね」
貌鳥先輩が言った。
本当に、その通りだと思う。あんな突発的な犯行で、どうして成功してしまったのか。それに、自殺だと処理されかけている。
でも、仕方ないのかもしれない。
憧れの先輩にふられた、という決定的な出来事が直前にあったし。クラスメイトにしても、あの黒板の落書きもあったからと、水面下で自殺に納得しているような空気があった。
「バレるかもって、ヒヤヒヤした?」
「いいえ」
「自信満々だね」
「というより、現実味が無さ過ぎて、自分のことのように思えなかったのかもしれません」
そこで、先輩も同じようなことを考えていたのか、ふと思いついたような顔でこう口にした。
「そういえば、あの黒板……」
「私がやったんですよ」
「うそお」
これも予想しているものかと思っていたら、本当に驚いた顔をしてまじまじと私を見返している。「どうやってやったのさ」と半信半疑な風に聞いてきた。
「前日の夕方に書いておいたんですよ」
「嘘。難しくない?」
「当日の朝に書くよりはずっと楽だと思いますよ」
だって、下校時刻直前にまでなると、校舎の中に残っている生徒なんてほとんどいなくなる。一部の運動部が、校庭や部室棟に残って活動しているくらいだろう。私はほとんど人目を気にせずのびのびと黒板にお絵描きができた。
「そうはいっても、書いた日の夜から朝になるまでの間、巡回の警備員とかに見つかるよね?」
「見つかりはしたけど、微笑ましいドッキリだと思って放置したんじゃないですか?」
誰も登校していないくらい早朝に、相手を呼びだして告白する友達を想って、こっそり応援の言葉を残しておいた。
悪意のあるメッセージだという先入観が無ければ、そう思って残しておくのかもしれない。そのお友達の告白が終わったら、すぐに消すつもりのものだろうと。
まさかクラスの大多数が登校してきても、消されずに見世物のように晒されてたなんてその人は思ってもいなかっただろう。
「それに、私としては巡回の人や先生に見つかって、消されても仕方がないくらいの気持ちで書いてました。絶対に成功させよう、みたいに張り切ってませんでしたもん。そもそもとして、あんなクラス中に知られるような、大規模な悪戯にするつもりはありませんでした」
「嘘くさいなあ。じゃあ君としてはどんな風になるのが理想だったの?クラスメイトに見られるのは想定にあったんでしょ?」
「見られるにしても、最初に登校してきた二~三人に見てもらえたら良い方だなと考えていました」
その数人に見られた後に、そのうちの誰かがさやかのためを思って(もしくはクラスにいじめまがいのことがあると露見させたくなくて)消すだろうと想定していたのだ。
「一番初めに登校してきた一人が、消してしまっても全然良かったんです。私は一人か二人にでも、見てもらえたらいいと思ってました」
「そりゃ、なんで?」
「このクラスに最低一人は、あの子に悪感情を持ってる人がいると他のクラスメイトに教えたかったんです」
こんな大がかりな嫌がらせを仕掛けるくらい、あの子を嫌ってる生徒がこのクラスにいると、そう数人に匂わせるだけでよかったのだ。水面下でその気持を吐露できさえできればもう満足だった。
ここまでで分かるように、ほとんど私個人の憂さ晴らしのつもりだったのだ。そこからいじめに発展するとか、そもそも本人に知られるまでいくなんて思ってもみなかった。それなのに。
「思ったより大騒ぎになっちゃったんだ?」
「ええ、まあ」
「まさか登校ラッシュを過ぎても、消されずに残されてるなんて想定に無かった?」
「はい」
「それは君の想定違いのせいっていうよりも、思っていたよりもあの子がみんなに嫌われてた、の方が原因としては正しいのかなあ」
本当に、それに関しては私の想定外だった。
正直に打ち明けると、彼女を殺した後より、黒板事件の後の方が、私はビクビクしていたと思う。指紋を拭きとってもいないし、目撃例だって聞き取りをすればあるかもしれない。だから、クラス中が内密に処理しようと考えていたことに、心底ほっとしたのだ。
貌鳥先輩が言った。
本当に、その通りだと思う。あんな突発的な犯行で、どうして成功してしまったのか。それに、自殺だと処理されかけている。
でも、仕方ないのかもしれない。
憧れの先輩にふられた、という決定的な出来事が直前にあったし。クラスメイトにしても、あの黒板の落書きもあったからと、水面下で自殺に納得しているような空気があった。
「バレるかもって、ヒヤヒヤした?」
「いいえ」
「自信満々だね」
「というより、現実味が無さ過ぎて、自分のことのように思えなかったのかもしれません」
そこで、先輩も同じようなことを考えていたのか、ふと思いついたような顔でこう口にした。
「そういえば、あの黒板……」
「私がやったんですよ」
「うそお」
これも予想しているものかと思っていたら、本当に驚いた顔をしてまじまじと私を見返している。「どうやってやったのさ」と半信半疑な風に聞いてきた。
「前日の夕方に書いておいたんですよ」
「嘘。難しくない?」
「当日の朝に書くよりはずっと楽だと思いますよ」
だって、下校時刻直前にまでなると、校舎の中に残っている生徒なんてほとんどいなくなる。一部の運動部が、校庭や部室棟に残って活動しているくらいだろう。私はほとんど人目を気にせずのびのびと黒板にお絵描きができた。
「そうはいっても、書いた日の夜から朝になるまでの間、巡回の警備員とかに見つかるよね?」
「見つかりはしたけど、微笑ましいドッキリだと思って放置したんじゃないですか?」
誰も登校していないくらい早朝に、相手を呼びだして告白する友達を想って、こっそり応援の言葉を残しておいた。
悪意のあるメッセージだという先入観が無ければ、そう思って残しておくのかもしれない。そのお友達の告白が終わったら、すぐに消すつもりのものだろうと。
まさかクラスの大多数が登校してきても、消されずに見世物のように晒されてたなんてその人は思ってもいなかっただろう。
「それに、私としては巡回の人や先生に見つかって、消されても仕方がないくらいの気持ちで書いてました。絶対に成功させよう、みたいに張り切ってませんでしたもん。そもそもとして、あんなクラス中に知られるような、大規模な悪戯にするつもりはありませんでした」
「嘘くさいなあ。じゃあ君としてはどんな風になるのが理想だったの?クラスメイトに見られるのは想定にあったんでしょ?」
「見られるにしても、最初に登校してきた二~三人に見てもらえたら良い方だなと考えていました」
その数人に見られた後に、そのうちの誰かがさやかのためを思って(もしくはクラスにいじめまがいのことがあると露見させたくなくて)消すだろうと想定していたのだ。
「一番初めに登校してきた一人が、消してしまっても全然良かったんです。私は一人か二人にでも、見てもらえたらいいと思ってました」
「そりゃ、なんで?」
「このクラスに最低一人は、あの子に悪感情を持ってる人がいると他のクラスメイトに教えたかったんです」
こんな大がかりな嫌がらせを仕掛けるくらい、あの子を嫌ってる生徒がこのクラスにいると、そう数人に匂わせるだけでよかったのだ。水面下でその気持を吐露できさえできればもう満足だった。
ここまでで分かるように、ほとんど私個人の憂さ晴らしのつもりだったのだ。そこからいじめに発展するとか、そもそも本人に知られるまでいくなんて思ってもみなかった。それなのに。
「思ったより大騒ぎになっちゃったんだ?」
「ええ、まあ」
「まさか登校ラッシュを過ぎても、消されずに残されてるなんて想定に無かった?」
「はい」
「それは君の想定違いのせいっていうよりも、思っていたよりもあの子がみんなに嫌われてた、の方が原因としては正しいのかなあ」
本当に、それに関しては私の想定外だった。
正直に打ち明けると、彼女を殺した後より、黒板事件の後の方が、私はビクビクしていたと思う。指紋を拭きとってもいないし、目撃例だって聞き取りをすればあるかもしれない。だから、クラス中が内密に処理しようと考えていたことに、心底ほっとしたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました
蓮恭
恋愛
恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。
そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。
しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎
杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?
【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる